保護ほご国こく

保護ほご国こく（ほごこく、フランス語ふらんすご: protectorat、英語えいご: protectorate）とは、条約じょうやくに基もとづき、主権しゅけんの一部いちぶを代行だいこうさせることによって、その国くにから保護ほごを受うける国くにのこと。保護ほごされる国家こっかを被ひ保護ほご国こく・受保護ほご国こく、保護ほごを与あたえる国くにを保護ほご国こくと定義ていぎする場合ばあいもある。

内容ないようは保護ほご国こくと被ひ保護ほご国こく間あいだの条約じょうやくによって定さだめられるが、一般いっぱん的てきには制限せいげん的てきに解釈かいしゃくされ、保護ほご国こくが処理しょりする案件あんけんであると明示めいじされていなければ原則げんそくとして被ひ保護ほご国こくに権限けんげんが残のこされる。具体ぐたい的てきには対外たいがい的てき権能けんのうの一部いちぶの行使こうしを保護ほご国こくに認みとめるものが多おおかった。保護ほご関係かんけいは力ちからに差さがある国家こっか間あいだに設定せっていされるケースが大半たいはんで、被ひ保護ほご国こくに押おし付つけられる形かたちで条約じょうやく締結ていけつされることが多おおかった。また対象たいしょうとなる地域ちいきに国家こっかが存在そんざいしない場合ばあいは「保護ほご領りょう」とも呼よばれるが、英語えいご・フランス語ふらんすごなどでは特とくに区別くべつされない。

付づけ庸いさお国こく（従属じゅうぞく国こく）という概念がいねんも存在そんざいするが、これは一いち国内こくないの一部いちぶの地域ちいきがその国くにの国内こくない法ほうによって独立どくりつ的てき地位ちいが認みとめられつつ、本国ほんごくとの従属じゅうぞく関係かんけいが残のこされているものをいい、国際こくさい法ほうを根拠こんきょとする保護ほご国こくとは異ことなる。

歴史れきし

保護ほご関係かんけいの概念がいねんはかなり古ふるく、共和きょうわ政せいローマの政治せいじ家かマルクス・トゥッリウス・キケロの著書ちょしょ『義務ぎむについて』にすでに現あらわれている。この中なかでキケロは元老げんろう院いんはローマの支配しはい者しゃではなく、全ぜん世界せかいの「patrocinium」（保護ほご者しゃ）であるとしている。ローマは多数たすうの属領ぞくりょうや属ぞく邦くにを持もっており、キケロはこの関係かんけいを定義ていぎしたものと見みられている。似にたような関係かんけいとしては皇帝こうていナポレオン・ボナパルトとライン同盟どうめい諸国しょこく君主くんしゅの関係かんけいが指摘してきされている。ナポレオンは「君主くんしゅ達たちには宗主そうしゅはいない」と宣言せんげんし、従属じゅうぞく関係かんけいではないことをアピールした。

日本にっぽんにおいて保護ほご国こくの概念がいねんが紹介しょうかいされたのは『万国ばんこく公法こうほう』が最初さいしょである。万国ばんこく公法こうほうにおいては「自治じち」と「自主じしゅ」を区別くべつしており、他国たこくの命令めいれいを聞きかざるを得えない国くにとして「半はん主ぬしの国くに」という概念がいねんを紹介しょうかいしている。半はん主ぬしの国くにの例れいとしてはポーランドのクラクフ共和きょうわ国こく、イオニア海かいのイオニア諸島しょとう合衆国がっしゅうこくがあげられているが、前者ぜんしゃは「保護ほご」を受うけるとしながらも、完全かんぜんなる自主じしゅに近ちかいとしている。いわゆる保護ほごと言いっても程度ていどの差さがあり、保護ほご国こくだからと言いって主権しゅけんがないとは限かぎらない。これらの概念がいねんは大国たいこくが小国しょうこくを、先進せんしん民族みんぞくが未開みかい民族みんぞくを保護ほごするという意味いみがあり、宗主そうしゅ国こくが弱小じゃくしょう国家こっかや国家こっか不在ふざいの地ちを後見こうけんするという性質せいしつがあった。

フランシス・ゲラル（François Gairal）は保護ほご関係かんけいを宗主そうしゅ国こくが内政ないせいに立たち入いらず、恩恵おんけいとして行おこなう「単純たんじゅん保護ほご（Sauvegarde）」と、上級じょうきゅう国家こっかが下級かきゅう国家こっかを指導しどうし、完全かんぜんな従属じゅうぞく関係かんけいにある「国際こくさい法ほうによる保護ほご関係かんけい」、そして文明ぶんめい国こくが未開みかい地ちに対たいして行おこなう「植民しょくみん地ち的てき保護ほご関係かんけい」の三みっつに分類ぶんるいした。ゲラルは当時とうじのいわゆる保護ほご国こくが「国際こくさい法ほうによる保護ほご関係かんけい」であるとし、「植民しょくみん地ち的てき保護ほご関係かんけい」については慣例かんれいで「保護ほご」の語かたりが用もちいられているに過すぎないとした。エド・エンゲラルト（Ed Engelhardt）は1896年ねんの著書ちょしょ『古代こだいと現代げんだいの保護ほご国こく』において強国きょうこくが小国しょうこくを支配しはいする方便ほうべんに過すぎないと批判ひはんした。この論ろんは弱者じゃくしゃが強者きょうしゃに保護ほごを依頼いらいすることが保護ほご関係かんけいの正当せいとうな根拠こんきょであるという批判ひはんを受うけた。

1906年ねん、有賀ありが長雄ながおはゲラルの論ろんをふまえた『保護ほご国論こくろん』において保護ほご国こくを4つの類型るいけいに分類ぶんるいした。これに対たいして立たて作太郎さくたろうは甲かぶとと乙おつの二ふたつの真性しんせい保護ほご国こくに分わける分類ぶんるいを主張しゅちょうし、論争ろんそうとなった。有賀ありがは独立どくりつ国こくである保護ほご国こくは存在そんざいできるとし、立だては外交がいこう権けんが完全かんぜんではない保護ほご国こくは独立どくりつ国こくではないと反論はんろんした。田中たなか慎一しんいちは立だての反論はんろんに理りがあると判定はんていしている。

歴史れきし上じょうの例れい

保護ほご国こく（宗主そうしゅ国こく）で示しめす。

• 西域せいいき都みやこ護まもる（漢かん王朝おうちょう）
• 都みやこ護まもる府ふ（唐から王朝おうちょう）
• ポーランド・リトアニア共和きょうわ国こく（ロシア帝国ていこく）
• 大韓たいかん帝国ていこく（日本にっぽん）
• 満まん洲しゅう国こく（日本にっぽん）
• デンマーク（ナチス・ドイツ）第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん時じ
• クロアチア独どく立国りっこく（ナチス・ドイツ）
• ベーメン・メーレン保護ほご領りょう（ナチス・ドイツ）- 旧きゅうチェコスロバキアのチェコ部分ぶぶん。1939-1945年ねん
• エジプト王国おうこく（イギリス）
• ネパール王国おうこく（イギリス）
• シッキム王国おうこく （イギリス、インド）
• トンガ王国おうこく（保護ほご国こく）（イギリス）
• イギリス領りょう東ひがしアフリカ（イギリス）
• オイルリバーズ保護ほご領りょう（英語えいご: Oil Rivers Protectorate）（イギリス）
• ラゴス保護ほご国こく（英語えいご: Lagos Protectorate）（イギリス）
• ニジェール海岸かいがん保護ほご領りょう（イギリス）
• 南部なんぶナイジェリア保護ほご領りょう（イギリス）
• ザンジバル保護ほご国こく（イギリス）
• ソロモン諸島しょとう（イギリス）
• トロ王国おうこく（イギリス）- 現在げんざいはウガンダの県けんとなっている。
• 安やす南国なんごく（フランス）
• ライン同盟どうめい（フランス）
• カンボジア（フランス）
• ソシエテ諸島しょとう（フランス）- 1843年ねんより保護ほご国こく、1880年ねんに正式せいしきに植民しょくみん地ち化か。
• モロッコ（フランス）- 但ただし、一部いちぶはスペイン領りょうとなっていた。なお、セウタ・メリリャ両市りょうしは今日きょうまで都市とし丸まるごとスペインの海外かいがい領土りょうどとなっている。
• コモロ諸島しょとう（フランス）- かつて四よん島とうが各自かくじで保護ほご国こく扱あつかいの王国おうこくとしていた。
• ガベス（フランス）- 帝政ていせいドイツ占領せんりょうまでしばらく保護ほご国こくとなっていた。
• モナコ（フランス）- 1918年ねんのフランス・モナコ保護ほご友好ゆうこう条約じょうやく以降いこう。2005年ねんに外交がいこう権けん復活ふっかつ、防衛ぼうえいはフランスが担になう。
• ウォリス・フツナ（フランス）- 現在げんざいは海外かいがい準じゅん県けんだが、かつては保護ほご領りょう（のち海外かいがい領土りょうど扱あつかい）だった。3地域ちいきに王おう（メラネシア式しき首長しゅちょう）が存在そんざいしている。
• ブータン （インド）
• キプロス (ギリシア)
• 北きたキプロス・トルコ共和きょうわ国こく (トルコ)
• アイスランド王国おうこく（デンマーク王国おうこく）
• キューバ （アメリカ）
• パナマ （アメリカ）

現行げんこうの一覧いちらん

現代げんだいでは保護ほご国こく・宗主そうしゅ国こくという関係かんけいを明確めいかくにしている国家こっかはないが、経済けいざい的てきな理由りゆうで国防こくぼうを周辺しゅうへんの大国たいこくに委任いにんするミニ国家こっかは多おおい。またレンティア国家こっかが資源しげんの枯渇こかつにより破綻はたんした場合ばあい、関係かんけいの深ふかい国くにが事実じじつ上じょうの宗主そうしゅ国こくとなるケースもある。

ナウルは資源しげんの枯渇こかつにより経済けいざい的てきに破綻はたんして以降いこう、オーストラリアやニュージーランド、日本にっぽんからの援助えんじょに大おおきく依存いぞんしており、特とくに国防こくぼうを代行だいこうし、ナウル国民こくみんに市民しみん権けんを与あたえるとしたオーストラリアの影響えいきょう力りょくが大おおきく、事実じじつ上じょうオーストラリアの保護ほご国こく状態じょうたいである。

現存げんそんする類似るいじ形態けいたいの国家こっか

• アンドラ - フランス大統領だいとうりょうとウルヘル司教しきょうを国家こっか元首げんしゅとする国家こっか
• バチカン市し国こく - 元首げんしゅは教皇きょうこうだが軍事ぐんじ・警察けいさつはイタリアに委託いたく
• パラオ・マーシャル諸島しょとう・ミクロネシア連邦れんぽう - アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくと自由じゆう連合れんごうを形成けいせいし、国防こくぼうはアメリカ軍ぐんが担になう。外交がいこう権限けんげんも一部いちぶは米国べいこくが期限きげん付つきで有ゆうする。
• クック諸島しょとう・ニウエ - ニュージーランドと自由じゆう連合れんごうを形成けいせい。クック諸島しょとうは32か国こくと欧州おうしゅう連合れんごう、ニウエは21か国こくと外交がいこう関係かんけいを持もつものの、多おおくの国くには国家こっかとして承認しょうにんしておらず「ニュージーランド領りょう」として扱あつかう。住民じゅうみんはニュージーランドの市民しみん権けんを持もつ。
• アルツァフ共和きょうわ国こく - 政治せいじ・軍事ぐんじ・外交がいこうなどはアルメニアの一部いちぶとして振舞ふるまう場合ばあいが多おおい。
• 北きたキプロス・トルコ共和きょうわ国こく - 国防こくぼうはトルコ共和きょうわ国こくが担になう。
• ブータン - 国防こくぼうはインド軍ぐんを一部いちぶ受うけ入いれており、2007年ねんまではより強つよい保護ほご国こく的てきな条文じょうぶんが存在そんざいしていた。2007年ねんからはより緩ゆるやかな関係かんけいになっている。
• コソボおよび欧州おうしゅう連合れんごう・法ほうの支配しはいミッション - 2023年ねん現在げんざいでも、コソボの安定あんていのために内政ないせいに関与かんよしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 笹川ささかわ紀おさむ勝しょう「保護ほご国こくの類型るいけい--日にち韓かんの一いち九きゅう〇五ご年ねん条約じょうやくと第だい二に期き保護ほご国論こくろん」『法律ほうりつ論叢ろんそう』第だい83巻かん2・3、明治大学めいじだいがく法律ほうりつ研究所けんきゅうじょ、2011年ねん、225-262頁ぺーじ、NAID 40018839382。 
• 寺沢てらさわ一はじめ、山本やまもと草くさ二に、広こう部ぶ和也かずや編へん 編へん「Ⅲ国家こっかの成立せいりつ16国家こっか結合けつごう」『標準ひょうじゅん 国際こくさい法ほう』（初版しょはん）青あお林りん書院しょいん、1989年ねん6月がつ、112頁ぺーじ頁ぺーじ。ISBN 978-4417007517。 

関連かんれん項目こうもく

• 国家こっか結合けつごう
• 帝国ていこく
• 属領ぞくりょう
• 植民しょくみん地ち
• 冊さつ封ふう国こく
• 傀儡かいらい政権せいけん
• 保護ほごする責任せきにん・人道的じんどうてき介入かいにゅう
• 軍隊ぐんたいを保有ほゆうしていない国家こっかの一覧いちらん
• 自由じゆう連合れんごう
• レバノン - 内戦ないせん勃発ぼっぱつ後ご、2005年ねんまでシリア軍ぐんが駐留ちゅうりゅう。相互そうごに大使館たいしかんを置おかず（シリア軍ぐん撤退てったい後ごに設置せっち）、レバノンにおいて組閣そかくの際さいにはシリア政府せいふの助言じょげんを受うけるなど、半なかばシリアの保護ほご国こくと化かしていた。
• パレスチナ国こく - 2020年ねんに出だされた、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとイスラエルによる共同きょうどう和平わへい案あん「繁栄はんえいに至いたる平和へいわ」は、パレスチナの軍事ぐんじ権けんを否定ひていし、外交がいこう権けんその他た全すべてにおいてイスラエルの安全あんぜん保障ほしょうが優越ゆうえつする内容ないようであり、イスラエルの保護ほご国こく化かを企図きとした内容ないようである。

外部がいぶリンク

• 『保護ほご国こく』 - コトバンク