三浦みうら宏規ひろのり、バレエ少年しょうねんの世界せかいはミュージカルで大おおきく広ひろがった（前編ぜんぺん）

取材しゅざい・文ぶん / 中川なかがわ朋子ともこ

ヒーローごっこの感覚かんかくで始はじめたバレエ

──三浦みうらさんは熊川くまかわ哲也てつやさんに憧あこがれて、5歳さいのときにクラシックバレエを始はじめられたそうですね。熊川くまかわさんのことを、どんなきっかけで知しったのですか？

テレビかDVDで、熊川くまかわさんのドキュメンタリー番組ばんぐみを観みたんです。きらびやかなプライベートの様子ようすも素敵すてきでしたし（笑）、何なによりもバレエをされている姿すがたに憧あこがれましたね。ダイナミックなジャンプや回転かいてんの華はなやかさは、当時とうじバレエを観みたことがなかった自分じぶんにとって衝撃しょうげき的てきで。小ちいさい子こって、戦隊せんたいものや仮面かめんライダーが好すきでまねするじゃないですか。僕ぼくも仮面かめんライダーが好すきだったんですけど、熊川くまかわさんに憧あこがれてバレエを始はじめたのもそういう“○○ごっこ”をする感覚かんかくに近ちかかったのかもしれません。

──バレエを始はじめる前まえに、音楽おんがくや舞台ぶたいとの接点せってんはあったのでしょうか。

母ははが音楽おんがく関係かんけいの仕事しごとに携たずさわっているので、毎日まいにちいやでもショパンとかを聴きかされていました（笑）。家いえに帰かえると音楽おんがくが流ながれているんです。母ははにピアノを教おそわっていた時期じきもありますが、やっぱり親子おやこなので反発はんぱつしてしまって……「俺おれは踊おどりで生いきていくんだ！」と言いって、結局けっきょく続つづけませんでした。でも今いまはこうしてミュージカルをやらせてもらっていますし、ピアノも続つづけていれば良よかったなと後悔こうかいしています。

──初舞台はつぶたいは何なん歳さいのときだったのでしょう？

記憶きおくはほとんどないんですが、たぶん5歳さいくらいかな。バレエを習ならい始はじめて割わりとすぐに、発表はっぴょう会かいに出だしてもらいました。バレエを習ならっている男おとこの子こは少すくないので重宝ちょうほうされていたし、あまり上手じょうずじゃなくても男おとこの子こが真まん中なかに立たつと画がになるんですよ。だから僕ぼくも早はやくに出演しゅつえんさせてもらったんだと思おもいます。

──「バレエで食たべていきたい」と考かんがえた時期じきもあったそうですね。それほど夢中むちゅうになった理由りゆうは何なにだったのですか？

何なにだったんでしょうね……でも、小ちいさい頃ころからずっとやっていましたから、バレエしか知しらなかったし、それ以外いがいに何なにかしようと考かんがえなかったからかな、と思おもいます。例たとえばお父とうさんが野球やきゅう選手せんしゅで、子供こどもの頃ころからキャッチボールをして野球やきゅう部ぶに入はいって、という方ほうもいると思おもいますが、僕ぼくもそういう感かんじ。バレエ以外いがいのことを思おもいつかなくて、それが当あたり前まえだったから「一生いっしょうバレエをやっていくんだろうな」と考かんがえていて、食くえるかどうかまではわかっていなかったんじゃないかなと。

──その後ごはバレエコンクールで入賞にゅうしょうされるほどになりますが、バレエは十じゅう代だいで辞やめています。

小学校しょうがっこう高学年こうがくねんのときにひざをケガして、かなり大おおきな手術しゅじゅつをしたんです。卒業そつぎょう式しきで松葉杖まつばづえをついていたのを覚おぼえているので、たぶん6年生ねんせいのときかな。治療ちりょうにはけっこう長ながくかかって、半年はんとしくらい何なにもできませんでした。今いまはすっかり良よくなったので動うごきに支障ししょうはありません。でもバレエではタイツをはいて脚あしを伸のばしたときの真まっすぐなラインが大切たいせつなのに、手術しゅじゅつした場所ばしょがどうしてもボコッと目立めだってしまって。それでもバレエはやれたと思おもいますが、僕ぼくは「どうせやるなら頂点ちょうてんを」と考かんがえていました。だからひざのことが自分じぶんの中なかでずっと引ひっかかっていて。そんなときに、バレエ以外いがいの舞台ぶたいに挑戦ちょうせんする機会きかいをいただき、15歳さいのときに上京じょうきょうして活動かつどうを始はじめました。

「俺おれ、できないことあるんや」恋こいブロで経験けいけんした挫折ざせつが転機てんきに

──2015年ねんには若手わかて俳優はいゆうたちがミュージカルナンバーを披露ひろうするコンサート「恋こいするブロードウェイ♪ vol.4」に出演しゅつえんされました。このコンサートで三浦みうらさんは初はじめて、本格ほんかく的てきにミュージカルの世界せかいに触ふれられたそうですね。出演しゅつえんのきっかけは覚おぼえていますか？

当時とうじ僕ぼくは15・6歳さいで、何なにもわからないままマネージャーさんに「行いってこい！」ってポンと放ほうり込こまれた感かんじでしたね（笑）。

──初はじめての恋こいブロで三浦みうらさんは、バレエ以外いがいにもソロ歌唱かしょうを披露ひろうされていました。スーパーバイザーを岡おか幸二郎こうじろうさんが務つとめられたこの公演こうえんでは、大山おおやま真しん志こころざさん、内藤ないとう大だい希のぞみさん、法ほう月がつ康平やすひらさん、廣瀬ひろせ孝輔こうすけさん、味方あじかた良介りょうすけさん、矢田やた悠ゆう祐ゆうさんと共演きょうえんされています。どんなことが印象いんしょう的てきでしたか？

苦にがすぎるくらいに苦にがい思おもい出でしかないですね。当時とうじは恥はずかしくて、悔くやしくて、現場げんばに行いくのが嫌いやでした。ミュージカルがどんなものなのかも知しらなかったし、歌うたったこともなかったし。本当ほんとうに歌うたが嫌きらいだったのに、ソロで歌うたう場面ばめんまであって。岡おかさんが「なんだ、この歌うたが下手へたな16歳さいは……」と、冷ひややかな目めで僕ぼくを見みていたのを、若わかいながらに感かんじていました（笑）。だけどあのとき大だい希のぞみくんやゲストの海宝かいほう直人なおとさんといった素晴すばらしい歌声うたごえの先輩せんぱいたちとご一緒いっしょして感かんじたのは、悔くやしさでした。それまで自分じぶんは何なにでもできると思おもっていたのに、「俺おれ、できないことあるんや」と。

──その後ごも何なん度どか、恋こいブロのシリーズ作品さくひんに参加さんかされています。どのように歌うたの苦手にがて意識いしきを克服こくふくされたのでしょう。

初はつの恋こいブロではすごくショックを受うけましたけど、その悔くやしさがバネになりました。できないことがあるのがとにかく嫌いやで、「なんとかしたい」という気持きもちが強つよかったんです。ボイストレーニングに通かよってみたこともあるんですが、歌うたい方かたの正解せいかいがよくわかっていなかったのでピンとこなくて。それで恋こいブロのとき、稽古けいこや本番ほんばんで自分じぶんの歌うたを復習ふくしゅうするために録音ろくおんしていた音源おんげんで先輩せんぱいたちの歌声うたごえをたくさん聞きいて、まねして歌うたいました。それを続つづけていたことが糧かてになり、気付きづいたら歌うたが好すきになっていて。初はじめは嫌きらいで苦手にがてだからやっていたのに、好すきになれて本当ほんとうに良よかった。これで歌うたが嫌きらいなままだったら、今いまこのお仕事しごとをやっていませんから！（笑）

──以前いぜん、岡おか幸二郎こうじろうさんがこの連載れんさいで、三浦みうらさんについて「恋こいブロのあと歌かがとても上達じょうたつしたので、自分じぶんのオーケストラコンサートにもゲスト出演しゅつえんしてもらった」と歌声うたごえを褒ほめていらっしゃいました。

岡おかさんのコンサートに呼よんでいただけたのは、本当ほんとうにうれしかったですね。恋こいブロはやっぱり、自分じぶんがこのお仕事しごとをする大おおきなきっかけになった公演こうえんです。「この曲きょくはどういう話はなしの中なかで歌うたわれるんだろう？」と思おもって舞台ぶたいやDVDを観みて勉強べんきょうしたおかげで、ミュージカルに詳くわしくなれましたし。いきなり放ほうり込こまれたことに、今いまとなっては感謝かんしゃしています（笑）。ただ歌うたは今いまでも、好すきになったり嫌きらいになったりしていますね。「身みになってきた」と思おもえるときもあれば、ズドーンと崖がけから突つき落おとされて「まだまだだな」と実感じっかんするときもありますし。どの作品さくひんでどんな曲きょくを歌うたっても、常つねに壁かべは感かんじています。

テニミュで“ライバル”たちに出会であい、世界せかいが大おおきく変かわった

──恋こいブロのあと三浦みうらさんは、2016年ねんから2020年ねんまで「ミュージカル『テニスの王子おうじ様さま』」で跡部あとべ景けい吾われ役やくを演えんじられました。テニミュを通つうじて学まなんだ一番いちばん大おおきなことは何なにですか？

テニミュでは基礎きそから何なにもかも教おしえてもらいましたが、自分じぶんがすごく気きを付つけなきゃと思おもったのはコンディション管理かんりです。出演しゅつえんしていたときは1タイトルにつき50から60公演こうえんほどあって、ツアーから帰かえってきたらまた次つぎの稽古けいこがあって、という生活せいかつでした。十じゅう代だいくらいの男おとこの子こたちがそんなにたくさん舞台ぶたいに立たつなんて、なかなか経験けいけんできません。本番ほんばんではほとんど出でずっぱりで歌うたって走はしって……あんなに走はしる舞台ぶたいってほかにはないんじゃないかな（笑）。実じつは、体調たいちょうが良よくないのをおして本番ほんばんに出でた日ひもありました。たくさんのステージに立たたせてもらったことで、体調たいちょう管理かんりの大切たいせつさを学まなびましたね。

──テニミュを皮切かわきりに、大だい舞台ぶたいへの出演しゅつえんが続つづいています。

年上としうえの共演きょうえん者しゃが多おおかった恋こいブロと違ちがって、テニミュでは同どう世代せだいのキャストとたくさん出会であいました。バレエでもそうでしたが、僕ぼくはずっと大人おとなの方々かたがたに囲かこまれながら舞台ぶたいに立たってきて、でもテニミュでは“スタート地点ちてん”に立たったばかりの同年代どうねんだいのみんなが、切磋琢磨せっさたくましていました。そういう、舞台ぶたいをやっている同おない年どしくらいの人ひとたちにあまり会あったことがなかったので、「みんなに負まけたくない」という気持きもちが芽生めばえましたね。共演きょうえん者しゃのみんなはライバルであり、同時どうじに友達ともだちでもある。そんな感覚かんかくはテニミュに出でるまで知しらなかったので、自分じぶんの中なかの世界せかいが大おおきく変かわったのを感かんじました。

前編ぜんぺんでは、バレエとの出会であいとミュージカルとの邂逅かいこう、そしてテニミュを通つうじて感かんじた自身じしんの変化へんかについて語かたってもらった。後編こうへんでは彼かれのキャリアにとって大おおきな転機てんきとなったミュージカル「レ・ミゼラブル」や、三浦みうらが考かんがえるミュージカルを観みる楽たのしさ、そしてステージに立たつ楽たのしさを聞きく。

プロフィール

1999年ねん、三重みえ県けん出身しゅっしん。5歳さいでクラシックバレエを始はじめ、数々かずかずのバレエコンクールで入賞にゅうしょうを果はたす。東京とうきょうワンピースタワー「ONE PIECE LIVE ATTRACTION～Welcome to TONGARI Mystery Tour～」では、モンキー・D・ルフィ役やくを担当たんとう。近年きんねんでは「ミュージカル『テニスの王子おうじ様さま』」3rdシーズンで跡部あとべ景けい吾われ役やく、「ミュージカル『刀剣とうけん乱舞らんぶ』」シリーズで髭ひげ切きり役やくを務つとめ、「恋こいするブロードウェイ♪」シリーズ、「Nostalgic Wonderland ～song & dance show～」シリーズ、ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」などにも出演しゅつえんしている。またディズニー楽曲がっきょくのカバーアルバム「Disney 声ごえの王子おうじ様さま Voice Stars Dream Selection III」にも参加さんか。8・9月がつにはミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」再演さいえん、11・12月がつにはミュージカル「GREASE」が控ひかえる。