長州ちょうしゅう征伐せいばつ（読よみ）チョウシュウセイバツ

幕末ばくまつ期き，江戸えど幕府ばくふが長州ちょうしゅう藩はん攻撃こうげきのために起おこした戦争せんそうで，第だい1次じは未発みはつ，第だい2次じは倒幕とうばく運動うんどうの拠点きょてん長州ちょうしゅうとの全面ぜんめん的てきな軍事ぐんじ対決たいけつとなった。第だい1次じ征せい長ちょう，第だい2次じ征せい長ちょうともいい，この第だい2次じ征せい長ちょう戦せんを長州ちょうしゅう側がわでは四よん境さかい戦争せんそうと呼よぶ。

第だい1次じ

1864年ねん（元もと治ち1）7月がつ18日にちの禁門きんもんの変へん（蛤はまぐり御門みかどの変へんともいう）による長州ちょうしゅう軍ぐんの皇居こうきょ内ないへの発砲はっぽうは，7月がつ23日にちの長州ちょうしゅう追討ついとうの朝命ちょうめいとなり，翌日よくじつ，幕府ばくふは中国ちゅうごく・四国しこく・九州きゅうしゅうの21藩はんに出兵しゅっぺいを命めいじ，また，その他たの諸しょ藩はんには京畿けいき守備しゅびを命めいじた。そして，幕府ばくふは征せい長ちょう総督そうとく徳川とくがわ慶勝よしかつ（前尾まえお州しゅう藩主はんしゅ）の指揮しきのもとに諸しょ大名だいみょうの部署ぶしょを決きめ，征せい長ちょう軍ぐんを進すすめようとした。しかし，その足並あしなみは必かならずしもそろわなかった。一方いっぽう，長州ちょうしゅう藩はん内ないでは幕府ばくふへの恭順きょうじゅんを唱となえる保守ほしゅ派はが台頭たいとうし，また，4国こく連合れんごう艦隊かんたいによる下関しものせき砲撃ほうげきなどがなされ，この内憂ないゆう外患がいかんのなかで藩はん内ない事情じじょうは複雑ふくざつな様相ようそうを呈ていしていた。この情況じょうきょうをみて征せい長ちょう軍ぐんの参謀さんぼう・薩摩さつま藩士はんし西郷さいごう隆盛たかもりは，長州ちょうしゅうを死地しちに追おい込こむことを避さけ，長州ちょうしゅう藩はんの本ほん・支ささえ藩はんの離間りかん策さくや藩はん内ないの分裂ぶんれつ化かをすすめることによって，手てを下くださずして制圧せいあつすることを主張しゅちょうした。西郷さいごうは一いち面めんでは尊攘そんじょう派はの拠点きょてん長州ちょうしゅうをたたき，他面ためんでは幕府ばくふの権威けんい回復かいふくを妨さまたげようと意図いとしていたのである。対たいする長州ちょうしゅう藩はん内ないの保守ほしゅ派はは，支族しぞく吉川よしかわ（きつかわ）経けい幹みきの周旋しゅうせんで，福原ふくはら越後えちご，益田ますだ右みぎ衛門えもん介かい，国司こくし（くにし）信濃しなのの3家老がろうと4参謀さんぼう（宍戸ししど左ひだり馬ば之の介かい，佐久間さくま佐たすく兵衛ひょうえ，竹内たけうち正兵衛しょうべえ，中村なかむら九郎くろう）を斬きって幕府ばくふへ恭順きょうじゅんの意いを表あらわした。そこで，幕府ばくふ軍ぐんは戦たたかわずして12月27日にち，撤兵てっぺい令れいを下くだした。

第だい2次じ

長州ちょうしゅう藩はんが在ざい長州ちょうしゅうの三条さんじょう実美みみら5卿きょうを幕府ばくふ側がわへ引ひき渡わたすことは征せい長ちょう軍ぐん撤兵てっぺいの一いち要件ようけんであったが，それは実行じっこうされなかった。加くわえるに長州ちょうしゅう藩はん内ないでは，1864年ねん（元もと治ち1）末まつから翌よく65年ねん（慶応けいおう1）初はじめにかけて高杉たかすぎ晋作しんさくらが馬うま関せき（下関しものせき）に決起けっきし，藩はんの主導しゅどう権けんを奪うばい，奇き兵隊へいたい以下いか諸しょ隊たい軍事ぐんじ力りょくを背景はいけいに藩はん論ろんを幕府ばくふとの軍事ぐんじ対決たいけつの方向ほうこうに定さだめた（1865年ねん3月がつ）。これをみた幕府ばくふは，長州ちょうしゅう藩はんが容易よういならざる企くわだてをし，外国がいこく商人しょうにんとの取引とりひきをしているなどの理由りゆうで長州ちょうしゅう再さい征せいを上奏じょうそうし，65年ねん9月がつ勅許ちょっきょを得えた。しかし，朝廷ちょうていおよび諸しょ藩はんには再さい征せい反対はんたいの空気くうきが強つよく，とくに薩摩さつま藩はんは出兵しゅっぺいを拒否きょひした。時ときあたかもイギリス，アメリカ，フランス，オランダの4国こくは，連合れんごう艦隊かんたいを兵庫ひょうご沖おきに来航らいこうさせ，兵庫ひょうごの先さき期き開港かいこう・条約じょうやく勅許ちょっきょを要求ようきゅうした（10月がつ，条約じょうやくは勅許ちょっきょ，兵庫ひょうご先さき期き開港かいこうは不ふ許可きょか）。66年ねん6月がつ，幕府ばくふ軍ぐんと長州ちょうしゅう軍ぐんとの戦闘せんとうは開始かいしされた。長州ちょうしゅう藩はんは，このときすでに薩長さっちょう同盟どうめいを結むすんでいた（1866年ねん1月がつ）。また，藩はん内ないでは高杉たかすぎや木戸きど孝允たかよしらによって挙きょ藩はん軍事ぐんじ体制たいせいが固かためられ，諸しょ隊たいや農のう商しょう兵へいを活用かつようし，密輸入みつゆにゅうした近代きんだい兵器へいきによって幕府ばくふ軍ぐんに対処たいしょしようとしていた。芸げい州しゅう口こうでの戦闘せんとうは一進一退いっしんいったいであったが，石いし州しゅう口こうや小倉こくら口こう方面ほうめんでは長州ちょうしゅう軍ぐんが幕府ばくふ軍ぐんを圧倒あっとうした。しかも，幕府ばくふ軍ぐんはその背後はいごを大坂おおさか，江戸えどの打うちこわしや百姓ひゃくしょう一揆いっきに脅おびやかされていた。物価ぶっか騰貴とうきと民衆みんしゅうの負担ふたんの増大ぞうだいは開港かいこう以来いらいの傾向けいこうであったが，第だい2次じ征せい長ちょう戦せんはそれに拍車はくしゃをかけ，社会しゃかい的てき矛盾むじゅんをさらに激化げきかさせたのである。幕府ばくふの敗北はいぼくは決定けっていづけられた。そこで幕府ばくふは，第だい14代だい将軍しょうぐん徳川とくがわ家茂いえもちの大だい坂城さかきでの病没びょうぼつを機きとして，66年ねん8月がつ，休戦きゅうせんの朝議ちょうぎを得えて，9月2日にち，長州ちょうしゅう藩はんと休戦きゅうせん協定きょうていを結むすんだ。同年どうねん12月がつの孝明天皇こうめいてんのうの急死きゅうしを機会きかいに解かい兵へいの沙汰さた書しょを得えて，天下てんかに布告ふこくした。この第だい2次じ征せい長ちょうの失敗しっぱいは幕府ばくふの権威けんい失墜しっついの決定的けっていてき要因よういんとなり，以後いご，幕府ばくふ支配しはいの崩壊ほうかいは時間じかんの問題もんだいとなった。
執筆しっぴつ者しゃ：田中たなか 彰あきら