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様相ようそう論理ろんり

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

様相ようそう論理ろんり(ようそうろんり、えい: modal logic)は、いわゆる古典こてん論理ろんり対象たいしょうでない、様相ようそう(modal)とばれる「〜は必然ひつぜんてきしん」や「〜は可能かのうである」といった必然ひつぜんせい可能かのうせいなどをあつか論理ろんりである(様相ようそう論理ろんりは、部分ぶぶん真理しんりからは全体ぜんたい真理しんり決定けっていされない内包ないほう論理ろんり一種いっしゅることができる)。

その歴史れきしふるアリストテレスまでさかのぼることができる[1]:138が、形式けいしきてきあつかいは数理すうりろん理学りがく以降いこう古典こてん論理ろんりとしてである。

様相ようそう論理ろんりでは一般いっぱんに、標準ひょうじゅんてき論理ろんり体系たいけいに「~は必然ひつぜんてきである」ことを意味いみする必然ひつぜんせい演算えんざんと、「~は可能かのうである」ことを意味いみする可能かのうせい演算えんざんのふたつの演算えんざん追加ついかされる。

真理しんりろんてき様相ようそう認識にんしきろんてき様相ようそう

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様相ようそう論理ろんり真理しんりろんてき形而上学けいじじょうがくてき論理ろんりてき様相ようそう文脈ぶんみゃくかたられることがもっとおおい。この様相ようそうにおいては「~は必然ひつぜんてきである」、「~は可能かのうである」といった言明げんめいあつかわれるが、これは認識にんしきろんてき様相ようそう混同こんどうされやすい。

たとえば「雪男ゆきおとこ存在そんざいしているはずがない」という主張しゅちょうと、「雪男ゆきおとこ存在そんざいすることは可能かのうである」という主張しゅちょうは、矛盾むじゅんおこなうことが可能かのうである。この場合ばあい前者ぜんしゃ認識にんしきろんてき様相ようそうであり、「(これまでの情報じょうほうからして)雪男ゆきおとこ実際じっさい存在そんざいするとはかんがえられない」という主張しゅちょうとみなしうる。一方いっぽう後者こうしゃ真理しんりろんてき様相ようそうであり「(実際じっさいには存在そんざいしないのだが)雪男ゆきおとこ存在そんざいすることは可能かのうである」という主張しゅちょうであると解釈かいしゃくすることができる。

あるいは、「ゴールドバッハ予想よそうただしいかもしれないし、ただしくないかもしれない」という言明げんめい認識にんしきろんてきである。これは現時点げんじてん知識ちしきではただしいかどうかからないということであり、かりにゴールドバッハ予想よそう証明しょうめい存在そんざいし、その方法ほうほう気付きづいていないだけだとすれば、真理しんりろんてきには「ただしくないかもしれない」という主張しゅちょうあやまりであることになる。

これ以外いがい様相ようそうとしては、時間じかんてきなものがある。たとえば、「明日あしたあめるかどうかはまっていない」のにたいし、「昨日きのうあめったかどうかはまっている」とかんがえられる。このように素朴そぼく時間じかんかんには同意どういしない哲学てつがくしゃおおいが、その構造こうぞう様相ようそう論理ろんりによって把握はあくすることができる。

さらに「~べきではない」「~してもよい」といった義務ぎむかかわる命題めいだい様相ようそう論理ろんりによってあつかうことができる。直感ちょっかんてきにも、「~べきではない」と「~してもよい」の関係かんけいは「~は必然ひつぜんてきである」と「~は可能かのうである」の関係かんけいきわめて類似るいじしている。義務ぎむ表現ひょうげんあつか様相ようそう論理ろんり義務ぎむ論理ろんりばれる。

様相ようそう論理ろんり公理系こうりけい

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様相ようそう論理ろんりには様々さまざま公理系こうりけいかんがえられており、どのような公理系こうりけい妥当だとうなのかはそれ自体じたい論争ろんそうてきである。ふたつの様相ようそう演算えんざんのあいだにド・モルガンの法則ほうそくてき関係かんけい成立せいりつすることは、どの公理系こうりけいでも共通きょうつうしている。必然ひつぜんせい演算えんざん可能かのうせい演算えんざんである。

すなわち、「必然ひつぜんてきしん」は「にせである可能かのうせいがない」と同等どうとうであり、「しんである可能かのうせいがある」は「必然ひつぜんてきにせであるわけではない」と同等どうとうである。様相ようそう論理ろんりとしての最低限さいていげん定義ていぎ のみをたす最小さいしょう公理系こうりけいとしては、E という公理系こうりけいられている。これは古典こてん命題めいだい論理ろんり以下いか推論すいろん規則きそくくわえたものである。

  • 推論すいろん規則きそく : つならば、つ。

この公理系こうりけい E より「つよい」すべての公理系こうりけいは、Classical な公理系こうりけいばれる。

しかしながら、しんみとめるべきかどうか直感ちょっかんてきあきらかでない論理ろんりしきおおつくることができる。たとえば「必然ひつぜんてきしんならば必然ひつぜんてきに「必然ひつぜんてきしん」である」とえるのかどうか、すなわつのかどうかははっきりしない。こういった定理ていりみとめるかかによって、様々さまざま公理系こうりけいまれる。

必然ひつぜん規則きそくたす公理系こうりけい(Normal な公理系こうりけい)のなかで、もっとも「ちいさな」公理系こうりけいとしてられているのは、クリプキによる K という公理系こうりけいである。K の公理系こうりけいさら公理こうりくわえることにより、様々さまざま様相ようそう論理ろんりられる[2]

K の公理系こうりけい

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K の公理系こうりけい古典こてん命題めいだい論理ろんり公理系こうりけい公理こうり図式ずしきK太字ふとじになっていることに注意ちゅうい)と必然ひつぜん規則きそく(necessitation)をくわえたものである。

  • 公理こうりK :
  • 必然ひつぜん規則きそく : 仮定かてい証明しょうめい可能かのうならば、 もまた仮定かてい成立せいりつする。

ここで可能かのうせい演算えんざん定義ていぎ によって導入どうにゅうされる。

T の公理系こうりけい

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K の公理系こうりけい以下いか公理こうり図式ずしきT必然ひつぜんてきしんならば、しんである」をくわえた体系たいけいは T とばれる。

  • 公理こうりT :

T においては、K では証明しょうめい可能かのうでなかった などが証明しょうめい可能かのうとなる。

S4, S5の公理系こうりけい

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公理系こうりけいK,Tにおいては以下いかの1–4の同値どうちせい証明しょうめいできないために多重たじゅう様相ようそう, , , , , ...)をらすことができない。したがって無限むげんおおくの様相ようそう区別くべつされることになる。

これらは還元かんげん法則ほうそくばれるが、右辺うへん左辺さへんはTで証明しょうめい可能かのうなので、1–4の左辺さへん右辺うへんうち、どれを公理系こうりけいT にくわえるかで S4, S5 のちがいがまれる。

  • 公理こうり4 : 還元かんげん法則ほうそくの4に対応たいおう)をTにくわえたのがS4である。
  • 公理こうり5 : 還元かんげん法則ほうそくの1に対応たいおう)をTにくわえたのがS5である。

じつは、還元かんげん法則ほうそくの1を仮定かていすれば、Tのしたで2–4は証明しょうめい可能かのうとなる。一方いっぽう3を仮定かていすれば4がTで証明しょうめい可能かのうだが、2は証明しょうめい可能かのうでない。したがってS5はS4よりしんつよい(証明しょうめいりょくつよい)公理系こうりけいである。還元かんげん法則ほうそく導入どうにゅうにより本質ほんしつてき区別くべつされる様相ようそうはS4で7種類しゅるい、S5で3種類しゅるい実際じっさい減少げんしょうする。

クリプキはこの S5 に非常ひじょう単純たんじゅん意味いみろんてはまることをしめした(した#様相ようそう論理ろんり意味いみろん参照さんしょう)。しかし実際じっさいには、議論ぎろん目的もくてきによって適切てきせつ公理系こうりけいことなる。たとえば、真理しんりろんてき様相ようそうかんしては S5 がもっと適当てきとうだが、認識にんしきろんてき様相ようそうでは S4 という公理系こうりけい適切てきせつであるとかんがえられている。

様相ようそう論理ろんり意味いみろん

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様相ようそう論理ろんり意味いみろんとしてはソール・クリプキによってあたえられたクリプキ意味いみろんばれる体系たいけいがあり、それと関係かんけいするよくられたアイディアとして可能かのう世界せかいろんがある。うえ公理系こうりけいのバリエーションは、可能かのう世界せかいのあいだのこう関係かんけいとして定義ていぎされる到達とうたつ可能かのうせい概念がいねんによってとらえることができる。なお、可能かのう世界せかいという概念がいねんをどう解釈かいしゃくすべきかをめぐっては、哲学てつがくじょう議論ぎろんさかんである。

命題めいだい様相ようそう論理ろんり意味いみろん概要がいよう以下いかとおりである。

Wそらでない集合しゅうごうとする。これは個々ここ可能かのう世界せかい全体ぜんたい集合しゅうごうあらわしているとかんがえられる。つぎWうえこう関係かんけいRかんがえる。つまりである。またあらわす。RWうえ到達とうたつ関係かんけいばれ、様相ようそう演算えんざんいた論理ろんりしき真偽しんぎ影響えいきょうする。またPV命題めいだい変数へんすう全体ぜんたい集合しゅうごうとし、このPVさき定義ていぎしたWにたいし、関数かんすうVを

として定義ていぎする(Wべき集合しゅうごう、すなわち部分ぶぶん集合しゅうごう全体ぜんたい集合しゅうごうである)。これは、ある原子げんし命題めいだいについて、それがしんである可能かのう世界せかい集合しゅうごうあたえる解釈かいしゃくである。すなわち、可能かのう世界せかいwにおいて原子げんし命題めいだいpしんであることをとしてあらわす。このように定義ていぎされた順序じゅんじょさんくみW, R, V〉を解釈かいしゃく(もしくはクリプキモデル)とぶ。

さて、解釈かいしゃくV以下いかのように論理ろんりしき全体ぜんたい再帰さいきてき拡張かくちょうする。AB任意にんい論理ろんりしきwW任意にんい要素ようそとする。

  • かつ
  • または
  • または
  • すべての である について
  • ある である において

命題めいだい論理ろんり結合けつごうについては古典こてん命題めいだい論理ろんりまったおなじであるが、様相ようそう演算えんざんについては、可能かのう世界せかい到達とうたつ関係かんけいべつ可能かのう世界せかいかんがえる必要ひつようがある。任意にんいのクリプキモデル〈W, R, V〉のすべてのとき、AはK(クリプキにちなむ)でつねしんであるとう。ルイスの公理系こうりけい一部いちぶ意味いみろん到達とうたつ関係かんけいR制限せいげんこう関係かんけい制限せいげんについてくわしくは集合しゅうごうじょう関係かんけい参照さんしょう)をくわえることによりつくることが出来できる。たとえばS5A証明しょうめい可能かのうなのは、反射はんしゃてきかつ対称たいしょうてきかつ推移すいいてきであるという制限せいげんRくわえたすべてのクリプキモデルすべての世界せかいAしんであるときであり、そのときのみである。同様どうようS4反射はんしゃてきかつ推移すいいてきという制限せいげんくわえる[3]

つぎに「正規せいき世界せかい」(non-normal worlds)を導入どうにゅうする。Wそらでない集合しゅうごうNW部分ぶぶん集合しゅうごうRおよvうえ同様どうよう定義ていぎする。このとき順序じゅんじょよんくみW, N, R, V〉が正規せいき様相ようそう論理ろんりにおける解釈かいしゃくである。vは、命題めいだい論理ろんり結合けつごうについては、すべての上記じょうき同様どうよう拡張かくちょうされる。様相ようそう演算えんざんについては、正規せいき世界せかいNにおいては上記じょうきまったおなじだが、正規せいき世界せかいW - N(WのうちでNにふくまれない世界せかいすべての集合しゅうごうにおいてはことなる。

すべてのである。

いわば、正規せいき世界せかいでは定義ていぎてきに(到達とうたつ関係かんけい関係かんけいなく)すべての可能かのう命題めいだいしんであり、すべての必然ひつぜん命題めいだいにせである。Aがつねしんであるとはすべての解釈かいしゃくW, N, R, V〉のしたすべてのたいであることをう。正規せいき様相ようそう論理ろんり解釈かいしゃく到達とうたつ関係かんけいR反射はんしゃてきであるという制限せいげんくわえるとS2反射はんしゃてきかつ推移すいいてきという制限せいげんくわえるとS3意味いみろんとなる[4]

公理系こうりけいS4の位相いそうてき意味いみろんでは、原子げんし命題めいだいたち位相いそう空間くうかんなか図形ずけい解釈かいしゃくする。ここでは様相ようそう演算えんざんは、それぞれひらきかく作用素さようそ閉包へいほう作用素さようそ解釈かいしゃくされる。代数だいすうてき意味いみろんでは、原子げんし命題めいだいたち位相いそうブール代数だいすうもと解釈かいしゃくする。

様相ようそう論理ろんり歴史れきし

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アリストテレス論理ろんりがくだい部分ぶぶんがいわゆる三段論法さんだんろんぽうかかわるものであり、古典こてん論理ろんりわくないあつかえるものであるが、有名ゆうめいDe Interpretatione (『命題めいだいろん』)の海戦かいせん問題もんだいのように、時間じかん可能かのうせいかかわる発展はってんてき議論ぎろんおこなっている。スコラ哲学すこらてつがくではおも本質ほんしつ(essence)と付随ふずいてき性質せいしつ(accident)の区別くべつについて、厳密げんみつ論理ろんり展開てんかいされた。中世ちゅうせい思想家しそうかなかで、様相ようそう論理ろんりかかわる重要じゅうよう仕事しごとをした人物じんぶつとしてはオッカムのウィリアムヨハネス・ドゥンス・スコトゥスげられる。

今日きょう様相ようそう論理ろんりは、1918ねん著書ちょしょ A Survey of Symbolic Logic のなかで S1–S5 の公理系こうりけい導入どうにゅうした C・I・ルイスはじまる[5]1933ねんにはクルト・ゲーデルにより、必然ひつぜんせい演算えんざん基準きじゅんとした方法ほうほうで S4 が定義ていぎされた。J・C・C・マッキンゼー1941ねん代数だいすうてき方法ほうほうもちいてルイスの S2 と S4 の体系たいけい決定けってい可能かのうせい証明しょうめいした。

様相ようそう論理ろんりたいしての意味いみろん様々さまざまかたちかんがえられてきたが、1963ねんソール・クリプキにより提唱ていしょうされたクリプキ意味いみろん可能かのう世界せかい意味いみろんとも)は、様々さまざま様相ようそう論理ろんり体系たいけいたいして完全かんぜんせい定理ていりつことがしめされ、様相ようそう論理ろんり飛躍ひやくてき前進ぜんしんさせた。

様相ようそう論理ろんりから派生はせいした論理ろんり体系たいけいとしては、従来じゅうらい演算えんざんわり、それぞれ過去かこ未来みらい到達とうたつ可能かのうせいしめ様相ようそう演算えんざんP・Fを導入どうにゅうするどきしょう論理ろんりや、従来じゅうらい様相ようそう演算えんざんラベル付らべるつけをほどこした動的どうてき論理ろんりなどがある。これらは認知にんち現象げんしょう解析かいせき計算けいさん科学かがくへの応用おうようなど、目的もくてきおうじて様々さまざま考案こうあんされ、適用てきようされている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 序説じょせつ(2010).
  2. ^ 以下いかの K, T, S4, S5 の公理系こうりけいについては戸田とださん (2000), pp. 306–310にった。
  3. ^ Priest 2008, pp. 35–36.
  4. ^ Priest 2008, pp. 64–65.
  5. ^ Blackburn, Rijke & Venema 2002.

参考さんこう文献ぶんけん

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  • もり雄一ゆういち, 小野おのひろし晰『現代げんだいすう理論りろん理学りがく序説じょせつ日本にっぽん評論ひょうろんしゃ、2010ねんISBN 9784535785564NCID BB02425588全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:21790737 
  • 戸田とださん和久わぐ論理ろんりがくをつくる』名古屋大学出版会なごやだいがくしゅっぱんかい、2000ねんISBN 4815803900NCID BA48630806全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:20118854 
  • Moshe Y. Vardi (2002-12-14) (PDF), Branching vs. Linear Time: Final Showdown, https://www.cs.rice.edu/~vardi/papers/etaps01-ver13.pdf 
  • Priest, Graham (2008). An Introduction to Non-Classical Logic (2 ed.). Cambridge University Press 
  • Blackburn, Patrick; Rijke, Maarten de; Venema, Yde (2002) [2001]. Modal Logic (eBook ed.). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/cbo9781107050884. ISBN 978-0-521-52714-9. https://www.cambridge.org/core/books/modal-logic/F7CDB0A265026BF05EAD1091A47FCF5B 
  • 昭宏あきひろ, よしみつるC.i.ルイスと様相ようそう論理ろんり起源きげん」『科学かがく哲学てつがくだい37かんだい1ごう、2004ねん、1–14ぺーじdoi:10.4216/jpssj.37.1 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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