イタチ

イタチ属ぞく
オナガオコジョ M. frenata
分類ぶんるい
ドメイン : 真ま核かく生物せいぶつ Eukaryota 界さかい : 動物界どうぶつかい Animalia 門もん : 脊索せきさく動物どうぶつ門もん Chordata 亜あ門もん : 脊椎動物せきついどうぶつ亜あ門もん Vertebrata 綱つな : 哺乳ほにゅう綱つな Mammalia 目め : ネコ目め（食肉しょくにく目め） Carnivora 亜あ目め : イヌ亜あ目め Caniformia 科か : イタチ科か Mustelidae 亜あ科か : イタチ亜あ科か Mustelinae 属ぞく : イタチ属ぞく Mustela
タイプ種しゅ
ヤマイタチ Mustela erminea Linnaeus, 1758
和名わみょう
イタチ（鼬いたち）
英名えいめい
Weasel ermine stoat Ferret mink polecat
種たね
Mustela aistoodonnivalis Mustela altaica Mustela erminea Mustela eversmannii Mustela furo Mustela haidarum Mustela itatsi Mustela kathiah Mustela lutreola Mustela lutreolina Mustela nigripes Mustela nivalis Mustela nudipes Mustela putorius Mustela richardsonii Mustela sibirica Mustela strigidorsa Mustela tonkinensis
イタチ属ぞく 分布ぶんぷ域いき

チョウセンイタチ

イタチ（鼬いたち、鼬鼠いたち）とは、ネコ目め（食肉しょくにく目め）イヌ亜あ目めクマ下目しためイタチ科かイタチ属ぞく（Mustela）に含ふくまれる哺乳類ほにゅうるいの総称そうしょうである。オコジョ、イイズナ、ミンク、ニホンイタチなどがイタチ属ぞくに分類ぶんるいされる。ペットとして人気にんきのあるフェレットもイタチ属ぞくである。

「イタチ」の語かたりは元来がんらい、日本にっぽんに広ひろく棲息せいそくするニホンイタチ（Mustela itatsi）を特とくに指さす語かたりであり、現在げんざいも、形態けいたいや生態せいたいのよく似にた近きん縁えんのチョウセンイタチ（M. sibirica coreana）を含ふくみながら、この狭せまい意味いみで用もちいられることが多おおい。また、広義こうぎにはイタチ亜あ科か（あるいはイタチ科か）の動物どうぶつ全般ぜんぱんを指さすこともあるが（イタチ亜あ科かの場合ばあい、テンやクズリなどの仲間なかまも含ふくまれる）、ここではイタチ属ぞくのイタチ類るいについて記しるす。

分布ぶんぷ

日本にっぽん全国ぜんこく、ユーラシア、アフリカ、南北なんぼくアメリカ大陸あめりかたいりくの亜熱帯あねったいから寒帯かんたいまで広ひろく分布ぶんぷしている。

特徴とくちょう

直立ちょくりつしたイイズナ

イタチ属ぞくの動物どうぶつは、しなやかで細長ほそながい胴体どうたいに短みじかい四肢ししをもち、鼻先はなさきがとがった顔かおには丸まるく小ちいさな耳みみがある。多おおくの種たねが体重たいじゅう2 kg以下いかで、ネコ目め（食肉しょくにく類るい）の中なかでも最もっとも小柄こがらなグループである。中なかでもイイズナ（Mustela nivalis）はネコ目め中ちゅう最小さいしょうの種たねであり、体重たいじゅうはアメリカイイズナ （M. n. rixosa）で30 - 70 g、ニホンイイズナ（M. n. namiyei）で25 - 250 gである。

イタチ類るいは、オスに比くらべメスが極端きょくたんに小柄こがらであることでも知しられ、この傾向けいこうは小型こがたの種たねほど顕著けんちょである。メスの体重たいじゅうは、たとえば前述ぜんじゅつのアメリカイイズナやチョウセンイタチ（M. s. coreana）ではオスの半分はんぶん、ニホンイタチではオスの3分ぶんの1である。

小柄こがらな体格たいかくながら、非常ひじょうに凶暴きょうぼうな肉食にくしょく獣じゅうであり、小型こがたの齧かじ歯は類るいや鳥類ちょうるいはもとより、自分じぶんよりも大おおきなニワトリやウサギなども単独たんどくで捕食ほしょくする。反対はんたいにイタチを捕食ほしょくする天敵てんてきは鷲わし・鷹たか・フクロウと言いった猛禽もうきん類るいとキツネである。

肛門こうもん腺せんが発達はったつしており、そこから強つよい悪臭あくしゅうを帯おびた分泌ぶんぴつ液えきを噴出ふんしゅつすることで外敵がいてきから身みを守まもる。

水辺みずべを好このみ、泳およぐのも上手うまい。

種たね

伝統でんとう的てきな分類ぶんるいに基もとづくイタチ属ぞくの現生げんなま種しゅは以下いかの通とおり。このうちアマゾンイタチ（Mustela africana）、オナガオコジョ（ Mustela frenata）、コロンビアイタチ（Mustela felipei）は最新さいしんの分子ぶんし系統けいとう解析かいせきではミンク属ぞくに属ぞくすとされる。フェレット（Mustela furo）はヨーロッパケナガイタチ（M. putorius）の亜種あしゅM. p. furoとされることもあるが、頭骨とうこつにステップケナガイタチ（M. putorius）に似にた特徴とくちょうがある。また、ニホンイタチ （'M. itatsi）はシベリアイタチの亜種あしゅとされることがある。

• アルタイイタチ Mustela altaica
• オコジョ Mustela erminea
• オナガオコジョ Mustela frenata（最新さいしんの分子ぶんし系統けいとうではミンク属ぞく（Neogale）に属ぞくす）
• キバライタチ Mustela kathiah
• イイズナ Mustela nivalis
• シベリアイタチ（タイリクイタチ、チョウセンイタチ） Mustela sibirica, Siberian Weasel
• （ニホンイタチ Mustela itatsi (M. s. itatsi)）
• セスジイタチ Mustela strigidorsa
• ハダシイタチ Mustela nudipes
• ヨーロッパミンク Mustela lutreola, European Mink
• ヨーロッパケナガイタチ Mustela putorius, European Polecat, Black sable
• （フェレット Mustela furo (M. p. furo)）
• ステップケナガイタチ Mustela eversmanni
• クロアシイタチ（スジハライタチ） Mustela nigripes
• アマゾンイタチ Mustela africana（最新さいしんの分子ぶんし系統けいとうではミンク属ぞく（Neogale）に属ぞくす）
• コロンビアイタチ Mustela felipei（最新さいしんの分子ぶんし系統けいとうではミンク属ぞく（Neogale）に属ぞくす）

日本にっぽんに棲息せいそくするイタチ属ぞく

チョウセンイタチの顔かお

イタチ属ぞく Mustela に属ぞくする動物どうぶつは、日本にっぽんには5種しゅ8亜種あしゅが棲息せいそくする。このうち、アメリカミンクは外来がいらい種しゅであり、在来ざいらい種しゅに限かぎれば4種しゅ7亜種あしゅとなる。

比較的ひかくてき大型おおがたのイタチ類るい（ニホンイタチ、コイタチ、チョウセンイタチ）に対たいして、高山たかやま部ぶにしか分布ぶんぷしないイイズナ（キタイイズナ、ニホンイイズナ）とオコジョ（エゾオコジョ、ホンドオコジョ）はずっと小型こがたであり、特とくに、ユーラシア北部ほくぶから北米ほくべいまで広ひろく分布ぶんぷするイイズナは、最小さいしょうの食肉しょくにく類るいでもある。

4種しゅの在来ざいらい種しゅ（ニホンイタチ、チョウセンイタチ（自然しぜん分布ぶんぷは対馬つしまのみ）、イイズナ、オコジョ）のうち、ニホンイタチ（亜種あしゅコイタチを含ふくむ）は日本にっぽん固有こゆう種しゅであるが、前述ぜんじゅつのように（チョウセンイタチと同おなじく）大陸たいりくに分布ぶんぷするシベリアイタチの亜種あしゅとされることもある。また、亜種あしゅのレベルでは、本州ほんしゅう高だか山部やまべに分布ぶんぷするニホンイイズナとホンドオコジョが日本にっぽん固有こゆう亜種あしゅであり、これにチョウセンイタチとエゾオコジョを加くわえた4亜種あしゅは、環境省かんきょうしょうのレッドリストでNT（準じゅん絶滅ぜつめつ危惧きぐ）に指定していされている。

外来がいらい種しゅ問題もんだいに関かかわるものとしては、西日本にしにほんでは国内こくない移入いにゅう亜種あしゅのチョウセンイタチが在来ざいらい種しゅのニホンイタチを、北海道ほっかいどうでは国内こくない外来がいらい種しゅのニホンイタチと外来がいらい種しゅのアメリカミンクが在来ざいらい亜種あしゅのエゾオコジョを、一部いちぶの島嶼とうしょ部ぶではネズミ類るいなどの駆除くじょのために移入いにゅうされたニホンイタチが在来ざいらい動物どうぶつを、それぞれ圧迫あっぱくしている。

日本にっぽんのイタチ一覧いちらん

ニホンイタチ（イタチ） Mustela itatsi

【北海道ほっかいどう・本州ほんしゅう・四国しこく・九州きゅうしゅう・南西諸島なんせいしょとう／日本にっぽん固有こゆう種しゅ】 シベリアイタチの亜種あしゅとされることもある。北海道ほっかいどう・南西諸島なんせいしょとうなどでは国内こくない外来がいらい種しゅ。西日本にしにほんではチョウセンイタチに圧迫あっぱくされ、棲息せいそく域いきを山間さんかん部ぶに限かぎられつつある一方いっぽうで、移入いにゅう先さきの三宅島みやけじまなどでは、在来ざいらい動物どうぶつを圧迫あっぱくしている。屋久島やくしま・種子島たねがしまの個体こたい群ぐんは、亜種あしゅコイタチ M. i. shoとして区別くべつされる。

シベリアイタチ（タイリクイタチ、チョウセンイタチ） M. sibirica, Kolinsky

シベリアイタチ（コリンスキー レッドセーブル、コリンスキーセーブル、レッドセーブル、シベリアン ファイアセーブル）

尾お毛げは、画筆がひつや書しょ筆ひつの高級こうきゅう原毛げんもうとして使つかわれる。弾力だんりょくがありしなやかで、揃ぞろいが良よく、高価こうか。

チョウセンイタチ（亜種あしゅ） M. s. coreana

【本州ほんしゅう西部せいぶ・四国しこく・九州きゅうしゅう・対馬つしま】 対馬つしまには自然しぜん分布ぶんぷ、それ以外いがいでは外来がいらい種しゅ。ニホンイタチより大型おおがた。西日本にしにほんから分布ぶんぷを広ひろげつつあり、ニホンイタチを圧迫あっぱくしている可能かのう性せいがある。

イイズナ M. nivalis

キタイイズナ（亜種あしゅ、コエゾイタチ） M. n. nivalis

【北海道ほっかいどう】 大陸たいりくに分布ぶんぷするものと同おなじ亜種あしゅ。

ニホンイイズナ（亜種あしゅ） M. n. namiyei

【青森あおもり県けん・岩手いわて県けん・山形やまがた県けん？／日本にっぽん固有こゆう亜種あしゅ】 キタイイズナより小型こがたであり、日本にっぽん最小さいしょうの食肉しょくにく類るいである。

オコジョ M. erminea

エゾオコジョ（亜種あしゅ、エゾイタチ） M. e. orientalis

【北海道ほっかいどう】 日本にっぽん以外いがいでは、千島ちしま・サハリン・ロシア沿海えんかい地域ちいきに分布ぶんぷ。平地ひらちでは国内こくない外来がいらい種しゅのニホンイタチ・外来がいらい種しゅのミンクの圧迫あっぱくにより姿すがたを消けす。

ホンドオコジョ（亜種あしゅ、ヤマイタチ） M. e. nippon

【本州ほんしゅう中部ちゅうぶ地方ちほう以北いほく／日本にっぽん固有こゆう亜種あしゅ】

アメリカミンク（ミンク） M. vison

【北海道ほっかいどう】北米ほくべい原産げんさんの外来がいらい種しゅ。毛皮けがわのために飼育しいくされていたものが、1960年代ねんだいから北海道ほっかいどうで野生やせい化かした。平地ひらちでエゾオコジョ・ニホンイタチを圧迫あっぱくしている。養魚ようぎょ場じょう等とうにも被害ひがいがある。

方言ほうげん

「イタチ（以太知ち）」の呼称こしょうは遅おそくとも平安へいあん時代じだい初期しょきには存在そんざいしたが、テンとイタチの呼称こしょうは平安へいあん時代じだい初期しょきから現代げんだいにかけて混こん称しょうまたは混同こんどうされる傾向けいこうがあった。

以下いかはニホンイタチ（対馬つしまのみシベリアイタチ）に対たいする日本語にほんご方言ほうげんである。「イタチ」が転訛てんかした呼称こしょうのほか、「キッキ」、「チーチ」「キチキチ」など鳴なき声ごえの擬音ぎおん語ご、その他た「トマ」、「ズット」、「オサコ」などがある。異名いみょうが多おおいのは、イタチは縁起えんぎの悪わるい動物どうぶつと見み做されていたため、忌き言葉ことばを用もちいたなごりとされる。

• 青森あおもり - イダヅ
• 岩手いわて - イダヂ、イダンヂィ、エダヅ、オカノカミ
• 秋田あきた - イタンジ、イダンジ
• 山形やまがた - イタヂ、イダヂ、イタヂ、イダヅ、エダヂ、エダツ
• 宮城みやぎ - イダヂィ、イダヅ、オカノカミ
• 福島ふくしま - イタヂ、エダヂ
• 茨城いばらき - イタチッコ、イタチメ、イダヂメ、エダヂ、ハナクロ、ハナグロ、ハナクロイタチ、ハナグロイタチ、ハナグロイダヂ、ハナグロメ、ハナジロ、ハナックロイタチ、ハジガネイタチ、フト
• 栃木とちぎ - イダチ、エタチ、ハナグロ
• 群馬ぐんま - ツーキリ、ミチキリ
• 埼玉さいたま - イタチ
• 千葉ちば - イタチ、イダヂ、イダヅ、エタチ、エタヂ、エタチ、エダヂ、エタツ、エダヅ、カワネズミ、キッキ、チーチ
• 新潟にいがた - イタツ、カワイタチ、ズイ、ズイト、ズット、ヅイト
• 山梨やまなし - イタチ
• 長野ながの - エタチ、ゴットー、ズット、ズットー、ゾット、ゾットー、テンコゾー
• 静岡しずおか - イグラ、イタ、イタチ、ガッチ、チャキ、テンコ、テンコゾー、テンコチョ、トマス、へッピリ

• 愛知あいち - イグラ、イグラモチ、イタイチ、オサコ、キチキチ、クダイタチ
• 岐阜ぎふ - イタチ、イダチ、ドイタチ、トバ、トバス、へコキ
• 三重みえ - イタチ、イッタチ
• 富山とやま - イタチ、イタチトバ、イタツ、イテヤチ、エタツ、ジット、ズットコ、テントー、テントバ、テントワ、ドス、トバ、 トハ、トバス、トワ、トワス、トンバ、バス、トバス、ミズイタチ
• 石川いしかわ - イタチトバ、オトバ、キチキチトバ、ズッコ、ズット、テントバ、トバ
• 福井ふくい - エタチ、トバ、トマス
• 滋賀しが - イッタチ、カオミセ、テンコチ
• 京都きょうと - イッタチ、キチキチネズミ、ケチ、トマス
• 大阪おおさか - アカウマ、イサコ、イタツリ、イッタチ、オニイタチ、カイコキツネ、キチキチネズミ、コトコト、サンタチ、スイザノレ、チカメ、トマイッタチ、トマコ、トンバ、ヒチビシャ、ミゾイタチ
• 奈良なら - イッタチ、キチキチ、マンク
• 和歌山わかやま - イッタチ
• 兵庫ひょうご - イタチ、イタッツァン、カマス、カントクサン、キッチ、ケチ、ツーキリ、テン、トココ、トマ、トマス、ミチキリ

• 香川かがわ - イタチ、イッタチ、エタチ、エッタチ、トマ、トマコ、トマサコ、トマス、ヒガン
• 徳島とくしま - トマコ、ヒガン
• 愛媛えひめ - イタチ、エッタチ、オサコ、サコ、トマ、ヒガン、ヤブイタチ
• 高知こうち - イタチ、ケトマ、トマ、トマコ、ヒガン
• 岡山おかやま - イターチ、イタチ、ミアゲ、ミズイタチ、ミヤゲ、ヤブイタチ
• 広島ひろしま - ケス、ズイドークグリ、テンゴー
• 鳥取とっとり - イタツ、エタチ、エタツ、オトマ、チーチー、ツーキリ、トマ、ハナクロ
• 島根しまね - エタチ、ケチ、トマ、トマス
• 山口やまぐち - テン、トマス
• 福岡ふくおか - トマ
• 長崎ながさき - イタチ、ユータッ、ユタチ、ユタッ、ユタテ
• 対馬つしま - イタチ
• 大分おおいた - イタテ、ミチキリ
• 熊本くまもと - イタチ、トマ、トマキチ、ユワシ
• 宮崎みやざき - メメヨシ、イタッ、トコサマ、トマ、トマコ、トマサコ、メメタン、メメヨシ、メメンキュ、ユタ、ユタテ
• 鹿児島かごしま - イタチッ、イタッ、イタッゴロ、イタッジョ、イタテ、イタテン、ケチロ、チノコ、テーゴイ、テーゴゼ、テーゴーデー、テン、トマ、トマース、トマス、トンマース、トンマス、ユタ、ユターチ、ユタチ、ユタチェ、ユタッ、ユタテ、ユタデー、ユタテン、メメ、メメッソ

利用りよう

イタチの毛皮けがわは衣類いるい、日にち用品ようひんなどに利用りようされてきた。ミンクは高級こうきゅう品ひんとして、ファーコートなどの大型おおがたの衣類いるい製造せいぞうにも用もちいられる。

イタチの毛けを使つかった毛筆もうひつは高級こうきゅう品ひんとされる。価格かかくを抑おさえるために、中心ちゅうしんの長ながい部分ぶぶんだけにイタチの毛けを使つかう場合ばあいもある。

伝承でんしょう

鳥山とりやま石燕せきえん『画図えず百鬼夜行ひゃっきやこう』より「鼬いたち」

日本にっぽん古来こらいからイタチは妖怪ようかい視しされ、様々さまざまな怪異かいいを起おこすものといわれていた。江戸えど時代じだいの百科辞典ひゃっかじてん『和漢わかん三さん才さい図会ずえ』によれば、イタチの群むれは火災かさいを引ひき起おこすとあり、イタチの鳴なき声ごえは不吉ふきつの前触まえぶれともされている。新潟にいがた県けんではイタチの群むれの騒さわいでいる音おとを、6人にんで臼うすを搗つく音おとに似にているとして「鼬いたちの六ろく人にん搗つき」と呼よび、家いえが衰おとろえる、または栄さかえる前兆ぜんちょうという。人ひとがこの音おとを追おって行いくと、音おとは止とまるという。

またキツネやタヌキと同様どうように化ばけるともいわれ、東北とうほく地方ちほうや中部ちゅうぶ地方ちほうに伝つたわる妖怪ようかい・入道にゅうどう坊主ぼうずはイタチの化ばけたものとされているほか、大入道おおにゅうどうや小坊主こぼうずに化ばけるという。

鳥山とりやま石燕せきえんの画集がしゅう『画図えず百鬼夜行ひゃっきやこう』にも「鼬いたち」と題だいした絵えが描えがかれているが、読よみは「いたち」ではなく「てん」であり、イタチが数すう百ひゃく歳さいを経へて魔力まりょくを持もつ妖怪ようかいとなったものがテンとされている。別べつ説せつではイタチが数すう百ひゃく歳さいを経へると狢むじなになるともいう。

イタチを黒焼くろやきにして飲のめば、こわばりなどに良よいという伝承でんしょうが長野ながの県けんにある。

ギリシャ神話しんわでは、ヘーラクレースの母ははアルクメーネーがヘーラクレースを出産しゅっさんする際さい、ヘーラーに命めいじられた出産しゅっさんの女神めがみエイレイテュイアによって出産しゅっさんを封ふうじられていたが、これに気付きづいたアルクメーネーの侍女じじょガランティスが「アルクメーネーが出産しゅっさんした」と虚報きょほうを唱となえた。驚おどろいたエイレイテュイアが封印ふういんを緩ゆるめたためにアルクメーネーは無事ぶじに出産しゅっさんが出来できたが、エイレイテュイアの怒いかりを買かったガランティスはイタチの姿すがたに変かえられてしまったのだという。

説教せっきょう節ぶし『愛護あいごの若わか』の主人公しゅじんこうは、家宝かほうを売うりに出だしたと父親ちちおやに疑うたがわれ、縛しばり上あげられて木きに吊つるされる。愛護あいごの苦難くなんを知しった亡なき母ははは、閻魔えんま大王だいおうに頼たのんでいたちに姿すがたを変かえ、息子むすこを吊つるした縄なわを食くい切きる。

かまいたち

詳細しょうさいは「鎌鼬かまいたち」を参照さんしょう

かまいたちとは、何なにもしていないのに突然とつぜん、皮膚ひふ上うえに鎌かまで切きりつけたような傷きずができる現象げんしょうのことを指さす。かつては「目めに見みえないイタチの妖怪ようかいのしわざ」だと考かんがえられていた。

なお、「かまいたち」は「構かまえ太刀だち」が転てんじたもので、元来がんらいはイタチとは全まったく関係かんけいがない、とする説せつもある。

くだぎつね

詳細しょうさいは「管かん狐きつね」を参照さんしょう

イタチにまつわる言葉ことば

• いたちごっこ - 堂々どうどうめぐりで物事ものごとが全まったくはかどらないこと。
• いたちの最後さいごっ屁ぺ - 追おい詰つめられたときの最後さいごのあがきのこと。
• いたちの道みち切ぎり - イタチは同おなじ道どうを通とおらないと信しんじられ、イタチが目めの前まえを横切よこぎると別わかれの不吉ふきつな予兆よちょうとされた。
• いたちの御幸みゆき道どう（ごこうみち）
• 関東かんとう・神奈川かながわ県けん近郊きんこうの戯じゃれ歌かに「痛いたきゃイタチの糞くそつけて、三さん年ねんつけてつけ飽あきろ」というのがある。イタチの糞くそに薬効やっこうがあるのかどうかは不明ふめい。「痛いたい」に「イタ（チ）」という言葉ことばをかけた言葉ことば遊あそびと思おもわれる。
• ワイルド・ウィーゼル
• Weasel word - 「逃にげ口上こうじょう」の意い。イタチが卵たまごの中身なかみを吸すった後のち、卵たまごを何事なにごともなかったように見みせかけるといわれることから