道化師どうけし

道化師どうけし（どうけし、中国ちゅうごく語ご：小しょう丑うし）または道化どうけ（どうけ）は、滑稽こっけいな格好かっこうや言動げんどうなどをして他人たにんを楽たのしませる者ものの総称そうしょう。大道芸だいどうげいやサーカスのクラウン（英えい: clown）かピエロ（フランス語ふらんすご: pierrotから派生はせい）、中世ちゅうせいヨーロッパの宮廷きゅうてい道化師どうけし（英えい: jester）、歌舞伎かぶきの道化どうけ方かた、幇間ほうかんなど、世界せかい各地かくちにさまざまな形かたちがある。

顔かおに描えがかれている涙なみだのマークは人間にんげんの喜怒哀楽きどあいらくだけでない、人ひとそれぞれの数かぞえきれない感情かんじょうを表あらわしているという説せつがある^[1]。

西洋せいようの道化師どうけしの特徴とくちょう

「クラウン」は派手はでな衣装いしょうと化粧けしょうをし、サーカスなどに登場とうじょうするコメディアンである。なお「ピエロ」と呼よばれることも多おおいが、ピエロはクラウンの役名やくめいの一ひとつであり、本来ほんらいは道化師どうけし全般ぜんぱんを指さす言葉ことばではない。こうしたもののステレオタイプな例れいは、マクドナルドのイメージキャラクター「ドナルド・マクドナルド」や、バットマンの大敵たいてきジョーカーなどにみることができる。

このほか、フール（fool）、ブッフォン(buffon)、アルレッキーノ（アルルカン、ハーレクイン）など道化師どうけしを指さす言葉ことばはさまざまある。英語えいごのフールは「ふいご」、ブッフォンは「パッと息いきを吐はく」を意味いみする言葉ことばを語源ごげんとする^[2]。クラウンは、clod（土どの塊かたまり）、clot（ぬるぬるした塊かたまり）などを意味いみする語かたりから派生はせいして無骨ぶこつな田舎いなか者しゃをも表あらわすようになり、それが都会人とかいじんには滑稽こっけいに見みえたところから「滑稽こっけいな人ひと」を指さす言葉ことばとなった^[2]。アルレッキーノは16世紀せいきイタリア即興そっきょう喜劇きげきコメディア・デラルテに登場とうじょうする定番ていばんの道化師どうけしで、快活かいかつなアルレッキーノに対たいする内気うちきな相手あいて役やくとして登場とうじょうするのが、ピエロの語源ごげんと言いわれるプルチネッラ（ピエロット、ペドロリーノ）である^[2]。また、一般いっぱんに宮廷きゅうてい道化師どうけしと訳やくされるジェスター（jester）は、フランス語ふらんすごのgest(偉業いぎょう)を語源ごげんとし、宮廷きゅうてい人じんに英雄えいゆう譚たんを語かたり聞きかせた者ものから派生はせいした^[2]。

歴史れきし

道化師どうけしの歴史れきしは古代こだいエジプトまで遡さかのぼることができる^[3]。西洋せいようにおいては、古代こだいギリシャ・古代こだいローマでは物ものまねや軽口かるくち、大食たいしょく芸げいなどで座ざを楽たのしませることで裕福ゆうふくな家いえの晩餐ばんさんに与あずかる道化どうけがいた^[2]。ロろーマ帝国まていこくの裕福ゆうふくな家いえでは、魔除まよけけとして、小人こども症しょうの者ものや知的ちてき障害しょうがい者しゃ、奇形きけいの者ものなどを奴隷どれいとして傍はたに置おく習慣しゅうかんがあり、これらを「愚者ぐしゃ」としてペット感覚かんかくで所有しょゆうする貴族きぞく趣味しゅみは、16世紀せいき末まつまで続つづいた^[2]。中世ちゅうせいのヨーロッパなどでは、王族おうぞくや貴族きぞくなどの特権とっけん階級かいきゅうが城内じょうないに道化どうけとしての従者じゅうしゃを雇やとっていたことが確認かくにんされており、「宮廷きゅうてい道化師どうけし」と呼よばれている。その数かずは14世紀せいきより徐々じょじょに増加ぞうかして15-16世紀せいきに最高潮さいこうちょうに達たっし、中世ちゅうせいの英国えいこくにおいては、宗教しゅうきょう界かい・俗界ぞっかい問とわず大物おおものは道化どうけを所有しょゆうしており、居酒屋いざかやや女郎じょろう屋やでも所有しょゆうした^[2]。宮廷きゅうてい道化師どうけし達たちの肖像しょうぞうは犬いぬと一緒いっしょに描えがかれることが多おおく、彼かれらが犬いぬと同様どうように王おうの持もち物ものとされていたことを裏付うらづけている。シェイクスピアの戯曲ぎきょくなどにもしばしば登場とうじょうし、重要じゅうような役やくを担になう。日本にっぽんでは明治めいじ時代じだいに初はじめて曲芸きょくげいを行おこなった。

宮廷きゅうてい道化師どうけし（ジェスター）

詳細しょうさいは「宮廷きゅうてい道化師どうけし」を参照さんしょう

宮廷きゅうてい道化師どうけしの仕事しごとは、その名なの通とおりの主人しゅじんまたは周囲しゅういの人物じんぶつ達たちを楽たのしませる役割やくわりを担になっていた。また、宮廷きゅうてい道化師どうけし達たちは小人こども症しょうなどの肉体にくたい的てき障害しょうがいを持もっているものが多おおく、笑わらい物ものとしての対象たいしょうにされていた。しかし、君主くんしゅに向むかって無礼ぶれいなことでも自由じゆうにものを言いうことが許ゆるされる唯一ゆいいつの存在そんざいでもあった。曲芸きょくげいよりは冗談じょうだんやジョークを言いう芸風げいふうを主おもとする道化師どうけしである。

また、その職業しょくぎょう的てきな役割やくわり（君主くんしゅの機嫌きげん取とり、君主くんしゅの感情かんじょうを操あやつれること）から、国家こっか間あいだの紛争ふんそうにおける仲介ちゅうかい（連絡れんらく）者しゃや、行政ぎょうせいと民みんの中立ちゅうりつな立場たちばで世間せけんの風評ふうひょうを演技えんぎ（表現ひょうげん、意見いけん）する等ひとし、オンブズマンとしての役割やくわりも果はたしていたという説せつがある。

ジョーカー

詳細しょうさいは「ジョーカー (トランプ)」を参照さんしょう

トランプでよく登場とうじょうするジョーカーはジャック、クィーン、キングが宮廷きゅうていの王族おうぞくを意味いみする絵柄えがらから関連かんれんして宮廷きゅうてい道化師どうけしが描えがかれることが多おおい。

クラウン

現在げんざいでは曲芸きょくげいと曲芸きょくげいの間あいだを埋うめて、観客かんきゃくの曲芸きょくげいへの余韻よいんを冷さめさせない役目やくめとして作つくられたおどけ役やくの、曲芸きょくげいもでき司会しかい（日本にっぽん的てきな視点してんでは客きゃくいじりも行おこなう）もする役者やくしゃである。18世紀せいき頃ごろイギリスのサーカス（厳密げんみつにはその前身ぜんしんである円形えんけいの劇場げきじょうでの曲馬きょくばショー）の中なかで「おどけ役やく」を演えんじていた役者やくしゃが自みずからのことを「クラウン」と名乗なのったのが始はじまりだとされている。クラウンの意味いみにはのろま、ばか、おどけ者しゃ、おどける、ふざける、田舎いなかものなどの意味いみを含ふくむ。18世紀せいき当時とうじは曲馬きょくばショーと曲馬きょくばショーとの間あいだに曲馬きょくば乗のりを下手へたに演えんじたり、パロディをしたりしていた。

ホワイトフェイス

sad clown (blanc)
happy clown (オーギュスト、auguste)

顔かおは白しろ、ピンク、赤あか、もしくは褐色かっしょくに塗ぬられ、目めや口くち等とうは協調きょうちょうされた黒くろや赤あかで塗ぬられる。役割やくわりは無む政府せいふ主義しゅぎ者しゃ、ジョーカー、愚者ぐしゃである。

プエブロ・クラウン（英語えいご版ばん）(もしくはセイクリッド・クラウン): プエブロ・インディアンの宗教しゅうきょう儀式ぎしきで道化どうけ、トリックスター的てきな役割やくわりを行おこなう。

ロデオ・クラウン（英語えいご版ばん）: ロデオパフォーマンスを行おこなう道化師どうけし

キャラクタークラウン: パン屋やなど色いろんな役割やくわりを演えんじた道化師どうけし

ピエロ

前述ぜんじゅつの通とおり、本来ほんらいは役名やくめいの一ひとつ。起源きげんは17世紀せいき後半こうはんにコメディ・イタリアンにて公開こうかいされたDom Juan ou le Festin de pierreに登場とうじょうするキャラクターである（16世紀せいきのコメディア・デラルテに登場とうじょうするプルチネッラを起源きげんとする説せつもある）。当時とうじのピエロの性格せいかくは今いまとは異ことなり、純粋じゅんすいで鈍感どんかんな農民のうみんであった。その後ごもいろいろな作品さくひんで登場とうじょうしていくうち、今いまのピエロのイメージに近ちかくなっていった。名前なまえの由来ゆらいはイタリア人じん男性だんせいの名前なまえであるPierreがPierrotに変化へんかしたものである。したがって女性じょせいのピエロは存在そんざいしない。真まっ白しろな顔かおに大おおきなボタンが付ついたゆったりとした白しろいブラウスと幅広はばひろの白しろいパンタロンを着きている。黒くろい涙なみだのようなメイクをしていたり、フリルの付ついた襟えりや帽子ぼうしや円錐えんすいの形かたちをした帽子ぼうしをかぶっていることもある。

養成ようせい

米国べいこくの「（リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・クラウン・カレッジ（英語えいご版ばん））」は、1968年ねんの設立せつりつから1997年ねんの閉鎖へいさまで、約やく1,400人にんのクラウンを訓練くんれんしたサーカス学校がっこうでった。

日本にっぽんでは、1989年ねんに日本にっぽん初はつの道化師どうけし養成ようせい学校がっこう「クラウン・カレッジ・ジャパン」が、フロリダにあったグラウン・カレッジの海外かいがい分校ぶんこう第だい1号ごうとして設立せつりつされたが、3年ねんほど後のちに解散かいさん。この間あいだに、3期き66名めいの卒業生そつぎょうせいを輩出はいしゅつした^[4]^[5]。劇団げきだんOPEN SESAMEでは、1992年ねんから附属ふぞくクラウン・スクールがスタートし、多おおくの卒業生そつぎょうせいがプロのクラウンやパフォーマーとして卒業生そつぎょうせいを活躍かつやくしている^[6]。

西洋せいよう以外いがいの道化師どうけし

日本にっぽん

歌舞伎かぶきには道みち外方そっぽまたは道化どうけ方かたという役やくどころがあるが、これが最もっとも古ふるい時期じきに成立せいりつした役柄やくがらの一ひとつといわれる。やはり物真似ものまねや滑稽こっけいな口上こうじょうで人ひとを笑わらわせたが、西欧せいおうの道化師どうけしとの大おおきな違ちがいはそれが純然じゅんぜんとした芝居しばいの役やくどころとして発達はったつしたことにある。元禄げんろく歌舞伎かぶきでは、演目えんもくの構成こうせい上じょう特とくに重要じゅうような一いち場面ばめんを担当たんとうすることが多おおく、それもただ滑稽こっけいな演技えんぎで観客かんきゃくを笑わらわせるだけではなく、司会しかい役やくとしての役割やくわりを兼かねた役やくどころだった。しかしその後ごの歌舞伎かぶきが物語ものがたり性せいを追求ついきゅうしたものになっていったこと、そして通とおし狂言きょうげんがほとんどなくなり今日きょうのような見取みとり狂言きょうげんじたてになったことで、道外みちそと方かたの役割やくわりはしだいになくなり、天明てんめい歌舞伎かぶきのころまでには衰退すいたいしてしまった。

なお当時とうじの芝居しばい小屋こやに掛かけられる看板かんばんには、まず一いち枚まい目めに一座いちざの看板かんばん役者やくしゃを、続つづく二枚目にまいめには人気にんきの若衆わかしゅ方かたを、そして三枚目さんまいめにこの道みち外方そっぽを書かいて掲かかげていたが、これが面白おもしろ可笑おかしい者もののことを指さす「三枚目さんまいめ」の語源ごげんの一ひとつと考かんがえられている。

その他た

奇抜きばつな風貌ふうぼうのために、ピエロに対たいして極端きょくたんな恐怖きょうふ心しんを持もつ道化どうけ恐怖症きょうふしょう（ピエロ恐怖症きょうふしょう）も近年きんねん^[いつ?]注目ちゅうもくされつつある。スティーヴン・キング原作げんさくの小説しょうせつ・映画えいが『IT イット』に登場とうじょうする「ペニーワイズ」は特定とくていの人物じんぶつにしか見みえない殺人鬼さつじんきであり、ピエロに恐怖きょうふを抱いだく少年しょうねんの姿すがたが描写びょうしゃされている。ジョン・ゲイシーの影響えいきょうもあると思おもわれる。また、フィクション作品さくひんにおいて、正体しょうたい不明ふめいの異形いぎょうの存在そんざいとして、あるいは素顔すがお＝正体しょうたいを隠かくす目的もくてきで、ピエロの姿すがたをした悪役あくやくが登場とうじょうすることもある。

代表だいひょう的てきな道化師どうけし

ジョセフ・グリマルディ
ジョン・ビル・リケッツ（英語えいご版ばん） - アメリカではじめてピエロ役やくとなった。
ウィラード・スコット（テレビで活動かつどうした道化師どうけし）

クラウンをモデルにしたキャラクター