立地りっち論ろん

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立地りっち論ろん（りっちろん、ドイツ語ご: Standortstheorie、英語えいご: location theory）は、経済けいざい活動かつどうの地理ちり的てき立地りっちに関かかわる理論りろんであり、経済けいざい地理ちり学がく、地域ちいき科学かがく、空間くうかん経済けいざい学がくにおいて重要じゅうような基礎きそ的てき部分ぶぶんとなっている。 立地りっち論ろんは、どのような経済けいざい活動かつどうがどこに立地りっちするか、それはなぜなのかを問題もんだいとする。立地りっち論ろんは、ミクロ経済けいざい学がくの理論りろんが一般いっぱん的てきにそうであるように、個々ここの経済けいざい主体しゅたい（エージェント）は、自己じこの利益りえきのために行動こうどうするという前提ぜんていを置おいている。したがって、事業じぎょう所しょはその利益りえきを最大さいだい化かするように立地りっちを選択せんたくし、個人こじんは効用こうようを最大さいだい化かするように立地りっちを選択せんたくすることになる。

起源きげん[編集へんしゅう]

立地りっち論ろんの先駆せんくとして前史ぜんし的てきに言及げんきゅうされる早はやい時期じきの業績ぎょうせき（例たとえば、リチャード・カンティロン、エティエンヌ・ボノ・ドゥ・コンディヤック、デイヴィッド・ヒューム、サー・ジェームズ・ステュアート、デヴィッド・リカードなど）も存在そんざいするものの、ヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネンの『孤立こりつ国こく』第だい1巻かんが1826年ねんに刊行かんこうされたときから、立地りっち論ろんは本格ほんかく的てきに論ろんじられるようになった[1][2][3]。地域ちいき科学かがくの創始そうし者しゃウォルター・アイザードは、フォン・チューネンを「立地りっち論ろんの父ちち」と呼よんでいる[4]。『孤立こりつ国こく』においてフォン・チューネンは、輸送ゆそう費ひがリカルドの言いう経済けいざい的てき地代じだい（economic rent）を消費しょうひすることを指摘してきしている。フォン・チューネンは、輸送ゆそう費ひや経済けいざい的てき地代じだいは財ざいによって異ことなるため、市場いちばからの距離きょりに応おうじて、土地とち利用りようや利用りよう強度きょうどは異ことなったものとなると論ろんじた。しかし、フォン・チューネンは、孤立こりつ国こく、ないし、独立どくりつしたひとつの都市としを想定そうていした、過剰かじょうに単純たんじゅん化かされた議論ぎろんだ、という批判ひはんが大方おおかたの反はん応おうであった[5]。

スウェーデンのトルド・パランダー(Tord Palander)は、1935年ねんの著作ちょさく『立地りっち論ろん研究けんきゅう (Beiträge zur Standortstheorie)』で、競争きょうそうする2つの企業きぎょうによる市場いちばの地域ちいき的てき分割ぶんかつを論ろんじた[6]。

立地りっち論ろんは、フォン・チューネンの時代じだいから、今日きょう、中心ちゅうしん地理ちり論ろんとして理解りかいされている内容ないようの大だい部分ぶぶんを構築こうちくしたヴァルター・クリスタラーの1933年ねんの著作ちょさく『都市としの立地りっちと発展はってん (Die Zentralen Orte in Sűddeutschland)』[7]まで、もっぱらドイツの研究けんきゅう者しゃが担にない手てとなっていた[8]。とりわけ重要じゅうような貢献こうけんを残のこしたのは、『工業こうぎょう立地りっち論ろん (Über den Standort der Industrien)』を1909年ねんに著あらわしたアルフレート・ヴェーバーであった[9][10]。ピエール・ヴァリニョンのアイデアを取とり入いれた物理ぶつり的てきなフレーム(Varignon frame)に似にたモデルを応用おうようし、ヴェーバーは、原料げんりょうと完成かんせいした製品せいひんそれぞれの輸送ゆそう運賃うんちんや製造せいぞう施設しせつから、工場こうじょうの最適さいてき立地りっちを求もとめるアルゴリズムを導みちびいた。ヴェーバーはまた、労働ろうどうの要素ようそによって生しょうじる偏向へんこうや、集積しゅうせきがもたらす偏向へんこう（集積しゅうせきを促うながす力ちからも逆ぎゃくの力ちからもある）についても考察こうさつした。さらにヴェーバーは、生産せいさん単位たんいのグルーピングも論ろんじており、アウグスト・レッシュ(August Lösch)の市場いちば地域ちいき論ろんを予見よけんさせるものとなっている。

ヴェーバーの業績ぎょうせきとされているものの多おおくは、ヴェーバーの業績ぎょうせき以前いぜんにヴィルヘルム・ラウンハルト(Wilhelm Launhardt)が構想こうそうしていた。しかも、ラウンハルトの分析ぶんせき内容ないようは、ヴェーバー以上いじょうに驚おどろくほどモダンであった。しかし、ラウンハルトは彼かれの時代じだいよりもあまりに先さきへ進すすみすぎており、同どう時代じだいの人々ひとびとの多おおくはそれを理解りかいできなかった。ヴェーバーがラウンハルトの業績ぎょうせきに接せっしていたかどうかは、明あきらかになっていない。ヴェーバーが明あきらかに影響えいきょうを受うけていたのは、ヴィルヘルム・ロッシャーやアルベルト・シェフレなどであるが、彼かれらはラウンハルトを読よんでいた可能かのう性せいが高たかい。いずれにせよ、立地りっち論ろんの思想しそうが盛さかんに展開てんかいされるようになるのは、ヴェーバーの著書ちょしょが出版しゅっぱんされて以降いこうのことであった。

立地りっち論ろんの例れい[編集へんしゅう]

農業のうぎょう立地りっち論ろん（チューネン）[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「農業のうぎょう立地りっち論ろん」を参照さんしょう

ヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネンは都市としからの距離きょりのみを考慮こうりょして農業のうぎょう様式ようしきの立地りっちを考察こうさつした。大都市だいとし（市場いちば）から近ちかい順じゅんに自由じゆう式しき農業のうぎょう・林業りんぎょう・輪栽りんさい式しき農業のうぎょう・穀倉こくそう式しき農業のうぎょう・三さん圃式農業のうぎょう・牧畜ぼくちくが同心円どうしんえん状じょうに広ひろがっている。都市としからの距離きょりが増大ぞうだいするほど輸送ゆそう費ひが上昇じょうしょうするため、大都市だいとし周辺しゅうへんの地価ちかが上昇じょうしょうし、大都市だいとし周辺しゅうへんの土地とち利用りようが変化へんかすることを明あきらかにした[11]。

工業こうぎょう立地りっち論ろん（ヴェーバー）[編集へんしゅう]

輸送ゆそう費ひ最小さいしょう化かモデルの立地りっち三角形さんかっけい
詳細しょうさいは「工業こうぎょう立地りっち論ろん」を参照さんしょう

アルフレート・ヴェーバーは、一定いっていの商品しょうひん価格かかくのもと輸送ゆそう費ひや人件じんけん費ひなどを最小さいしょう化かできる地点ちてんを判定はんていするモデルを作成さくせいし[12]、輸送ゆそう費ひ、人件じんけん費ひ、集積しゅうせき要因よういんの3因子いんしを用もちいて工場こうじょう立地りっちの分析ぶんせきを行おこなった[13]。これにより、総そう輸送ゆそう費ひが最小さいしょう化かするように工業こうぎょうが立地りっちすること[14]、安価あんかな労働ろうどう力りょくの存在そんざいや工場こうじょうの集積しゅうせきにより工業こうぎょう立地りっちが修正しゅうせいされ得えること[15]が提示ていじされた。

中心ちゅうしん地理ちり論ろん（クリスタラー・レッシュ）[編集へんしゅう]

「中心ちゅうしん地理ちり論ろん」を参照さんしょう

他た分野ぶんやでの使用しよう[編集へんしゅう]

立地りっち論ろんは、経済けいざい学がく以外いがいの分野ぶんやでも使用しようされており、例たとえば保全ほぜん生態せいたい学がくにおいては、過去かこの研究けんきゅう例れいの対象たいしょう地域ちいきを踏ふまえて、研究けんきゅうに適てきした新あらたな対象たいしょう地域ちいきを探さぐる手法しゅほうとして用もちいられている[16]。

出典しゅってん・脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Thünen, Johann Heinrich von. 1783-1850. Der Isolierte Staat in Beziehung auf Landwirtschaft und Nationalökonomie, oder Untersuchungen über den Einfluss, den die Getreidepreise, der Reichtum des Bodens und die Abgaben auf den Ackerbau ausüben, Vol. 1,. : Der Isolierte Staat..., Vol II: Der Naturgeässe Arbeitslohn und dessen Verhältnis zum Zinsfuss und zur Landrente, Part 1 ：翻訳ほんやく - Thünen, Johann Heinrich von 著ちょ、近藤こんどう康男やすお、熊くま代だい幸雄ゆきお 訳やく『孤立こりつ国こく』日本にっぽん経済けいざい評論ひょうろん社しゃ〈近代きんだい経済けいざい学がく古典こてん選集せんしゅう〉、1989年ねん。ISBN 978-4818803435。 
  2. ^ 英語えいごによる解説かいせつ - Crosier, Scott. “Johann-Heinrich von Thünen: Balancing Land-Use Allocation with Transport Cost”. Center for Spatially Integrated Social Science. 2011年ねん12月30日にち閲覧えつらん。
  3. ^ Dempsey, Bernard W. (1960). The Frontier Wage. Chicago: Loyola University Press. pp. 187-367 ：Dempsey は、1863年ねんに出版しゅっぱんされた『孤立こりつ国こく』第だい2巻かん第だい2部ぶの英訳えいやく者しゃ。
  4. ^ Isard, Walter (1956). Location and Space-economy; a General Theory Relating to Industrial Location, Market Areas, Land Use, Trade, and Urban Structure. Cambridge: the Technology Press of Massachusetts Institute of Technology and Wiley. p. 27 ：翻訳ほんやく - アイザード 著ちょ、木内きうち信しん蔵ぞう（監かん訳やく）、細野ほその昭雄あきおほか 訳やく『立地りっちと空間くうかん経済けいざい 工業こうぎょう立地りっち，市場いちば地域ちいき，土地とち利用りよう，貿易ぼうえきおよび都市とし構造こうぞうに関かんする一般いっぱん理論りろん』朝倉書店あさくらしょてん、1964年ねん。 
  5. ^ Richards, H. A. (1962). “Transportation Costs and Plant Location: A Review of Principal Theories”. Transportation Journal 2 (2): 19-24. .
  6. ^ Palander, Tord (1935). Beiträge zur Standortstheorie. Uppsala: Almqvist & Wiksells Boktryckeri ：翻訳ほんやく - パランダー, トルド 著ちょ、篠原しのはら泰三たいぞう 訳やく『立地りっち論ろん研究けんきゅう』大明だいめい堂どう、1984年ねん。 
  7. ^ Christaller, Walter (1933). Die Zentralen Orte in Sűddeutschland. Jena ：翻訳ほんやく - クリスタラー, ヴァルター 著ちょ、江沢えざわ譲ゆずる爾なんじ 訳やく『立地りっち論ろん研究けんきゅう』大明だいめい堂どう、1969年ねん、396頁ぺーじ。 
  8. ^ 松原まつばら宏ひろし「立地りっち論ろんは何なにをめざしてきたのか」『地理ちり』第だい45巻かん第だい4号ごう、古今ここん書院しょいん、2000年ねん4月がつ、16-23頁ぺーじ。 
  9. ^ Weber, Alfred (1909). Über den Standort der Industrien. Tübingen ：翻訳ほんやく - ヴェーバー, アルフレート 著ちょ、日本にっぽん産業さんぎょう構造こうぞう研究所けんきゅうじょ 訳やく『工業こうぎょう立地りっち論ろん』大明だいめい堂どう、1966年ねん、293頁ぺーじ。 
  10. ^ 英語えいごによる解説かいせつ - Fearon, David. “Alfred Weber: Theory of the Location of Industries, 1909”. Center for Spatially Integrated Social Science. 2011年ねん12月30日にち閲覧えつらん。
  11. ^ 松原まつばら宏ひろし「チューネンの農業のうぎょう立地りっち論ろん」『地理ちり』第だい45巻かん第だい4号ごう、古今ここん書院しょいん、2000年ねん4月がつ、24-27頁ぺーじ。 
  12. ^ 柳井やない 2000, p. 28.
  13. ^ ベール 1990, p. 43.
  14. ^ 松原まつばら 2013, p. 24.
  15. ^ ベール 1990, pp. 48, 50.
  16. ^ “Hidden Treasures at the Australian Museum”. Catalyst, ABC (2010年ねん8月がつ26日にち). 2010年ねん8月がつ27日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

分野ぶんや

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