労働ろうどう地理ちりがく

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労働ろうどう地理ちりがく(ろうどうのちりがく、英語えいご: Labor geography)は、1990年代ねんだい以降いこうさかんとなった研究けんきゅう潮流ちょうりゅうであり、経済けいざい地理ちりがくにおけるいち分野ぶんやである。アメリカのアンドリュー・ヘロッドによってされた概念がいねんである[1]労働ろうどう組合くみあい地域ちいき労働ろうどう市場いちばかんする研究けんきゅうはしはっし、労働ろうどう市場いちば雇用こようかんする事象じしょう政策せいさく労働ろうどうのアイデンティティにかんする問題もんだいなどを研究けんきゅうテーマとしてあつかう。

概要がいよう[編集へんしゅう]

経済けいざい地理ちりがくにおいては、以前いぜんから労働ろうどうりょく分布ぶんぷ地理ちりてき流動りゅうどうせい研究けんきゅう課題かだいとしてあつかってきたが、企業きぎょう意思いし決定けってい資本しほんうごきに終始しゅうししており、労働ろうどうしゃについては労働ろうどうりょくとしてとらえられ、空間くうかん分布ぶんぷ分析ぶんせきされても空間くうかん編成へんせいする主体しゅたいとしては分析ぶんせきされてこなかった。1997ねんアメリカのアンドリュー・ヘロッドが論文ろんぶん“From a geography of labor to a labor geography”(労働ろうどうりょく地理ちりがくから労働ろうどう地理ちりがく[注釈ちゅうしゃく 1])を発表はっぴょうし、これまでの立地りっちろんマルクス主義まるくすしゅぎ地理ちりがく労働ろうどうしゃ受動じゅどうてき存在そんざいとしてみなしてきたと批判ひはんし、労働ろうどうしゃ主体性しゅたいせいって地理ちりてき現象げんしょう発露はつろさせているという視点してんつ「労働ろうどう地理ちりがく」によって労働ろうどうしゃ視点してんからの経済けいざい地理ちりがくつくげることをこころみた[2][3]

労働ろうどう地理ちりがくでは、労働ろうどう市場いちば価格かかくメカニズムのみに支配しはいされるものではなく、生産せいさんさい生産せいさん社会しゃかいてき調整ちょうせい相互そうご作用さようあらわれだとし、地域ちいきてき多様たようせいった存在そんざいだととらえている[4][5]。その多様たようせいから地域ちいき労働ろうどう市場いちばをはじめとしたさまざまな空間くうかんスケールしょうじるため[6]空間くうかんスケールがしょうじるメカニズム、上位じょうい下位かいのスケールとの連関れんかん研究けんきゅう課題かだいとしている[4]

労働ろうどう地理ちりがく嚆矢こうしとなる研究けんきゅう1980年代ねんだいアメリカイギリスすではじまっており、閉鎖へいさ移転いてん相次あいついでいる工業こうぎょう地域ちいきとその周辺しゅうへんかんして構造こうぞうてき把握はあく目指めざしていた[2]1990年代ねんだいになると労働ろうどうかんする経済けいざい地理ちりがく著作ちょさく相次あいついで発表はっぴょうされ、2004ねんにはノエル・カストリー英語えいごばんによってテキストが編纂へんさんされた[7]労働ろうどう地理ちりがく経済けいざい地理ちり学界がっかいには好意こういてきめられ、研究けんきゅう多数たすう蓄積ちくせきされた。2000年代ねんだい以降いこう労働ろうどうしゃが「移動いどう」という主体性しゅたいせいっているという観点かんてんから、移民いみん研究けんきゅう途上とじょうこく舞台ぶたいにした研究けんきゅうがなされるようになった[8]

研究けんきゅうテーマ[編集へんしゅう]

労働ろうどう組合くみあい労働ろうどう運動うんどうかんする研究けんきゅうのほか、地域ちいき労働ろうどう市場いちば移民いみん途上とじょうこくなどの研究けんきゅうがある[9]

  • 労働ろうどう組合くみあい対立たいりつによる職域しょくいきさい編成へんせいをめぐるミクロな視点してんでの研究けんきゅう
  • 欧州おうしゅう労使ろうし協議きょうぎかい英語えいごばん制度せいどによって労働ろうどうしゃ国際こくさい連帯れんたい可能かのうせいひらかれたというトランスナショナルな視点してんでの研究けんきゅう
  • 個別こべつ職場しょくば個別こべつ労使ろうし関係かんけいくに政策せいさくというナショナルな視点してん国籍こくせき企業きぎょう移民いみん動向どうこうというグローバルな視点してんから分析ぶんせきする研究けんきゅう

著名ちょめい研究けんきゅうしゃ[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 中澤なかざわ高志たかしはヘロッドがす”geography of labor”の研究けんきゅう動向どうこうまえて「労働ろうどうりょく地理ちりがく」と日本語にほんごやくしており、富樫とかし (2002)は「『労働ろうどう対象たいしょうひとつとしてあつか地理ちりがく』から『主体しゅたいとしての労働ろうどう立場たちば地理ちりがく』へ」とやくしている。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 富樫とかし幸一こういち日本にっぽん労働ろうどう市場いちば変貌へんぼう地域ちいき経済けいざい : 労働ろうどう地域ちいき地理ちりがく(<特集とくしゅう>日本にっぽん経済けいざいのリストラクチャリングと雇用こよう地理ちり)」『経済けいざい地理ちりがく年報ねんぽうだい48かんだい4ごう、2002ねん、291-308ぺーじdoi:10.20592/jaeg.48.4_291 
  • 中澤なかざわ高志たかし子育こそだ女性じょせいたいする就業しゅうぎょう支援しえんとしてのNPOによる在宅ざいたく就業しゅうぎょう推進すいしん-労働ろうどう地理ちりがく視点してんから-」『地域ちいき経済けいざいがく研究けんきゅうだい18かんだい0ごう、2008ねん、8-22ぺーじdoi:10.24721/chiikikeizai.18.0_8 
  • 中澤なかざわ高志たかし「「労働ろうどう地理ちりがく」の成立せいりつとその展開てんかい」『地理ちりがく評論ひょうろん Series A』だい83かんだい1ごう、2010ねん、80-103ぺーじdoi:10.4157/grj.83.80 
  • 中澤なかざわ高志たかしさい生産せいさん困難こんなんせいさい生産せいさん主体性しゅたいせい」『経済けいざい地理ちりがく年報ねんぽうだい65かんだい4ごう、2019ねん、312-337ぺーじdoi:10.20592/jaeg.65.4_312 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]