人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく

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人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく(じんぶんしゅぎちりがく、英語えいご: humanistic geography)あるいは人間にんげん主義しゅぎ地理ちりがく(にんげんしゅぎしゅぎちりがく)は、1970年代ねんだいアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくやカナダで発生はっせいした人文じんぶん地理ちりがくかんがかた[1]で、空間くうかんにおける個々ここ人間にんげんせい重視じゅうしする[2]

概要がいよう[編集へんしゅう]

1960年代ねんだいアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく進行しんこうした計量けいりょう革命かくめいにより、地理ちりがくでは実証じっしょう主義しゅぎ進行しんこうした[3]。しかし、人間にんげん物量ぶつりょうとしてあつか実証じっしょう主義しゅぎへの反対はんたい意見いけんまれ[2]数値すうち法則ほうそく表現ひょうげんできない[4]人間にんげんらしくきとした空間くうかんかんがえようとして[5]人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく形成けいせいされた[6]

人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく成立せいりつ拡大かくだいにおける主要しゅよう人物じんぶつとして、イーフー・トゥアンげることができる[7]。トゥアンは人間にんげん自然しぜんとのつながりにつよ関心かんしんせ、また人間にんげん理解りかいするためにあらたな方法ほうほうろん現象げんしょうがく導入どうにゅうなど)をみ、人間にんげん心理しんり人間にんげんせいにも着目ちゃくもくして、人文じんぶん環境かんきょう理解りかいつとめようとした[8]

ただし、人間にんげん主観性しゅかんせい重視じゅうしする人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくてき概念がいねんは、ふるくはジョン・カートランド・ライト英語えいごばんなどにもられ[7]、ライトはジオソフィ提唱ていしょうしていた[9]。ライトは人間にんげんのイメージについてを着目ちゃくもくしており、現象げんしょうがくてき地理ちりまなべないし人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくにつながったものとされる[9]。ライトの影響えいきょうけたデイヴィッド・ローウェンサル英語えいごばんは「主体しゅたいからみた空間くうかん」(subjective space)の概念がいねん地理ちりがくもうとした[10]。なお、Lowenthal (1961)地理ちりがくにおいて人文じんぶん主義しゅぎてき見方みかたれた最古さいこ研究けんきゅうとされる[11]

このほかエドワード・レルフはトゥアンと同様どうよう現象げんしょうがく思想しそう人文じんぶん地理ちりがく[12]日常にちじょう生活せいかつにおける具体ぐたいてき出来事できごとおよび、人々ひとびとの「場所ばしょ」にたいする意味いみづけとその背景はいけい構造こうぞう研究けんきゅう対象たいしょうにすることを主張しゅちょうした[13]

ただし、人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく特定とくてい研究けんきゅう対象たいしょう研究けんきゅう方法ほうほうをもつ地理ちりがくいち分野ぶんやとはれず、地理ちりがく研究けんきゅうアプローチの1つとしてとらえるとよいとされる[6]

日本にっぽんにおける人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく[編集へんしゅう]

日本にっぽん人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくはじめて紹介しょうかいされた事例じれいとして、山野やまの (1979)および竹内たけうち (1979)げられる[14]。これらの論文ろんぶんでは英語えいごけんにおける人文じんぶん主義しゅぎてき地理ちりがく研究けんきゅう紹介しょうかいがなされた[14]

日本にっぽんでトゥアンの著書ちょしょ翻訳ほんやくされたこともあり、トゥアンによる方法ほうほうろん影響えいきょうりょくおおきいという主張しゅちょうもある[15]

米田よねだかたさん (1991)では、日本にっぽんにおける人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくてき研究けんきゅうについて、主観性しゅかんせい人間にんげんせいもどした研究けんきゅう記号きごうろんてき方法ほうほうろんをとった研究けんきゅう場所ばしょイメージにかんする研究けんきゅうメンタルマップかんする研究けんきゅうゲシュタルト心理しんりがくてき見方みかた利用りようした景観けいかん研究けんきゅうの5つに分類ぶんるいしている[16]。ただし日本にっぽんでの人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくてき研究けんきゅう空間くうかん認知にんち視覚しかくかぎられることがおおいという批判ひはんもある(実際じっさい日本にっぽん国外こくがいでは1991ねん時点じてんでも嗅覚きゅうかく聴覚ちょうかくなど感覚かんかくによる空間くうかん認知にんちによる感覚かんかく地理ちりがく発生はっせいしていた)[17]

批判ひはん[編集へんしゅう]

人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく実証じっしょう主義しゅぎ否定ひていする関係かんけいで、根本こんぽんてき部分ぶぶん自体じたい批判ひはん対象たいしょうとなっている[18]たとえば、デイヴィッド・レイ英語えいごばんは、人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくにおける主観性しゅかんせい過剰かじょうさ、方法ほうほうろん不在ふざい内的ないてき理解りかい依存いぞんした現実げんじつ認識にんしきの3てん問題もんだいしている[18]。エントリキンも人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくにおける方法ほうほうろん不在ふざい指摘してきし、人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく最大さいだい存在そんざい意義いぎ実証じっしょう主義しゅぎへの批判ひはんかんがえている[18]山野やまの正彦まさひこは、人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく実証じっしょう主義しゅぎ立場たちばからの批判ひはん対抗たいこうできていないものの、科学かがくてき思考しこうへの依存いぞんによる弊害へいがいふせぐために、環境かんきょう計画けいかくなどで人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがく必要ひつようとされると主張しゅちょうし、実際じっさいおこなわれている人文じんぶん主義しゅぎ地理ちりがくてき研究けんきゅうれいとして、地理ちりがく研究けんきゅう都市とし社会しゃかい地理ちりがく過去かこ景観けいかん復元ふくげん人間味にんげんみのある空間くうかん研究けんきゅう指摘してきしている[19]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]