俗語ぞくご（読よみ）ゾクゴ

日常にちじょうのくだけた卑俗ひぞくな表現ひょうげんに用もちいられる語かたり。スラング。特殊とくしゅな職業しょくぎょう用語ようご，学生がくせい言葉ことば，隠語いんごの類るいもこれに属ぞくする。現在げんざいの日本語にほんごのように書かき言葉ことばと話はなし言葉ことばが接近せっきんし，その差さが小ちいさくなると，俗語ぞくごとそうでないものの具体ぐたい的てきな限界げんかいを示しめすことはむずかしい。またある時期じきには目新めあたらしい表現ひょうげんでも，使つかい古ふるされると新鮮しんせんみが失うせてふつうの語彙ごいになってしまう。たとえば〈大おおきい〉に対たいする〈でっかい〉，〈非常ひじょうに〉に対たいする〈うんと〉などは，すでに卑俗ひぞくな感かんじが薄うすれている。

　したがって現在げんざいではまったく平常へいじょうの語彙ごいであっても，もとをただせばある時代じだいには俗語ぞくごであったと考かんがえられる形かたちは多おおい。古典こてんラテン語らてんごでは〈頭あたま〉はcaputだが，フランス語ふらんすごはtête，イタリア語ごではtesta（またはcapo）である。逆ぎゃくにこのtête，testaのもとのラテン語らてんごはtesta〈煉瓦れんが，土器どき〉である。また〈脚あし〉は古典こてんラテン語らてんごではcrusだが，フランス語ふらんすご，イタリア語ごはそれぞれjambe，gambaで，これらのもとのラテン語らてんごはgamba〈ひずめ〉である。このようにこれらはいずれも本来ほんらいはラテン語らてんごの俗語ぞくごであった。フランス語ふらんすご，イタリア語ごなどのロマンス語ごの形かたちは，このように古典こてんラテン語らてんごの本来ほんらいの形かたちとは別べつの卑俗ひぞくな語彙ごいに帰かえせられるものが多おおい。これは，そのもとになったラテン語らてんごを話はなす人ひとたちが，文章ぶんしょう力りょくをもった知識ちしき層そうではなくて，兵隊へいたいとか商人しょうにんたちであったからである。ver〈春はる〉という形かたちよりも，primum tempus〈最初さいしょの時とき〉（＞フランス語ふらんすごprintemps）の方ほうが〈春はる〉らしい実感じっかんがあったのだろう。現在げんざいの英語えいごのsalary〈俸給ほうきゅう〉はフランス語ふらんすごからの借用しゃくよう語ごだが，そのもとのラテン語らてんごsalariumはsal〈塩しお〉の形容詞けいようしの名詞めいし化かで，本来ほんらいはsalarium argentum〈塩しおのお金かね〉，つまり塩しおを買かうために兵隊へいたいたちに支給しきゅうされた金かねであった。現在げんざいのドイツ語ごで車くるまなどがこわれた状態じょうたいをkaputtという。もとは上うえに挙あげたラテン語らてんごcaput〈頭あたま〉からフランス語ふらんすごのcapoter〈（船ふね，車くるまなどが）ひっくりかえる〉という動詞どうしが生うまれ，その形容詞けいようしcapotがトランプなどで勝かち札さつをすべてなくした人ひとの状態じょうたいに用もちいられ，さらにドイツ語ごに入はいって三さん十じゅう年ねん戦争せんそうのころに兵隊へいたいたちが冗談じょうだんに〈打うち殺ころす〉の意味いみでcapot machen〈kaputtにする〉という表現ひょうげんを使つかったのがはじまりらしい。語源ごげんは忘わすれられても，その俗語ぞくご的てき響ひびきを残のこしている一いち例れいである。
執筆しっぴつ者しゃ：風間かざま 喜代三きよぞう