中田実は、町内会等の基本的な特徴として次の5点を挙げる。[9]
- 一定の地域区画をもち、その区画が相互に重なり合わない。
- 世帯を単位として構成される。
- 原則として全世帯(戸)加入の考え方に立つ。
- 地域の諸課題に包括的に関与する。
- それらの結果として、行政や外部の第三者にたいして地域を代表する組織となる。
判例では「町内会は、自治会とも言われ、一定地域に居住する住民等を会員として、会員相互の親睦を図り、会員福祉の増進に努力し、関係官公署各種団体との協力推進等を行うことを目的として設立された任意の団体」と定義している(東京簡易裁判所判決平成19年8月7日、平成18年(ハ)第20200号)。
町内会等の名称について決まった原則はなく、○○町会、○○自治会、○○マンション・アパート等の自治会(主にアパート、マンションに多い。)と称するものや単に○○会と称するものも存在する。多くの組織の場合、「○○」の部分には「地名あるいは住居表示の名称」をそのまま表示するが、地域の自然環境や地理特性、シンボルを名称に取りいれているものや住居名(マンション名)・開発業者の社名を組織名に取り入れているものもある。
町内会等の範囲は、多くの場合伝統的な地域や集落と一致しているが、戦後昭和期に開発された地域においては、造成が行われるたびに開発区域(マンション)を単位とした町内会等が新たに設立されてきた経緯もあり、地理的な生活圏域より細分化されている場合がある。
それぞれの町内会等は、近接の別の町内会等と共同で「町内会連合会」「連合町内会」「連区(愛知県豊川市など)」などと呼ばれる連合体を組織していたり、「地区」「行政区」あるいは京都の学区などの上位地域区分を持っていたりする場合がある。これらの上位団体に対して個別の町内会等を指す呼称として「単位町内会(等)」と呼ぶことがある。
認可地縁団体の場合、地方自治法第260条の5の規定により1名の代表者(しばしば「会長」と呼ばれる。)を置く義務がある。また、同260条の11の規定により、任意で監事を設置する。
任意団体の場合も、上記の「会長」のほか、「副会長(助役)」、「会計(収入役)」、「総務(事務長)」といった役職が置かれ、これらを「役員」と総称する。実務的事項については「役員会」などと呼ばれる寄合で決定されることもある。また、特定の活動分野について「部」などといった下部組織が設置され、部長などの役職が置かれることもある。部は「老人部」「女性部」「青年部」といった構成員の種類によることもあり、「防犯部」「育成部」「文化部」といった活動種類によることもある。
認可地縁団体の場合、地方自治法第260条の2第2項の規定により団体の規約(しばしば「会則」とも呼ばれる。)を定める義務がある。任意団体の場合も、多くの場合規約を定めている。
町内会等の重要事項は、会員である住民の世帯主が全員参加する総会で決定される。認可地縁団体の場合、地方自治法第260条の13の規定により、年1回の通常総会の開催が義務づけられているが、任意団体の場合も、多くの場合年1回開催である。一般に総会への参加意欲は低調で、総会委任、一部構成員のみの参加が常態化しているところもある。
構成員が多い町内会等或いは「隣組」の名残により、区域をさらに細分化した「組(班)」を設置し、「組(班)長」といった役職を置く事がある。組はしばしば町内会等や行政からの通達指示事項を伝達する最小組織となり、伝達方法として「回覧板」と呼ばれる古風な連絡手法が用いられている。集合住宅が組の単位となる場合、貸主や管理人が組長を務める慣例となっていることもある。
役員や他の役職の人選は互選によることが多いが、定年退職した男性による持ち回りが慣例化していたり、代わる人員がいないために、同一人物が相当高齢になるまで就任していることも多い。
町内会等の財務について明確なルールはないが(認可地縁団体の場合、財産目録の整備のみは義務づけられている。)、市区町村の補助金・助成金に関する手続きを行う便宜から、ほとんどすべての場合、公会計と全く同様の3月末を決算期とした現金主義会計により経理されている。
収入は、基本的には「会費」と呼ばれる加入者からの負担金のほか、行政からの補助金・委託費、バザーや縁日の売上、各種の寄付金(協力金・協賛金などという名称もしばしば用いられる。)などで賄われる。
会費は、持ち家の有無など外形的な世帯特徴により所得水準を判断し、累進的に会費の額を設定した「見立て割」がしばしば用いられるが、昭和期の総中流化により、画一の会費とする場合も増加した。[10]
町内会等の活動内容は、地域性・歴史性によって大きく異なる。
平成18年度国民生活モニター調査「町内会・自治会等の地域のつながりに関する調査」においては、実施している割合の上位から
- 行事案内、会報配布等の住民相互の連絡
- 市区町村からの情報の連絡
- 盆踊り・お祭り
- 街灯の管理
- 行政への陳情・要望
といった活動を行っていた。
一方で、戦後昭和期(1968年)の「住民自治組織に関する世論調査」では
- 募金(の協力)
- 市(町村)と住民の連絡
- 消毒
- 運動会、レクリェーション、旅行
- 街灯管理
となっており、時代による変遷が見られる。
以下、町内会等の活動のうち主なもののみ挙げる。
一般的な会館。小会議室や炊事場のほか、広い座敷部屋を備えているのが通例。
住民の結婚式や葬式があった際には、町内会等が人員を動員し式の運営や炊き出しを行う。また、住民同士の親睦活動として新年会などの各種の親睦、運動会などの体育活動、歌謡・舞踊・演芸などの文化活動を行う。
これらの活動については、町内会等と別に老人会や婦人会、青年団、子供会といった世代別団体が担っていることもあるが、町内会等の役員が充て職となっていたり、町内会等の加入者が当然に加入することになっているなど、実質的に一体化していることも少なくない。
活動を行うための場所として、戦後昭和期には「会館」あるいは「集会所」「地域公民館」などと呼ばれる集会施設が多く建設された。これらは、町内会等が自主的に整備する場合もあり、行政主導で整備する場合もあった。また、土地区画整理事業や都市再開発事業などの一環として、実質的に開発区域の町内会等が使用する集会施設として整備されることもあった。また、マンションを単位とした町内会等においては、規約共用部分として設置された集会施設がこの役割を果たすこともあった。
平成期以降は結婚式場や葬儀場の普及により、集会施設の果たす役割は急速に縮小し、総会・役員会や文化サークル活動での使用に限られている。
「町内神輿」が集合し、松原神社 (小田原市)に向かう様子
地域で伝統的に行われてきた祭礼の運営や補助、あるいは寺社や境内地の清掃や修繕などの維持管理を行う。一般的には鎮守神を祭る神社の祭礼が対象であるが、一向宗が盛んな北陸地方における報恩講のように寺院が行う祭礼が対象となることもなる。
これらの活動については、町内会等と別に氏子会や檀家会といった信徒による団体が担っていることもあるが、町内会等の役員が充て職となっていたり、町内会等の加入者が当然に加入することになっているなど、実質的に一体化していることも少なくない。
大規模な祭礼の場合は、町内会等単位で神輿などの祭具を所有したり、別々に行列や神楽を行うこともあった。いわゆる「喧嘩祭り」においては、しばしば町内会等を単位として闘争が行われ、地域同士の械闘に発展することもある。
伝統的な祭礼とは別に、戦後昭和期には商業化・マス化した祭礼イベントを開催することも増加した。夏の「盆踊り」は町内会等のイベントとして最も普及したものであり、櫓と太鼓、けばけばしい電飾、「○○音頭」などとして地域ごとに盛んに作曲された舞踏用の唱歌、縁日の屋台、花火やカラオケ大会などが祭礼のアイコンとなった。
警察署と町内会等が連名で設置した交通安全の立て看板
地域の交通安全や防犯のため、地域の防犯パトロール、通学の見守り(学童擁護員)、立て看板の設置などを行う。
これらの活動は、自主的な住民意識に基づくものではあるが、実質的には地元の警察署の統制下にあり、全国交通安全運動やその他のキャンペーンにおいて、人員の供出を行う事も多い。
また、これらの活動については、町内会等とは別に交通安全協会や防犯協会といった任意団体が担っていることもあるが、町内会等の役員が充て職となっていたり、町内会等の加入者が当然に加入することになっているなど、実質的に一体化していることも少なくない。
また、夜間の安全を目的に設置された防犯灯の維持管理を町内会等が行っていることも多い。道路・公園等に防犯カメラを設置する例もあり、町内会向けの設置マニュアルを作成している自治体もある[11]。
路傍のごみ集積所
最も一般的に行われているのは、地域内での家庭用ごみ集積所の設置・維持管理である。
また、リサイクルのための廃品回収、古物の再利用のためのバザー、放置自転車の処理、不法投棄防止のための活動などの環境維持活動を行う。特に、道路・公園・用排水路・河川などの清掃活動については、平成期にアダプト・プログラムがもてはやされた際に、行政と町内会等が協定を結んで行われたこともあった。
また、都市部については緑化活動として、街路樹や花壇の造成などを行うこともある。
町内会等役員の充て職により管理される共同墓地
伝統的な村落において、入会地や共同墓地、共同浴場などの共同所有地の維持管理を行う。これらの活動については、町内会等と別に入会団体や墓地管理組合といった受益者による団体が担っていることもあるが、町内会等の役員が充て職となっていたり、町内会等の加入者が当然に加入することになっているなど、実質的に一体化していることも少なくない。
また、戦後昭和期以降に、各種インフラ整備が進む過程の中で、インフラ受益者による団体と町内会等が同一視されることも増加した。マンションや団地施設の管理組合はその典型であるが、他にも地域団体加入電話や有線放送施設の利用組合、上下水道施設の利用組合、水利施設の土地改良区、農作業のための機械利用組合などがある。この場合において、町内会等がインフラ設備の維持補修を行うほか、受益者の負担金も会費と同様に徴収することとなる。
また、平成期には、公園やコミュニティセンター、福祉施設などの維持管理を指定管理者制度により受託することも増加した。
豪雪地域においては、生活道路である市町村道の除排雪を市区町村ではなく、町内会等の責任と経費負担において行うという場合もある。
火災や災害時の救出活動、安否確認のほか、平常時の避難訓練、救命講習の実施、防火や防災の呼びかけなどの消防防災活動を行う。
これらの活動は、自主的な住民意識に基づくものではあるが、実質的には地元の消防署や市区町村の防災担当の統制下にあり、出初式や総合防災訓練において、人員の供出を行う事も多い。
また、これらの活動については、町内会等とは別に消防団や水防団が設置されていることもあるが、実質的に一体化していることも少なくない。また、しばしば災害対策基本法上の自主防災組織としても位置付けられている。
戦後昭和期から、町内会等が火災や水害対策用の物品を保管することがあったが、平成期に自主防災組織が普及した後は、町内会等に収容避難場所の開設・管理が義務付けられることも増加したことから、災害用の備蓄品を保有することもある。
また、災害時には避難行動要支援者の避難支援が課せられていることがあるが、要支援者の名簿自体、法令上本人の同意がなければ提供できないため、実効性のある役割を果たすことは容易でない。
町内会等の会員を対象に寄付金の徴収を行うことがしばしばある。町内会等が開催する祭礼やイベント経費のための寄付金(「協力金」や「協賛金」などという名称もしばしば用いられる。また、寺社の祭礼のための寄付の場合は「御札代」や「御神酒代」という名称も用いられる。)のほか、地元の福祉・教育施設などへの寄付として集められることもある。
また、消防団や交通安全協会、防犯協会といった関連団体の維持経費がいわゆる「トンネル寄付」として、消防協力金・防犯協力金などの名目で寄付金として集められることもある。
また、全国規模の慈善団体が町内会等に寄付の取りまとめを命じることも多い。日本赤十字社と共同募金会によるものが最も一般的であるが、社会福祉協議会や緑の募金、社会を明るくする運動などによるものもある。取りまとめは任意であるが、ほとんどの場合において、町内会等ごとに「目安」や「目標金額」といった実質ノルマが定められており、寄付金は「上納金」としての性質を強く帯びる。
寄付金については各自治区ごとの総会にて、当年度の収支報告および、次年度予算の議決が行われ、町内会費より支出される。
市区町村との連絡・事業受託
編集
市区町村の実質的な従属組織として、広報活動を行うことがある。広報紙を配布活動が最も一般的に行われているが、その他のイベントの告知や住民への個別周知について、回覧板により広報することもある。
また、受託や補助金事業により、市区町村の政策の実質的な下請けを担うことも多い。敬老活動、スポーツ活動、生涯学習活動などが伝統的なものであるが、平成後期には、健康寿命延伸のための健康づくり活動や、要介護防止のための介護予防事業、地域包括ケアのための孤独死防止のための見守りなどを行うこともあった。
従属組織としての性質から、本来的には任意団体である町内会等の設置や区域変更、会長の変更について、市区町村の認可や届出が義務付けられていることがほとんどである。
町内会等に加入・参加する世帯が減少していることが指摘されている。例えば1968年に内閣府が行った「住民自治組織に関する世論調査」では、町内会等への加入率は市部で88.7%、町村部では90.5%であったが、およそ半世紀後の2010年の「国民生活選好度調査」では、全体で73.0%まで低下してる。
結社の自由が憲法と国際法により保障されている[注釈 7]為、新たに住民となった者が町内会等に加入しないことは珍しくないが、役所・役場[注釈 8]や町内会役員が組織率の低下を防ぐため、マンション分譲の際の条件として町内会等への加入を契約で謳っているケースが見られる。もっとも加入はしているが行事には参加せず、町内会費を納入するだけの関係になっているケースもある(稀に加入していても町内会費を滞納(未払い)するケースも存在する)。
町内会の活動単位は家族を想定しており、単身者の生活環境を考慮していないスケジュールのため単身者は加入しない、または加入しても活動に参加できない場合が多い。また、会員(住民)同士の交流を促進するためさまざまな行事を行うところもある。住民の高齢化等により行わなくなるケースもあるし、いままでになかった新たな行事が企画されるケースもある(花火大会、神社の大祭、祭り、盆踊り、運動会など)。
都市部のアパートやマンションでは、未加入の者が多い[12](マンション管理組合とマンション自治会は同一の団体ではない)。特に賃貸物件では転入・転出が頻繁だったり、自宅が留守がちな単身者や共働き夫婦が多かったりして、地域との繋がりが薄いことによる。家族で居住している場合、加入を勧誘すると応じる場合が多いが、単身者等の場合は不在がちな世帯が多いため、加入の勧誘を断る者が少なくなく、加入率は低くなっている。集合住宅の町内会等の加入率はかつては高く、現在でも全世帯が加入する集合住宅もあるが、単身者・共働きの世帯が多いところでは加入率が半分以下のところもある[要出典]。
町内会等によっては、徴収した会費や地元企業の協賛金により、世帯の住所や電話番号を記載した名簿を配布したり、世帯の所在を図示した案内図・案内板を作成していることもあるが、個人情報の漏洩を嫌って掲載を拒否する世帯も増加している。
これらの個人情報の取扱いについて従来はルールがなかったが、個人情報保護法が改正され、2017年(平成29年)5月30日から個人情報を取り扱う事業者や団体は、規模の大小や営利・非営利を問わず個人情報保護法の適用対象になった。町内会や自治会も個人情報保護法の適用を受けるため、各町内会などは個人情報の取得・利用・保管・伝達・情報開示などについて法に則してルール化し、取り扱うことが求められる。[13]
集合住宅
マンションの管理組合は、共同財産の管理を目的として、区分所有者全員の加入が建物の区分所有等に関する法律で義務づけられているものであるが、しばしば町内会等と同一視され、区分所有者であることを理由に町内会等への加入を強制されたり、管理組合の管理費が町内会等の会費と無分別に徴収されることがある。
2007年(平成19年)8月7日に「町内会費の徴収は管理組合の目的外」で「マンション管理組合が…規約等で定めても、その拘束力はないものと解すべき」とする判決が東京簡易裁判所で出た[14]。従来、国土交通省が通達したマンション標準管理規約第27条において、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」を徴収できる規定となっており、管理組合が町内会等の会費を徴収することについて事実上国が容認していたが、上記判例を受け、2011年の標準管理規約改正時に、国のコメントとして「自治会費、町内会費等…居住者が任意に負担するもの」であり、「マンションという共有財産を維持・管理していくための費用である管理費等とは別のもの」といういささか本文と矛盾した注釈が付された。2016年の標準管理規約改正時に規約第27条の該当箇所が削除された。
また、賃貸住宅の団地であっても、町内会等が実質的に共益費用を徴収する場合は、当然に居住者は町内会等への加入を強制されることとなる。これについても2005年4月26日に、町内会等は「強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから」、意思表示を行えば退会は自由であるとの判決が最高裁判所で出た。[15]
町内会等が地域の寺社(特に神社)の祭礼を行う場合、当然に全会員が氏子であるものとして費用が徴収されるが、これは当該神社の宗派を信仰しない会員にとっては、自己の信仰に反して宗教行事への参加を強制されることとなる。これについて、2002年4月12日に、地域に浸透した神社であっても「宗教性が否定されるものではない」ため、実質的に支払いを免れることができない状況下で神社関係費が町内会等の会費と共に徴収されることは「事実上、宗教上の行為への参加を強制するものであり」、「信教の自由ないしは信仰の自由を侵害」するものであるとの判決が佐賀地方裁判所で出た。
上述の通り、日本赤十字社や共同募金は町内会等に対して寄付金の実質ノルマを課して、集金を行っている。これについて2007年8月24日に、集金ノルマを果たせない班長や組長がいわゆる自爆営業により寄付金を支払っている状態を解消するため、全会員の会費に寄付金を上乗せ徴収した事例に関し、「募金及び寄附金に対する任意の意思決定の機会を奪うもの」であり、「その強制は社会的に受容できる限度を超える」ため「公序良俗に反し無効」であるとの判決が大阪高等裁判所で出た。
また、これらのノルマ集金は社会福祉法第116条、緑の募金による森林整備等の推進に関する法律第16条、日本赤十字社法第13条第1項といった法令そのものに違反する可能性もある。