秋元あきもと才ざい加か、“声こえ”が迫せまってくるのがミュージカルの素晴すばらしさ（後編こうへん）

取材しゅざい・文ぶん / 中川なかがわ朋子ともこ

エスメラルダのセリフには私わたしの“血ち”が通かよっている

──秋元あきもとさんは2018年ねんに三谷幸喜みたにこうきさん作さく・演出えんしゅつの「日本にっぽんの歴史れきし」初演しょえんに参加さんかし、今年ことし7月がつ6日にちからはその再演さいえんに出演しゅつえんしますね。同どう作さくは卑弥呼ひみこの時代じだいからの約やく1700年間ねんかんを、約やく2時じ間あいだ半はんで描えがくミュージカルです。キャスト7名めいが何なん十じゅう人にんもの登場とうじょう人物じんぶつを演えんじ分わけることが特徴とくちょうですが、初演しょえんでは何なにが大変たいへんでしたか？

役やくを演えんじながら小道具こどうぐを片付かたづけたり、こまごまとした舞台ぶたい装置そうちを移動いどうしたりするのが、実じつはかなりハードでした。かつお客様きゃくさまに「秋元あきもと、がんばってるな！」と感かんじさせてしまうとちょっとダサいので（笑）、スマートにお届とどけしようとがんばっていました。また私わたしは物語ものがたりを進行しんこうする、歴史れきしの先生せんせい役やくを担当たんとうしていたので、冒頭ぼうとうではしっかりセリフで説明せつめいし、お客様きゃくさまを物語ものがたりへと導みちびかなくてはならず、そのストーリーテリングは難むずかしかったですね。

──初演しょえんで特とくに印象いんしょうに残のこっているのは、どの役やくでしたか？

私わたしはあまり歴史れきし上じょうの人物じんぶつを演えんじてはいなかったのですが、織田おだ信長のぶながに仕つかえた異人いじんの弥わたる助役じょやくは思おもい出深でぶかいです。それからエスメラルダにも、いろいろと思おもい入いれがあります。以前いぜんに三谷みたにさんと雑談ざつだんしながら、私わたしのアイデンティティについてお話はなししたことがあって。エスメラルダのセリフには、そのときの話はなしのエッセンスがちりばめられているんです。だから演えんじるたびに過去かこの悩なやんでいた自分じぶんに引ひき戻もどされて、新鮮しんせんに悲かなしい気持きもちになってしまう。でも私わたしはもう、そのうじうじしていた頃ころの自分じぶんを乗のり越こえているんです！（笑） 三谷みたにさんが書かいてくださったエスメラルダのセリフには確たしかに私わたしの“血ち”が通かよっています。でも演えんじるときはそれを客観きゃっかん視ししている自分じぶんもいるので、不思議ふしぎな感覚かんかくがありました。

なんとかなるさ なんとなく…「日本にっぽんの歴史れきし」は「みんなのうた」？

──「日本にっぽんの歴史れきし」では、三谷みたにさんのほかの舞台ぶたいや映画えいがにも携たずさわってきた荻野おぎの清子きよこさんが音楽おんがくを担当たんとうしています。秋元あきもとさんは、本ほん作さくの音楽おんがくにどのような魅力みりょくを感かんじていますか？

きっと本当ほんとうはとても難むずかしい技巧ぎこうが詰つまった音楽おんがくなのだと思おもうんですが、知しらずに聴きくとシンプルに感かんじられるのが素敵すてきです。難むずかしいことを簡単かんたんなように思おもわせるのって、大変たいへんですよね。でもこの作品さくひんの音楽おんがくは、誰だれでも覚おぼえやすいメロディです。「日本にっぽんの歴史れきし」というタイトルを見みると難むずかしそうだけど、音楽おんがくを通とおしてどんな方ほうでもとっつきやすい雰囲気ふんいきを作つくれるのって、すごいなと思おもいます。

──秋元あきもとさんが「日本にっぽんの歴史れきし」で特とくにお気きに入いりのナンバーを教おしえてください。

「オブライエンソング」に「なんとかならないことでもなんとかなるさ なんとなく」というフレーズがあるんですが、自分じぶんが危機きき的てき状況じょうきょうに陥おちいったとき、この一節いっせつがリフレインするようになってしまいました（笑）。すごくいい歌詞かしですよね。頭あたまの中なかで歌うたっているうちに「なんとかなってきた！」という気分きぶんになれて好すきです。それから劇げき中ちゅうに何なん度ども出でてくる「あなたが悩なやんでいることはいつか誰だれかが悩なやんだ悩なやみ」という歌詞かしには、出演しゅつえん者しゃである私わたし自身じしんもとても救すくわれています。「日本にっぽんの歴史れきし」に出会であって3年ねん近ちかくが経たちますが、いまだに楽曲がっきょくを聴きくと奮ふるいたせられたり、元気げんきが出でてきたり、そのほかにもいろいろな感情かんじょうが呼よび起おこされます。そこにはやっぱり、音楽おんがくの力ちからを感かんじますね。歌うただからこそメッセージがより心しんに残のこるということはあると思おもいますし、ミュージカルの奥深おくふかさを実感じっかんしました。

────秋元あきもとさんは三谷みたにさんの舞台ぶたい「国民こくみんの映画えいが」や、映画えいが「ギャラクシー街道かいどう」にも出演しゅつえんされています。「日本にっぽんの歴史れきし」について、ほかのミュージカル作品さくひんと比くらべて「三谷みたにさんならではだな」と思おもうポイントはありますか？

ミュージカルって作品さくひんによっては、曲きょくがとても難解なんかいなものもあるじゃないですか。その難むずかしさが醍醐味だいごみ、という演目えんもくもあると思おもいます。だけど「日本にっぽんの歴史れきし」はとてもシンプルな、覚おぼえやすい楽曲がっきょくでつづられる。私わたしはこの作品さくひんの音楽おんがくを、ミュージカルというより童謡どうようみたいな感覚かんかくで聞きいています。童謡どうようってどの世代せだいの方ほうも絶対ぜったいに聴きいたことがある、身近みぢかな音楽おんがくですよね。たとえミュージカルが好すきではなくても、童謡どうようが嫌きらいだという方ほうはあまりいないんじゃないかと思おもいます。だから個人こじん的てきに「日本にっぽんの歴史れきし」は、ミュージカルだけどいわゆるミュージカルという感覚かんかくとは少すこし違ちがう感かんじがしていて。「レ・ミゼラブル」のようなグランドミュージカルに慣なれている方ほうには、「日本にっぽんの歴史れきし」の雰囲気ふんいきは“日本にっぽん昔話むかしばなし”的てきというか、まるで「みんなのうた」のように感かんじられるかもしれません（笑）。

“声こえ”が迫せまってくるのがミュージカルの素晴すばらしさ、いつまでも舞台ぶたいに立たちたい

──幅広はばひろいジャンルでお仕事しごとをされている秋元あきもとさんは、“ミュージカルならでは”の面白おもしろさをどういうところに感かんじていらっしゃいますか？

音楽おんがくの力ちからで、表現ひょうげんのエネルギーが2倍ばいにも3倍ばいにも増幅ぞうふくされるのはミュージカルの素晴すばらしさですよね。私わたしはたくさんのミュージカルを経験けいけんしているわけではありませんが、お芝居しばいも歌うたもやらなくてはいけないので、ミュージカルができる人ひとってすごいなと思おもっていて。声こえに乗のせて登場とうじょう人物じんぶつの思おもいを表現ひょうげんするために、何なん重じゅうにも難むずかしいことをされているんです。私わたしはミュージカルを観みていると、お芝居しばいの内容ないようや演技えんぎはもちろんですが、俳優はいゆうさんの声こえと音楽おんがくのすごさに圧倒あっとうされます。演者えんじゃのオーラとエネルギーが音おとに乗のり、観客かんきゃくの前まえにグイグイ迫せまってくるというか。いわゆるお芝居しばいのアプローチとは、また違ちがうものを感かんじます。私わたしの最近さいきんの目標もくひょうは、歌うたの技術ぎじゅつを磨みがくことはもちろん、感情かんじょうや登場とうじょう人物じんぶつの思おもいを歌声うたごえに乗のせること。自分じぶんはまだまだですが、それができたら歌うたうことをさらに好すきになれるなと思おもい、ボイストレーニングを続つづけています。

──最後さいごに、秋元あきもとさんが俳優はいゆうとして目指めざす方向ほうこう性せいや出でてみたい作品さくひん、演えんじたい役柄やくがらを教おしえてください。

自分じぶんとしては、特とくに俳優はいゆうとしての方向ほうこう性せいは考かんがえていません。「これをやっている自分じぶんは好すきじゃないな」という選択肢せんたくしを外はずしていったら今いまこうなっている、という感かんじなんです（笑）。だから私わたしがこの先さきどういう俳優はいゆうになっていくか自分じぶんでもわかりませんし、わからなくてもいいのかなって。でも「秋元あきもと、なんか面白おもしろいじゃん」と料理りょうりしてみたくなる“素材そざい”のような俳優はいゆうになれたらいいなと思おもっています。

またこれまでは、古典こてん戯曲ぎきょくやシェイクスピアの作品さくひん、井上いのうえひさしさんの作品さくひんのような演目えんもくにはなかなかご縁えんがありませんでしたが、そういう舞台ぶたいにトライしたい気持きもちが年々ねんねん大おおきくなっています。今いま立たってみたいのは本多劇場ほんだげきじょう。劇場げきじょうのキャパシティにかかわらず、素敵すてきだなと思おもえる濃こい作品さくひんに出会であえたらうれしいです。実じつは、AKBの同期どうきの舞台ぶたいを観みると「私わたしがそこに立たちたい」「そのライトを私わたしが浴あびたい」と思おもうことがあります。単純たんじゅんなうらやましさとはまた違ちがうし、映像えいぞう作品さくひんではまだあまり感かんじない気持きもちなんですが（笑）。私わたしは客席きゃくせきが暗くらくなって、物語ものがたりにスッと引ひき込こまれるあの時間じかんが大好だいすきです。観劇かんげきも大切たいせつだし好すきだけど、やっぱり私わたしは緞帳どんちょうの後うしろのステージに立たちたい。だからこれからも芸げいを磨みがいて、いつまでも舞台ぶたいに立たてるように日頃ひごろから備そなえておきたいと思おもっています。

プロフィール

1988年ねん、千葉ちば県けん出身しゅっしん。2013年ねんまでAKB48のメンバーとして活動かつどうした。多数たすうのバラエティ番組ばんぐみや映像えいぞう作品さくひんで活躍かつやくし、映画えいが「山猫やまねこは眠ねむらない8 暗殺あんさつ者しゃの終幕しゅうまく」ではハリウッドデビューを果はたす。また舞台ぶたい出演しゅつえんも続つづけており、主おもな出演しゅつえん作さくに三谷幸喜みたにこうき作さく・演出えんしゅつの「国民こくみんの映画えいが」や、「にんじん」「ゴースト」といったミュージカルがあるほか、“即興そっきょうミュージカル”を作つくる無む観客かんきゃく配信はいしん公演こうえん「あなたと作つくる～etude The 美び4」、オンライン演劇えんげき「スーパーフラットライフ」などにも参加さんかした。近年きんねんではテレビ東京てれびとうきょう系けいの「アイカツプラネット！」に出演しゅつえん。同おなじくテレビ東京とうきょう系けいのドラマparavi「にぶんのいち夫婦ふうふ」が放送ほうそう中ちゅうだ。