(Translated by https://www.hiragana.jp/)
グラウンド・エフェクト・カー - Wikipedia コンテンツにスキップ

グラウンド・エフェクト・カー

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

グラウンド・エフェクト・カー (ground effect car) とはレーシングカー一種いっしゅであり、車体しゃたい下面かめん地面じめんあいだながれる空気くうきりゅう利用りようしてダウンフォース下向したむきのちから)を獲得かくとくすることを目的もくてき設計せっけいされたくるまをさす。名称めいしょう航空こうくう工学こうがく用語ようごの「グラウンド・エフェクト(地面じめん効果こうか)」に由来ゆらいする[1]。その性質せいしつじょう公道こうどうじょうはしくるまにはその性能せいのう一部いちぶしかもちいられていない。近年きんねん日本にっぽんのレース雑誌ざっしなどは「グラウンドエフェクトカー」という名称めいしょう使つかっているが、以前いぜんは「グランドエフェクトカー」や「ウイングカー」とぶのが一般いっぱんてきだった。

概要がいよう

[編集へんしゅう]

レーシングカーをはじめとする自動車じどうしゃは、高速こうそく走行そうこうするという基本きほんてき目的もくてきのために空気くうき抵抗ていこうらすことが要求ようきゅうされる。そのためにおおくの場合ばあいながれせんかた(ストリームライン)にデザインされているが、このような形状けいじょう物体ぶったい低速ていそくではその効果こうかひく高速こうそく移動いどうすることによってその効果こうか発揮はっきしはじめる。この場合ばあい速度そくどがるにつれて同時どうじ容易ようい揚力ようりょく発生はっせいするため、タイヤの接地せっちりょく減少げんしょうしてしまうこととなる。その結果けっかとして、エンジンの駆動くどうりょく効率こうりつよく地面じめんつたえられないだけではなく、直進ちょくしん安定あんていせい低下ていかするとともに、ステアリングの制御せいぎょ制動せいどう低下ていかするために自動車じどうしゃもとめられる「がる」という機能きのうについては顕著けんちょとなり、コーナー(カーブ)の旋回せんかい速度そくどげざるをえない[注釈ちゅうしゃく 1]

1960年代ねんだい後半こうはん以降いこうのレーシングカーは、車体しゃたい前後ぜんごにウイングをもうけたり、くさびがた(ウェッジシェイプ)ボディにすることで揚力ようりょく発生はっせいふせぎ、ダウンフォースを設計せっけいへとわっていった。ウイングや車体しゃたい形状けいじょうつよいダウンフォースをると、そのぶん空気くうき抵抗ていこう(ドラッグ)がえ、最高さいこうそくちるが、タイヤの接地せっちりょくたかまることでコーナーの進入しんにゅう速度そくど旋回せんかい速度そくどげることができ、結果けっかとしてサーキット1しゅうのタイムは向上こうじょうする場合ばあいおおい。

グラウンド・エフェクト・カーはそらりょく付加ふかぶつ車体しゃたい表面ひょうめん追加ついかすることなく、この方向ほうこうせい極限きょくげんまで追求ついきゅうしたものとえる。概念がいねんとしては、航空機こうくうきあるじつばさによる揚力ようりょく発生はっせい原理げんりぎゃくき(地面じめんき)に応用おうようしたもので、連続れんぞく方程式ほうていしきだん面積めんせきせまければ流体りゅうたい速度そくどがる)とベルヌーイの定理ていり流体りゅうたい速度そくどがれば圧力あつりょくがる)を利用りようしている。

定義ていぎ

[編集へんしゅう]

グラウンド・エフェクト・カーには広義こうぎ狭義きょうぎの2つの意味いみがある。

狭義きょうぎのグラウンド・エフェクト・カー
ボディりょうわきサイドポンツーン下面かめんに、ベンチュリ構造こうぞうつ(ディフューザーのがりが、こう最前さいぜんめんより前方ぜんぽうからはじまる)ものをす。ウイング・カー[2] (wing car) 、ベンチュリ・カー[2] (venturi car) といいかえられるのはこちらのほうであり、このページでも基本きほんてきにはこちらをす。
広義こうぎのグラウンド・エフェクト・カー
ボディ底面ていめんにアンダーパネルを装備そうびし、ゆるいベンチュリ構造こうぞうにした車両しゃりょう改造かいぞうゆるされないストックカーのぞき、現代げんだいおおくのレーシングカーはボディ底面ていめんとく後部こうぶ底面ていめん)にアンダーパネルをけており、ほとんどの車両しゃりょう該当がいとうする。

基本きほん構造こうぞう

[編集へんしゅう]
ロータス・79れいとした図解ずかい(1)

ボディりょうわきサイドポンツーン下面かめんは、前部ぜんぶ地面じめんちかく、後方こうほうかうにしたがってスロープじょうがるベンチュリかん形状けいじょう整形せいけいされている。

ロータス・79をれいとした図解ずかい(2)

走行そうこうちゅう、サイドポンツーンのしたながんだ気流きりゅうせま空間くうかん加速かそくし、地面じめんとのあいだつよあつ発生はっせいする。部分ぶぶんでは徐々じょじょ圧力あつりょくたかまり、気流きりゅう後方こうほうして前部ぜんぶあつ発生はっせい助長じょちょうする。あつにより車体しゃたい地面じめん方向ほうこうせられると、タイヤも地面じめんつよけられ、通常つうじょう車両しゃりょうくらべて圧倒的あっとうてきたか旋回せんかい速度そくどでコーナーを通過つうかできる。車速しゃそく(=気流きりゅう流速りゅうそく)が上昇じょうしょうするほどダウンフォース発生はっせいりょう増加ぞうかするため、低速ていそくコーナーよりも高速こうそくコーナーにおいて効果こうかがより顕著けんちょとなる。

発生はっせいするダウンフォースはくるまおも以上いじょうすうトンにもおよ[3]通常つうじょうのウイングにくらべて抗力こうりょく発生はっせいりつすくないため、最高さいこうそくへの影響えいきょうおさえることができる。

歴史れきし

[編集へんしゅう]

前史ぜんし

[編集へんしゅう]

グラウンド・エフェクトが最初さいしょ注目ちゅうもくされたのはサーキットレースではなく、ちょく線路せんろ速度そくど記録きろく挑戦ちょうせんするレコードカーの分野ぶんやであった。目的もくてきもコーナリング性能せいのうではなく、高速こうそく走行そうこうちゅう車体しゃたいうわがりをおさ駆動くどうりょくかせ目的もくてきだった。

1928ねん、フランスの技術ぎじゅつしゃルネ・プレヴォが『ジ・オートモビル・エンジニア』寄稿きこうした記事きじなかで、アンダーボディ全体ぜんたいぎゃくつばさがたとしたレコードカーのデザインあん紹介しょうかいされた。プレヴォは"The Underneath is noting more than a Venturi tube"(下面かめんはベンチュリかん以外いがいなにぶつでもない)としるしていた[4]記事きじ掲載けいさいされた図面ずめん風洞ふうどう実験じっけん模型もけいをコンピュータじょう再現さいげんし、CADきゃど/CFDシミュレーションをおこなってみたところ、80 mphやく128 km/h)で76 kg、120 mph(やく193 km/h)で172 kg、200 mph(やく321 km/h)で495 kgのダウンフォースが計測けいそくされた[5]。さらにノーズ形状けいじょう修正しゅうせいした場合ばあい、ダウンフォースが44%ほどえるとの試算しさんられた[5]

1938ねんアウトウニオン開発かいはつしたアウトウニオン・タイプCレコードカーは、ストリームラインボディの下面かめんをプレヴォのデザインあんのようなベンチュリ構造こうぞうとしていた。

アウトバーンおこなった記録きろくかいでは429.9 km/hというスピードを記録きろく、しかしその計測けいそくでクラッシュし、ドライバーのベルント・ローゼマイヤー死亡しぼうした[6]

プロトタイプ

[編集へんしゅう]

1970ねん登場とうじょうしたCan-Amプロトタイプカーシャパラル・2Jは、2のファンで空気くうき強制きょうせいてきすことで車体しゃたい下面かめんあつ発生はっせいさせ、驚異きょういてきなコーナリング性能せいのう発揮はっきした[7]。この「ファン・カー」は物議ぶつぎかもし、そらりょく部品ぶひん可動かどう禁止きんし規定きてい違反いはんするとして使用しよう禁止きんしとなった。

おなじ1970ねんにはF1マシン、マーチ・701りょうサイドにぎゃくつばさめん形状けいじょう燃料ねんりょうタンクを配置はいちしたが、成功せいこうにはいたらなかった。BRMトニー・ラッド英語えいごばんピーター・ライトもこのたねのウイングの実験じっけんおこない、ふたりはロータス移籍いせきしてから本格ほんかくてき研究けんきゅうおこなった。インペリアルカレッジ風洞ふうどう縮尺しゅくしゃくモデルを実験じっけんしたさい、サイドポンツーンがずりちたとき異常いじょう数値すうちのダウンフォースを記録きろくしたことから、ウイング構造こうぞう気密きみつせいかぎになることを発見はっけんした[8]

最盛さいせい

[編集へんしゅう]
グラウンド・エフェクト・カーの流行りゅうこうんだロータス・78

1977ねん登場とうじょうしたロータス・78はグラウンド・エフェクト・カーの最初さいしょ成功せいこうさくとなった[9]当初とうしょ、ライバルチームや記者きしゃはロータス・78のサイドポンツーンがわにつけられていたブラシがいったいなに意味いみするのか、だれ理解りかいできなかった。それはここにウイング構造こうぞうかくされていることがからないかぎ理解りかいできない構造こうぞうであった[注釈ちゅうしゃく 2]1978ねんロータス・79はより完成かんせいし、マリオ・アンドレッティF1世界せかいチャンピオンとなった。

グラウンド・エフェクトのアイデアはのチーム(マシン)にも急速きゅうそく浸透しんとうし、当時とうじのF1かいではグラウンド・エフェクトをもちいなければつことが困難こんなんとなった[2]気密きみつせい確保かくほのため、ブラシにわり路面ろめん追従ついしょうする可動かどうしきサイドスカートが登場とうじょう[注釈ちゅうしゃく 3]、フロントウイングが車体しゃたい下面かめんへの気流きりゅう邪魔じゃまになるとして、はずしてしまうケースもあった。ウイング構造こうぞうたもつサイドポンツーンなど、車体しゃたいシャーシ全体ぜんたいたか剛性ごうせいちダウンフォースをけても容易ようい変型へんけいしないことが重要じゅうようとなり、アルミハニカムプレートせいのシングルスキンモノコックカーボンファイバーせいモノコック、プルロッド(プッシュロッド)サスペンションなどの技術ぎじゅつ普及ふきゅうすることになった。

しかしグラウンド・エフェクトの問題もんだいてん後述こうじゅつ)に起因きいんするとられる事故じこ多発たはつ[注釈ちゅうしゃく 4]、これを禁止きんし、あるいは制限せいげんするうごきもあらわれた。このうごきはFISA英語えいごばんたいFOCA政治せいじ闘争とうそうからい、反対はんたいのFISAけいチーム(ターボエンジンユーザー)と許容きょようのFOCAけいチーム(フォードDFVエンジンユーザー)の対立たいりつまねいた[11]

1981ねんには、サイドスカートを固定こていしき制限せいげんし、下部かぶ地面じめんあいだに6 cm以上いじょう間隔かんかくけることが義務付ぎむづけられた[11]。スカートを地面じめん接触せっしょくさせることを禁止きんしし、グラウンド・エフェクトをよわめることがねらいだったが、停車ていしゃ状態じょうたいでの車検しゃけん検査けんさされるだけだったため、ルールのみちさがすものもあらわれた[11]

ロータス・88
車体しゃたいを2じゅう構造こうぞうにした「ツインシャーシ」を採用さいようした[12]停車ていしゃ状態じょうたいでは車体しゃたいのどこも地面じめん接触せっしょくしていないが、ある程度ていどのスピードではしりダウンフォースが発生はっせいはじめると、2じゅう車体しゃたい一方いっぽう地面じめんがって路面ろめん接触せっしょくし、可動かどうスカートが存在そんざいするのとおな状態じょうたいになる。グラウンド・エフェクトの追求ついきゅうによるサスペンションの硬化こうかポーポイズ現象げんしょう解決かいけつし、ドライバビリティを向上こうじょうさせる機構きこう発表はっぴょうされたが、チームから抗議こうぎがあったことや、「そらりょく装置そうち可動かどう不可ふか」という規制きせい抵触ていしょくすることから禁止きんしされた。
ブラバム・BT49C
くるまだか調整ちょうせいようのガスシリンダーをそなえた「ハイドロニューマチック・サスペンション機構きこう搭載とうさいした[12]。ピットインにはくるまだかげて車検しゃけん対応たいおうさせ、走行そうこうにはダウンフォースで空気くうきばねちぢんでサイドスカートを地面じめん接触せっしょくさせ、グラウンド・エフェクトをるものであった。どう機構きこうチームも次々つぎつぎ採用さいようしたことから、サイドスカートの接触せっしょく禁止きんしした規制きせい意味いみさなくなり、シーズンまつにはスカートの可動かどうが3 cmまで許可きょかされた。

規制きせい期間きかん

[編集へんしゅう]

1982ねんにはジル・ヴィルヌーヴ事故死じこしや、ディディエ・ピローニだい事故じこによる引退いんたいなどがかさなり、国際こくさい自動車じどうしゃ連盟れんめい同年どうねん12がつしん車輌しゃりょう規定きてい導入どうにゅう決定けっていした。1983ねんより「フロントタイヤの後端こうたんからリアタイヤのぜんはしまでの車体しゃたい底面ていめん平面へいめんでなければならない」とするフラットボトム規定きてい施行しこうされ、事実じじつじょうグラウンド・エフェクト・カーは参加さんかできなくなった[13]

フラットボトム規定きてい導入どうにゅう、シャシー後部こうぶそこげたディフューザー構造こうぞうにすることで、限定げんていてきではあるがグラウンド・エフェクトをることが可能かのうとなった[14]。そのシャシー後部こうぶのディフューザー設置せっちにも制限せいげんもうけられたため、ギヤボックスケースをディフューザー形状けいじょうにすることでグラウンド・エフェクトをようとするようになっている。サイドポンツーン部分ぶぶんそこげるステップドボトムへと規制きせいきびしくなった現在げんざいでも、この構造こうぞう使用しようされている。

40ねんぶりに解禁かいきん

[編集へんしゅう]
2022ねんレギュレーション規定きてい準拠じゅんきょしたFIA製作せいさくのデモカー

2022ねんシーズンからの車体しゃたいレギュレーション改定かいていにて、グラウンドエフェクト構造こうぞう大幅おおはば規制きせい緩和かんわされ、1982ねん以来いらい40ねんぶりに事実じじつじょう解禁かいきんになった[15]

試行錯誤しこうさくごするなかで、とく初年度しょねんどからかくチーム共通きょうつうしてなやまされたのが走行そうこうちゅうの「ポーポイズ現象げんしょう」であった。さくシーズンまでコンストラクターズ8連覇れんぱ圧倒あっとうほこっていたメルセデスF1チームは、この対策たいさく苦慮くりょチームの後塵こうじんはいするなど勢力せいりょくすくなからずの変動へんどうしょうじている[16][17][18]

そののカテゴリ

[編集へんしゅう]
後方こうほうからポルシェ・962車体しゃたい底面ていめんおくにグラウンド・エフェクトようのスロープがられる。ギアボックスとリアタイヤは気密きみつのためカバーされている。

F1におけるグラウンド・エフェクト・カーの流行りゅうこうグループCなどのほかのカテゴリにも伝播でんぱし、F1での禁止きんし使用しようされた。グループCマシンはフルカウルボディの下面かめんをウイング構造こうぞう使つかうことができ(ただしコクピット底面ていめんに1000×800mmのフラットボトムが必要ひつよう[19])、エンジンやギアボックスをななめに配置はいちしてスペースをひろげたれいもある[注釈ちゅうしゃく 5]ポルシェ・956はフロントのアンダーパネル下面かめんに「ポルシェ・ハンプ」とばれるへこみをもうけ、ベンチュリの容積ようせき変化へんかさせることでフロントのダウンフォースを増強ぞうきょうした。

アメリカのオープンホイールレーシングにおいてはグラウンド・エフェクト・カー構造こうぞうのシャシがながらく使つかわれており、インディカー・シリーズではグラウンド・エフェクト・カーが使つかわれている。しかし、1982ねんこったインディ500でのゴードン・スマイリー死亡しぼう事故じこは、グラウンド・エフェクト・カー特有とくゆうのハンドルのおもさや、マシンの挙動きょどう実際じっさい操作そうさよりもおくれる特性とくせい原因げんいんといわれている。そのため現行げんこうシャシーのベンチュリ構造こうぞう小型こがたなものになっている。

近年きんねんではフォーミュラカー安全あんぜんせいおおきく向上こうじょうしたこと、レーシングカーのそらりょくかんする研究けんきゅうすすんだことなどを背景はいけいに、「フラットボトムのマシンよりも開発かいはつ容易よういで、かつとき車両しゃりょう姿勢しせいみだれがすくない」などの理由りゆうでグラウンド・エフェクト・カーを見直みなおうごきもつよまっており、1998ねんにはコローニワールドシリーズ・バイ・ニッサンにグラウンド・エフェクト・カーの構造こうぞうれたCN1英語えいごばん投入とうにゅう2002ねんには1997ねん以降いこうインディカーでグラウンド・エフェクト・カーのノウハウをつちかってきたダラーラいでSN01英語えいごばん投入とうにゅう、そのフォーミュラ・ルノー3.5となった現在げんざいT12英語えいごばんまでグラウンド・エフェクト・カーを採用さいようつづけている。3ねん2005ねん発足ほっそくしたGP2もそれに追従ついしょうするようにカテゴリ発足ほっそく当初とうしょからダラーラせいのグラウンド・エフェクト・カーを採用さいよう、ダラーラはそのGP3など、おおくのカテゴリでグラウンド・エフェクト・カーを導入どうにゅうしている。また、ローラもかねてからチャンプカーでグラウンド・エフェクト・カーを使用しようしていたが、ヨーロッパにおいても2005ねんA1グランプリよう開発かいはつしたB05/52英語えいごばんからグラウンド・エフェクト・カーへとえており、その現在げんざいAUTO GPまで継続けいぞくしている。この結果けっか後述こうじゅつ日本にっぽんでの場合ばあいふくめて現在げんざいではきゅうF3000きゅう以上いじょうにおいてはF1をのぞすべてのフォーミュラカー・レースでグラウンド・エフェクト・カーが使用しようされることになった。ダラーラはさらフォーミュラ3においても、2017ねんからヨーロッパ・フォーミュラ3選手権せんしゅけん全日本ぜんにほんF3選手権せんしゅけんにグラウンド・エフェクト・カーであるF317英語えいごばん投入とうにゅうしている。

ダラーラ・DW12のアンダーボディ形状けいじょう(2015ねんインディ500)

安全あんぜんせい対策たいさくとしての研究けんきゅうすすんでおり、インディカー・シリーズで2012ねんから使用しようされているダラーラ・DW12英語えいごばんでは、モノコック下面かめんにカマボコじょう構造こうぞうぶつ設置せっちすることにより、スピンなどで横向よこむきになったさいもダウンフォースが発生はっせいするようにデザインされている。これにより、マシンががるなどだい事故じこにつながる要因よういんらすことができるとしている。

日本にっぽん

[編集へんしゅう]

日本にっぽん国内こくないレースでは、1983ねん富士ふじグランチャンピオンレースで、高橋たかはしとおるのマシンがスピンしたのちちゅうがり、観客かんきゃくせきのフェンスに激突げきとつ高橋たかはし事故死じこしし、まれた観客かんきゃく死傷ししょうするというだい事故じこ発生はっせいしている。これはグラウンド・エフェクト・カーが高速こうそくうしきにはしると、条件じょうけんによってダウンフォースとはまったぎゃくちから発生はっせいするためとかんがえられている。高橋たかはしとおる事故じこまえにも佐藤さとう文康ふみやす同様どうよう事故じこ死亡しぼうし、松本まつもと恵二けいじがマシンぜんそんのクラッシュに見舞みまわれるなど同種どうしゅ事故じこ発生はっせいしており、日本にっぽんのレースかいでもグラウンド・エフェクト・カーの危険きけんせい指摘してきされていた。結果けっか日本にっぽんレースかいでもグラウンド・エフェクト・カーは一時いちじ禁止きんしされることになった。

2006ねんからフラットボトム規定きてい改定かいていによりフォーミュラ・ニッポンでもグラウンド・エフェクト・カー構造こうぞうローラ・B06/51導入どうにゅうされる。2009ねんより導入どうにゅうされたFN09(スウィフト・017.n)は近年きんねんではめずらしくなったトンネル構造こうぞうったグラウンド・エフェクト・カーであった(スウィフト・エンジニアリングCARTアトランティック・チャンピオンシップ継続けいぞくてきにグラウンド・エフェクト・カーを提供ていきょうしていたほか、グラウンド・エフェクト・カーがわれる危険きけんせいにも否定ひていてき立場たちばをとっている[20])。2014ねん導入どうにゅうダラーラ・SF14でもグラウンド・エフェクト・カーである。このながれは2019ねん導入どうにゅうダラーラ・SF19でも継続けいぞくされることとなっている。

問題もんだいてん

[編集へんしゅう]

ダウンフォース喪失そうしつ危険きけんせい

[編集へんしゅう]

グラウンド・エフェクトはサイドポンツーンの形状けいじょうだけではなく、サイドポンツーン下面かめん地面じめんとのあいだ空間くうかん外界がいかい遮断しゃだんされ、じた状態じょうたいになっていることにつよ依存いぞんする。そのためかつてのグラウンド・エフェクト・カーは、サイドポンツーンのよこ可動かどうしき硬質こうしつスカートそなえ、スカートを地面じめん接触せっしょくさせて空気くうき流入りゅうにゅう遮断しゃだんしていた。つまり車体しゃたい一部いちぶ地面じめんにたらし、ガリガリときずりながらはしっているということになる[注釈ちゅうしゃく 6]

スカートによる空気圧くうきあつ遮断しゃだんなんらかの原因げんいんによって阻害そがいされると、ダウンフォースが急激きゅうげきうしなわれ、マシンは非常ひじょう危険きけん状態じょうたいとなる。グラウンド・エフェクトが発揮はっきされている場合ばあい、タイヤのグリップりょく飛躍ひやくてきたかまり、車両しゃりょう横滑よこすべりしにくくなるため、コーナーリングにも速度そくどをそれほどとさないで[22]。これがグラウンド・エフェクト・カーの最大さいだい利点りてんであるが、その状態じょうたいでグラウンド・エフェクトがうしなわれると車両しゃりょう高速こうそく横滑よこすべりしてコースアウトし、はげしくクラッシュする(事故じここす)可能かのうせいたかい。コーナーリングのみならずストレート走行そうこうであっても、グラウンド・エフェクト効果こうかうしなわれた場合ばあい車両しゃりょうはしばしばコントロール不能ふのうとなる。場合ばあいによっては車両しゃりょうちゅううこともあるなど、ドライバーのみならずコースマーシャル観客かんきゃくをも事故じこ危険きけんせいつ。

ただし、後述こうじゅつするように現在げんざいのグラウンド・エフェクトカーは地面じめん接触せっしょくするようなながいスカートが使用しようされることはまずないため、この問題もんだい過去かこのものとなっている。

ポーポイジングの危険きけんせい

[編集へんしゅう]

グラウンド・エフェクトの弊害へいがいとしては車体しゃたいピッチング車体しゃたい前部ぜんぶ後部こうぶはげしく上下じょうげさぶられること)を増幅ぞうふくさせてしまうポーポイズ現象げんしょう(ポーポイジング)もげられる。これは加減かげんそく路面ろめん凹凸おうとつなどで車体しゃたい上下じょうげ振動しんどうしたさいに、グラウンド・エフェクトの変化へんか車体しゃたい上下動じょうげどう増幅ぞうふくすることできる。くるまだかたかくなるとダウンフォースはよわまり、ひくくなると急激きゅうげきつよまり、さらに路面ろめん接触せっしょくするほどひくくなると気流きりゅう阻害そがいされダウンフォースは突如とつじょ消失しょうしつする。これにより、車体しゃたい前後ぜんこう上下じょうげ振動しんどうみじかいサイクルではげしくかえされる状態じょうたいとなり、そのサイクルのタイミングによっては動作どうさ増幅ぞうふくされやがてはげしいピッチングをこす。

この現象げんしょうはじまりそらりょく・サスペンションの制動せいどう性能せいのうえて前輪ぜんりんがるほどの状況じょうきょうになると、流入りゅうにゅうする大量たいりょう空気くうきにより車体しゃたいげられてしまう。前輪ぜんりんがりはウイングとうそらりょく装備そうび無効むこうがわ接地せっちあつ消失しょうしつさせ、すうひゃくkgの重量じゅうりょうをもつ車体しゃたいといえどもなすすべなくちゅううことになる。

この現象げんしょう顕著けんちょれいとして1999ねんル・マン24あいだレース出場しゅつじょうしたメルセデス・ベンツ・CLR事故じことうレースにおいて、はげしいピッチングのすえ車体しゃたい前部ぜんぶからがりちゅうい、だいクラッシュをこした)がよくげられるが、このくるまはディフューザーこそそなえていたものの本質ほんしつてきにはフラットボトム・カーであり、狭義きょうぎのグラウンド・エフェクト・カー(ウイングカー)の危険きけんせいというよりは、前輪ぜんりんいたときに後部こうぶ空気くうきみちくなるフラットボトム・カーであるがゆえ車体しゃたいした空気くうきんでしまうことががった原因げんいんであるとえる[20]

操縦そうじゅうしゃへの負担ふたん

[編集へんしゅう]

グラウンド・エフェクト・カーには非常ひじょうつよ下向したむきのちからがかかるため、サスペンションのスプリングレート(ばねのかたさ)を極端きょくたんたか設定せっていしなければならない。またサイドスカートが地面じめんからはなれないよう、サスペンションが作動さどうするはばみじか制限せいげんする必要ひつようがある。つまりサスペンションがいにひとしい状態じょうたいとなる。ポーポイジングの解消かいしょうも、スプリングレートの増加ぞうかによっておこなわれる場合ばあいおおい。その結果けっか、ドライバーの身体しんたいには、路面ろめんからの衝撃しょうげきがほとんど直接ちょくせつつたわってしまうという過酷かこく状況じょうきょうまれてしまった。グラウンド・エフェクト、ターボ時代じだいのF1世界せかいチャンピオンのニキ・ラウダは「グラウンド・エフェクト・カーはドライバーのテクニックの巧拙こうせつではなく、高速こうそくのままコーナーにめるかどうかの蛮勇ばんゆうわれるだけ。身体しんたいにかかる負担ふたんおおきく、非常ひじょう危険きけんで、人間にんげんてき」とはげしく非難ひなんしていた。

グラウンド・エフェクト・カーを誕生たんじょうさせたロータスの総帥そうすいコーリン・チャップマンも、サスペンションの機能きのう不全ふぜん憂慮ゆうりょしていた。ロータス・88使用しよう禁止きんしにもめげず、アクティブサスペンション開発かいはつすすめさせたが、装置そうち実用じつよう見届みとどけることなく、1982ねん12月に急逝きゅうせいした。

また、ウイングの面積めんせき最大さいだいするため、従来じゅうらい扁平へんぺいがたのモノコックにわり細身ほそみのモノコックが採用さいようされ、燃料ねんりょうタンクもサイドポンツーン内部ないぶからコクピット後方こうほう移設いせつされた。このため、ドライバーシートは前方ぜんぽう移動いどうし、両脚りょうきゃくはフロントノーズの先端せんたんちかくに位置いちするようになり、事故じこさい負傷ふしょうする危険きけんせいたかまった。

のちにフットボックスの寸法すんぽう規定きてい導入どうにゅうされたが、そらりょくてき効率こうりつ優先ゆうせんするためドライバーが窮屈きゅうくつ着座ちゃくざ姿勢しせいいられるという状態じょうたいは、現在げんざいいたるまでわっていない。

技術ぎじゅつ特殊とくしゅせい

[編集へんしゅう]

硬質こうしつスカート地面じめんにたらし、ガリガリときずりながらはしるというのは、さまざまな路面ろめん条件じょうけん走行そうこうする一般いっぱんしゃには絶対ぜったい採用さいようできないことを意味いみする。これは自動車じどうしゃレース(モータースポーツ)の社会しゃかいてき存在そんざい意義いぎ抵触ていしょくするという見方みかた存在そんざいする。なお、現在げんざいグラウンド・エフェクトカーが使つかわれているカテゴリーのほとんどが、アンダーフロア木製もくせいあるいはプラスチックせいいたである「スキッドブロック」の装着そうちゃく義務付ぎむづけている。スキッドブロックは走行そうこうちゅう路面ろめん接触せっしょくすることですりるため、レースにそのあつみを計測けいそくすることによって路面ろめんとの過剰かじょう接触せっしょく規制きせいするものである。

注釈ちゅうしゃく

[編集へんしゅう]
  1. ^ いわゆるコーナリングフォース低下ていか遠心えんしんりょくこうしきれないため。
  2. ^ ロータス陣営じんえいはウイングの秘密ひみつかくすため、ドライバーにえてペースをおさえて走行そうこうするよう指示しじしたほどだった。
  3. ^ 可動かどうしきサイドスカートをはつ採用さいようしたのはウルフ・WR5ハーベイ・ポスルスウェイト設計せっけい)で、ロータス・79もこの方式ほうしき採用さいようした。
  4. ^ 1980ねんアルファロメオパトリック・デパイユがテストちゅう事故死じこしした[10]さいには、ウイング構造こうぞうのトラブルが事故じこ原因げんいんうわさされた。
  5. ^ F1ではアロウズ・A2がリアセクションをななめに10 cmげた。2010ねんフェラーリ・F10手法しゅほうでマルチディフューザーを設計せっけいした。
  6. ^ 最初さいしょのグラウンド・エフェクト・カーであるロータス78では、コースごとの環境かんきょうのない変化へんか吸収きゅうしゅうする方法ほうほうとしてブラシもちいて遮断しゃだんおこなっていたが十分じゅうぶんではなく、隙間すきまのない、硬質こうしつのスカートが採用さいようされることになった[21]

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ Racing on 2016, p. 11.
  2. ^ a b c Racing on 2016, p. 9.
  3. ^ ゆらたく モータースポーツじゅくだい2かい 魔法まほうちから・ダウンフォース
  4. ^ Charles Armstrong-Wilsonちょ 大谷おおや達也たつや/Littele Wingやく 「グラウンド・エフェクトのかくされた歴史れきし」『カーグラフィック 2012ねん4がつごう』 カーグラフィック、2012ねん、p.167。
  5. ^ a b Charles Armstrong-Wilsonちょ 大谷おおや達也たつや/Littele Wingやく 「グラウンド・エフェクトのかくされた歴史れきし」、p.171。
  6. ^ Golden Era of Grand Prix - BERND ROSEMEYER
  7. ^ Racing on 2016, pp. 50–51.
  8. ^ Racing on 2016, pp. 32–34.
  9. ^ Racing on 2016, 1978-1982 つばさ断面だんめんマジック盛衰せいすい; Racing on 2016, TEAM LOTUS 先駆せんくしゃ栄光えいこう蹉跌さてつ.
  10. ^ Racing on 2016, p. 13.
  11. ^ a b c Racing on 2016, p. 18.
  12. ^ a b Racing on 2016, p. 20.
  13. ^ Racing on 2016, p. 21.
  14. ^ Racing on 2016, p. 12.
  15. ^ 2022はんF1マシンはすべてがガラリとわった。うわさの「グラウンドエフェクトカー」のメリット、デメリットとは?”. 集英社しゅうえいしゃSportiva (2022ねん3がつ7にち). 2022ねん4がつ24にち閲覧えつらん
  16. ^ メルセデス、依然いぜんポーパシングにくるしむ。ウルフ代表だいひょう普通ふつうならドライブできない状況じょうきょう”. motorsport.com (2022ねん4がつ23にち). 2022ねん4がつ24にち閲覧えつらん
  17. ^ メルセデスW13は失敗しっぱいさっか? 今後こんご大幅おおはばモデファイで はやさをもどすことができるのか検証けんしょうした”. ベストカーweb (2022ねん5がつ5にち). 2022ねん5がつ6にち閲覧えつらん
  18. ^ 根深ねぶかいメルセデスW13の問題もんだい……解決かいけつおもったら再発さいはつつづきに開発かいはつがわも「心底しんそこガッカリ」”. motorsport.com (2022ねん10がつ12にち). 2022ねん11月26にち閲覧えつらん
  19. ^ 『レーシングオン・アーカイブス Vol.08』三栄書房さんえいしょぼう、2014ねん2がつ21にち 
  20. ^ a b https://web.archive.org/web/20160529043150/https://sites.google.com/site/fnarchive2010/2010fn/round3fuji/kikaku/6-suu-ifutokara-no-tegami---u-ingukano-anzen-sei 6)スウィフトからの手紙てがみ--ウィングカーの安全あんぜんせい(6/25更新こうしん)] - RACING VIEWS 2010ねん6がつ25にち
  21. ^ Racing on 2016, p. 14.
  22. ^ Racing on 2016, p. 19.

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • 特集とくしゅう ウィングカーの時代じだい」『Racing onだい483かん、2016ねん7がつ、6-96ぺーじ 

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]