ディオドロス・クロノス

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』

ディオドロス・クロノス（古希こき: Διόδωρος Κρόνος 英えい: Diodorus Cronus 前ぜん284年ねんごろ没ぼつ[1]）は、古代こだいギリシア・ヘレニズム期きのメガラ派はの哲学てつがく者しゃ・論理ろんり学者がくしゃ。「クロノス」は「老おいぼれ」を意味いみするあだ名な。ストア派はのゼノンの師しの一人ひとり、命題めいだい論理ろんりや様相ようそう論理ろんりの先駆せんく者しゃ、運命うんめい論ろんの支持しじ者しゃとして知しられる。

著作ちょさくは現存げんそんせず、断片だんぺん的てきな学説がくせつが後世こうせいのキケロ、エピクテトス、ディオゲネス・ラエルティオス、セクストス・エンペイリコスらを通つうじて伝つたわる。

人物じんぶつ[編集へんしゅう]

ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学てつがく者しゃ列伝れつでん』第だい2巻かんで、メガラ派はの祖そエウクレイデスの学がく統みつるに連つらなる人物じんぶつ、エウブリデスの弟子でしのアポロニオス・クロノス（英語えいご版ばん）の弟子でしとして語かたられる[2]。

小しょうアジアのカリアのイアソス（英語えいご版ばん）出身しゅっしん[2]。アレクサンドリアのプトレマイオス1世せいの宮廷きゅうていに召めし抱かかえられたが、宴席えんせきでメガラ派はのスティルポンに問答もんどう競技きょうぎを挑いどまれて負まけ、師しと同様どうよう「老おいぼれ」を意味いみする「クロノス」のあだ名なで呼よばれるようになった[2][3]。のち、そのときの論題ろんだいについて論文ろんぶんを書かいたが失意しついのうちに没ぼっした[2]。

弟子でしに、ストア派はの祖そゼノンとメガラのピロン（英語えいご版ばん）（メガラのフィロン）がいた[4]。また5人にんの娘むすめにも弁べん証しょう術じゅつを伝授でんじゅした[5]。またアカデメイア派はのアルケシラオスにも影響えいきょうを与あたえた[6]。

逸話いつわとして、脱臼だっきゅうして医師いしヘロピロスの診察しんさつを受うけた際さい、運動うんどう否定ひてい論ろんにより実際じっさいは脱臼だっきゅうしていないのだと冗談じょうだんめかして言いった、という逸話いつわが伝つたわる[7]。アレクサンドリアの詩人しじんカリマコスは、ディオドロスの賢かしこさを讃たたえ、屋根やねの上うえのカラスまでもが命題めいだい論理ろんりの学説がくせつを口くちずさむ、という詩しを詠よんだ[8]。

学説がくせつ[編集へんしゅう]

「論理ろんり学がくの歴史れきし#ストア論ろん理学りがく」も参照さんしょう

ディオドロスとその弟子でしメガラのピロン（英語えいご版ばん）（メガラのフィロン）は、ストア派はのクリュシッポスとともに、命題めいだい論理ろんりや様相ようそう論理ろんりを扱あつかった先駆せんく者しゃとされる[9][10][11]。具体ぐたい的てきには、後世こうせいの複数ふくすうの文献ぶんけんにおいて[12][13][14][15][16]、「もし……ならば」や「必然ひつぜんである」を含ふくむ命題めいだいの論理ろんり包含ほうがんなどについての学説がくせつが報告ほうこくされる。

特とくにディオドロスは、様相ようそう論理ろんりに関かんする「キュリエウオン・ロゴス」(古希こき: κυριεύων λόγος) という論題ろんだいに取とり組くんだ[12][13]。「キュリエウオン・ロゴス」は、英語えいごでは「マスター・アーギュメント[17]」(英えい: master argument) と訳やくされ、日本語にほんごでは「主人しゅじんの論ろん[18]」などと訳やくされるが、つまりは「難問なんもん」程度ていどの意味合いみあいである[19]。論題ろんだいの内容ないようについては 入にゅう不ふ二に 2015 などが詳くわしい。この論題ろんだいはアリストテレス『命題めいだい論ろん』第だい9巻かんの「海戦かいせん問題もんだい」とともに、様相ようそう論理ろんりや「論理ろんり的てき運命うんめい論ろん」 (英えい: logical fatalism) の論題ろんだいとして現代げんだいの哲学てつがく者しゃにも受容じゅようされている[17]。古代こだいではストア派はのクリュシッポスやアンティパトロスもこれに取とり組くんだ[13]。ディオドロスは論理ろんり的てき運命うんめい論ろんを支持しじする立場たちばをとった[17]。

その他た、エレア派は以来いらいの運動うんどう否いや定論ていろんや原子げんし論ろんを強つよく支持しじした[20]。エウブリデスに帰きされる詭弁きべん「蔽おおいをされている者もの」「角かくある者もの」は、ディオドロスにも帰きされた[2]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Sedley, David (2018), “Diodorus Cronus”, in Zalta, Edward N., スタンフォード哲学てつがく事典じてん (Winter 2018 ed.), Metaphysics Research Lab, Stanford University, https://plato.stanford.edu/archives/win2018/entries/diodorus-cronus/ 2022年ねん4月がつ15日にち閲覧えつらん。 
  2. ^ a b c d e ディオゲネス・ラエルティオス 2.111-112
  3. ^ ストラボン『地理ちり誌し』14.658
  4. ^ ディオゲネス・ラエルティオス 7.16
  5. ^ アレクサンドリアのクレメンス『ストロマテイス』19 所しょ引メガラのピロンの佚書いっしょ
  6. ^ ディオゲネス・ラエルティオス 4.33
  7. ^ セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義しゅぎ哲学てつがくの概要がいよう』ii.245
  8. ^ セクストス・エンペイリコス『学者がくしゃたちへの論駁ろんばく』1.309
  9. ^ ジャック・ブランシュヴィック；デイヴィッド・セドレー著ちょ、大草おおくさ輝政てるまさ訳やく 2009, p. 246.
  10. ^ 山川やまかわ 1982.
  11. ^ 脇わき條じょう 2014.
  12. ^ a b キケロ『運命うんめいについて』12
  13. ^ a b c エピクテトス『語録ごろく』2.19.1-4
  14. ^ セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義しゅぎ哲学てつがくの概要がいよう』2.104-115　『学者がくしゃたちへの論駁ろんばく』8.112-123ほか
  15. ^ ボエティウス De interpretatione II 234.10–15
  16. ^ アフロディシアスのアレクサンドロス In Aristotelis analyticorum priorum librum I commentarium 184,6–10
  17. ^ a b c 入にゅう不ふ二に 2015, p. 149.
  18. ^ エピクテトス『語録ごろく』2.19.1-4 國こく方かた訳注やくちゅう
  19. ^ キケロ『運命うんめいについて』12 五ご之の治ち訳注やくちゅう
  20. ^ セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義しゅぎ哲学てつがくの概要がいよう』『学者がくしゃたちへの論駁ろんばく』随所ずいしょ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

一いち次じ文献ぶんけん

  • 山本やまもと光雄みつお；戸塚とつか七郎しちろう 訳わけ編へん『後期こうきギリシア哲学てつがく者しゃ資料集しりょうしゅう』岩波書店いわなみしょてん、1985年ねん。
  • 國くに方かた栄二えいじ訳わけ『エピクテトス 人生じんせい談義だんぎ』全ぜん2巻かん、岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、2020-2021年ねん。
  • キケロー著しる、五之治昌比呂訳「運命うんめいについて」『キケロー選集せんしゅう11』岩波書店いわなみしょてん、2000年ねん。
  • セクストス・エンペイリコス著しる、金山かなやま弥平やへい；金山かなやま万里子まりこ訳やく『ピュロン主義しゅぎ哲学てつがくの概要がいよう』京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、1998年ねん。
  • セクストス・エンペイリコス著ちょ、金山かなやま弥平やへい；金山かなやま万里子まりこ訳やく『学者がくしゃたちへの論駁ろんばく』全ぜん3巻かん、京都きょうと大学だいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい〈西洋せいよう古典こてん叢書そうしょ〉、2004-2010年ねん。
  • ディオゲネス・ラエルティオス著しる、加来かく彰あきら俊しゅん訳わけ『ギリシア哲学てつがく者しゃ列伝れつでん』 全ぜん3巻かん、岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1984-1994年ねん。

二に次じ文献ぶんけん

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ディオドロス・クロノス&oldid=92476327」から取得しゅとく