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蹄鉄 - Wikipedia

蹄鉄ていてつ(ていてつ)は、おもうま(ひづめ)を保護ほごするために装着そうちゃくされる、Uがた保護ほごである。

もっと一般いっぱんてき鉄製てつせい蹄鉄ていてつ。蹄にびょう固定こていされる。
ローマ時代じだい蹄鉄ていてつひもなどでむすばれていたため耐久たいきゅうせいひくかった。
うしよう蹄鉄ていてつ蹄目のうまちが偶蹄ぐうていであるため、ひとつのあし左右さゆう2蹄鉄ていてつ必要ひつよう
馬蹄ばていがたホースシューカーブ
米国べいこくペンシルベニアしゅう
アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく国定こくてい歴史れきし建造けんぞうぶつ指定してい

蹄鉄ていてつは蹄の破損はそん防止ぼうしし、摩耗まもうふせぐためにもちいられる。野生やせいうまことなり、家畜かちくうまは蹄がよわくて摩耗まもうしてしまう(くわしくは後述こうじゅつ)。これをけるために蹄鉄ていてつ考案こうあんされた。同様どうよう理由りゆうで、ロバやくうしよう蹄鉄ていてつもある(うし蹄鉄ていてつ)。

はじめに蹄鉄ていてつ西洋せいよう文献ぶんけんあらわれるのは、4世紀せいきギリシアじんによってもたらされてからで、様々さまざま品種ひんしゅうま、および様々さまざま用途ようとのために改良かいりょうくわえられ、素材そざい様々さまざまなものが使用しようされた。

てつアルミニウムゴムプラスチック牛皮ぎゅうひ、またはそれらをわせた素材そざいつくられる。一般いっぱんてき素材そざいてつだが、日本にっぽん競馬けいばにおいては軽量けいりょうなアルミニウム合金ごうきんもちいられている [1]。そのマグネシウムチタンあるいはどう使つかわれることもある。

初期しょき蹄鉄ていてつにはすべとしてカルキンスとばれるりがあった。これはいまでもチームペニングといった競技きょうぎよう蹄鉄ていてつにおいて見受みうけられる。

蹄鉄ていてつ形状けいじょう馬蹄ばていがたばれ、かたち表現ひょうげんするかたりとして使つかわれる。代表だいひょうれいとして、U構造こうぞうをした馬蹄ばてい磁石じしゃく米国べいこくペンシルベニアしゅう鉄道てつどう史跡しせきホースシューカーブ」、コロラドがわ馬蹄ばていがたがりくねっているアリゾナしゅうの「ホースシューベンド」がある。

役割やくわり

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うま家畜かちくともない、うまの蹄を保護ほごする馬具ばぐ必要ひつようとなった。以下いかにその詳細しょうさいしめす。

栄養えいようひくえさ

野生やせい環境かんきょうべられている雑草ざっそう低木ていぼくにはたか栄養えいようつベータカロチンふくまれている。しかし、耕作こうさくによってそだてられたえさにはそれらのカロチンがふくまれる割合わりあいひくい。また、野生やせい動物どうぶつ多様たようえさ資源しげんなかからみずからの生理せいり要求ようきゅうにしたがって必要ひつようとされる栄養素えいようそおお食物しょくもつ選択せんたくしているが、家畜かちく動物どうぶつ多様たようせいひく食物しょくもつあたえられる。蹄は十分じゅうぶん栄養えいようがなければ、頑丈がんじょう角質かくしつ組織そしきとして発達はったつできない。さらに、家畜かちく動物どうぶつ穀類こくるいムラサキウマゴヤシ牧草ぼくそうといったタンパク質たんぱくしつんだ濃縮のうしゅく飼料しりょうあたえられることもあり、これに起因きいんして蹄葉えん(ていようえん)をこすといわれている。蹄葉えんとは蹄骨をささえる蹄壁の葉状ようじょうそう炎症えんしょうこす病気びょうきである。たとえ蹄葉えんこさなくとも、角質かくしつ組織そしき蹄骨との結合けつごうよわくなり、この不自然ふしぜんしょく体系たいけいうまあしよわめる一因いちいんとなる。こくつぶ豆類まめるい、あるいは青草あおくさおおふくんだ牧草ぼくそう潜在せんざいてきな蹄葉えんこす。このことから、蹄鉄ていてつは蹄壁をささえ、よわうすいたからなる蹄壁の解離かいりふせぐためにもちいられる。
多様たようせいとぼしい環境かんきょう
野生やせいうま様々さまざま地形ちけいあるくのでうまの蹄は日々ひび摩滅まめつし、きびしい環境かんきょうかれつづける。こういった連続れんぞくてき刺激しげき作用さようにより、うまの蹄はたこのようにあつく、頑丈がんじょうになっていく。しかしながら家畜かちくによりうま環境かんきょう限定げんていてきなものになり、蹄はかたくならずきずにもよわくなる。
過重かじゅう
人間にんげん荷車にぐるま貨車かしゃによってうまあたえる重量じゅうりょう負荷ふか増加ぞうかし、蹄の摩耗まもうもいっそう顕著けんちょとなる。
湿潤しつじゅん気候きこう
うま本来ほんらい乾燥かんそうしたステップ草原そうげんんでいた。そこにくら北欧ほくおう湿気しっけおおく、粘土ねんどしつ地面じめんうまの蹄をよわくする。最初さいしょ蹄鉄ていてつ実用じつようされたのも北欧ほくおうだった。
アンモニアへの接触せっしょく
野生やせい遊牧ゆうぼく管理かんりされている家畜かちくことなり、馬小屋うまごやではうまの蹄はつね尿にょう微生物びせいぶつによって分解ぶんかいしてしょうじたアンモニアにさらされている。蹄の組織そしきケラチンタンパク質たんぱくしつ)がほとんどで、みずけると塩基えんきせいしめすアンモニアによって加水かすい分解ぶんかいされ、よわめられる。蹄鉄ていてつをつけていればアンモニアから蹄をまもることができる。
遺伝いでんてき要因よういん
家畜かちくすることで、自然しぜんかい後天的こうてんてき順化じゅんか因子いんし先天的せんてんてき遺伝子いでんし変異へんいたいする淘汰とうた因子いんしき、うまあし過度かどおおきく、ながく、脆弱ぜいじゃくかつ柔軟じゅうなんとなった。いわ小石こいし凹凸おうとつはげしい地表ちひょうから、蹄を保護ほごすることは不可欠ふかけつとなった。あしの軟繊維せんいいため、蹄壁にしょうじる危険きけんつね存在そんざいしている。
すべ
こおりうえはしるためのボリアムすべりやすい地面じめんのためのびょう、とがりきん、リムといったすべめは、馬術ばじゅつ競技きょうぎ飛越とびこし競走きょうそうポロようしょううまなどのあま平坦へいたんでない地面じめん高速こうそく走行そうこうする必要ひつようのあるうま有益ゆうえきである。
 
きむ弘道ひろみちによる、朝鮮ちょうせん時代じだいそう作業さぎょう

そう蹄の起源きげんについては不明ふめいてんおおく、いまだに結論けつろんていない。ローマ時代じだいうまぬしは、蹄のうえかわせいのブーツをかせてひもしばけていた。

中世ちゅうせいには金属きんぞくせい蹄鉄ていてつあらわれるが、これにはフンぞくんだとするせつのほか、ケルト起源きげんせつなどがありはっきりしない。歴史れきしなかには中世ちゅうせいになってはじめて金属きんぞくせい蹄鉄ていてつあらわれたとするものもいるが、ドイツノイポツ英語えいごばんちかくのローマ時代じだい遺構いこうから金属きんぞくせい蹄鉄ていてつつかっており、それは294ねんのものだという[2]

いずれの場合ばあいにせよ金属きんぞくせい蹄鉄ていてつ一般いっぱんてき利用りようされるようになったのは、中世ちゅうせい以降いこうのことである。

日本にっぽん

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歌川うたがわ広重ひろしげ名所めいしょ江戸えどひゃくけい』より。明治めいじ以前いぜん日本にっぽんでは蹄鉄ていてつ使つかわれておらず、うま専用せんようのわらじをいていた。

日本にっぽんではふるくからうまくつというわらせい馬蹄ばてい保護ほごもちいられていた。戦国せんごく時代じだい蹄鉄ていてつ九州きゅうしゅう一部いちぶ使つかわれたという記述きじゅつがあるが、元々もともと日本にっぽん在来ざいらいしゅうまは蹄がかたく、蹄鉄ていてつくても走行そうこうにさほど問題もんだいがなかったことから、普及ふきゅうしなかった[3]。また、徳川とくがわ吉宗よしむねはアラビアしゅうま輸入ゆにゅう品種ひんしゅ改良かいりょうこころみ、1733ねんとおる18ねん)には馬術ばじゅつ教練きょうれん士官しかんそう蹄師来日らいにちしているが、平和へいわ時代じだいだったため、このときも蹄鉄ていてつ普及ふきゅうしなかった[4]

西洋せいようしき金属きんぞくせい蹄鉄ていてつ組織そしきてき使つかわれるようになったのは明治めいじ以降いこうのことである[5]蹄鉄ていてつ技術ぎじゅつ各国かっこくから日本にっぽん導入どうにゅうされた。なかでも陸軍りくぐん1873ねん明治めいじ6ねん)にフランスからそう蹄教かんまねき、のち1890ねん明治めいじ23ねん)にはドイツじん教官きょうかん招聘しょうへいして蹄鉄ていてつ技術ぎじゅつ導入どうにゅう定着ていちゃくおおきな役割やくわりたした。明治めいじ時代じだいつうじて蹄鉄ていてつ全国ぜんこくひろまったが、のう山村さんそんでは大正たいしょうでもわらじが使つかわれていた[6]

1890ねん明治めいじ23ねん)に蹄鉄ていてつこう免許めんきょ規則きそく制定せいていされ、蹄鉄ていてつこう国家こっか資格しかくとされた。蹄鉄ていてつこう養成ようせい獣医じゅうい学校がっこうのう学校がっこう付属ふぞく蹄鉄ていてつせんでおこなわれ、1年間ねんかん卒業そつぎょうして免状めんじょう授与じゅよされた。

蹄鉄ていてつ技術ぎじゅつ軍隊ぐんたいかせないものであったが、にちしんにち戦争せんそう日本にっぽん陸軍りくぐん蹄鉄ていてつこう不足ふそくくるしんだ。にちちゅう戦争せんそうから太平洋戦争たいへいようせんそうにかけて、陸軍りくぐん蹄鉄ていてつこう重視じゅうししていた。役場やくば兵事へいじがかりは、蹄鉄ていてつ技術ぎじゅつ民間みんかんじん事前じぜん登録とうろく動員どういんには優先ゆうせんてき召集令状しょうしゅうれいじょうおくって蹄鉄ていてつこう確保かくほつとめた。蹄鉄ていてつこう軍隊ぐんたいでは優遇ゆうぐうされた存在そんざいで、じゅん士官しかんである特務とくむ曹長そうちょう待遇たいぐう蹄鉄ていてつこうちょうまで昇進しょうしんできた。蹄鉄ていてつこうちょう獣医じゅうい学校がっこう短期間たんきかんまなび、獣医じゅういになるみち用意よういされていた。

太平洋戦争たいへいようせんそう敗戦はいせんGHQ指示しじしし医師いしかい廃止はいし再編さいへんされることになり、1948ねん昭和しょうわ23ねん)、日本にっぽんそう蹄師かいしし医師いしかい同時どうじ解散かいさんした。わりに日本にっぽんそう協会きょうかい創立そうりつされ、日本にっぽんそう蹄師かい改称かいしょうされ現在げんざいいたっている。1970ねん昭和しょうわ45ねん)にはそう蹄師ほう廃止はいしされ、そう蹄師が国家こっか資格しかくでなくなったことから、認定にんていそう蹄師の制度せいど発足ほっそくした。認定にんてい資格しかくは、2きゅう、1きゅう指導しどうきゅうの3段階だんかいとされ、運営うんえいどうかいがおこなっている。現在げんざいでは、栃木とちぎけん宇都宮うつのみやJRA競走きょうそう総合そうごう研究所けんきゅうじょ敷地しきちない日本にっぽんそう蹄師かいそう教育きょういくセンターが設置せっちされ、そこで全寮ぜんりょうせい1年間ねんかんそう蹄師養成ようせい教育きょういくがおこなわれている。

その用途ようと

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魔除まよけ

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とびらめられた蹄鉄ていてつ魔除まよけけになるとしんじられている

ヨーロッパではとびら蹄鉄ていてつをぶらげると魔除まよけ幸運こううんのおまもりになるとしんじられている。玄関げんかん蹄鉄ていてつてつ末端まったん部分ぶぶん)がめられていれば幸運こううんみ、りょうはししたいていると不運ふうんむといわれている。これは文化ぶんかけんによってことなり、2つのてつしたいていれば幸運こううんむという地域ちいきもある。日本にっぽんではうま人間にんげんまないということから 日本中央競馬会にっぽんちゅうおうけいばかい(JRA)が馬蹄ばてい交通こうつう安全あんぜんのおまもりとして販売はんばいしている。

このような風習ふうしゅう起源きげん諸説しょせつある。ケルトじんダーナかみぞく鉄器てっき騎馬きばたおしたことから、妖精ようせいよこしまおになどのことかい住人じゅうにんてつきらうと伝承でんしょうされ、幸運こううんをもたらすとされたせつのちカンタベリー大司教だいしきょうとなった鍛冶たんやせいダンステン悪魔あくまからうま蹄鉄ていてつ修理しゅうりするようたのまれたさい悪魔あくまあし蹄鉄ていてつけ、やめがる悪魔あくまとびら蹄鉄ていてつめられているときは絶対ぜったいちゅうはいらないという約束やくそくけようやく蹄鉄ていてつはずしてやったことから悪魔あくまのぞけとされたせつなどがある。

あそ道具どうぐ

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アリゾナしゅうユマもよおされたホースシューピッチング大会たいかい様子ようす(1942ねん

世界せかい各地かくち蹄鉄ていてつげてあそ風習ふうしゅうがある。これは「蹄鉄ていてつ」とばれるもので、米国べいこくではホースシューズHorseshoes、ホースシューピッチングとも)という人気にんきスポーツになっている。当初とうしょ不要ふようになったリングがた蹄鉄ていてつげて距離きょりなどをきそうものだったが、次第しだいくいかってげる一種いっしゅの「輪投わなげ」のようなあそびへと変化へんかした。

1かい1人ひとりが2つの馬蹄ばてい (horse shoes) をげることから「ホースシューズ」と命名めいめいされている。

アメリカではヨーロッパからの移民いみんたちがこのホースシューズをみ、とくにカウボーイのあいだだい流行りゅうこうした。1921ねんには「National Horseshoes Pitchers Association of America」が設立せつりつされ、会員かいいんすうが15,000にん以上いじょうのメジャースポーツになっている[7]

日本にっぽんでも1991ねんに「日本にっぽんホースシューズ協会きょうかい」が設立せつりつされ、全日本ぜんにほん選手権せんしゅけん大会たいかい開催かいさいされている。競技きょうぎ人口じんこうやく5,000にん年齢ねんれい性別せいべつ関係かんけいなくたのしめるスポーツとして注目ちゅうもくされている。漫画まんが藤子とうこ不二雄ふじおAは、ラピッドシティ開催かいさいされる世界せかい選手権せんしゅけん大会たいかい参加さんかする日本にっぽん代表だいひょう選手せんしゅたちを題材だいざいとした「サウスダコタあおそら」を『ワールド漂流ひょうりゅう[8]えがいている。

蹄鉄ていてつはずれてちてしまうことを落鉄という。競馬けいばでは競走きょうそうまえに落鉄が判明はんめいした場合ばあい蹄鉄ていてつなおしをおこなうことができるが、はつ時間じかん延長えんちょうされる原因げんいんになる。

うまあばれてなおしができなかった場合ばあい、そのまま出走しゅっそうさせることもあるが、現在げんざい競馬けいばでは基本きほんてき蹄鉄ていてついていない競走きょうそう出走しゅっそうみとめられていない。

落鉄したにもかかわらず、なおしをおこなわないままうま出走しゅっそうさせた「イソノルーブル落鉄事件じけん」がある。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 「Q&A - 公益社こうえきしゃだん法人ほうじん日本にっぽんそうそぎ協会きょうかい」 http://sosakutei.jrao.ne.jp/qa/ (2016/11/30)
  2. ^ Kuenzl, Ernst, Die Alamannenbeute aus dem Rhein bei Neupotz: Plünderungsgut aus dem römischen Gallien. Mainz 1993.
  3. ^ 秋永あきなが和彦かずひこちょ、「横浜よこはまウマ物語ものがたり-文明開化ぶんめいかいかの蹄音」59ページ、神奈川かながわ新聞しんぶんしゃ2004ねん平成へいせい16ねん))、ISBN:978-4876453450
  4. ^ そう教育きょういくセンター(宇都宮うつのみや)、読売新聞よみうりしんぶん 2006ねん平成へいせい18ねん6月29にち
  5. ^ 初代しょだい米国べいこく公使こうしタウンゼント・ハリスによると、かれうま蹄鉄ていてつ興味きょうみった大老たいろう井伊いい直弼なおすけは、かれうまして蹄鉄ていてつ研究けんきゅうさせ、自分じぶんうまにも蹄鉄ていてつ装着そうちゃくしたとのことである(ロバート・フォーチュンちょ三宅みやけかおるやく、「幕末ばくまつ日本にっぽん探訪たんぼう」203ページ、講談社こうだんしゃ1997ねん平成へいせい9ねん))、ISBN-13:4061593084)。
  6. ^ わらじをいてたきぎはこ”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 2023ねん10がつ30にち閲覧えつらん
  7. ^ http://www.horseshoepitching.com/ (2017/10/10)
  8. ^ 小学館しょうがくかん、1995ねん9がつISBN 4-09-189151-9

関連かんれん項目こうもく

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