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ChatGPTを企業内業務でどれだけ使いこなせるかは、生産性に大きな影響を与え得る。しかし、企業で使うためには個人情報の保護など一定の対策が必要だ。企業活用のレベルを3段階に分け、どのようにシステムを構築すればよいかを解説する。
ChatGPTは企業にどんなインパクトをもたらすのだろうか。様々な意見があるだろうが、「自然言語を扱うすべての職業」に影響があると私は考えている。それどころか、ChatGPTは人間の「考える」能力に似た挙動をすることが分かっており、弁護士や教師といった顧客・生徒と対話する職業など、これまで機械では代替不可能とされてきた領域にまで影響がありそうだ。デスクワークのほとんどが効率化できると言っても大げさではなく、ChatGPTをいかに使いこなすかで企業の生産性に大きな差が生じることも十分に起こり得る。
では企業はどうすればいいか。「とにかく、まずは使ってみる」ことを推奨する。確かにChatGPTは不正確なことを言ったり、存在しない出来事をでっちあげたりするかもしれない。しかし、それらは人間が確認して修正すればよい。使い方を間違えなければ有用なアウトプットを得られることのほうが圧倒的に多いのである。
少なくとも私のようなITエンジニアの業務領域においては、ChatGPTのインパクトはすさまじい。私は既に、場合によってはプログラムのソースコードやドキュメントの大半をChatGPTに記述させている。ChatGPTに質問しては回答が返ってくる間に別のことをする――。この繰り返しが定着しつつある。
「まずは触ってみる」ところから、個人情報やプライバシーを考慮した利用方法、さらに社内システムにChatGPTを組み込んで業務を改善するところまでを幅広く解説しよう。本稿では便宜的に「gpt-3.5-turbo」や「gpt-4」など、会話による応答が可能なモデルのことをChatGPTと呼ぶ。
活用レベルは3段階
企業内でChatGPTを使う場合、どんな使い方が想定されるか。ここでは活用レベルを大きくレベル0~2の3段階に分けて解説する。
企業でChatGPTを使う際の活用レベル
(出所:システムサポート)
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レベル0はオープンAIが公開しているChatGPTのWebサイトやスマートフォンアプリ(以降、両者をまとめてOpenAIアプリと呼ぶ)を社員が個人的に利用する段階だ。執筆時点では「GPT-3.5」は無料で利用でき、月20ドル(1ドル140円換算で約2800円)のサブスクリプションに申し込めば「GPT-4」を使える。
GPT-4はGPT-3.5に比べて極めて能力が高いため、AI(人工知能)の実力を実感したいのであればぜひ有料プランを試してみてほしい。私も業務では主にGPT-4を使用している。
読者の中にも既に利用している方もいるだろうが、このアプリは優秀だ。簡素な見た目ながら非常に多くの機能を備えている。例えばプログラムを出力させれば言語に応じてシンタックスハイライトされた表示となり、コピー用のボタンが現れるようになっている。複雑な数式もきれいに表示させることが可能だ。
有料プランではベータ版ながら米マイクロソフトの検索エンジン「Bing」と統合したり、「ChatGPT plugins(プラグイン)」という外部サービスとの接続機能が利用できたりする。プラグインを使えば最新の情報や論文、グルメサイトなどを検索できる。
しかし後述するように、OpenAIアプリをそのまま企業で業務に導入するのはハードルが高い。セキュリティーやガバナンス面で課題があるからだ。2023年6月12日にMM総研が公表した調査によると、日本の企業・団体に属する従業員のうち、ChatGPTをビジネスに利用している人はまだ7%にすぎない。導入への課題については、「回答の精度」を理由としている人が49%と最も多いが、「個人情報などプライバシー」「社内のルール整備」を挙げた人もそれぞれ30%前後いた。
セキュリティーやガバナンスを考慮した環境を整えてChatGPTを活用する。これがレベル1の段階だ。
ChatGPTはただの会話型AIには留まらず、様々な業務用途で使うことが期待されている。カスタマーサポートへの導入などが好例だ。後述するオープンAIの別のモデルを使えば文章の検索もできるため、社内ドキュメントを利用したQ&Aシステムなどの構築も実現できる。
あらかじめChatGPTにデータ交換方式を学習させることで、社内外のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)に対して自然文で問い合わせることも可能だ。例えば「JSON」形式でデータをやり取りする場合、AIは人間の問い合わせ内容から送信用のJSONを生成し、APIから受け取ったJSONを解釈して人間が分かる文章で結果を表示することもできる。こうした特定用途での応用も今後ますます盛んになるだろう。