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中立 - Wikipedia

中立ちゅうりつ

対立たいりつしたさいに、そのどちらにもぞくさない第三者だいさんしゃ立場たちばのこと

中立ちゅうりつ(ちゅうりつ、えい: neutrality)とは、理念りねん状態じょうたい対立たいりつしたさいに、そのどちらにもぞくさない第三者だいさんしゃ立場たちばのことである。

概念がいねん

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どちらにもかたぶかない、あるいは方向ほうこうけをたない立場たちばとして中立ちゅうりつかたり使つかわれる。関心かんしん議論ぎろん関心かんしんたない状態じょうたい)、およ客観きゃっかんてき視点してん思考しこうかさねた結果けっかにいずれかの理論りろんをたてる客観きゃっかんてき思考しこうことなる。調停ちょうていファシリテーション必要ひつよう要素ようそかんがえられる。

一般いっぱん社会しゃかいにおけるふたつの当事とうじしゃあいだ対立たいりつがあった場合ばあい第三者だいさんしゃ意見いけんもとめられることがある。これは両者りょうしゃ利害りがい関係かんけいしない中立ちゅうりつ立場たちば、および客観きゃっかんてき立場たちばから問題もんだい場合ばあい判断はんだん期待きたいするものである。とく問題もんだい技術ぎじゅつてき、あるいは科学かがくてきなどの専門せんもんせいゆうする場合ばあい、その分野ぶんや識者しきしゃをその対象たいしょうとする場合ばあいがある。しかし、これが期待きたいどおりに機能きのうするとはかぎらないこともある。宇井ういじゅんによると「公害こうがい問題もんだいにおいては、第三者だいさんしゃ中立ちゅうりつてき立場たちば大抵たいてい加害かがいしゃがわ有利ゆうりになる」とう。たとえば、おおきな工場こうじょうなどが被害ひがい地元じもと一般いっぱん市民しみんがそれを糾弾きゅうだんするといった構図こうず場合ばあい当初とうしょ工場こうじょうがわがその関与かんよ一切いっさい否定ひていすることから、第三者だいさんしゃ工場こうじょうがわ加害かがいがあったという判断はんだん簡単かんたんせず、大抵たいていはいくつかの可能かのうせいげるなどの問題もんだいをぼかしたかたちにしてしまう。

中立ちゅうりつという立場たちばには、道徳どうとくてき責任せきにん回避かいひした存在そんざいられる側面そくめんもある[1]たとえば、ダンテは『かみきょく地獄じごくへんにおいて中立ちゅうりつつみなし、かみたいして反抗はんこうてきでも忠誠ちゅうせいてきでもものかみからも悪魔あくまからもきらわれ、地獄じごくもんのすぐがわのぞみももだくるしむといた。ジョン・F・ケネディはダンテを引用いんようし「地獄じごく一番いちばんあつ場所ばしょ道徳どうとくてき危機ききとき中立ちゅうりつ保持ほじするひとのためにとってかれる」とべている[1]

国際こくさいほうじょう中立ちゅうりつ

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国際こくさいほううえ中立ちゅうりつには、永世えいせい中立ちゅうりつ戦時せんじ中立ちゅうりつ一般いっぱんてき中立ちゅうりつ部分ぶぶんてき中立ちゅうりつ任意にんいてき中立ちゅうりつ協定きょうてい中立ちゅうりつ好意こういてき中立ちゅうりつ厳正げんせい中立ちゅうりつなどの区別くべつがある。

通常つうじょうそれは戦時せんじ中立ちゅうりつ意味いみするが、それは戦争せんそう発生はっせいした場合ばあいに、その交戦こうせんこく双方そうほうたいして公平こうへい態度たいどをとる国家こっか法的ほうてき地位ちいのことである。それはその戦争せんそう無関係むかんけい立場たちばにあるくに地位ちいではなく、交戦こうせんこくとのあいだ一定いってい権利けんり義務ぎむをもつくに地位ちいである。中立ちゅうりつこくは、その領土りょうど領海りょうかい領空りょうくうについて交戦こうせんこくによる一切いっさい侵犯しんぱんからまぬかれる。他方たほう、それは交戦こうせんこく双方そうほうたいして厳正げんせい公平こうへいである義務ぎむう。それは、交戦こうせんこく軍隊ぐんたい船舶せんぱく武器ぶき弾薬だんやく資金しきん、その戦争せんそう使つかわれうる物資ぶっし提供ていきょうしたり、その領内りょうない軍事ぐんじ基地きち軍事ぐんじてき移動いどう経路けいろとして使つかわせたりしてはならない。中立ちゅうりつこく権利けんり義務ぎむのうち、複雑ふくざつなのは中立ちゅうりつこく交戦こうせんこくとの通商つうしょうかんするものである。たとえば、中立ちゅうりつこく国民こくみん交戦こうせんこく通商つうしょうすることをさまたげる義務ぎむはないが、それにたいする、交戦こうせんこくによる一定いってい干渉かんしょう海上かいじょう封鎖ふうさ船舶せんぱく停止ていし捜査そうさ戦時せんじ禁制きんせいひん没収ぼっしゅうとう)を黙認もくにんしなければならない。

中立ちゅうりつ変遷へんせん

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国際こくさいほううえ中立ちゅうりつは、国家こっか主権しゅけん絶対ぜったいせいしんじられた時代じだいヨーロッパ国家こっか体系たいけい産物さんぶつである。それ以前いぜんすなわ他国たこくがすべて潜在せんざいてきてきであった古代こだいにも、キリスト教きりすときょう倫理りんり国家こっか判断はんだんより重視じゅうしされた中世ちゅうせいにも、中立ちゅうりつ概念がいねん発達はったつしなかった。ただ、中世ちゅうせい末期まっきには地中海ちちゅうかい商人しょうにんそうあいだ一種いっしゅうみほう(コンソラート・デル・マーレ)がまれ、そのなか中立ちゅうりつ商業しょうぎょうについても規定きていがなされている。16世紀せいき以降いこう世界せかい貿易ぼうえき発達はったつにつれて中立ちゅうりつ概念がいねんもしだいに明確めいかくされた。とく18世紀せいきすえから19世紀せいきにかけて、たとえば1793ねんアメリカ中立ちゅうりつ宣言せんげんはっ中立ちゅうりつ権利けんり義務ぎむ明示めいじしたこと、ロシア帝国ていこく(きゅう)が2にわたり北方ほっぽう諸国しょこく結集けっしゅうして武装ぶそう中立ちゅうりつ宣言せんげんしたこと、ナポレオン戦争せんそうさいえいふつ両国りょうこく相互そうご封鎖ふうさ宣言せんげんして第三国だいさんごく通商つうしょうがいしたことなどが、中立ちゅうりつ理念りねん発達はったつ刺激しげきあたえた(イギリス海上かいじょう封鎖ふうさフランス大陸たいりく封鎖ふうされい)。日本にっぽん明治維新めいじいしんのち発生はっせいしたひろしふつ戦争せんそう戦争せんそうなどにおいて中立ちゅうりつ宣言せんげんしている[2]

日本にっぽん関連かんれんでは、1868ねん江戸えど幕府ばくふ明治めいじ政府せいふあいだおこなわれた戊辰戦争ぼしんせんそうさいして欧米おうべい列強れっきょうが「局外きょくがい中立ちゅうりつ」したのが著名ちょめいである。戊辰戦争ぼしんせんそうはじまると、従来じゅうらい外交がいこうけん保持ほじしていた江戸えど幕府ばくふ各国かっこく政府せいふたいして中立ちゅうりつもとめる交渉こうしょうおこない、明治めいじ政府せいふもこれに対抗たいこうして各国かっこく政府せいふ中立ちゅうりつもとめた。これをけて、イギリス・フランス・アメリカプロイセンオランダイタリアの6かこくは1868ねん2がつ18にち天保てんぽうれき:明治めいじ元年がんねん1がつ25にち)、兵庫ひょうごにおいてこの戦争せんそうたいする「局外きょくがい中立ちゅうりつ」を宣言せんげんした。これによって戊辰戦争ぼしんせんそうたいする列強れっきょう干渉かんしょう回避かいひされた反面はんめん江戸えど幕府ばくふ明治めいじ政府せいふども兵器へいきぐん用品ようひん輸入ゆにゅう調達ちょうたつおおきな支障ししょうたすことになった。さら実際じっさいには、おや江戸えど幕府ばくふのフランスとおや明治めいじ政府せいふのイギリス、さら中立ちゅうりつ厳守げんしゅもとめるアメリカのあいだ歩調ほちょうそろわなかった。このため、同年どうねん5がつ3にち天保てんぽうれき:明治めいじ元年がんねん4がつ11にち)に江戸えど開城かいじょうおこなわれたことをけた明治めいじ政府せいふ江戸えど幕府ばくふ政権せいけん実体じったい喪失そうしつしたとして「局外きょくがい中立ちゅうりつ」の解除かいじょもとめたものの、明治めいじ政府せいふ外交がいこうけん各国かっこくみとめられた以降いこう解除かいじょかんする各国かっこく合意ごういられず、中立ちゅうりつ解除かいじょされたのは奥羽おううえつ列藩れっぱん同盟どうめい解体かいたいして明治めいじ政府せいふ勝利しょうり大勢おおぜいけっした1869ねん2がつ9にち天保てんぽうれき:明治めいじ元年がんねん12がつ28にち)のことであった[2]

永世えいせい中立ちゅうりつについては、1815ねんウィーン会議かいぎスイスのそれをさだめたほか、19世紀せいきうちベルギー1893ねん)、ルクセンブルク1867ねん)の中立ちゅうりつ規定きていした国際こくさい条約じょうやく締結ていけつされた。

戦時せんじ中立ちゅうりつかんする国際こくさいてき規定きていクリミア戦争せんそう1856ねんパリ宣言せんげん1907ねんハーグ平和へいわ会議かいぎ1909ねんロンドン宣言せんげんとうにより完成かんせいされた。

しかし20世紀せいき初頭しょとうぎると、国際こくさい社会しゃかい統合とうごう国家こっか主権しゅけん相対そうたいすすみ、中立ちゅうりつ維持いじ急速きゅうそく困難こんなんになった。だいいち世界せかい大戦たいせんではドイツ帝国ていこく永世えいせい中立ちゅうりつこくベルギーに侵攻しんこうするなど、中立ちゅうりつ尊重そんちょうしないうごきもまれた。

戦後せんごには国際こくさい連盟れんめい結成けっせいされ、戦争せんそううったえない義務ぎむ違反いはんこくたいする制裁せいさい参加さんかする義務ぎむ加盟かめいこくせられるとともに、加盟かめいこく立場たちば中立ちゅうりつ地位ちい矛盾むじゅんする可能かのうせいまれた。

だい世界せかい大戦たいせんさいしては、ナチス・ドイツ中立ちゅうりつこくオランダ・ルクセンブルク・ノルウェー・ベルギー・デンマーク攻撃こうげきするなど、中立ちゅうりつ以前いぜんよりもさらに無視むしされやすくなった。また、連合れんごうこくがわでもイギリス・ソ連それん中立ちゅうりつこくであったイランパフラヴィーあさ)に侵攻しんこうし、連合れんごうこくへの参加さんか強制きょうせいしたうえ占領せんりょう傀儡かいらい政権せいけん樹立じゅりつする事態じたい発生はっせいしている。1945ねん8がつにソビエト連邦れんぽうによるにち中立ちゅうりつ条約じょうやく破棄はき中立ちゅうりつ侵害しんがい典型てんけいである(中立ちゅうりつ条約じょうやく参照さんしょうのこと)。また中立ちゅうりつこくであってもスペインポルトガル・スイス・スウェーデン交戦こうせんこく便宜べんぎはか中立ちゅうりつ義務ぎむ違反いはんおかしていたこともあきらかになっている。

国際こくさい政治せいじじょう中立ちゅうりつ

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だい世界せかい大戦たいせん侵略しんりゃくしゃたいする加盟かめいこく軍事ぐんじ行動こうどうさだめた国際こくさい連合れんごう憲章けんしょう制定せいていされ、国際こくさい法的ほうてき中立ちゅうりつ矛盾むじゅん拡大かくだいした。さらに、国際こくさい社会しゃかいがヨーロッパ国家こっか体系たいけいとは質的しつてきちがった地球ちきゅうだいのものになり、軍事ぐんじてき政治せいじてき経済けいざいてき相互そうご依存いぞん関係かんけい飛躍ひやくてきつよまった。大国たいこくまない地域ちいきてき戦争せんそう多発たはつしているが、それはしゅとしてだいさん世界せかい発生はっせいし、おおくがゲリラせんてき様相ようそうともなうため、伝統でんとうてき中立ちゅうりつ理念りねん通用つうようしにくくなった。他方たほう大国たいこく二分にぶんした東西とうざい対決たいけつがもし戦争せんそういたれば、それはかく戦争せんそうとなることが予想よそうされ、第三国だいさんごく戦争せんそうけて存在そんざいしうる余地よちすくない。1955ねんにはオーストリア憲法けんぽう規程きていによる中立ちゅうりつ宣言せんげん国際こくさいてき承認しょうにんたが、国際こくさい法的ほうてき中立ちゅうりつ可能かのうせい低下ていかし、それにわって国際こくさい政治せいじてき中立ちゅうりつおおきくかびがってきた。前者ぜんしゃ中立ちゅうりつ戦争せんそうまれないで自国じこく地位ちい維持いじしようという消極しょうきょくてき自己じこ保存ほぞんてきなものであるのにたいして、後者こうしゃのそれは国際こくさいてき対立たいりつ緊張きんちょう緩和かんわし、戦争せんそう可能かのうせい防止ぼうししようとする積極せっきょくてき能動のうどうてきなものである。前者ぜんしゃ地位ちいであるとすれば、後者こうしゃ政策せいさくである。だい世界せかい大戦たいせん交戦こうせんけん放棄ほうき憲法けんぽううたった日本にっぽんにおいては、日米にちべい安全あんぜん保障ほしょう条約じょうやくからの離脱りだつ主張しゅちょうする政治せいじ勢力せいりょくが、前者ぜんしゃ意味いみ同盟どうめい中立ちゅうりつないし武装ぶそう中立ちゅうりつというスローガンかかげることもあった。しかしながら、中立ちゅうりつ政策せいさく実際じっさい採用さいようしている国々くにぐには、中立ちゅうりつという言葉ことばふくまれる消極しょうきょくてき受動じゅどうてき印象いんしょうけるため、ほとんどがその政策せいさく同盟どうめいんでいる。

中立ちゅうりつ条約じょうやく

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中立ちゅうりつ条約じょうやく(ちゅうりつじょうやく)は、条約じょうやく締結ていけつ相手あいてこく第三国だいさんごくとの紛争ふんそうまれたとき中立ちゅうりつ遵守じゅんしゅ約束やくそくする条約じょうやくである。ただし、紛争ふんそう発生はっせいかぎってのみ適用てきようされること中立ちゅうりつ条約じょうやく規定きていおよ国際こくさいほうじょうにおける中立ちゅうりつ義務ぎむ違反いはんしない範疇はんちゅうにおける第三国だいさんごく支援しえん可能かのうである(常時じょうじ適用てきようおよ遵守じゅんしゅ対象たいしょうとされ、一切いっさい第三国だいさんごく支援しえんきんじられるのが一般いっぱんてきとされる不可侵ふかしん条約じょうやくよりも効果こうかひくいとみなされている)。

1941ねん締結ていけつされた中立ちゅうりつ条約じょうやくは、締結ていけつこく双方そうほうたがいの同盟どうめいこく交戦こうせん(ドイツたいソ連それん日本にっぽんたいアメリカ)したために効果こうかきわめて限定げんていてきで、ドイツ降伏ごうぶくの1945ねん4がつにはソ連それんがわより終了しゅうりょう通告つうこくされて4ヵ月かげつには終了しゅうりょう期限きげんたずにソ連それんたいにち宣戦せんせんおこなわれた。

中立ちゅうりつ国際こくさい関係かんけい)の関連かんれん項目こうもく

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生物せいぶつがく

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生物せいぶつがくにおいては、進化しんかろんにおける中立ちゅうりつせつがある。また共生きょうせいのうち、双方そうほう利益りえきず、がいかぶらない関係かんけい中立ちゅうりつ (neutrarlism)と場合ばあいもある。

変速へんそく逆転ぎゃくてんなど、機械きかい動力どうりょく伝達でんたつけいにおいて、入力にゅうりょくがわである原動機げんどうき運転うんてん継続けいぞくしたままクラッチ動力どうりょくち、出力しゅつりょくがわ停止ていししている状態じょうたい。「せいてん」・「逆転ぎゃくてん」のないトランスファーでは、たん動力どうりょくだん」(OFF)の状態じょうたいす。

また、そのとき操作そうさレバースイッチ位置いち状態じょうたい)をすこともある。いずれも中立ちゅうりつやニュートラル(略称りゃくしょう:ニュートラ)とばれ、インジケーター表示ひょうじ)には「なか」や「N」のほか、「きり」や「だん」が使つかわれる場合ばあいもある。

出典しゅってん

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  1. ^ a b ジョゼフ・グッド 川崎かわさき智子さとこやく アリソン・ルイス(へん)「地獄じごく一番いちばんあつ場所ばしょ 現代げんだい図書館としょかん専門せんもんしょくにおける中立ちゅうりつせいという危機きき」『図書館としょかん中立ちゅうりつせい京都きょうと図書館としょかん情報じょうほうがく研究けんきゅうかい 2013ねん ISBN 9784820413080 pp.133-135
  2. ^ a b 杉井すぎい六郎ろくろう局外きょくがい中立ちゅうりつ」『国史こくしだい辞典じてん 4』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1984ねん ISBN 978-4-642-00504-3 P384.

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