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酸性雨 - Wikipedia

酸性さんせい

大気たいき汚染おせんにより酸性さんせいあめ

酸性さんせい(さんせいう、えい:Acid rain)とは、環境かんきょう問題もんだいひとつとして問題もんだいされる現象げんしょうで、大気たいき汚染おせんにより酸性さんせいあめのことを[1]酸性さんせいゆき酸性さんせいゆき(さんせいゆき)、酸性さんせいきり酸性さんせいきり(さんせいぎり、さんせいむ)とばれる。

酸性さんせいによる被害ひがいけた木々きぎ

硫黄いおう酸化さんかぶつ窒素ちっそ酸化さんかぶつ原因げんいんとなっている。

狭義きょうぎにはpH 5.6以下いかあめのことを酸性さんせいぶが、ひろくはこれにゆききりふんじん、ガスじょう物質ぶっしつなどをふくめ、地表ちひょう酸性さんせいにする上空じょうくうからの酸性さんせい降下こうか現象げんしょうをまとめてふくめてかんがえる。あめゆききりなどの湿性しっせい降下こうかぶつと、ふんじんやガスじょう物質ぶっしつ乾性かんせい降下こうかぶつわせて酸性さんせい降下こうかぶつぶ。pHの絶対ぜったいではなく、人為じんいてき影響えいきょうくわえられるまえ比較ひかくしてあめとうのpHが酸性さんせいがわにシフトする現象げんしょうである。

通常つうじょうあめはやや酸性さんせいである。中性ちゅうせいにはならないのは、あめ純粋じゅんすいみずではなく大気たいきなかわずかにふくまれる二酸化炭素にさんかたんそ火山かざん活動かつどうによりしょうじた硫黄いおう酸化さんかぶつなどが自然しぜんむためである。 近年きんねん、pHがひくい(酸性さんせいつよい)あめがしばしば観測かんそくされるようになり、酸性さんせいとして問題もんだいされるようになった。日本にっぽん観測かんそくされるあめ平均へいきんてきなpHは4.8程度ていどであり、大気たいきちゅう二酸化炭素にさんかたんそだけがみずけたときのpHが5.6であることと比較ひかくすると酸性さんせいとなっていることがわかる。

しかし、火山かざんなどの自然しぜん発生はっせいげんから放出ほうしゅつされる硫黄いおう酸化さんかぶつ計算けいさんれると、自然しぜんあめ酸性さんせいでないあめ)は、pH5前後ぜんこうではないか、という研究けんきゅう報告ほうこくもある。

また、あめゆきとうけたアンモニアアルカリ性あるかりせいしめすが、地表ちひょう降下こうか微生物びせいぶつにより硝酸しょうさんたい窒素ちっそ硝酸しょうさんたい窒素ちっそとなり土壌どじょう酸性さんせいさせることがられており、環境かんきょう酸性さんせいさせる降下こうかぶつとして広義こうぎにはこれをふくめる場合ばあいもある。

原因げんいん

編集へんしゅう

酸性さんせいは、化石かせき燃料ねんりょう燃焼ねんしょう火山かざん活動かつどうなどにより生成せいせいされる二酸化にさんか硫黄いおう窒素ちっそ酸化さんかぶつにより発生はっせいする[2][3]。これらが大気たいきなか硫酸りゅうさん硝酸しょうさん変化へんかしたのち、あめなどに溶解ようかいする[2]。また、アンモニア大気たいきちゅうみず反応はんのう塩基えんきせいとなるため、酸性さんせい降雨こううにより土壌どじょうはこばれたのち硝酸塩しょうさんえんへと変化へんかすることで広義こうぎ意味いみ酸性さんせい一因いちいんとされる。

なお、日本にっぽんにおける原因げんいん物質ぶっしつ発生はっせいげんとしては、産業さんぎょう活動かつどうともなうものだけでなく火山かざん活動かつどうかんがえられている。また、ひがしアジアから偏西風へんせいふうってかなり広域こういき拡散かくさん移動いどうしてくるものもあり、とく日本海にほんかいがわでは観測かんそくされる。また、国立こくりつ環境かんきょう研究所けんきゅうじょ調査ちょうさでは日本にっぽん観測かんそくされる硫黄いおう酸化さんかぶつのうち49%が中国ちゅうごく起源きげんのものとされ、つづいて日本にっぽん起源きげん21%、火山かざん13%とされている。

酸性さんせい基準きじゅん

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一般いっぱんてきに、あめ水素すいそイオン濃度のうど(pH)が5.6以下いかであるときに酸性さんせい[3]。これは、標準ひょうじゅんてき大気たいきちゅうにおいて、雨水あまみず二酸化炭素にさんかたんそ平衡へいこう状態じょうたいにあるときの、つまり大気たいきちゅう二酸化炭素にさんかたんそ飽和ほうわ溶解ようかいになるまでじゅんみずかしたときのpHである。

しかし、この基準きじゅんとすることについては異論いろん存在そんざいする。火山かざん活動かつどうなどにより人為じんいてきあめのpH低下ていかすることがあるほか、人為じんいてき起源きげん大気たいきエアロゾル粒子りゅうしたとえばうみしお粒子りゅうし土壌どじょう由来ゆらい微小びしょう粒子りゅうしなどがあめ溶解ようかいすることであめのpH場所ばしょによりおおきくことなってくるためである。

実際じっさい酸性さんせい酸性さんせいきりによる環境かんきょうへの影響えいきょうは、土壌どじょう水中すいちゅう建造けんぞうぶつなどにふくまれる、酸性さんせい酸性さんせいきり中和ちゅうわする成分せいぶん濃度のうどにも左右さゆうされてくる。pH5.6を下回したまわったからといってすぐに被害ひがいあらわれるというわけではない。こういった異論いろんまえて、基準きじゅんゆるめているところもある。たとえばpH5.0としているアメリカなどがある。

国立こくりつ環境かんきょう研究所けんきゅうじょでは、この発生はっせいげん調しらべるには、pHだけでなく、降水こうすいなかふくまれているイオン種類しゅるいりょう必要ひつようがあるという見解けんかいいたっている。現在げんざい日本にっぽんでは実施じっしされている酸性さんせい調査ちょうさでは、pHだけでなく硫酸りゅうさんイオン、硝酸しょうさんイオンをはじめとしたおおくの汚染おせん物質ぶっしつ測定そくていしている。

ただ、具体ぐたいてきにどのくらいの設定せっていすればよいかというのは調査ちょうさ必要ひつよううえ地域ちいきがあることなどから、はっきりと算出さんしゅつされていない。いまのところpH5.6というのが「ひとつの目安めやす」となっている。参考さんこうとして、土壌どじょう酸性さんせいマグネシウムイオンやアルミニウムイオンがはじめるレベル、湖沼こしょう酸性さんせいはpH6.0-5.0くらいのレベルで被害ひがい深刻しんこくしてくるとされる[4]

人為じんいてき酸性さんせい起源きげん

編集へんしゅう

世界せかいはじめて酸性さんせい存在そんざいあきらかにされたのは、産業さんぎょう革命かくめい頂点ちょうてんたっした19世紀せいきイギリスであり、1878ねんのR. Smithの論文ろんぶん「マンチェスターのスモッグ」のなか言及げんきゅうされている[5]

19世紀せいきのイギリスでの石炭せきたんコークス消費しょうひりょう増大ぞうだいは、排出はいしゅつガスによる降水こうすい酸性さんせい進行しんこうさせたことが判明はんめいしている[6]

1950年代ねんだいはいってあいだもないころみずうみかわさかなんでいったり、ふる教会きょうかいブロンズぞうがボロボロになったりする異変いへんスウェーデンノルウェー南部なんぶ北欧ほくおうはじまっていた。その原因げんいんはpH 4 - 5のあめっていたことであった。この両国りょうこくにはその汚染おせんげんつからなかった。しかし、その原因げんいんめたのはスウェーデンの土壌どじょう科学かがくしゃS・オーデン博士はかせであった。その汚染おせん物質ぶっしつ欧州おうしゅう中部ちゅうぶからはこばれてきていた。1967ねん博士はかせ酸性さんせい研究けんきゅう論文ろんぶん発表はっぴょうしている[7]

産業さんぎょう革命かくめい以降いこう石炭せきたん大量たいりょう使つかったイギリスやドイツなどがスカンディナビア半島はんとう森林しんりん多大ただい影響えいきょうあたえ、1980年代ねんだいまでには当時とうじひがしドイツチェコスロバキアポーランド中心ちゅうしんとする国々くにぐに石炭せきたん使つかつづけた結果けっか欧州おうしゅう東部とうぶひろがる針葉樹しんようじゅはやし広範囲こうはんい死滅しめつさせてしまった。もちろん住民じゅうみんへの健康けんこう被害ひがい大変たいへんなものであったにもかかわらず当時とうじ政権せいけんはそれを隠蔽いんぺいつづけ、被害ひがいをよりいっそう甚大じんだいなものとしてしまった[8]

日本にっぽんでも大気たいき汚染おせん影響えいきょうから1970年代ねんだい前半ぜんはんには関東かんとう地方ちほうつよ酸性さんせいあめり、1980年代ねんだい以降いこう中国ちゅうごくをはじめとするアジア諸国しょこく経済けいざい発展はってんともない、ひがしアジア全体ぜんたい酸性さんせい問題もんだいされるようになった[5]

中国ちゅうごくでは石炭せきたん埋蔵まいぞうりょう豊富ほうふであり、安価あんかであることから使用しようりょう莫大ばくだいであり、北京ぺきんをはじめとする内陸ないりく工業こうぎょう地帯ちたいでは酸性さんせい大気たいき汚染おせんひろがっている[9]まちにはマスクをかけているひとられる。

 
酸性さんせい影響えいきょうれた丹沢山地たんざわさんちブナ

酸性さんせい影響えいきょうとしては以下いかのようなものがある。

  • 湖沼こしょう酸性さんせいし、魚類ぎょるい生育せいいくおびやかす[10]
  • 土壌どじょう酸性さんせいし、植物しょくぶつ生存せいぞん必要ひつようカルシウムイオンマグネシウムイオン溶解ようかいあめ地中ちちゅうふかくや地下水ちかすい浸透しんとうして流失りゅうしつする。
  • 土壌どじょう酸性さんせいし、植物しょくぶつ有害ゆうがいアルミニウム重金属じゅうきんぞくイオンをさせる。また、した金属きんぞくイオン(とくにアルミニウムイオン)が河川かせん流入りゅうにゅうすることで、水系すいけい動物どうぶつ被害ひがいあたえている。
  • 植物しょくぶつ枯死こしさせる。樹木じゅもくする原因げんいんとなる。
    • ヨーロッパ北米ほくべい中心ちゅうしん森林しんりんらしている(ドイツシュヴァルツヴァルト酸性さんせい被害ひがい深刻しんこくもりとして有名ゆうめいである。西にしドイツの森林しんりん半分はんぶん以上いじょう酸性さんせいによる被害ひがいけているといわれている)。その被害ひがいのさまからヨーロッパでは酸性さんせいのことを「みどりペスト」とんでいる。また、近年きんねん酸性さんせいによる被害ひがい報告ほうこくされている中国ちゅうごくでは「空中くうちゅうおに」の異称いしょうがある。国務こくむいん政府せいふ)の全国ぜんこく一斉いっせいさん調査ちょうさ(1983ねん3がつ~10がつ)では、ph5.6以下いかしょう直轄ちょっかつ自治じちは20にのぼる。また、2400あまり観測かんそく地点ちてんのうち1,000カ所かしょ以上いじょうから酸性さんせい記録きろくされた[11]
    • 日本にっぽんでは、群馬ぐんまけん赤城山あかぎやま神奈川かながわけん丹沢山地たんざわさんちなどでの森林しんりんれなどがある。これらの被害ひがいは、狭義きょうぎの「酸性さんせい」でなく、光化学こうかがくオキシダントのような広義こうぎ酸性さんせい酸性さんせい降下こうかぶつ)の影響えいきょうつよいのではないかといわれている。
  • 屋外おくがいにある銅像どうぞう歴史れきしてき建造けんぞうぶつかすなど、文化財ぶんかざい被害ひがいあたえている。
  • 鉄筋てっきんコンクリート構造こうぞう建物たてもの橋梁きょうりょうなどにもちいられる鉄筋てっきん腐食ふしょく進行しんこうさせるなどの被害ひがいあたえている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 木村きむら 2007, p. 20.
  2. ^ a b 石川いしかわ 2008, p. 154.
  3. ^ a b 気象庁きしょうちょう酸性さんせいかんする基礎きそてき知識ちしき”. 2019ねん3がつ25にち閲覧えつらん
  4. ^ 生田いくた和正かずまさ、「酸性さんせい魚類ぎょるいおよぼす影響えいきょう」 『環境かんきょう技術ぎじゅつ』 1998ねん 27かん 11ごう p. 807-811, doi:10.5956/jriet.27.807, 環境かんきょう技術ぎじゅつ学会がっかい
  5. ^ a b 小島こじま 知子ともこ (2014ねん12月26にち). “NHK そなえる 防災ぼうさい|コラム|大気たいき汚染おせん酸性さんせいはどう関係かんけいするの?”. www.nhk.or.jp. 日本にっぽん放送ほうそう協会きょうかい. 2020ねん6がつ23にち閲覧えつらん
  6. ^ 全国ぜんこく酸性さんせいデータベース|地球ちきゅう環境かんきょう研究けんきゅうセンター”. 2019ねん8がつ4にち閲覧えつらん
  7. ^ いし弘之ひろゆきちょ地球ちきゅう環境かんきょう報告ほうこく岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ新書しんしょしんあかばん33)》 1988ねん p.213-214
  8. ^ 谷合たにあいみのるちょ『たくさんの生命せいめいはぐく地球ちきゅうのさまざまななぞかす! 「地球ちきゅう科学かがく入門にゅうもん」』ソフトバンククリエイティブ 2012ねん 151ページ
  9. ^ 谷合たにあいみのるちょ『たくさんの生命せいめいはぐく地球ちきゅうのさまざまななぞかす! 「地球ちきゅう科学かがく入門にゅうもん」』ソフトバンククリエイティブ 2012ねん 152ページ
  10. ^ 2001-2003ねん北海道ほっかいどう北部ほくぶ暑寒別川しょかんべつがわにおける酸性さんせいゆき影響えいきょう 北海道ほっかいどうりつ水産すいさん孵化ふかじょう研究けんきゅう報告ほうこく だい60ごう
  11. ^ いし弘之ひろゆきちょ地球ちきゅう環境かんきょう報告ほうこく岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ新書しんしょしんあかばん33)》 1988ねん p.222

参考さんこう文献ぶんけん

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  • いし弘之ひろゆきちょ地球ちきゅう環境かんきょう報告ほうこく岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ新書しんしょしんあかばん33)》 1988ねん ISBN 4-00-430033-9
  • 木村きむら富士男ふじお ちょ大気たいき環境かんきょう」、松岡まつおかけん田中たなかひろし杉田すぎた倫明みちあき村山むらやま祐司ゆうじ手塚てづかあきら恩田おんだ裕一ひろいちへんへん地球ちきゅう環境かんきょうがく地球ちきゅう環境かんきょう調査ちょうさ分析ぶんせき診断しんだんするための30しょう―』古今ここん書院しょいん地球ちきゅうがくシリーズ〉、2007ねん、18-22ぺーじISBN 978-4-7722-5203-4 
  • 石川いしかわ百合子ゆりこ ちょ地球ちきゅう規模きぼ環境かんきょう問題もんだい」、高橋たかはし日出男ひでお小泉こいずみ武英たけひで へん自然しぜん地理ちりがく概論がいろん朝倉書店あさくらしょてん、2008ねん、151-161ぺーじISBN 978-4-254-16817-4 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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