アザミ

アザミ（薊あざみ^[1]）は、キク科かアザミ属ぞく (Cirsium) 及およびそれに類るいする植物しょくぶつの総称そうしょうである。標準ひょうじゅん和名わみょうを単たんにアザミとする種たねはない^[2]。別名べつめいトゲクサ（刺草いらくさ）^[3]、アザミナ^[3]。名前なまえの由来ゆらいは、「浅あさむ」〈傷きずつける、驚おどろきあきれる意い〉がもとで、花はなを折おろうとするととげに刺さされて驚おどろくからという説せつがある。スコットランドの国花こっか。アザミの根ねは、山やま牛蒡ごぼう(やまごぼう)として漬つけ物ものに用もちいられている。

特徴とくちょう

平地ひらちから高山こうざんまで広ひろく分布ぶんぷする^[1]。日当ひあたりのよい空あき地ち、道端みちばた、野原のはら、草原そうげんなどにふつうに生はえる^[1]。山地さんちの渓流けいりゅうの縁えんや、砂されき地ちや海岸かいがんなどにも出でるものもある^[4]^[3]。

多年草たねんそう、まれに一いち年ねん草くさや二に年ねん草くさもある^[4]。若わかいときには根ね出で葉はがあり、次第しだいに背せが高たかくなり茎葉けいようを持もつが、最後さいごまで根ね出で葉はの残のこる種たねもある。葉はは互生ごせいし、羽はね状じょうに複雑ふくざつな深ふかい切きれ込こみがあるものが多おおい^[1]^[3]。また、多おおくは葉は縁えんや総そう苞つとに鋭するどいトゲがあり^[2]^[4]、さわるととても痛いたいものが多おおい。触ふれれば痛いたい草くさの代表だいひょうである。

花期かきは春はる咲ざきのものと秋あき咲ざきのものがある^[4]。春はる咲ざきはノアザミが代表だいひょう的てきで、その他たは初夏しょかから秋あきにかけて紅紫こうし色しょくの球状きゅうじょうの花はなを咲さかせる種たねが多おおい^[3]。花はなは球状きゅうじょうから筒つつ状じょうで^[4]、茎くき先さきに多数たすうの管状かんじょう花はな（筒つつ状じょう花はな）が集あつまった頭状花とうじょうか序じょ（頭あたま花はな）がつき^[1]、多おおくのキクのように周囲しゅういに花はなびら状じょうの舌した状じょう花はなが並ならばない。花はなからは雄お蘂しべや雌めす蘂しべが棒状ぼうじょうに突つき出だし、これも針山はりやまのような景色けしきとなる。花色はないろは赤あか紫色むらさきいろや紫色むらさきいろがほとんどで、まれに白色はくしょくもある^[2]。総そう苞つとと総そう苞つと片へんには種たねによる相違そういがある^[1]。種子しゅしには長ながい冠かんむり毛げがある。

蕾つぼみの状態じょうたい。
細長ほそながい管状かんじょう花はなの集合しゅうごう体たいであることが分わかる
痩やせ果はての先端せんたんに綿毛わたげ（冠かんむり毛げ）がついており、風ふうで遠とおくまで飛とぶ

種たね

世界せかいに250種しゅ以上いじょうがあり、北半球きたはんきゅうに広ひろく分布ぶんぷする。地方ちほう変異へんいが非常ひじょうに多おおく、日本にっぽんでも70種しゅ以上いじょうあるとされるが^[2]、現在げんざいも新種しんしゅが見みつかることがある。種類しゅるいを見分みわけるのは容易よういではなく^[2]、さらに種たね間あいだの雑種ざっしゅもあるので分類ぶんるいが難むずかしい場合ばあいもある。

以下いかの種たねは比較的ひかくてき分布ぶんぷが広ひろいものである。日本にっぽんには、もっともふつうに見みられるノアザミ、本州ほんしゅう中部ちゅうぶ以北いほくに生はえるナンブアザミ、関東かんとうから近畿きんき地方ちほうにかけて分布ぶんぷするタイアザミなど多おおくの種たねがある^[1]。

ノアザミ C. japonicum DC.：春はるのアザミは大体だいたいこれと考かんがえてよい。本州ほんしゅう〜九州きゅうしゅう。この種たねの園芸えんげい品種ひんしゅをドイツアザミというが、実際じっさいはドイツとは無関係むかんけいである。
タイアザミ C. nipponicum var. incomptum：大だい薊あざみ。大おおきなアザミのことで、別名べつめい、トネアザミ（利根とね薊あざみ）という^[5]。ナンブアザミの変種へんしゅで関東かんとう地方ちほうに多おおい。
フジアザミ C. purpratum (Maxim) Matsum.：花はなの直径ちょっけいが8cmにも達たっする（花はなの画像がぞう：フラボン）。関東かんとう〜中部ちゅうぶ地方ちほうの山地さんち。
ノハラアザミ C. tanakae ：秋あきに花はなを咲さかせる。本州ほんしゅう中部ちゅうぶ地方ちほう以北いほくの山地さんち。
ハマアザミ C. martitimum Makino：海岸かいがん性せいのアザミで、葉はが厚あつくてつやがある。本州ほんしゅう中部ちゅうぶ以南いなん、九州きゅうしゅうまでの太平洋たいへいよう岸がん。
モリアザミ C. dipsacolepis (Maxim) Matsum.：本州ほんしゅう〜九州きゅうしゅうの草原そうげん。時ときに食用しょくように栽培さいばいされる。
ナンブアザミ C. nipponicum (Maxim) Makino：本州ほんしゅう中北なかきた部ぶでは普通ふつう。変種へんしゅを含ふくめると、四国しこくまで一帯いったいに分布ぶんぷ。
オニアザミ C. borealinipponense Kitam.：中部ちゅうぶ地方ちほう、東北とうほく地方ちほうの日本海にほんかい側がわ。
キセルアザミ C. sieboldii ：湿原しつげん。
サワアザミ C. yezoense ：近畿きんき以北いほくの日本海にほんかい側がわ沢さわ沿。
タチアザミ C.inundatum Makino：北海道ほっかいどうから本州ほんしゅうの日本海にほんかい側がわの湿地しっち。
ツクシアザミ C. suffltum (Maxim.) Matsum.：九州きゅうしゅうでは一番いちばん普通ふつうなアザミ。四国しこく、九州きゅうしゅうに分布ぶんぷ。
タカアザミ C. pendulum Fisch. ex DC.：北海道ほっかいどう、本州ほんしゅうの北部ほくぶに分布ぶんぷ。東ひがしアジアにも分布ぶんぷする。

ごく分布ぶんぷの限かぎられたものも多おおい。

チョウカイアザミ C. chokaiensis Kitam.：東北とうほく鳥海山ちょうかいざんの高山こうざんの草原そうげん。　
オゼヌマアザミ C. homolepis Nakai：尾瀬おぜおよびその周辺しゅうへんの湿地しっちのごく一部いちぶ区域くいき。
アイズヒメアザミ C. aidzuense Nakai ex Kitam.：本州ほんしゅう日本海にほんかい側がわのごく一部いちぶ区域くいき。
ジョウシュウオニアザミ C. okamotoi Kitam.：群馬ぐんま県けん、新潟にいがた県けんの県境けんきょうの山やま域いきのごく一部いちぶ区域くいき。

南方みなかた島嶼とうしょには以下いかの種たねがある。

シマアザミ C. breviaule A. Gray：南西諸島なんせいしょとうに分布ぶんぷ。
オガサワラアザミ C. boninense Koidz.：小笠原諸島おがさわらしょとうに分布ぶんぷ。

繁殖はんしょく方法ほうほう

根ねが冬ふゆ越ごしする他ほかに、綿毛わたげ（冠かんむり毛げ）の着ついた果実かじつが風ふうで飛散ひさんして増ふえる。受粉じゅふんは昆虫こんちゅうによる虫媒花ちゅうばいかである。

利用りよう・文化ぶんか

紋章もんしょうや象徴しょうちょう

スコットランドでは、13世紀せいきにデンマークと戦争せんそうをした際さい、デンマーク軍ぐんの兵士へいしがそのトゲに刺さされて退却たいきゃくし勝利しょうりを得えたことから、「国くにを救すくった花はな」として国花こっかになっている^[6]^[7]。花言葉はなことばは「独立どくりつ」「報復ほうふく」「厳格げんかく」「触ふれないで」。ロレーヌ公国こうこくを象徴しょうちょうする花はなとなっている。

食用しょくよう

食用しょくようとする部位ぶいは、主おもには花はな蕾つぼみが出でる前まえの若わかい茎葉けいようで^[1]^[2]、花はなや根ねも利用りようできる^[4]。採取さいしゅ時期じきは春はる（4 - 6月がつごろ）が適期てっきで、トゲがあるため手袋てぶくろとナイフが必要ひつようで、やわらかな茎葉けいようを採取さいしゅする^[1]^[3]。花はなは初夏しょかから初秋しょしゅう（6 - 9月がつごろ）、根ねは一年中いちねんじゅう採取さいしゅできる^[4]。

ノアザミ、サワアザミ、ヤチアザミなどの新芽しんめ・若葉わかば・若わかい茎くきは山菜さんさいとして食たべられる^[3]。例たとえばノアザミは若わかい茎葉けいようを、サワアザミは春はるの太ふとい芽立めだちを根本こんぽん近ちかくから摘つんで食たべる^[2]。その他たのアザミ類るいでも、スジが固かたかったり、香かおりが少すくなかったりはしても、芽め先さきだけ摘つんでくれば食たべることは出来できる^[2]。強つよい灰汁あくがあるため茹ゆでて、よく水みずにさらしたあとに、油あぶらでいためてから煮物にものにしたり、おひたし、和あえ物もの、酢すの物もの、バター炒いため、生なまで天てんぷらなどにして食たべられる^[1]^[2]。やわらかな茎くきの部分ぶぶんは葉はを欠かき落おとして皮かわを剥むき、天てんぷら、汁しるの実み、煮付につけ、油あぶら炒いためなどにする^[1]。トゲは、煮にたり揚あげたりすることでやわらかくなり、気きにならなくなる^[4]^[3]。茹ゆでて色いろの変かわらないものは苦味にがみが少すくなく香かおりもよいが、黒くろ変へんするものは苦味にがみが強つよいため、何なん度どか水みず替がえしながら長ながい時間じかん水みずにさらす^[3]。

根ねはゴボウのように食たべることができ、根ねを刻きざんでから水みずにつけて灰汁あくを抜ぬき、きんぴらや粕漬かすづけ、味噌みそ漬物つけものなどにする^[2]^[4]。根ねが食たべられるアザミ類るいは、モリアザミやフジアザミ、ハマアザミである^[3]。「山やまごぼう」や「菊きくごぼう」などといわれることもあり、味噌みそ漬づけなどの加工かこう品ひんとして山間さんかん部ぶの観光かんこう地ち・温泉おんせん地ちなどで販売はんばいされる「山やまごぼう」は多おおくの場合ばあい、栽培さいばいされたモリアザミの根ねである^[2]^[4]^{[注ちゅう 1]}。

花はなまたは根ねは焼酎しょうちゅうに漬つけて健康けんこう酒しゅにもでき、強壮きょうそう・健けん胃いによいといわれる^[4]。

蜜みつ源げん植物しょくぶつとしてはちみつが生産せいさんされる。また、この植物しょくぶつは鳥とりや蝶ちょうなど多おおくの種たねを養やしなっている。

民間みんかん医療いりょう

古代こだいでは、育毛いくもう剤ざい。近代きんだいでは、頭痛ずつう、ペスト、潰瘍かいようの痛いたみ、めまい、黄疸おうだんの治療ちりょう薬やくと考かんがえられた^[9]。

畜産ちくさんや園芸えんげい

とげがあり、繁殖はんしょく力りょくもあり、一部いちぶの種たねは強つよくはないが毒どくがあるため、あまり歓迎かんげいされない^[10]^[11]。

なお、繊維せんい加工かこう分野ぶんやでは、毛布もうふなどの起毛きもうに植物しょくぶつの実みを使つかう通称つうしょうアザミ起毛きもう（薊あざみ起毛きもう）と呼よばれている手法しゅほうがあるが、厳密げんみつにはキク科かのアザミの実みではなくマツムシソウ科かのチーゼルの実みが使つかわれている（チーゼル加工かこう）^[12]^[13]。

近きん縁えんな群ぐん

アザミ属ぞくの植物しょくぶつとよく似にていたり、名前なまえに「アザミ」が付ついたりするが、アザミ属ぞくの植物しょくぶつでない物ものもある（ヒレアザミ、キツネアザミ、ミヤコアザミ、マツカサアザミ、ルリタマアザミなど）。また、トウヒレン属ぞくやヒゴタイ属ぞくもよく似にた花はなを咲さかせる。ゴボウも花はなはよく似にている。「チョウセンアザミ」の和名わみょうを持もつアーティチョークはアザミ属ぞくではなく、チョウセンアザミ属ぞくである^{[注ちゅう 2]}。

有毒ゆうどく植物しょくぶつとの区別くべつと注意ちゅうい

モリアザミの根ねは食用しょくようになり、「ヤマゴボウ」とよばれることがある^[14]。しかし、学術がくじゅつ上じょうの種たね名めい、ヤマゴボウとヨウシュヤマゴボウはいずれもキク科かではなく、モリアザミなどのアザミとは類縁るいえん関係かんけいの遠とおいヤマゴボウ科かであり、薬用やくようにはなるが、食用しょくようになるどころか有毒ゆうどく植物しょくぶつであり、混同こんどうして誤あやま食しょくしないよう注意ちゅういを要ようする^[14]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ ヤマゴボウ（ヤマゴボウ科か）という名なの植物しょくぶつも別べつにあるが、この植物しょくぶつの根ねは有毒ゆうどくのため食たべてはいけない^[8]。
^ フェリーニの映画えいが『道みち』のヒロイン・ジェルソミーナがピエロのイルマットに「アザミ顔がお」と言いわれているアザミはアーティチョーク（伊い: carciofo）のことである。

出典しゅってん

^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ ^j ^k 高橋たかはし秀男ひでお監修かんしゅう 2003, p. 57.
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ ^j ^k 吉村よしむら衞まもる 2007, p. 28.
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^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ ^j ^k 篠原しのはら準じゅん八はち 2008, p. 7.
^ 菱山ひしやま忠三郎ちゅうざぶろう『ワイド図鑑ずかん里山さとやま・山地さんちの身近みぢかな山野さんや草そう』主婦しゅふの友社ともしゃ、2010年ねん10月がつ10日とおか、238頁ぺーじ。ISBN 978-4-07-274128-3。
^ 瀧井たきい康やすし勝しょう『366日にち誕生たんじょう花はなの本ほん』日本にほんヴォぉーグ社ぐしゃ、1990年ねん11月30日にち、265頁ぺーじ。ISBN 978-4529020398。
^ 遠山とおやま茂樹しげき『歴史れきしの中なかの植物しょくぶつ』八坂やさか書房しょぼう、2019年ねん9月がつ10日とおか、98-99頁ぺーじ。ISBN 978-4-89694-265-1。
^ 吉村よしむら衞まもる 2007, p. 29.
^ Grieve, Maud. “A Modern Herbal”. 2011年ねん6月がつ3日にち閲覧えつらん。
^ W. T. Parsons; Eric George Cuthbertson (2001). Noxious Weeds of Australia. Csiro Publishing. pp. 189–. ISBN 978-0-643-06514-7
^ Watt, John Mitchell; Breyer-Brandwijk, Maria Gerdina: The Medicinal and Poisonous Plants of Southern and Eastern Africa 2nd ed Pub. E & S Livingstone 1962
^ “泉州せんしゅう毛布もうふの始はじまり～明治めいじ・大正たいしょう～”. 日本にっぽん毛布もうふ工業こうぎょう組合くみあい. 2022年ねん9月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ “今こん話題わだいのニットの起毛きもう加工かこう（アザミ起毛きもう?）に使用しようする花はなの実みをご紹介しょうかい致いたします。”. ニットマテリアル. 2022年ねん9月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b 金田かねだ初代しょだい 2010, p. 48.

参考さんこう文献ぶんけん

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篠原しのはら準じゅん八はち『食たべごろ摘つみ草くさ図鑑ずかん：採取さいしゅ時期じき・採取さいしゅ部位ぶい・調理ちょうり方法ほうほうがわかる』講談社こうだんしゃ、2008年ねん10月がつ8日にち、7頁ぺーじ。ISBN 978-4-06-214355-4。
高橋たかはし秀男ひでお監修かんしゅう田中たなかつとむ・松原まつばら渓けい著ちょ『日本にっぽんの山菜さんさい』学習研究社がくしゅうけんきゅうしゃ〈フィールドベスト図鑑ずかん13〉、2003年ねん4月がつ1日にち、57頁ぺーじ。ISBN 4-05-401881-5。
吉村よしむら衞まもる『おいしく食たべる山野やまの草くさ』主婦しゅふと生活社せいかつしゃ、2007年ねん4月がつ23日にち。ISBN 978-4-391-13415-5。