エレーヌ・シクスー

エレーヌ・シクスー
Hélène Cixous

人物じんぶつ情報じょうほう
生誕せいたん	(1937-06-05) 1937年ねん6月5日にち（87歳さい） オラン、フランス領りょうアルジェリア
国籍こくせき	フランス アルジェリア
学問がくもん
研究けんきゅう分野ぶんや	文学ぶんがく、哲学てつがく、戯曲ぎきょく、女性じょせい学がく (フェミニズム、ジェンダー研究けんきゅう)
学位がくい	博士はかせ (ジェイムズ・ジョイス研究けんきゅう)
主要しゅような作品さくひん	『内部ないぶ』、『メデューサの笑わらい』
主おもな受賞じゅしょう歴れき	メディシス賞しょう マルグリット・デュラス賞しょう マルグリット・ユルスナール賞しょう フランス語ふらんすご賞しょう セント・アンドルーズ大学だいがくほかの大学だいがくから名誉めいよ博士はかせ号ごう 国家こっか功労こうろう勲章くんしょうコマンドゥール レジオンドヌール勲章くんしょうオフィシエ 芸術げいじゅつ文化ぶんか勲章くんしょうコマンドゥール

エレーヌ・シクスー（フランス語ふらんすご: Hélène Cixous、1937年ねん6月5日にち - ）は、フランスの作家さっか、劇げき作家さっか、詩人しじん、哲学てつがく者しゃ、批評ひひょう家か、フェミニスト。ジュリア・クリステヴァ、リュス・イリガライとともにポスト構造こうぞう主義しゅぎのフェミニスト批評ひひょう家かとして知しられる。フロイト、ジャック・デリダ、ジャック・ラカン、アルチュール・ランボーの影響えいきょうを受うけ、論理ろんりを男性だんせい中心ちゅうしん主義しゅぎ的てきなものと見みなし、論理ろんりを解体かいたいした文章ぶんしょうを書かく。当初とうしょシクススなどと読よまれたが、1990年代ねんだい以後いごシクスーという読よみが定着ていちゃくした。

略歴りゃくれき

1937年ねん6月5日にち、フランス領りょうアルジェリアのオランに生うまれ、1947年ねんにアルジェに移住いじゅうした。1948年ねん、医師いしの父ちち（ユダヤ人じん）が亡なくなり、助産婦じょさんぷの母ははに育そだてられた。1959年ねん、22歳さいで英語えいごの一いち級きゅう教員きょういん資格しかく（アグレガシオン）を取得しゅとくし、ボルドーとパリの高等こうとう中学ちゅうがくで教鞭きょうべんを執とる。1968年ねんにジェイムズ・ジョイスに関かんする研究けんきゅう（博士はかせ論文ろんぶん『ジェイムズ・ジョイスの亡命ぼうめい、あるいは代替だいたいの技法ぎほう』; 1969年ねんにグラッセ社しゃより刊行かんこう）で文学ぶんがく博士はかせ号ごうを取得しゅとくした。

1969年ねんに自伝じでん的てきな小説しょうせつ『内部ないぶ (Dedans)』を発表はっぴょうし、メディシス賞しょうを受賞じゅしょうした。

同おなじく1969年ねん、エレーヌ・シクスーはジャック・デリダ、フランソワ・シャトレ、ジル・ドゥルーズ、ジャン・フランソワ・リオタール、ミシェル・フーコー、アラン・バディウ、ミシェル・セール、ダニエル・ベンサイドらとともに「ヴァンセンヌ実験じっけん大学だいがくセンター(CUEV)」を創設そうせつした。これは権威けんい主義しゅぎ的てきな既成きせい秩序ちつじょに抗議こうぎする学生がくせい運動うんどうに端はしを発はっしたフランス五ご月がつ革命かくめい (Mai 68) の精神せいしんを受うけ継つぎ、高等こうとう教育きょういくの民主みんしゅ化か（バカロレアを取得しゅとくしていない学生がくせい、労働ろうどう者しゃ、外国がいこく人じんなどを含ふくむすべての人ひとに開ひらかれた大学だいがく）を目指めざす新あたらしい高等こうとう教育きょういく機関きかんであった。翌年よくねんにはパリ第だい8大学だいがく（ヴァンセンヌ大学だいがく）と改名かいめいされたが、この際さいにエレーヌ・シクスーは「女性じょせい学がくセンター」(現在げんざいのパリ第だい8大学だいがく「フェミニズム・ジェンダー研究けんきゅうセンター」) を創設そうせつし、フランスのみならず欧州おうしゅうの女性じょせい学がく研究けんきゅうにおいても先駆せんく的てきな役割やくわりを果はたすことになった。

同年どうねんにはまた、ジェラール・ジュネット、ツヴェタン・トドロフとともに国際こくさい詩学しがく研究けんきゅう誌し『ポエティック』を創刊そうかんした。

ジャック・デリダとは上記じょうきの「ヴァンセンヌ実験じっけん大学だいがくセンター」の設立せつりつだけでなく、「国立こくりつ文学ぶんがくセンター」、「作家さっか国際こくさい議会ぎかい」、「反はんアパルトヘイト委員いいん会かい」の設立せつりつ、および国際こくさい哲学てつがくコレージュのシンポジウムやセミナーなどの多おおくの政治せいじ的てき・知的ちてき活動かつどうに関かかわっており、共著きょうちょも多おおい。

ジェイムズ・ジョイス、ジャック・デリダのほか、クラリッセ・リスペクトール、モーリス・ブランショ、フランツ・カフカ、ハインリヒ・フォン・クライスト、インゲボルク・バッハマン、トーマス・ベルンハルト、マリーナ・ツヴェターエワ、ジャン・ジュネ、サミュエル・ベケットなどの研究けんきゅうでも知しられる。

エレーヌ・シクスーは戯曲ぎきょくも多おおいが、作品さくひんは「オルセー劇場げきじょう」、「パリ市立しりつ劇場げきじょう」などで上演じょうえんされている。

エレーヌ・シクスーは3つの解放かいほう ― アルジェリアの解放かいほう、大学だいがくの解放かいほう、そして女性じょせいの解放かいほう ― のために闘たたかった。

著書ちょしょ

代表だいひょう作さく『メデューサの笑わらい』について

ローラン・マルケスト作さく「ペルセウスとゴルゴーン」(1890年ねん)

英えい米べい圏けんで「フレンチ・フェミニズム」の先駆さきがけとされた『メデューサの笑わらい』は、1975年ねんに現代げんだいの文学ぶんがく者しゃ、哲学てつがく者しゃ、芸術げいじゅつ家かなどを紹介しょうかいする『ラルク (l’Arc)』のシモーヌ・ド・ボーヴォワール特集とくしゅう号ごう（表題ひょうだい：「女性じょせいの闘たたかい」）に発表はっぴょうされた。ギリシア神話しんわに登場とうじょうするメデューサ（ゴルゴーン3姉妹しまいの1人ひとり）は見みた者ものを石いしに変かえる能力のうりょくを持もつ女性じょせいの怪物かいぶつで、ペルセウスによって首くびを切きり落おとされ、退治たいじされた。エレーヌ・シクスーはこのメデューサを、女性じょせいの存在そんざいと自己じこ実現じつげんを妨さまたげる計はかり知しれないほど多おおくの束縛そくばくを打うち破やぶるエクリチュール・フェミニンとして蘇よみがえらせた。エレーヌ・シクスーのメデューサは笑わらっている。女性じょせいを解とき放はなつ高たからかな笑わらいである。

「女性じょせい的てきエクリチュール」をキーワードに、従来じゅうらいの社会しゃかいの男根だんこん理論りろん中心ちゅうしん主義しゅぎを告発こくはつする本書ほんしょは、豊ゆたかなイメージと魅力みりょく的てきな暗喩あんゆに満みち、ときに激はげしく、ときに詩的してきに、読者どくしゃを包つつみこんでゆく。新あたらしい人間にんげんの可能かのう性せい、新あたらしい社会しゃかいの到来とうらいを高たからかにうたいあげるシクスーのメッセージは、間違まちがいなく日本にっぽんの読者どくしゃにも、希望きぼうと指針ししんを与あたえるだろう。

邦訳ほうやく

• 『内部ないぶ』(エレーヌ・シクスス) 若林わかばやし真しん訳わけ、新潮社しんちょうしゃ、1978年ねん
• 『メデューサの笑わらい』松本まつもと伊い瑳子・国領こくりょう苑子そのこ,・藤倉ふじくら恵子けいこ編へん訳やく、紀伊国屋きのくにや書店しょてん、1993年ねん
• 『狼おおかみの愛あい』松本まつもと伊い瑳子訳やく、紀伊国屋きのくにや書店しょてん、1995年ねん（講演こうえん原稿げんこうを所収しょしゅう。フランス語ふらんすごの著書ちょしょとしては発表はっぴょうされていない。）
• 「エレーヌ・シクスー、ルーツを撮とる」松本まつもと伊い瑳子訳やく -『女おんなたちのフランス思想しそう』(棚沢たなざわ直子なおこ編へん、勁草書房しょぼう、1998年ねん) 所収しょしゅう（ミレイユ・カル＝グリュベールとの対談たいだん集しゅう『エレーヌ・シクスー、ルーツを撮とる (Hélène Cixous, photos de racines)』のシクスーの発言はつげんからの抜粋ばっすい）
• 『ドラの肖像しょうぞう - エレーヌ・シクスー戯曲ぎきょく集しゅう』松本まつもと伊い瑳子、如月きさらぎ小春こはる訳わけ、新しん水みず社しゃ、2001年ねん
• 『偽証ぎしょうの都市とし、あるいは復讐ふくしゅうの女神めがみたちの甦よみがえり』高橋たかはし信良のぶよし・佐伯さえき隆幸たかゆき訳わけ、れんが書房しょぼう新しん社しゃ（コレクション現代げんだいフランス語ふらんすご圏けん演劇えんげき）2012年ねん
• 『ヴェール』エレーヌ・シクスー、ジャック・デリダ共著きょうちょ、郷ごう原はら佳以かい訳わけ、みすず書房しょぼう、2014年ねん

• 「ヘンリー・ジェイムズ、投資とうしとしてのエクリチュールあるいは、利息りそくの両義りょうぎ性せいについて」若林わかばやし真しん訳わけ - 筑摩ちくま世界せかい文学ぶんがく大系たいけい 49『ジェイムズ』（筑摩書房ちくましょぼう、1972年ねん）所収しょしゅう
• 「書かいていない時ときの私わたしは死しんだも同然どうぜんです」岩崎いわさき力つとむ訳わけ - ジャン＝ルイ・ド・ランビュール編へん『作家さっかの仕事しごと部屋へや』（岩崎いわさき力つとむ訳やく、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ、1979年ねん）所収しょしゅう
• 「外部がいぶを聞きく盲目もうもくの人ひとデュラス」（ミシェル・フーコーとの対談たいだん）中沢なかざわ信一しんいち訳やく、『ユリイカ』1985年ねん7月がつ号ごう、青土おうづち社しゃ
• 「私わたしのアルジェリアンス」松本まつもと伊い瑳子訳やく、『現代げんだい思想しそう』1997年ねん12月がつ号ごう、青土おうづち社しゃ
• 「語かたれぬ出来事できごとに遭遇そうぐうした人々ひとびとが何なにを語かたるのか」松田まつだ充代みつよ訳やく、『現代げんだい思想しそう』2000年ねん11月がつ号ごう、青土おうづち社しゃ

主おもな著書ちょしょ

エレーヌ・シクスー 2014年ねん

小説しょうせつ

• Le Prénom de Dieu (Grasset, 1967)
• Dedans (Grasset, 1969) - メディシス賞しょう（邦訳ほうやく『内部ないぶ』）
• Le Troisième Corps (Grasset, 1970)
• Les Commencements (Grasset, 1970)
• Neutre (Grasset, 1972)
• Tombe (Seuil, 1973, 2008)
• Portrait du Soleil (Denoël, 1974)
• Révolutions pour plus d'un Faust (Seuil, 1975)
• Souffles (Des femmes, 1975)
• Partie (Des femmes, 1976)
• La (Gallimard, 1976)
• Angst (Des Femmes, 1977)
• Anankè (Des femmes, 1979)
• Illa (Des femmes, 1980)
• Limonade tout était si infini (Des femmes, 1982)
• Le Livre de Prométhéa (Gallimard, 1983)
• Déluge (Des femmes, 1992)
• Beethoven à jamais ou l'Existence de Dieu (Des femmes, 1993)
• La Fiancée juive de la tentation (Des femmes, 1995)
• OR, les lettres de mon père (Des femmes, 1997)
• Osnabrück (Des femmes, 1999)
• Le Jour où je n'étais pas là (Galilée, 2000)
• Les Rêveries de la femme sauvage (Galilée, 2000)
• Manhattan (Galilée, 2002)
• Rêve je te dis (Galilée, 2003)
• Tours promises (Galilée, 2004)
• Rencontre terrestre, en collaboration avec Frédéric-Yves Jeannet (Galilée, 2005)
• L'Amour même : dans la boîte aux lettres (Galilée, 2005)
• Hyperrêve (Galilée, 2006)
• Si près (Galilée, 2007)
• Cigüe : vieilles femmes en fleurs (Galilée, 2008)
• Philippines : prédelles (Galilée, 2009)
• Ève s'évade : la ruine et la vie (Galilée, 2009)
• Double oubli de l'Orang-Outang (Galilée, 2010)
• Homère est morte (Galilée, 2014)
• Gare d'Osnabrük à Jérusalem (Galilée, 2016)

随筆ずいひつ・評論ひょうろん

• L’Exil de James Joyce ou l'art du remplacement (Grasset, 1968) -『ジェイムズ・ジョイスの亡命ぼうめい、あるいは代替だいたいの技法ぎほう』（博士はかせ論文ろんぶん、未み訳わけ）
• Prénoms de Personne (le Seuil, 1974)
• La Jeune Née (U.G.E., 1975)（邦訳ほうやく「新あたらしく生うまれた女おんな」―『メデューサの笑わらい』所収しょしゅう）
• Le Rire de la Méduse (L'Arc, 1975 - 再版さいはん Galilée, 2010)（邦訳ほうやく『メデューサの笑わらい』）
• Le sexe ou la tête ? (Les Cahiers du Grif, 1976)（邦訳ほうやく「去勢きょせいか斬首ざんしゅか」―『メデューサの笑わらい』所収しょしゅう）
• La Venue à l’écriture (U.G.E., 1977)（邦訳ほうやく「エクリチュールへの到達とうたつ」―『メデューサの笑わらい』所収しょしゅう）
• Entre l’écriture (Des femmes, 1986)
• L'Heure de Clarice Lispector (Des femmes, 1989)
• Karine Saporta, en collaboration avec Daniel Dobbels et Bérénice Reynaud, (Armand Colin, 1990)
• Hélène Cixous, photos de racines (avec Mireille Calle-Gruber, Des femmes, 1994)（邦訳ほうやく「エレーヌ・シクスー、ルーツを撮とる」（抜粋ばっすい）―『女おんなたちのフランス思想しそう』所収しょしゅう）
• Voiles (Galilée, 1998)（邦訳ほうやく『ヴェール』）- ジャック・デリダ共著きょうちょ
• Portrait de Jacques Derrida en jeune saint juif (Galilée, 2001)
• Le Voisin de zéro : Sam Beckett (Galilée, 2007)
• Entretien de la blessure, sur Jean Genet (Galilée, 2011)
• Abstracts et brèves chroniques du temps. I. Chapitre Los (Galilée, 2013)
• Ayaï ! Le Cri de la littérature (Galilée, 2013)
• Une autobiographie allemande (Christian Bourgois, 2016) - Cécile Wajsbrot共著きょうちょ
• Les Sans Arche d’Adel Abdessemed (Gallimard, 2018)

戯曲ぎきょく

• La Pupille (Cahiers Renaud-Barrault, 1971)
• Portrait de Dora (Des femmes, 1975)(オルセー劇場げきじょうで上演じょうえん)（邦訳ほうやく『ドラの肖像しょうぞう』）
• La Prise de l'école de Madhubaï (Avant-Scène, 1984)（邦訳ほうやく「盗賊とうぞくの女王じょおう (マデュバイ小学校しょうがっこう奪取だっしゅ)」―『ドラの肖像しょうぞう』所収しょしゅう）
• L’Histoire terrible mais inachevée de Norodom Sihanouk, roi du Cambodge (Théâtre du Soleil, 1985; 改訂かいてい版ばん 1987)
• L’Indiade, ou l’Inde de leurs rêves, et quelques écrits sur le théâtre (Théâtre du Soleil, 1987)
• Les Euménides d’Eschyle (traduction, Théâtre du Soleil, 1992)
• La Ville parjure ou le réveil des Erinyes (Théâtre du Soleil, 1994)（邦訳ほうやく『偽証ぎしょうの都市とし、あるいは復讐ふくしゅうの女神めがみたちの甦よみがえり』）
• Et soudain, des nuits d'éveil (Théâtre du Soleil, 1997)
• Tambours sur la digue, sous forme de pièce ancienne pour marionnettes jouée par des acteurs (Théâtre du Soleil, 1999)
• Rouen, la Trentième Nuit de Mai '31 (Galilée, 2001)
• Les Naufragés du fol espoir (Théâtre du soleil, 2010)
• Une chambre en Inde (Théâtre du Soleil共著きょうちょ, 2016)

関連かんれん項目こうもく

• フランスにおけるフェミニズム
• パリ第だい8大学だいがく (サン＝ドニ)

外部がいぶリンク

• Centre d’études féminines et d’études de genre - パリ第だい8大学だいがく女性じょせい学がくフェミニズム・ジェンダー研究所けんきゅうじょ