ダウン症候群しょうこうぐん

ダウン症候群しょうこうぐん
	本棚ほんだなを組くみ立たてる男児だんじ患者かんじゃ
概要がいよう
診療しんりょう科か	遺伝いでん医学いがく, 神経しんけい学がく
頻度ひんど	5.4 million (0.1%)
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10	Q90
ICD-9-CM	758.0
OMIM	190685
DiseasesDB	3898
MedlinePlus	000997
eMedicine	ped/615
Patient UK	ダウン症候群しょうこうぐん
MeSH	D004314
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ダウン症候群しょうこうぐん（ダウンしょうこうぐん、英えい: Down syndrome, Down's syndrome）またはダウン症だうんしょうは、体からだ細胞さいぼうの21番ばん染色せんしょく体たいが通常つうじょうより1本ほん多おおく存在そんざいし、計けい3本ほん（トリソミー症しょう）になることで発症はっしょうする先天せんてん性せい疾患しっかん群ぐんである。多おおくは減数げんすう第だい一いち分裂ぶんれつ時じの不ふ分離ぶんりによって生しょうじるほか、減数げんすう第だい二に分裂ぶんれつに起おこる。新生児しんせいじに最もっとも多おおい遺伝子いでんし疾患しっかんである^[3]。

詳細しょうさいは「減数げんすう分裂ぶんれつ」を参照さんしょう

症状しょうじょうとしては、身体しんたい的てき発達はったつの遅延ちえん、特徴とくちょう的てきな顔かおつき、軽度けいどの知的ちてき障害しょうがいが特徴とくちょうである^[1]。平均へいきんして8 - 9歳さいの精神せいしん年齢ねんれいに対応たいおうする軽度けいどから中なか度どの知的ちてき障害しょうがいであるが、それぞれのばらつきは大おおきく^[4]、現時点げんじてんで治療ちりょう法ほうは存在そんざいしない^[5]。教育きょういくと早期そうきケアによりQOLが改善かいぜんされることが見込みこまれる^[6]。

ダウン症だうんしょうは、ヒトにおいて最もっとも一般いっぱん的てきな遺伝子いでんし疾患しっかんであり^[4]、年間ねんかん1,000出生しゅっしょうあたり1人にんに現あらわれる^[1]。

名称めいしょう[編集へんしゅう]

「目尻めじりが上あがっていてまぶたの肉にくが厚あつい、鼻はなが低ひくい、頬ほおがまるい、あごが未み発達はったつ、体からだは小柄こがら、髪かみの毛けはウェーブではなくて直ちょく毛けで薄うすい」という特徴とくちょうからモンゴロイド人種じんしゅと関連付かんれんづけられ、ヨーロッパを中心ちゅうしんにMongolism（日本語にほんごでは蒙こうむ古いにしえ症しょう（もうこしょう））と名なづけられていたが、差別さべつや偏見へんけんを助長じょちょうするとして今いまは使用しようされていない。

1961年ねんに19名めいの著名ちょめいな遺伝いでん学者がくしゃが「Langdon-Down anomaly」（ラングドン＝ダウン異常いじょう）「Down's syndrome anomaly」（ダウン症だうんしょう異常いじょう）「congenital acromicria」（先天せんてん性せい欠損けっそん）、または「trisomy 21 anomaly」（トリソミー21異常いじょう）の用語ようごを用もちいるべきとの声明せいめいを発出はっしゅつしたことを契機けいきに、蒙こうむ古いにしえ症しょうの語かたりは次第しだいに使つかわれなくなった^[7]。1965年ねんごろにはモンゴル人民じんみん共和きょうわ国こくの代表だいひょうがWHOの事務じむ局長きょくちょうに対たいして、非公式ひこうしきに病名びょうめいとしての「mongolism」が不快ふかいであるとして将来しょうらい的てきに使用しようしないように要請ようせいしている^[8]。1965年ねん、WHOは発見はっけん者しゃのダウンにちなんで「Down syndrome（ダウン症候群しょうこうぐん）」を正式せいしきな名称めいしょうとすることが決定けっていした。2012年ねん、3月21日にちを国際こくさい連合れんごうが世界せかいダウン症だうんしょうの日ひに認定にんてい^[9]。21番ばん染色せんしょく体たいトリソミーにちなむ。

1961年ねんから2011年ねんまでの医学いがく論文ろんぶんにおいて、用語ようごとして使つかわれた数かずは以下いかの結果けっかであった（歴史れきしについて記述きじゅつした論文ろんぶんを除のぞく）。

Down（ダウン症候群しょうこうぐん） - 5,289
Trisomy 21（トリソミー21） - 1,396
mongolism（蒙こうむ古いにしえ症しょう） - 524
Langdon Down（ラングドン・ダウン症候群しょうこうぐん） - 25
Congenital Acromicria（先天せんてん性せい先端せんたん矮小わいしょう症しょう） - 4

用語ようご使用しようの変化へんかを示しめした図ずからも、1961年ねんごろはほぼ100パーセントの使用しよう率りつであった「mongolism」が1980年代ねんだい半なかばにはまったく使つかわれなくなったことが分わかる。2010年ねん時点じてんでは「ダウン症候群しょうこうぐん」が約やく85パーセント、「Trisomy 21」が約やく15パーセントの使用しよう率りつである^[10]。

欧米おうべいなどと東ひがしアジアでダウン症だうんしょうの発現はつげん率りつに違ちがいは見みられないうえに、近年きんねんにおいては京都大学きょうとだいがくからダウン症だうんしょうに相当そうとうするチンパンジーの例れいが報告ほうこくされている^[11]。これは猿さる人じんが人ひとに進化しんかし、それぞれの人種じんしゅに分岐ぶんきする以前いぜんの段階だんかいからダウン症だうんしょうが存在そんざいしていたことを示唆しさしている。また、ダウン症だうんしょうとは定義ていぎされていないが、ダウン症だうんしょうの外見がいけん的てきな特徴とくちょうを持もつ虎とらや猫ねこなどの動物どうぶつも存在そんざいしている。

臨床りんしょう像ぞう[編集へんしゅう]

知的ちてき障害しょうがい、先天せんてん性せい心こころ疾患しっかん（50パーセント^[12]）、低てい身長しんちょう、肥満ひまん、筋力きんりょくの弱よわさ、頸椎の不安定ふあんてい性せい、閉塞へいそく性せい睡眠すいみん時じ無む呼吸こきゅう（50 - 75パーセント^[12]）、耳みみの感染かんせん症しょう（50 - 75パーセント^[12]）、眼科がんか的てき問題もんだい（先天せんてん性せい白内障はくないしょう、眼め振ふ、斜視しゃし、屈折くっせつ異常いじょう、60パーセントほど^[12]）、難聴なんちょう（75パーセントほど^[12]）がある。新生児しんせいじ期きに哺乳ほにゅう不良ふりょうやフロッピーインファントのような症状しょうじょうを示しめし、特異とくい的てき顔貌かおかたち、翼状よくじょう頚けい、よく伸展しんてんするやわらかい皮膚ひふなどから疑うたがわれることもある。青年せいねん期き以降いこうにはストレスからくるうつ症状しょうじょう・早期そうき退行たいこうを示しめす者ものもいる。男性だんせいの場合ばあい、モザイク型がたを除のぞきすべて不ふ妊にんとなる一方いっぽう、女性じょせいの場合ばあい多おおくは妊娠にんしんが可能かのうであるが、多おおくは自然しぜん流産りゅうざんとなる。また、母親ははおや（または父親ちちおや）がダウン症候群しょうこうぐん患者かんじゃの場合ばあい、胎児たいじのダウン症候群しょうこうぐん発症はっしょう率りつは50パーセントであるため、高こう確かく率りつで遺伝いでんする。一般いっぱん的てきに肉体にくたい的てき成長せいちょうの遅延ちえん、特徴とくちょう的てきな顔かおつき、軽けい中ちゅう度どの知的ちてき障害しょうがいに特徴とくちょうづけられる^[1]。平均へいきんして8 - 9歳さいの精神せいしん年齢ねんれいに対応たいおうするが、それぞれのばらつきは大おおきい^[4]。40歳さい以降いこうにアルツハイマー病びょうが高こう確かく率りつで起おきる^[13]。

外表そとおもて奇形きけい: ダウン症だうんしょう児じの目め。やや吊つり上のぼっている。; 顔かおの中心ちゅうしん部ぶがあまり成長せいちょうしないのに対たいして顔かおの外側そとがわは成長せいちょうするため、吊つり上のぼった小ちいさい目めを特徴とくちょうとする顔貌かおかたち（特異とくい的てき顔貌かおかたち）を呈ていする^[12]。ほかには舌したがやや長ながい、手てに猿さる線せん、耳みみ介かい低位ていい、翼状よくじょう頚けいなどが発生はっせいする。
合併がっぺい奇形きけい等とう: ダウン症候群しょうこうぐんでは高率こうりつに鎖くさり肛、先天せんてん性せい心こころ疾患しっかん、先天せんてん性せい食道しょくどう閉鎖へいさ症しょう、白血病はっけつびょう、円錐えんすい角膜かくまく、斜視しゃし、甲状腺こうじょうせん機能きのう亢進こうしん症しょう、甲状腺こうじょうせん機能きのう低下ていか症しょうなどを伴ともなう。
青年せいねん期きの心理しんり的てき問題もんだい: 思春期ししゅんきから成人せいじん期きにかけて、部屋へやに閉とじこもる、寡黙かもくになるといった変化へんかが急きゅうに現あらわれることがあり、その多おおくは環境かんきょうの変化へんかや契機けいきとなる出来事できごとへの適応てきおう障害しょうがいまたは心しん因いん反応はんのうと考かんがえられている。しかし、この病態びょうたいに対たいしての医学いがく的てきな検討けんとうが十分じゅうぶんにされていないため、その治療ちりょうについては確立かくりつした方法ほうほうがまだない。; 思春期ししゅんき以降いこう、ダウン症だうんしょう者しゃも性的せいてきにも成熟せいじゅくしていくのが普通ふつうである^[14]。かつては知的ちてき障害しょうがい者もの教育きょういくの分野ぶんやにおいて性せいについて触ふれられないことも多おおかったが、近年きんねんでは知的ちてき障害しょうがい者しゃにとっても適切てきせつな性教育せいきょういくが必要ひつようであることが認識にんしきされるようになってきた。特とくに、知的ちてき障害しょうがいを有ゆうする女性じょせいが少すくなからず性的せいてき被害ひがいにあってきた歴史れきしをふまえ^[15]、自身じしんの身体しんたいと性せいについて理解りかいし、自衛じえいできるようにすることは重要じゅうようである^[16]。また、ダウン症だうんしょう者しゃが一般いっぱん社会しゃかいで暮くらしていく際さいにも、性せいに関かんする適切てきせつな振ふる舞まいや常識じょうしきを身みにつけることは重要じゅうようである^[17]^[18]。カナダダウン症だうんしょう協会きょうかいはダウン症だうんしょう者しゃに性せいについての理解りかいを助たすけ、性せいに関かんする社会しゃかい的てきふるまいを身みにつけ、性的せいてき被害ひがいから身みを守まもるためのガイドブックを出版しゅっぱんしている^[14]。

原因げんいん[編集へんしゅう]

21番ばん染色せんしょく体たいのトリソミーが原因げんいんである^[12]。トリソミーとなった理由りゆうは3タイプに分わけられ、生殖せいしょく細胞さいぼうの減数げんすう分裂ぶんれつ時じの失敗しっぱい（染色せんしょく体たいの不ふ分離ぶんりと転てん座ざ）である。

標準ひょうじゅん型がた21トリソミー（95パーセント）：21番ばん染色せんしょく体たいの不ふ分離ぶんりによる^[12]。
遺伝いでん性せい転てん座ざ（3パーセント）：21番ばん染色せんしょく体たいがほかの染色せんしょく体たいに付着ふちゃく。転てん座ざ型がたの半分はんぶん（全体ぜんたいの2パーセント）は親おやが均衡きんこう型がた転てん座ざを保たもて因いんする^[12]。
モザイク型かた（1 - 2パーセント）：個体こたいの中なかに正常せいじょう核かく型がたの細胞さいぼうと21トリソミー（21番目ばんめの染色せんしょく体たいが3本ほんある核かく型がた）の細胞さいぼうとが混在こんざいしている^[12]。

標準ひょうじゅん型がたは精子せいし、卵子らんし形成けいせい時じの減数げんすう分裂ぶんれつにおける染色せんしょく体たい不ふ分離ぶんりが原因げんいんである。転てん座ざ型かたは親おやの片方かたがたが均衡きんこう転てん座ざ保ほ因いん者しゃであり、適切てきせつな遺伝いでんカウンセリングを受うける必要ひつようがある。モザイク型がたは受精じゅせい後ごの卵たまご分裂ぶんれつの過程かていにおける不ふ分離ぶんりにより正常せいじょうな細胞さいぼうとトリソミーの細胞さいぼうが混在こんざいするもので、正常せいじょうな細胞さいぼうも多数たすうあることから重度じゅうどな障害しょうがいは見みられない。染色せんしょく体たいトリソミーは21番ばん染色せんしょく体たい以外いがいにも起おこるが、性せい染色せんしょく体たい以外いがいの常つね染色せんしょく体たいには生命せいめい活動かつどうに必須ひっすの遺伝いでん情報じょうほうが含ふくまれるため、トリソミーは流産りゅうざんまたは死産しざんとなることが多おおく、出生しゅっしょうできたとしても長ながくは生いきられない^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。しかし21番ばん染色せんしょく体たいのトリソミーだけは障害しょうがいを残のこすものの致命ちめい的てきとならない場合ばあいがある。ただし、その21トリソミーでも、80パーセントは流産りゅうざんや死産しざんに終おわり、出生しゅっしょうできるのは20パーセントにすぎない。

検査けんさ[編集へんしゅう]

妊娠にんしん11週しゅう頃ごろに絨毛じゅうもう検査けんさで確定かくてい的てきに診断しんだんできるが、日本にっぽんでは絨毛じゅうもう検査けんさを実施じっししている医療いりょう機関きかんは少すくない。妊娠にんしん15 - 16週しゅうごろに母体ぼたい血清けっせいマーカー検査けんさや新型しんがた出生しゅっしょう前ぜん診断しんだん（NIPT）により、確かく率りつ的てきに診断しんだんすることが可能かのうとなり^[19]、羊水ようすい検査けんさで確定かくてい的てきに診断しんだんされる。検査けんさ結果けっかが出でるまでに2 - 3週間しゅうかんを要ようする。「妊にん婦ふ検診けんしんなどでこういった出生しゅっしょう前ぜん検査けんさを勧すすめられなかった」としても医療いりょう側がわの落おち度どはないとされる（裁判さいばん事例じれい：京都きょうと地裁ちさい平成へいせい9年ねん1月がつ24日にち判決はんけつ^[20]）。そのため妊にん婦ふは自みずから医療いりょう側がわに進言しんげん（結婚けっこんしている妊にん婦ふの場合ばあい夫婦ふうふの同意どういに基もとづく）しないと検査けんさは実施じっしされない。また検査けんさの結果けっかも、正式せいしきには「妊にん婦ふ側がわが聞きくことを希望きぼうして初はじめて通知つうちできる」とされている。イギリスでは国策こくさくとして2004年ねん以降いこうは全ぜん妊にん婦ふに出生しゅっしょう前ぜん診断しんだんを推進すいしんしている^[21]。

第だい一いちおよび第だい三さん半期はんきスクリーニング^[22]
スクリーニング	在ざい胎週数すう	判別はんべつ率りつ	疑うたぐ陽性ようせい率りつ	備考びこう
複ふく合あいテスト	10-13.5週しゅう	82-87%	5%	超ちょう音波おんぱによる頸椎部ぶ投とう光こう性せい検査けんさに加くわえ、βべーた-hCGとPAPP-Aの血液けつえき検査けんさ
Quad screen	15-20週しゅう	81%	5%	母体ぼたいの血清けっせいαあるふぁ-フェトプロテイン、非ひ抱合ほうごう型がたエストリオール、hCG、インヒビンAを測定そくてい
統合とうごうテスト	15-20週しゅう	94-96%	5%	Quad screenに加くわえて PAPP-A、NTを検査けんさ
セルフリーDNA検査けんさ	10週しゅう目めから^[23]	96-100%^[24]	0.3%^[25]	母体ぼたい血液けつえきから採取さいしゅした胎児たいじ由来ゆらいDNA(セルフリーDNA)を解析かいせき

倫理りんり的てき課題かだい[編集へんしゅう]

ダウン症だうんしょう胎児たいじの中絶ちゅうぜつ率りつ[編集へんしゅう]

2002年ねんの人工じんこう妊娠にんしん中絶ちゅうぜつ率りつの文献ぶんけんレビューでは、イギリスとヨーロッパでダウン症候群しょうこうぐんと診断しんだんされた妊にん婦ふのうち、91 - 93パーセントが妊娠にんしんを中断ちゅうだんした^[26]。イギリスの国家こっかダウン症候群しょうこうぐん細胞さいぼう遺伝いでん学がく登録とうろく簿ぼ （NDSCR）のデータによれば、登録とうろくが始はじまった1989年ねんから2006年ねんにおいて、子こどもがダウン症だうんしょうと診断しんだんされたあとに中絶ちゅうぜつを選えらんだ女性じょせいは約やく92パーセントの高率こうりつで安定あんていしている^[27]^[28]。アメリカでもダウン症だうんしょう胎児たいじの中絶ちゅうぜつ率りつ調査ちょうさが実施じっしされ、3つの研究けんきゅうでそれぞれ95パーセント、98パーセント、87パーセントとなっている^[26]。

ダウン症だうんしょう胎児たいじの中絶ちゅうぜつに関かんする議論ぎろん[編集へんしゅう]

医療いりょう倫理りんり学がく者もののロナルド・グリーンは、両親りょうしんは自分じぶんの子孫しそんに「遺伝いでん的てきな害がい」が及およぶのを避さける義務ぎむがあると主張しゅちょうしている^[29]。イギリスのジャーナリスト、ドミニク・ローソンはダウン症だうんしょうの娘むすめが生うまれた際さい、彼女かのじょに対たいする無償むしょうの愛あいと彼女かのじょが存在そんざいすることの喜よろこびと同時どうじに、妻つまが検査けんさを受うけていれば中絶ちゅうぜつできた、という外部がいぶの声こえに怒いかりを表明ひょうめいした。これに対たいして、長期ちょうきにわたりダウン症だうんしょう協会きょうかいの支援しえん者しゃであったクレア・レイナーは、ローソンの娘むすめへの態度たいどを絶賛ぜっさんするとともに、ローソンが障害しょうがい検査けんさと発見はっけん時じに中絶ちゅうぜつをすすめる医師いしや助産じょさん師しを酷評こくひょうすることには賛成さんせいできず、障害しょうがい検査けんさと中絶ちゅうぜつを「辛つらい事実じじつとして、障害しょうがいを持もった個人こじんの面倒めんどうをみるということは、人力じんりき、哀あわれみ、エネルギー、そして有限ゆうげんの資源しげんであるお金かねがとてもかかるということだ。まだ親おやになっていない人ひとは、自分じぶんに問といかけてみるべきだ。自分じぶんが他人たにん（社会しゃかい）にその重荷おもにを背負しょわせる権利けんりがあるのか、もちろん、その重荷おもにの自分じぶんの持分もちぶんをすすんで引ひき受うける前提ぜんていとしてだが」と擁護ようごした^[30]。ダウン症だうんしょうと診断しんだんされた胎児たいじの高たかい中絶ちゅうぜつ率りつを、倫理りんり的てきに憂慮ゆうりょする医師いしや倫理りんり学者がくしゃもいる^[31]。ピューリッツァー賞しょうを受賞じゅしょうした保守ほしゅ的てきな評論ひょうろん家かで、息子むすこの一人ひとりがダウン症候群しょうこうぐんであるジョージ・ウィルはそれを「中絶ちゅうぜつによる優生ゆうせい学がく」と呼よんでいる^[32]^[33]。

治療ちりょう[編集へんしゅう]

ダウン症候群しょうこうぐんは染色せんしょく体たい異常いじょうであるため、実用じつよう化かに至いたっている根本こんぽん的てきな治療ちりょう方法ほうほうはない。心こころ疾患しっかんなどの合併症がっぺいしょうに対たいしては外科げか的てきな対応たいおうも含ふくめて治療ちりょうが行おこなわれている。また、思春期ししゅんき以降いこうの生活せいかつ能力のうりょく低下ていか（“急激きゅうげき退行たいこう”）に対たいして、アルツハイマー治療ちりょう薬やく「アリセプト」（ドネペジル塩酸えんさん塩しお：アセチルコリンエステラーゼ阻害そがい剤ざい）のダウン症だうんしょう候こう群ぐんに対たいする有効ゆうこう性せいの検証けんしょうや抗こう酸化さんか剤ざい、神経しんけい活動かつどう過剰かじょう抑制よくせい拮抗きっこう剤ざいなどの治験ちけんが行おこなわれている^[34]。

遺伝子いでんし治療ちりょうの研究けんきゅう[編集へんしゅう]

ゲノム編集へんしゅう技術ぎじゅつの応用おうよう[編集へんしゅう]

現在げんざい、発展はってん著いちじるしいゲノム編集へんしゅうの技術ぎじゅつにより原因げんいん遺伝子いでんしを改変かいへんすることによって治療ちりょうすることが想定そうていされている。

ゲノム編集へんしゅうの概念がいねんや研究けんきゅうは昔むかしからあったものの、近年きんねん特とくに研究けんきゅうが進すすむゲノム編集へんしゅう技術ぎじゅつの一ひとつであるCRISPR-Cas9はこれまでの方法ほうほうと比くらべて圧倒的あっとうてきに簡便かんべんかつ高たかい切断せつだん効率こうりつを持もち、ありとあらゆる生物せいぶつの遺伝子いでんしを正確せいかくに書かき換かえることができるため^[35]、遺伝いでん性せいの疾患しっかんは原因げんいんとなる遺伝子いでんしを切きり取とって入いれ替かえ、取とり除のぞくといった形かたちで治療ちりょうができるようになり^[36]、ダウン症だうんしょうや鎌かま状じょう赤血球せっけっきゅう症しょう、嚢胞のうほう性せい線維せんい症しょうといった遺伝いでん性せいの病気びょうきを治なおすための希望きぼうをもたらすとされる^[37]。

ノンコーディングRNA技術ぎじゅつの研究けんきゅう[編集へんしゅう]

ノンコーディングRNAを用もちいてダウン症だうんしょうの1本ほん多おおい染色せんしょく体たいの機能きのうを停止ていしさせ、出生しゅっしょう後ごにダウン症だうんしょうの治療ちりょうを行おこなおうとする基礎きそ的てき研究けんきゅうが行おこなわれている^[38]。性別せいべつを決きめる染色せんしょく体たいで働はたらいているノンコーディングRNAの「Xist」は、X染色せんしょく体たいの不ふ活性かっせい化かというX染色せんしょく体たいの活動かつどうを止とめて、問題もんだいを避さける仕組しくみを持もっていることが分わかっていた^[38]。「Nature」に掲載けいさいされたマサチューセッツ大学だいがくの研究けんきゅうでは、ダウン症だうんしょう患者かんじゃから採取さいしゅし培養ばいようされたiPS細胞さいぼうに対たいし、21番ばん染色せんしょく体たいの1本ほんにXist遺伝子いでんしを組くみ込こんで、遺伝子いでんしの発現はつげんを誘導ゆうどうする薬くすりを加くわえたところ、約やく3週間しゅうかん後ごに全ぜん10個この遺伝子いでんしが発現はつげんしなくなった。また、ゲノム全体ぜんたいの遺伝子いでんし発現はつげん量りょう解析かいせきにより、3本ほんある21番ばん染色せんしょく体たいの発現はつげん量りょうが平均へいきんで15 - 20パーセント程度ていど低下ていかし、トリソミーではない21番ばん染色せんしょく体たいの総そう発現はつげん量りょうと同どう程度ていどにまで抑制よくせいされることが分わかった^[38]。さらに、Xistがダウン症だうんしょうによって低下ていかした細胞さいぼうを増殖ぞうしょくする機能きのうを回復かいふくし、神経しんけい細胞さいぼうに分化ぶんかする機能きのうも正常せいじょう細胞さいぼう並なみに戻もどすことも確認かくにんされた^[38]。この方法ほうほうの長所ちょうしょは、一度いちどXistを組くみ込こんでしまえば、あとは発現はつげんさせるだけで100パーセントに近ちかい抑制よくせい効果こうかが得えられ、13番ばんや18番ばんの染色せんしょく体たい異常いじょうなどにも応用おうようできる可能かのう性せいがある点てんであるとされる^[38]。また、培養ばいよう細胞さいぼうでの基礎きそ研究けんきゅう段階だんかいであるが臨床りんしょう試験しけんの開始かいしが望のぞまれている^[38]。

疫学えきがく[編集へんしゅう]

遺伝子いでんし疾患しっかんおよび染色せんしょく体たい異常いじょうの中なかではもっとも発生はっせい頻度ひんどが高たかい。日本にっぽんでの患者かんじゃ数すうはおよそ5万まん人にん^[39]。イギリスがおよそ5万まん人にん、アメリカがおよそ34万まん人にんで、年間ねんかん6,000人にんの出生しゅっしょうがダウン症だうんしょうであった^[3]。日本人にっぽんじんは全ぜん障害しょうがい児じにおけるダウン症だうんしょうの割合わりあいが他国たこくに比くらべて低ひくく、その代かわりに自閉症じへいしょう出現しゅつげん率りつが高たかめであるとされる。母親ははおやの出産しゅっさん年齢ねんれいが高たかいほど発生はっせい頻度ひんどは増加ぞうかし^[19]、25歳さい未満みまんで2000分ぶんの1、35歳さいで300分ぶんの1、40歳さいで100分ぶんの1となる^[40]^[41]^[42]。アメリカにおける統計とうけいでは、20 - 24歳さいの母親ははおやによる出産しゅっさんではおよそ1,562分ぶんの1なのに対たいし、35 - 39歳さいでおよそ214分ぶんの1、45歳さい以上いじょうの場合ばあいはおよそ19分ぶんの1となっている^[43]。イギリスでは、2000年ねんの年間ねんかん約やく600人にんの出生しゅっしょう数すうが2006年ねんには15パーセント増ふえ、746人にんとなった。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1866年ねんにイギリスの内科ないか医いジョン・ラングドン・ダウンが論文ろんぶん『白痴はくちの民族みんぞく学がく的てき分類ぶんるいに関かんする考察こうさつ（Observations on the Ethnic Classification of Idiots）』でその存在そんざいを発表はっぴょう（学会がっかい発表はっぴょうは1862年ねん）した。

1959年ねん、フランス人じんのジェローム・ルジューヌ（英語えいご版ばん）によって、21番ばん染色せんしょく体たいがトリソミーを形成けいせいしていることが発見はっけんされた。