ジャック・イニャス・イトルフ

ジャック・イニャス・イトルフ

ジャック・イニャス・イトルフ（Jacques Ignace Hittorff, 1792年ねん8月がつ20日はつか - 1867年ねん3月25日にち）はフランスの建築けんちく家か。

人物じんぶつ

1792年ねん、ケルンに生うまれる（当時とうじはフランス領りょう）。ドイツ語ごによる綴つづりはヤーコプ・イグナーツ・ヒトルフ（Jacob Ignaz Hittorf）となる。19世紀せいき初頭しょとうから半なかばにかけて、精力せいりょく的てきに活動かつどうした人物じんぶつで、フランス国内こくないとドイツ語ご圏けんにも足あししげく通かよう。1810年ねんから、ベランジェのアトリエに入はいり修行しゅぎょうを重かさねる。そのころに携たずさわったものに、火災かさいで焼失しょうしつしたパリ穀物こくもつ取引とりひき所しょ再建さいけんなどがある。

その後ごも才能さいのうある建築けんちく家かとして、1814年ねんに王室おうしつ建築けんちく家かの役職やくしょくを得え、王制おうせい復古ふっこの波なみに乗のって国王こくおう凱旋がいせん式典しきてんの装飾そうしょくや、あるいはルイ18世せい葬送そうそう式典しきてんなどを手てがけたが、ナポレオン3世せいの時代じだいまで、幅広はばひろい活躍かつやくを見みせる。

思想しそう的てきには、中世ちゅうせい建築けんちくを讃たたえ美うつくしたロマン主義しゅぎの芸術げいじゅつ家かと異ことなり、ゴシック建築けんちくを徹底的てっていてきに排除はいじょした。そのため、1825年ねん、大だい聖堂せいどうにおけるシャルル10世せいの戴冠たいかん式しきの際さい、その装飾そうしょくを委託いたくされたイトルフは自身じしんの作成さくせいした装飾そうしょくに合あわせるためゴシックのコーニスを一部いちぶ欠かき取とったと伝つたえられ、この事件じけんは特とくに中世ちゅうせい建築けんちくの支持しじ者しゃ達たちに著いちじるしく波紋はもんを広ひろげて、そのおかげで彼かれはしばらくイギリス、ドイツに旅たびをしてほとぼりの冷さめるのを待またねばならなかった、こうして1819年ねんから1823年ねんまでドイツ、イタリア、シチリアと大だい旅行りょこうを企くわだてて、膨大ぼうだいな量りょうの資料しりょうを持もち帰かえるが、その中なかに示しめされる古代こだい建築けんちくの実測じっそく図ずが多た原色げんしょくつまりポリグロミーで描えがかれていた。

自身じしんが提起ていきした古代こだい建築けんちく彩色さいしき論ろんは若わかい世代せだいの建築けんちく家かに多大ただいな影響えいきょうをおよぼし、ネオ・グレコの先駆せんくとして評ひょうされている。自みずからも作品さくひんでそのポリクロミーな効果こうかを試こころみて華はなやかな演出えんしゅつ効果こうか、一種いっしゅのロマンチシズムを感かんじさせる古典こてん趣味しゅみを付つけ加くわえたりしている。

ポリグロミー

ポリグロミーによる古代こだい建築けんちくの実測じっそく図ずは決けっして彼かれが最初さいしょではなく、それまでにも考古こうこ学者がくしゃの発掘はっくつ遠征えんせい隊たいがしばしば指摘してきしていることでもあり、厳正げんせいで単純たんじゅんさを求もとめたキャトルメール・ド・カンシーすらも古代こだいの色彩しきさい効果こうかを認みとめているほどである。しかし、イトルフは建築けんちく家かとしてその問題もんだいを正面しょうめんから論ろんじ またみずから彩色さいしきの復原ふくげん図ずを起おこし、その意味いみで周囲しゅういから様々さまざまの反響はんきょうを呼よぶことになった。

1820年ねん、シチリアのアグリジェントから画家がかジュラールに宛あてた書簡しょかんの中なかで、イトルフは古代こだい建築けんちくが原色げんしょくであでやかに塗ぬられていたに違ちがいないと認みとめている。そして、シチリアで実測じっそくした図面ずめんはその推測すいそくに従したがって、様々さまざまな色合いろあいで着色ちゃくしょくされていた。 帰国きこく後ご1824年ねん、彼かれは美術びじゅつアカデミーにてその問題もんだいをめぐって長ながい講演こうえんを行おこなう。その内容ないようは2年ねん後ごに「シチリアの古代こだい建築けんちく」という題目だいもくで図版ずはん主体しゅたいの本ほんとして出版しゅっぱんされる。この論ろんはアカデミーで高たかく評価ひょうかされ、なかでもローマの留学りゅうがく者しゃに与あたえた影響えいきょうはすこぶる大おおきく、たとえば1824年ねんローマ大賞たいしょうに輝かがやいてローマに派遣はけんされたアンリ・ラブルーストは、実測じっそく図面ずめんをポリグロミーにもとづいて復原ふくげん図ずとなして、パリのアカデミーで喧々けんけんたる論議ろんぎき起おこしたことがあるし、後のちに続つづく若わかい留学生りゅうがくせい達たちはより上手じょうずなポリグロミー図面ずめんを起おこし、新あたらしい潮流ちょうりゅうをかたちつくるほどだった。

彼かれは実じつに様々さまざまの建築けんちくを手てがけているが、たとえばパリの新あたらしい都市とし空間くうかんを彩いろどるものとして登場とうじょうしたサス（シルク）など、理論りろんを試ためす絶好ぜっこうの対象たいしょうであったし、1841年ねんに建設けんせつされたシルク・デ・シャンゼリゼは、平面へいめん、正面しょうめんに4柱はしら式しきのポルティコを付つけ周囲しゅういをコリント式しきの円柱えんちゅう（壁かべ付つき柱ばしら）で囲かこんでいる。この円柱えんちゅうは黄色きいろく配色はいしょくされ、フリーズは青地あおじに唐草からくさ模様もよう、正面しょうめんタンパンの薄肉うすにく彫ほは赤地あかじ、といった具合ぐあいに、いかにも派手はでやかな建築けんちくだった。シルク・ナポレオン（1852）においても全まったく同おなじ試こころみがなされている。

義父ぎふのルペールとともにてがけたサン・ヴアンサン・ド・ポール教会きょうかい（1831-1844）も、そうした彼かれのポリグロミー理論りろんを応用おうように移うつしている。ここでは、シチリアで実際じっさいに観察かんさつしいたく感動かんどうしたモザイクを特とくに用もちいることになり、ファサード、扉とびら、内部ないぶ壁面へきめん、床ゆかなど随所ずいしょにこの新しん材料ざいりょうが試ためされることになった。 全体ぜんたいの基調きちょうは青あおで、その色いろとりどりの色彩しきさい効果こうかは従来じゅうらいの教会きょうかい建築けんちくの概念がいねんを大おおきく打うち破やぶることにつながる。

主おもな作品さくひん

• サン・ヴァンサン・ド・ホール教会きょうかい、パリ、1831年ねんから1844年ねん
• シルク・ド・シャンデリゼ、パリ、1833年ねんから1840年ねん
• コンコルド広場ひろば整備せいび、パリ、1836年ねんから1840年ねん
• パリ第だい一いち区役所くやくしょ、パリ
• シルク・ディヴェール、パリ、1852年ねん
• グラン・トテル・デュ・ルーヴル、パリ、1856年ねん
• パリ北きた駅えき、パリ、1863年ねん

参考さんこう文献ぶんけん

• The Beaux-arts and Nineteen Century French Architecture, London, 1982