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オクタカルボニル二 に コバルト (英 えい : octacarbonyldicobalt ) とは、分子 ぶんし 式 しき が Co2 (CO)8 と表 あらわ されるコバルト の錯体 さくたい の一種 いっしゅ 。コバルトカルボニル 、二 に コバルトオクタカルボニル 、オクタカルボニルジコバルト 、ジコバルトオクタカルボニル とも称 しょう される。有機 ゆうき 金属 きんぞく 化学 かがく で試薬 しやく として用 もち いられ、関係 かんけい するいくつかの有機 ゆうき 合成 ごうせい 反応 はんのう が知 し られる[1] 。ヒドロホルミル化 か 反応 はんのう の触媒 しょくばい としても利用 りよう される[2] 。純度 じゅんど の高 たか い結晶 けっしょう は橙色 だいだいいろ で、空気 くうき 中 ちゅう に放置 ほうち すると褐色 かっしょく を帯 お び、さらに自然 しぜん 発火 はっか することがある。水素 すいそ と一酸化 いっさんか 炭素 たんそ の雰囲気 ふんいき 中 ちゅう では安定 あんてい である。水 みず に不溶 ふよう 。
オクタカルボニル二 に コバルトは、コバルト(II)の塩 しお を高 こう 圧 あつ の一酸化 いっさんか 炭素 たんそ と反応 はんのう させて合成 ごうせい される。その際 さい にシアン化物 ばけもの の塩 しお が添加 てんか されることがある。
炭酸 たんさん コバルト(II) へ水素 すいそ と一酸化 いっさんか 炭素 たんそ を加圧 かあつ して合成 ごうせい する方法 ほうほう も知 し られる[3] 。
2
CoCO
3
+
2
H
2
+
8
CO
⟶
Co
(
CO
)
8
+
2
H
2
O
+
2
CO
2
{\displaystyle {\ce {{2CoCO3}+ {2H2}+ 8CO -> {Co(CO)8}+ {2H2O}+ 2CO2}}}
オクタカルボニル二 に コバルトには構造 こうぞう 異性 いせい 体 たい が存在 そんざい する[4] 。よく知 し られた2例 れい は下 した 式 しき のような構造 こうぞう 式 しき で表 あらわ される。
オクタカルボニル二 に コバルトの異性 いせい 体 たい
結晶 けっしょう 中 ちゅう では右側 みぎがわ の、2個 こ のカルボニル配 はい 位 い 子 こ が2個 こ のコバルトをμ みゅー -架橋 かきょう した C 2v 対称 たいしょう 構造 こうぞう ((CO)3 Co(μ みゅー -CO)2 Co(CO)3 ) が優勢 ゆうせい であり、そこでは Co-Co 結合 けつごう の距離 きょり は 2.522-2.525 Å、架橋 かきょう カルボニルとコバルトの距離 きょり Co-CObridge は 1.883-1.949 Å、末端 まったん カルボニルとコバルトとの距離 きょり Co-COterminal は 1.770-1.818 Å と報告 ほうこく されている[5] 。この構造 こうぞう は Fe2 (CO)9 と似 に ており、比 くら べるとカルボニル架橋 かきょう が1個 いっこ 少 すく ないだけである。液 えき 相 しょう では式 しき の左側 ひだりがわ の非 ひ 架橋 かきょう 型 がた との異性 いせい 化 か が起 お こる。非 ひ 架橋 かきょう 型 がた ((CO)4 Co-Co(CO)4 ) はD 3d 対称 たいしょう 性 せい を持 も つ。
オクタカルボニル二 に コバルトは水素 すいそ と反応 はんのう して単 たん 核 かく のヒドリド錯体 さくたい へと分解 ぶんかい する。
Co
2
(
CO
)
8
+
H
2
⟶
2
HCo
(
CO
)
4
{\displaystyle {\ce {{Co2(CO)8}+ H2 -> 2HCo(CO)4}}}
このヒドリド錯体 さくたい はヒドロホルミル化 か の活性 かっせい 種 しゅ であり、アルケン に付加 ふか するとアルキルCo(CO)4 中 ちゅう 間 あいだ 体 たい を与 あた え、それからカルボニルが C-Co 結合 けつごう に挿入 そうにゅう 、水素 すいそ 化 か を受 う けアルデヒド となる。
カルボニルのいくつかを三 さん 級 きゅう ホスフィン で置 お き換 か えた
Co
2
(
CO
)
8
−
x
(
PR
3
)
x
{\displaystyle {\ce {Co2(CO)_{8-x}(PR3)_{x}}}}
の形 かたち の誘導体 ゆうどうたい は、ヒドロホルミル化 か 反応 はんのう を触媒 しょくばい するときにその立体 りったい 障害 しょうがい のためより高 たか い選択 せんたく 性 せい を示 しめ す。
アルカリ金属 きんぞく で還元 かんげん するとアニオン種 しゅ が発生 はっせい する。これは上 うえ のヒドリド錯体 さくたい の共役 きょうやく 塩基 えんき に相当 そうとう する。
Co
2
(
CO
)
8
+
2
Na
⟶
2
NaCo
(
CO
)
4
{\displaystyle {\ce {{Co2(CO)8}+ 2Na -> 2NaCo(CO)4}}}
オクタカルボニル二 に コバルトはアルキン と強 つよ い付加 ふか 体 たい を作 つく り活性 かっせい 化 か させる。その性質 せいしつ を利用 りよう して、アルキン とアルケン と一酸化 いっさんか 炭素 たんそ を縮 ちぢみ 合 あわ させてシクロペンテノン環 たまき を得 え るポーソン・カンド反応 はんのう や、プロパルギルアルコール のヒドロキシ基 もと を求 もとめ 核 かく 剤 ざい と置 お き換 か えるニコラス反応 はんのう の試薬 しやく として利用 りよう される。
ピリジン などルイス塩基 えんき の作用 さよう でオクタカルボニル二 に コバルトは分解 ぶんかい する。
6
pyridine
+
3
2
Co
2
(
CO
)
8
⟶
[
Co
(
pyridine
)
6
]
[
Co
(
CO
)
4
]
2
+
4
CO
{\displaystyle {\ce {{6{\mathit {pyridine}}}+3/2Co2(CO)8->\ {[Co({\mathit {pyridine}})6][Co(CO)4]2}+4CO}}}
加熱 かねつ すると一酸化 いっさんか 炭素 たんそ を放出 ほうしゅつ しながら四 よん 面体 めんてい 型 がた のクラスター
Co
4
(
CO
)
12
{\displaystyle {\ce {Co4(CO)12}}}
へと変 か わる。
オクタカルボニル二 に コバルト自身 じしん は揮発 きはつ 性 せい を持 も ち、また、分解 ぶんかい すると一酸化 いっさんか 炭素 たんそ を発生 はっせい させる。反応 はんのう 性 せい の高 たか さから空気 くうき 中 ちゅう では発火 はっか の危険 きけん 性 せい がある。通常 つうじょう は暗 くら 所 ところ で冷蔵 れいぞう 保存 ほぞん される。
^ Pauson, P. L. "Octacarbonyldicobalt" in Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis , Paquette, L. ed., J. Wiley & Sons, New York, 2004. DOI: 10.1002/047084289
^ Elschenbroich, C.; Salzer, A. ”Organometallics : A Concise Introduction” (2nd Ed) (1992) Wiley-VCH: Weinheim. ISBN 3-527-28165-7
^ Wender, I.; Sternberg, H. W.; Metlin, S.; Orchin, M. Inorg. Synth. 1957 , 5 , 190.
^ Sweany, R. L.; Brown, T. L. "Infrared spectra of matrix-isolated dicobalt octacarbonyl. Evidence for the third isomer" Inorg. Chem 1977 , 16 , 415-421. DOI: 10.1021/ic50168a037
^ Sumner, G. G.; Klug, H. P.; Alexander, L. E. "The crystal structure of dicobalt octacarbonyl" Acta Crystallographica 1964 , 17 , 732-742. DOI: 10.1107/S0365110X64001803