ツクヨミ

月読つきよみ命いのち
月読つきよみ命いのち（ツクヨミノミコト）
三貴みき神しん
神祇じんぎ	天津てんしん神しん
全ぜん名な	月読つきよみ命いのち（ツクヨミノミコト）
別称べっしょう	月読つきよみ尊みこと、月がつ弓ゆみ尊たかし、月夜つきよ見み尊みこと、月讀つきよみ尊みこと
神格しんかく	月つき神しん、農耕のうこう神しん
父ちち	伊い邪よこしま那な岐神
母はは	伊い弉冉尊みこと（日本書紀にほんしょきのみ記述きじゅつあり）
兄弟きょうだい姉妹しまい	天てん照あきら大神おおがみ スサノオ
神社じんじゃ	月読つきよみ神社じんじゃ

ツクヨミ、またはツキヨミは、日本にっぽん神話しんわに登場とうじょうする神かみ。

『古事記こじき』は月読つきよみ命いのち、『日本書紀にほんしょき』は月夜つきよ見み尊みことなどと表記ひょうきする。一般いっぱん的てきにツクヨミと言いわれるが、伊勢神宮いせじんぐう・月読つきよみ神社じんじゃではツキヨミと表記ひょうきされる。

神話しんわでの記述きじゅつ

記紀きき（古事記こじきと日本書紀にほんしょき）において、ツクヨミは伊い邪よこしま那な岐命（伊い弉諾尊みこと・いざなぎ）によって生うみ出だされたとされる。月つきを神格しんかく化かした、夜よるを統すべる神かみであると考かんがえられているが、異説いせつもある（後述こうじゅつ）。天照大御神あまてらすおおみかみ（天てん照あきら大神おおがみ・あまてらす）の弟おとうと神しんにあたり、建けん速そく須佐すさ之の男おとこ命いのち（素もと戔鳴尊みこと・たけはやすさのお）の兄あに神しんにあたる。

ツクヨミは、月つきの神かみとされている。しかしその神格しんかくについては文献ぶんけんによって相違そういがある。古事記こじきでは伊い邪よこしま那な岐命が黄泉よみ国こくから逃にげ帰かえって禊みそぎぎをした時ときに右目みぎめから生うまれたとされ、もう片方かたがたの目めから生うまれた天照大御神あまてらすおおみかみ、鼻はなから生うまれた須佐すさ之の男おとこ命いのちとともに重大じゅうだいな三神みかみ（三さん柱はしらの貴子たかこ）を成なす。一方いっぽう、日本書紀にほんしょきではイザナギと伊い弉冉尊みこと（伊い耶那美び・イザナミ）の間あいだに生うまれたという話はなし、右手みぎてに持もった白銅はくどう鏡きょうから成なり出ででたとする話はなしもある。また、彼かれらの支配しはい領域りょういきも天てんや海うみなど一定いっていしない。

この、太陽たいよう、月つきとその弟おとうとないし妹まいという組くみ合あわせは比較ひかく神話しんわ学がくの分野ぶんやでは、他国たこくの神話しんわにも見みられると指摘してきされている。

日本にっぽん神話しんわにおいて、ツクヨミは古事記こじき・日本書紀にほんしょきの神話しんわにはあまり登場とうじょうせず、全般ぜんぱん的てきに活躍かつやくに乏とぼしい。わずかに日本書紀にほんしょき・第だい五ご段だん第だい十じゅう一いちの一いち書しょで、穀物こくもつの起源きげんとして語かたられるぐらいである。これはアマテラスとスサノオという対照たいしょう的てきな性格せいかくを持もった神かみの間あいだに静しずかなる存在そんざいを置おくことでバランスをとっているとする説せつがある。同様どうようの構造こうぞうは、高こう皇すめらぎ産さん霊れい尊みこと（高こう御産おさん巣す日び神しん・たかみむすび）と神かみ皇すめらぎ産さん霊神れいじん（神かみ産さん巣す日び神しん・かみむすび）に対たいする天てん之の御中おんちゅう主神しゅしん（あめのみなかぬし）、火ひ折おり尊みこと（火ひ遠どお理り命いのち（ほおり）・山やま幸彦さちひこ）と火照ほて命いのち（ほでり・海うみ幸彦さちひこ）に対たいする火ひ酢す芹せり命いのち（火ひ須勢理り命いのち・ほすせり）などにも見みられる。

ツクヨミの管掌かんしょうは、古事記こじきや日本書紀にほんしょきの神話しんわにおいて、日にち神しんたるアマテラスは「天てん」あるいは「高天原たかまがはら」を支配しはいすることでほぼ「天上てんじょう」に統一とういつされているのに対たいし、古事記こじきでは「夜よるの食しょく国こく」、日本書紀にほんしょきでは「日ひに配はいべて天上てんじょう」を支配しはいする話はなしがある一方いっぽうで、「夜よるの食しょく国こく」や「滄海そうかい原ばらの潮しおの八はち百ひゃく重じゅう」の支配しはいを命めいじられている箇所かしょもある。この支配しはい領域りょういきの不安定ふあんていぶりはアマテラスとツクヨミの神話しんわに後ごからスサノオが追加ついかされたためではないかと考かんがえられている。

ツクヨミはスサノオとエピソードが重かさなることから、一部いちぶでは同どう一いち神かみ説せつを唱となえる者ものがいる。

『古事記こじき』

上巻じょうかんでは、月讀つきよみ命いのちは伊い邪よこしま那な伎命の右目みぎめを洗あらった際さいに生うみ成なされ、天照大御神あまてらすおおみかみや須佐すさ之の男おとこ命いのちとともに「三さん柱はしらの貴たっとき子こ」と呼よばれる。月讀つきよみ命いのちは、伊い耶那伎命から「夜よるの食しょく国こくを知しらせ」と命めいぜられるが、これ以降いこうの活躍かつやくは一切いっさいない。夜よるを治おさめる月つきは「日月じつげつ分離ぶんり」（後述こうじゅつ）後ごの満月まんげつを現あらわすと考かんがえられる。

『日本書紀にほんしょき』

神代かみしろ紀おさむ

日本書紀にほんしょき・神代かみしろ紀おさむの第だい五ご段だんでは、本文ほんぶんで「日にちの光ひかりに次つぐ輝かがやきを放はなつ月つきの神かみを生うみ、天てんに送おくって日にちとならんで支配しはいすべき存在そんざいとした」と簡潔かんけつに記しるされているのみであるが、続つづく第だい一いちの一いち書しょにある異い伝つてには、伊い弉諾尊みことが左ひだりの手てに白銅はくどう鏡きょうを取とり持もって大日だいにち孁尊（天てん照あきら大神おおがみ）を生うみ、右みぎの手てに白銅はくどう鏡きょうを取とり持もって月がつ弓ゆみ尊たかし（月読つきよみ命いのち）を生うんでいる。日ひと並ならぶ月つきは日月じつげつ分離ぶんり前まえの新月しんげつを現あらわすと考かんがえられる。

ツクヨミの支配しはい領域りょういきについては、天てん照あきら大神おおがみと並ならんで天てんを治おさめるよう指示しじされたとする話はなしが幾いくつかある。その一方いっぽうで、「滄海そうかい原ばらの潮しおの八はち百ひゃく重じゅうを治なおすべし」と命めいじられたという話はなしもある。これは潮汐ちょうせきと月つきの関係かんけいを現あらわすと考かんがえられる。

書しょ紀き・第だい五ご段だん第だい十じゅう一いちの一いち書しょでは、天てん照あきら大神だいじんから保ほ食しょく神しん（うけもち）と対面たいめんするよう命令めいれいを受うけた月夜つきよ見み尊みことが降ふって保ほ食しょく神しんのもとに赴おもむく。そこで保ほ食しょく神しんは饗応きょうおうとして口くちから飯めしを出だしたので、月夜つきよ見み尊みことは「けがらわしい」と怒いかり、保ほ食しょく神かみを剣けんで刺さし殺ころしてしまう。保ほ食しょく神しんの死体したいからは牛馬ぎゅうばや蚕かいこ、稲いねなどが生うまれ、これが穀物こくもつの起源きげんとなった。天てん照あきら大神おおがみは月夜つきよ見み尊みことの凶行きょうこうを知しって「汝なんじ悪あしき神かみなり」と怒いかり、それ以来いらい、日ひと月つきとは一いち日にち一夜いちや隔へだて離はなれて住すむようになったという。これは「日月じつげつ分離ぶんり」の神話しんわであり、月つきが新月しんげつになるのは太陽たいようとの黄き経けい差さが0度ど、即すなわち見みかけ上じょう太陽たいようと並ならんだ時ときであって、満月まんげつになるのは180度ど、即すなわち見みかけ上じょう太陽たいようから最もっとも離はなれた時ときであることを説明せつめいした神話しんわと考かんがえられる。

一方いっぽう、古事記こじきでは似にた展開てんかいで食物しょくもつの神かみ（大気たいき都と比ひ売うれ神しん・おほげつひめ）が殺ころされるが、それをやるのは須佐すさ之の男おとこ命いのちである（日本にっぽん神話しんわにおける食物しょくもつ起源きげん神話しんわも参照さんしょう）。この相違そういは、元々もともといずれかの神かみの神話しんわとして語かたられたものが、もう一方いっぽうの神かみのエピソードとして引ひかれたという説せつがある。

顕宗けんそう紀おさむ

ツクヨミは、神かみ々にかわって人間にんげんの天皇てんのうが支配しはいするようになった時代じだい（神代かみよから人ひと代だいに移行いこうした後のち）に再ふたたび現あらわれる。『書しょ紀き』巻まき十じゅう五ごの顕宗けんそう紀きには、任にん那なへ派遣はけんされた阿おもね閉臣事しんじ代だいに月つき神しんが憑ひょういて高こう皇すめらぎ産さん霊れいをわが祖そと称しょうし、「我わが月つき神しんに奉たてまつれ、さすれば喜よろこびがあろう」と宣のたまったので、その言葉ことば通どおり山やま背せ国こくの葛野かずらの郡ぐんに社しゃを建たて、壱岐いき県けん主ぬしの祖そ・押見おしみ宿禰すくね（おしみのすくね）に祭まつらせたという記録きろくがある。これが山やま背せ国こくの月つき詠えい神社じんじゃの由来ゆらいであり、宣せん託たくされた壱岐いきには月つき詠えい神社じんじゃが存在そんざいし、山やま背せ国こくの月読つきよみ神社じんじゃの元宮もとみやと言いわれている。が、これは現在げんざいでは橘たちばな三喜さんきの誤あやまりで、宣せん託たくされた本来ほんらいの式内しきない社しゃ月読つきよみ神社じんじゃは男岳おだけにあった月読つきよみ神社じんじゃとされる。今いまは遷座せんざされ箱崎はこざき八幡やはた神社じんじゃに鎮座ちんざしている。

『続ぞく日本にっぽん紀き』

日本書紀にほんしょきに続つづく六ろく国史こくしの第だい二ににあたる続ぞく日本にっぽん紀きには、光ひかり仁じん天皇てんのうの時代じだいに、暴風雨ぼうふううが吹ふき荒あれたのでこれを卜ぼくした（占うらない卜ぼく）ところ、伊勢いせの月読つきよみ神しんが祟たたりしたという結果けっかが出でたので、毎年まいとし九きゅう月がつに荒あら祭さい（あらまつり）神かみにならって馬うまを奉たてまつるようになったとある。

『風土記ふどき』

山城やましろ国こく風土記ふどき

逸文いつぶんだが「桂かつら里さと」でも、「月読つきよみ尊みこと」が天てん照あきら大神だいじんの勅みことのりを受うけて、豊ゆたか葦原あしはらの中なかつ国くにに下くだり、保ほ食しょく神しんのもとに至いたったとき、湯ゆ津つ桂かつらに寄よって立たったという伝説でんせつがあり、そこから「桂かつら里さと」という地名ちめいが起おこったと伝つたえている。月つきと桂かつらを結むすびつける伝承でんしょうはインドから古代こだい中国ちゅうごくを経へて日本にっぽんに伝つたえられたと考かんがえられており、万葉集まんようしゅうにも月つき人じんと桂かつらを結むすびつけた歌うたがある。また、日本にっぽん神話しんわにおいて桂かつらと関かかわる神かみは複数ふくすうおり、例たとえば古事記こじきからは、天神てんじんから天若あまわか日子にっしのもとに使つかわされた雉の鳴な女おんなや、兄あにの鉤かぎをなくして海神わたつみの宮みやに至いたった山幸やまさち彦が挙あげられる。

出雲いずも国こく風土記ふどき

千酌ちくみ（ちくみ）の驛家えきや（うまや）郡家こおげ（こおりのみやけ）の東北とうほくのかた一いち十じゅう七なな里さと一いち百ひゃく八はち十じゅう歩ほなり。伊佐いさ奈枳命いのち（いざなきのみこと）の御子みこ、「都と久豆くず美び命いのち（つくつみのみこと）」、此處ここらに坐まします。然しかれば則のりち、都と久豆くず美びと謂いいふべきを、今いまの人ひと猶なお千せん酌しゃくと號ごうくるのみ。

ただし、都と久豆くず美び命いのちは渡津わたづの守護しゅごの月つき神しんで、古ふるくから千せん酌しゃくを守まもる土着どちゃく神しんだったが、朝廷ちょうていの支配しはいが強つよまったため土地とちの人々ひとびとが伊佐いさ奈枳の子ことしたのであり、ツクヨミとは関係かんけいないとする説せつがある。

『万葉集まんようしゅう』

万葉集まんようしゅうの歌うたの中なかでは、「ツキヨミ」或あるいは「ツキヨミオトコ（月読つきよみ壮士そうし）」という表現ひょうげんで現あらわれてくる。これは単たんなる月つきの比喩ひゆ（擬人ぎじん化か）としてのものと、神格しんかくとしてのものと二に種しゅの性格せいかくが読よみとれる。また「ヲチミヅ（変へん若水わかみず）」＝ヲツ即すなわち若返わかがえりの水みずの管掌かんしょう者しゃとして現あらわれ、「月つきと不死ふし」の信仰しんこうとして沖縄おきなわにおける「スデミヅ」との類似るいじ性せいがネフスキーや折口おりぐち信夫しのぶ、石田いしだ英一郎えいいちろうによって指摘してきされている。

なお、万葉集まんようしゅうの歌うたには月つきを擬人ぎじん化かした例れいとして、他たに「月つき人じん」や「ささらえ壮士そうし」などの表現ひょうげんが見みられる。

『その他たの文献ぶんけん』

皇すめらぎ太ふと神宮じんぐう儀式ぎしき帳ちょう

月讀つきよみ命いのち。御形ごぎょうハ馬ばニ乘じょうル男おとこノ形かたち。紫むらさきノ御衣おんぞヲ着き、金作きんさくノ太刀たちヲ佩キタマフ。

と記しるされており、太刀たちを佩はいた騎馬きばの男おとこの姿すがたとされている。

花はな喜き山さん城光寺じょうこうじ縁起えんぎ・慈住寺てら縁起えんぎ

天てん照あきら大神おおがみが八はち上じょう行幸ぎょうこうの際さい、行宮あんぐうにふさわしい地ちを探さがしたところ、一いち匹ひきの白兎しろうさぎが現あらわれた。白兎しろうさぎは天てん照あきら大神だいじんの御ご装束しょうぞくを銜くわえて、霊れい石せき山頂さんちょう付近ふきんの平地ひらち、現在げんざいの伊勢いせヶ平たいらまで案内あんないし、そこで姿すがたを消けした。白兎しろうさぎは月読つきよみ尊みことのご神体しんたいで、その後ごこれを道祖どうそ白兎しろうさぎ大明神だいみょうじんと呼よび、中山なかやまの尾お続つづきの四よんケ村かそんの氏神うじがみとして崇あがめたという。

ツクヨミの表記ひょうき

一般いっぱん的てきにはツクヨミと言いわれるが、月読つきよみを祀まつる神社じんじゃはツキヨミと表記ひょうきしている。 古事記こじきでは「月讀つきよみ命いのち」のみであるが、日本書紀にほんしょき・第だい五ご段だんの本文ほんぶんには、「月つき神しん【一いち書しょ云うん、月がつ弓ゆみ尊たかし、月夜つきよ見み尊みこと、月讀つきよみ尊みこと】」と複数ふくすうの表記ひょうきがなされている。万葉集まんようしゅうでは、月つきを指さして「月讀つきよみ壮士そうし（ツキヨミオトコ）」、「月つき人じん壮士そうし（ツキヒトオトコ）」「月夜つきよ見み」などとも詠よまれている。逸文いつぶんではあるが山城やましろ国こく風土記ふどきには「月讀つきよみ尊みこと」とある。

なお、「ツクヨミ」の上代じょうだい特殊とくしゅ仮名遣かなづかいを表記ひょうきごとにまとめると、以下いかのようになっている。

『古事記こじき』

• 月読つきよみ ヨ乙おつ・ミ甲かぶと

『日本書紀にほんしょき』

• 月読つきよみ ヨ乙おつ・ミ甲かぶと　.月つき弓ゆみ ユ―・ミ甲かぶと　.月夜つきよ見み ヨ甲かぶと・ミ甲かぶと

『万葉集まんようしゅう』

• 月読つきよみ ヨ乙おつ・ミ甲かぶと　.月夜つきよ見み ヨ甲かぶと・ミ甲かぶと　.月余げつよ美び ヨ乙おつ・ミ甲かぶと

以上いじょうのように、『記紀きき万まん葉よう』においてツクヨミの「ミ」はいずれも甲かぶと類るいで一致いっちしているが、ヨの甲乙こうおつは両方りょうほうにまたがり、「ユ」の例れいすらある。

ヨ、ユ音おんに着目ちゃくもくして表記ひょうき例れいをまとめると、

• ヨ乙おつ 月読つきよみ、月余げつよ美び　.ヨ甲かぶと 月夜づきよ見み　.ユ 月がつ弓ゆみ

に分わかれる。

ツクヨミの名義めいぎ

ツクヨミの神かみ名めいについては、複数ふくすうの由来ゆらい説せつが成なり立たつ。

まず、最もっとも有力ゆうりょくな説せつとして、「月つきを読よむ」ことから暦こよみと結むすびつける由来ゆらい説せつがある。上代じょうだい特殊とくしゅ仮名遣かなづかいでは、「暦こよみや月齢げつれいを数かぞえる」ことを意味いみする「読よみ」の訓くん字じ例れい「余よ美び・餘あまり美び」がいずれもヨ乙おつ類るい・ミ甲かぶと類るいで「月読つきよみ」と一致いっちしていることから、ツクヨミの原義げんぎは、日月じつげつを数かぞえる「読よみ」から来きたものと考かんがえられる。例たとえば暦こよみ＝コヨミは、「日ひを読よむ」すなわち「日数にっすうみ（カヨミ）」であるのに対たいして、ツキヨミもまた月つきを読よむことにつながる。

「読よむ」は、『万葉集まんようしゅう』にも「月日つきひを読よみて」「月つき読よめば」など時間じかん（日月じつげつ）を数かぞえる意味いみで使つかわれている例れいがあり、また暦こよみの歴史れきしを見みると、月つきの満みち欠かけや運行うんこうが暦こよみの基準きじゅんとして用もちいられており、世界せかい的てきに太陰暦たいいんれきが太陽暦たいようれきに先行せんこうして発生はっせいした。「一いち月がつ二に月がつ」という日ひの数かぞえ方かたにもその名残なごりがあるように、月つきと暦こよみは非常ひじょうに関係かんけいが深ふかいつまり、ツクヨミは日月じつげつを数かぞえることから、暦こよみを司つかさどる神格しんかくであろうと解釈かいしゃくされている。

その他たにも、海神わたつみのワタツミ、山神さんじんのオオヤマツミと同おなじく、「ツクヨのミ」（「ツクヨ」が月つきで「ミ」は神霊しんれいの意い）から「月つきの神かみ」の意いとする説せつがある。

このようにはっきりと甲乙こうおつの異ことなる「ヨ」や、発音はつおんの異ことなる「ユ」の表記ひょうきが並行へいこうして用もちいられていること、そして『記紀きき万まん葉よう』のみならず『延喜えんぎ式しき』などやや後世こうせいの文献ぶんけんでも数すう通とおりの呼称こしょうがあり、表記ひょうきがどれかに収束しゅうそくすることなく、ヨの甲乙こうおつが異ことなる「月読つきよみ」と「月夜つきよ見み」表記ひょうきが並行へいこうして用もちいられている。

『万葉集まんようしゅう』におけるツクヨミを詠よんだ歌うた

• 巻まき四よん・六ろく七なな〇 月讀つきよみの 光ひかりに来きませ 足あし疾やまし（あしひき）の 山やま寸すん（やまき）隔へだた（へ）なりて 遠とおからなくに
• 巻まき四よん・六ろく七なな一いち 月讀つきよみの光こうは清きよく 照てらせれど 惑へるこころ 思おもひあへなくに
• 巻まき六ろく・九きゅう八はち五ご 天てんに座ざす 月讀つきよみ壮士そうし 幣ぬさ（まひ）はせむ 今夜こんやの長ながさ 五ご百ひゃく夜や継つぎこそ
• 巻まき七なな・一いち〇七なな五ご 海原うなばらの 道みち遠とおみかも 月讀つきよみの 明あかり（ひかり）少すくなき 夜よるは更ふけにつつ
• 巻まき七なな・一いち三さん七なな二に み空そらゆく 月讀つきよみ壮士そうし 夕ゆう去さらず 目めには見みれども 因よるよしもなし
• 巻まき十三じゅうざ・三さん二に四よん五ご 天てん橋きょうも 長ながくもがも 高山たかやまも 高たかくもがも 月夜つきよ見みの 持もてる越水こしみず（をちみづ） い取とり来きて 公おおやけ（きみ）に奉まつりて をち得えてしかも
• 巻まき十じゅう五ご・三さん五ご九きゅう九きゅう 月がつ余あまり美びの 光ひかりを清きよみ 神かみ嶋しまの 磯いそ海うみの浦うらゆ 船出ふなですわれは
• 巻まき十じゅう五ご・三さん六ろく二に二に 月がつ余あまり美びの 光ひかりを清きよみ 夕凪ゆうなぎに 水みず手しゅ（かこ）の声こえ呼よび 浦うら海かい漕こぐかも

ツクヨミを祭神さいじんとする神社じんじゃ

内宮ないくう別宮べつく 月讀つきよみ宮みや

松尾まつお大社たいしゃ摂社せっしゃ 月読つきよみ神社じんじゃ

皇すめらぎ大神宮だいじんぐうの別宮べつみや・月讀つきよみ宮みやや、豊ゆたか受大神宮じんぐうの別宮べつみや・月夜つきよ見み宮みやに祀まつられる。また、京都きょうと市しの月読つきよみ神社じんじゃは壱岐いき市しの月讀つきよみ神社じんじゃから勧請かんじょうを受うけたものである。日本にっぽん百名山ひゃくめいざんや出羽三山でわさんざんで知しられる月山がっさん（ガッサン,1984m,山形やまがた県けん）の名称めいしょうは、山頂さんちょうに鎮座ちんざする神社じんじゃ（月山がっさん神社じんじゃ,旧きゅう社格しゃかく：官かん幣ぬさ大社たいしゃ）の祭神さいじんである月読つきよみ之の命いのちに因ちなんだものとされる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 青木あおき周平しゅうへいほか 編へん『日本にっぽん神話しんわ事典じてん』大林おおばやし太良たら、吉田よしだ敦彦あつひこ監修かんしゅう、大和やまと書房しょぼう、1997年ねん6月がつ。ISBN 978-4-479-84043-5。 
• 大林おおばやし太良たら『日本にっぽん神話しんわの起源きげん』。 
  • 角川書店かどかわしょてん〈角川かどかわ新書しんしょ 151〉、1965年ねん7月がつ。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:61010386、NCID BN03329074。
• 学研がっけん編集へんしゅう部ぶ 編へん『神道しんとうの本ほん - 八百万やおよろずの神かみ々がつどう秘教ひきょう的てき祭祀さいしの世界せかい』学研がっけんマーケティング〈NEW SIGHT MOOK ブックス・エソテリカ2〉、1992年ねん2月がつ。ISBN 978-4-05-106024-4。 
• 桂かつら令れい夫おっとほか『東洋とうよう神かみ名めい事典じてん』山北やまきた篤あつし監修かんしゅう、新しん紀元きげん社しゃ〈Truth In Fantasy事典じてんシリーズ 7〉、2002年ねん12月。ISBN 978-4-7753-0123-4。 
• 河合かわい隼雄はやお『中空なかぞら構造こうぞう日本にっぽんの深層しんそう』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ。 
  • 中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ〈中公叢書ちゅうこうそうしょ〉、1982年ねん1月がつ。ISBN 978-4-12-001090-3。
• 戸部とべ民夫たみお『八はち百ひゃく万まんの神かみ々 - 日本にっぽんの神霊しんれいたちのプロフィール』新しん紀元きげん社しゃ〈Truth In Fantasy 31〉、1997年ねん12月。ISBN 978-4-88317-299-3。 
• 戸部とべ民夫たみお『日本にっぽん神話しんわ - 神かみ々の壮麗そうれいなるドラマ』新しん紀元きげん社しゃ〈Truth In Fantasy 63〉、2003年ねん10月がつ。ISBN 978-4-7753-0203-3。 
• 新村しんむら出いずる『広辞苑こうじえん 第だい五ご版はん』岩波書店いわなみしょてん、1998年ねん11月。ISBN 4-00-080111-2。 
• 三浦みうら茂久しげひさ『古代こだい日本にっぽんの月つき信仰しんこうと再生さいせい思想しそう』作品社さくひんしゃ、2008年ねん10月がつ。ISBN 978-4-86182-205-6。 

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽんの神かみの一覧いちらん
• 日本にっぽんの神かみの家系かけい図ず
• 月読つきよみ神社じんじゃ

外部がいぶリンク

• 「月読つきよみ命いのちについて知しりたい。」（近畿大学きんきだいがく中央ちゅうおう図書館としょかん） - レファレンス協同きょうどうデータベース