シャクンタラー (戯曲ぎきょく)

『シャクンタラー』は、インドのカーリダーサによる戯曲ぎきょく。正式せいしきな題名だいめいは『アビジュニャーナ・シャークンタラ』（サンスクリット: अभिज्ञानशाकुन्तल Abhijñānaśākuntala 「思おもえ出での品しなにより回復かいふくされたシャクンタラー」）。

カーリダーサの戯曲ぎきょくとしてもっとも有名ゆうめいであるだけでなく、サンスクリット劇げきの最大さいだい傑作けっさくと認みとめられており、また西洋せいように紹介しょうかいされた最初さいしょのサンスクリット文学ぶんがくのひとつであった。

概要がいよう

カーリダーサの戯曲ぎきょくは『マハーバーラタ』に登場とうじょうするシャクンタラーの物語ものがたりをもとにしている。マハーバーラタの挿話そうわにおいて、ドゥフシャンタ王おうは、シャクンタラーを拒絶きょぜつした理由りゆうとして「彼女かのじょの言葉ことばだけで彼女かのじょと息子むすこを受うけ入いれれば人々ひとびとの間あいだに疑惑ぎわくが生しょうじる」と弁明べんめいしているが、不条理ふじょうりで説得せっとく力りょくに欠かける。また、唐突とうとつにあらわれた天てんの神かみの一声いっせいで、王おうの態度たいどが急変きゅうへんして、物語ものがたりが強引ごういんに収束しゅうそくしてしまう（デウス・エクス・マキナ）。

グプタ朝あさ時代じだいの詩人しじんカーリダーサは、この点てんが不満ふまんだったようで、新あらたに「思おもい出での指輪ゆびわ」と「仙人せんにんの呪のろい」のモチーフを導入どうにゅうして因果いんが関係かんけいを作つくり出だすことで、王おうの言動げんどうに必然ひつぜん性せいを持もたせ、叙情じょじょう的てきで美うつくしい7幕まくの戯曲ぎきょく『アビジュニャーナ＝シャークンタラ』（「指輪ゆびわによって思おもい出だされたシャクンタラー」）に改作かいさくした。 この作品さくひんは、公用こうよう語ごとされはじめた時代じだいのサンスクリット語ごで書かかれており、サンスクリット語ご文学ぶんがくの代表だいひょう作さくである。

あらすじ

あるとき、プール家かの血ちを引ひくドゥフシャンタ王おうは、鹿しか狩かりの最中さいちゅうにカンヴァ仙せんの苦行くぎょう林りんに迷まよい込こみ、そこでカンヴァ仙せんの養女ようじょであるシャクンタラーに出会であい、一目惚ひとめぼれしてしまう。シャクンタラーに魅みせられた王おうは、彼女かのじょに恋心こいごころを打うち明あけることもできず、王宮おうきゅうに帰かえる気きにもなれず、苦行くぎょう林りんの近ちかくに住すみ着ついてしまう。

王宮おうきゅうに帰かえらずに、苦行くぎょう林りんで悪魔あくま退治たいじなどをしていた王おうは、シャクンタラーが病やまいに伏ふせていることを知しる。彼女かのじょの病やまいの原因げんいんが自身じしんに対たいする恋こいわずらいであることを知しった王おうは、彼女かのじょの前まえに姿すがたを見みせる。そこで相思相愛そうしそうあいであることを知しった二人ふたりはついに結むすばれる。 そして王おうは「想おもい出で」のしるしとして自分じぶんの指輪ゆびわを彼女かのじょに贈おくり、王宮おうきゅうに帰かえる。

シャクンタラーは、王おうのことを思おもい続つづけてぼんやりしていたため、訪たずねてきた聖賢せいけんのドゥルヴァーサス仙せんに気きがつかず、礼れいを失しっしてしまう。怒おこったドゥルヴァーサスは「お前まえが私わたしに無礼ぶれいをはたらいたのは恋こいをしているからだ。お前まえが想おもっている相手あいてがお前まえのことを想おもい出だせないようにしてやる。」と言いって呪のろいをかけたため、ドゥフシャンタ王おうはシャクンタラーのことを忘わすれてしまう。しかし彼女かのじょの友人ゆうじんたちのとりなしで、聖賢せいけんはこの呪のろいに制約せいやくをつけ、「王おうが想おもい出でのしるしを見みたときに呪のろいが解とける」と予言よげんした。

その後ご戻もどってきた養父ようふカンヴァ仙せんは、シャクンタラーがドゥフシャンタ王おうと結むすばれ子こを宿やどしたことを知しり、この良縁りょうえんを喜よろこぶ。王おうからの出迎でむかえが無ないので、カンヴァ仙せんはシャクンタラーを送おくり出だして王宮おうきゅうに向むかわせるが、彼女かのじょは道中どうちゅうの泉いずみで沐浴もくよくをした際さいに指輪ゆびわを失うしなってしまう。シャクンタラーは王宮おうきゅうで王おうと再会さいかいするが、呪のろいのため王おうは彼女かのじょを思おもい出だすことができず、妻つまとして認みとめなかった。悲嘆ひたんにくれたシャクンタラーが王おうのもとを立たち去さると、天界てんかいから天女てんにょの姿すがたをした光明こうみょうがあらわれ、彼女かのじょを天界てんかいへ連つれ去さってしまう。

数すう年ねん後ご、漁師りょうしが泉いずみで獲えった鯉こいの腹はらの中うちから指輪ゆびわが発見はっけんされ、その指輪ゆびわに王おうの名なが刻きざまれていたことから王おうのもとに届とどけられた。王おうが指輪ゆびわを見みると呪のろいが解とけて記憶きおくを取とり戻もどし、シャクンタラーとの別離べつりを嘆なげいた。 その後ご、インドラ神かみに悪魔あくま征服せいふくの援助えんじょを要請ようせいされた王おうはこれに応おうじ、神かみが用意よういした車くるまに乗のって天界てんかいに出陣しゅつじんする。悪魔あくま退治たいじの帰途きと、王おうは天界てんかいのマーリーチャ（マリーチの子こを意味いみし、カシュヤパのこと）仙せんの庵あんで、ある子供こどもと出会であう。それがわが子こバラタであることに気きづいた王おうは、シャクンタラーとも再会さいかいする。そこで王おうが彼女かのじょを忘わすれたのは呪のろいのせいであることが明あきらかになり、全すべての誤解ごかいが解とけて大団円だいだんえんとなる。

翻訳ほんやく

『シャクンタラー』はウィリアム・ジョーンズにより『サコンタラあるいは運命うんめいの指輪ゆびわ』の題だいで1789年ねんに英語えいごに翻訳ほんやくされた。この英訳えいやくはゲオルク・フォルスターによって1791年ねんにドイツ語ごに重訳じゅうやくされ、ゲーテに影響えいきょうを与あたえた。学術がくじゅつ的てき研究けんきゅうはアントワーヌ＝レオナール・ド・シェジーが先鞭せんべんをつけた。

日本語にほんご訳やく

• 高橋たかはし五郎ごろう、小森こもり彦次ひこじ 訳やく『梵劇さくんたら姫ひめ』前川まえかわ文栄ふみえ閣かく、1907年ねん。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/896893。 （ウィリアム・ジョーンズの英訳えいやくからの重訳じゅうやく）
• 森田もりた草平そうへい 訳わけ『しゃくんたら姫ひめ：戯曲ぎきょく』日月じつげつ社しゃ〈現代げんだい百科ひゃっか文庫ぶんこ宗教しゅうきょう叢書そうしょ9〉、1914年ねん。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/916967。 
• 河口かわぐち慧海えかい 訳わけ『印度いんど歌劇かげきシヤクンタラー姫ひめ』世界せかい文庫ぶんこ刊行かんこう会かい、1924年ねん。  上うえ 下した（最初さいしょのサンスクリット原文げんぶんからの日本語にほんご訳やく）
• 辻つじ直四郎なおしろう 訳わけ『シャクンタラー』刀かたな江こう書院しょいん、1956年ねん。 
  • 辻つじ直四郎なおしろう 訳わけ『シャクンタラー姫ひめ』岩波いわなみ文庫ぶんこ、1977年ねん。 
• 田中たなか於菟おと弥わたる 訳わけ『シャクンタラー』筑摩書房ちくましょぼう〈世界せかい文学ぶんがく大系たいけい4 インド・アラビア・ペルシア集しゅう〉、1959年ねん。 

シャクンタラーをテーマにした音楽おんがく作品さくひん

• シャクンタラ Sakuntala D.701 - フランツ・シューベルトが作曲さっきょくしたオペラの二に幕まく分ぶんのスケッチ。
• シャクンタラー Sakuntala op. 13 - カール・ゴルトマルクが作曲さっきょくした演奏えんそう会かい用よう序曲じょきょくの一いち。
• シャクンタラ （テノール独唱どくしょうと管弦楽かんげんがく） Sakuntala for Tenor and Orchestra - フレデリック・ディーリアス作曲さっきょくの声楽せいがく曲きょく。
• サクーンタラ（シャクンタラー伝説でんせつ） La leggenda di Sakuntala - フランコ・アルファーノのオペラ。
• ザコンターラ Sakontala Op.117 - フランツ・ベンデル作曲さっきょくのピアノ独奏どくそう用ようワルツ。

参考さんこう文献ぶんけん

• カーリダーサ 著しる、辻つじ直四郎なおしろう 訳わけ『シャクンタラー姫ひめ』岩波いわなみ文庫ぶんこ、1977年ねん。