博多織はかたおり

博多織はかたおり（はかたおり）とは、福岡ふくおか県けん福岡ふくおか市しの主おもに博多はかた地区ちくで特産とくさんとされる絹織物きぬおりもの。最近さいきんは福岡ふくおか市し周辺しゅうへんに産地さんちが分散ぶんさんしつつある。江戸えど時代じだい、福岡ふくおか藩はん黒田くろだ氏しから徳川とくがわ将軍家しょうぐんけについて献上けんじょうされた事ことから、特とくに最上さいじょうの物ものを献上けんじょう博多はかたなどとも呼よばれる。経済けいざい産業さんぎょう大臣だいじん指定してい伝統でんとう的てき工芸こうげい品ひんに指定していされている。

特徴とくちょう

細ほそい経糸たていと（たていと）を多おおく用もちい、太ふとい緯糸よこいと（よこいと）を筬おさで強つよく打うち込こみ、主おもに経糸たていとを浮うかせて柄えを織おり出だすのが博多織はかたおりの特徴とくちょう。先さき染ぞめまたは先さき練ねり。材料ざいりょうは絹糸けんし・金糸きんし・銀糸ぎんしなど。生地きじに厚あつみや張はりがあって、帯おびとしての用途ようとに適てきする。博多帯はかたおびの締しめ心地ごこちには定評ていひょうがあり、締しめる際さいには「キュッキュッ」と絹きぬ鳴なりする。

大相撲おおずもうの力士りきしは、幕下まくした以上いじょうにならなければ博多帯はかたおびを締しめることを許ゆるされず、三さん段だん目め以下いかはベンベルグとなる。

博多織はかたおりの中なかでも上質じょうしつな「献上けんじょう博多はかた」は、独鈷とっこと華はな皿さら（共ともに仏具ぶつぐ）と子持こもち縞しまをあしらった模様もようが特徴とくちょう。献上けんじょう博多はかたは福岡ふくおか市し地下鉄ちかてつ博多はかた駅えきのシンボルマークともなっている。

現在げんざいではほとんど博多織はかたおり製品せいひんは機械きかい織おりによる。産地さんちは博多はかたのみならず、福岡ふくおか市内しない・福岡ふくおか県けん内外ないがい各地かくちに広ひろがっている。博多織はかたおり工業こうぎょう組合くみあいが取とりまとめを行おこない、博多織はかたおりの品質ひんしつを証明しょうめいする証紙しょうしの発行はっこうなどを行おこなう。「博多織はかたおり」の商標しょうひょうは博多織はかたおり工業こうぎょう組合くみあいが有ゆうし、地域ちいき団体だんたい商標しょうひょうとして2007年ねんに再さい提出ていしゅつもしている。

また博多織はかたおりは伝統でんとう的てきな和装わそうへの利用りようのみならず、「HAKATA JAPAN」の商標しょうひょうで洋服ようふくやバッグ・財布さいふへの活用かつようがなされている。桂かつら由美ゆみの手てによる教皇きょうこうヨハネ・パウロ2世せいの祭服さいふくにも博多織はかたおりが用もちいられた。

櫛田くした神社じんじゃそばの「博多はかた町まち家かふるさと館かん」では博多織はかたおりの手織ており実演じつえんがなされている。また毎年まいとし11月がつ初旬しょじゅん頃ごろに承うけたまわ天てん寺てらにて博多織はかたおりの新作しんさく品評ひんぴょう会かい「博多織はかたおり求もとめ評ひょう会かい」が開催かいさいされる。

歴史れきし

福岡ふくおか市し周辺しゅうへんでは弥生やよい時代じだい前期ぜんきの福岡ふくおか市し早良さわら区く有田ありた遺跡いせきなど数すう多おおくの遺跡いせきから絹織物きぬおりものが出土しゅつどし、古ふるくから絹織物きぬおりもの生産せいさんが盛さかんであったことが判明はんめいしているが、鎌倉かまくら時代ときよの1241年ねんに円爾えんに（弁円べんえん）と共ともに宋そうから帰国きこくした博多はかた商人しょうにんの満田みつた弥わたる三右衛門さんえもん（1202年ねん-1282年ねん）が新あらたに持もち帰かえった唐織からおりの技術ぎじゅつが博多織はかたおりの始はじまりとされる。弥わたる三右衛門さんえもんはこれを「広東かんとん織お」と称しょうし、この技法ぎほうを家伝かでんとした。独鈷とっこと華はな皿さらの図案ずあん化かは弁円べんえんのアドバイスによるものと伝つたえられる。弥わたる三右衛門さんえもんは織物おりもの技術ぎじゅつの他た素麺そうめんや麝香じゃこう丸まるなどの製法せいほうも習得しゅうとくし、これらは人々ひとびとに教おしえたという。

16世紀せいき、弥わたる三右衛門さんえもんの子孫しそんである満田みつた彦三郎ひこさぶろうが明あきらの広州こうしゅうに渡わたって織物おりもの技法ぎほうを研究けんきゅう。帰国きこく後ご、家伝かでんの技法ぎほうと学まなんだ新しん技術ぎじゅつを以もって、竹たけ若わか伊い右みぎ衛門えもん（藤ふじ兵衛ひょうえ）と共ともに工法こうほうの改良かいりょうを重かさねて厚地あつじの織物おりものを作つくったとされる。緻密ちみつな所ところは琥珀こはく織お（タフタ）に似にて、浮線紋もんや柳やなぎ条じょうの模様もようが浮うき出でたものであった。地質ちしつが非常ひじょうに堅かたく、反物たんものとしてよりも帯おびとして用もちいられ、これが博多帯はかたおびの始はじまりとなる。彦三郎ひこさぶろうらはこれを「覇は家か台だい織お」（はかたおり）と名付なづけた。ちなみに「覇は家か台だい」とは中国ちゅうごくにおける博多はかたの呼称こしょうの1つである。

江戸えど時代じだいになり、筑前ちくぜん国こく福岡ふくおか藩はん初代しょだい藩主はんしゅ黒田くろだ長政ながまさによって博多織はかたおりの反物たんものと帯おびが幕府ばくふに献上けんじょうされるようになる。これにより博多織はかたおりが献上けんじょう博多はかた、博多はかた献上けんじょう、献上けんじょう柄がらとも呼よばれることとなる。献上けんじょう博多織はかたおりは青あお・赤あか・紺こん・黄き・紫むらさきの5色しょくを揃そろえ、それ故ゆえに五色ごしき献上けんじょうや虹にじ献上けんじょうと呼よばれる^[1]。刈安かりやす染しみの青あおは「仁ひとし」を、茜あかね染しみの赤あかは「礼れい」を、藍あい染しみの紺こんは「智さとし」を、鬱金うこん染しみないし楊梅やまもも皮がわ染しみの黄きは「信しん」を、そして紫根しこん染しみの紫むらさきは「徳とく」を表あらわしている。特とくに帯おびは締しめ心地ごこちが良よく崩くずれないため刀かたななどを差さす際さいに重宝ちょうほうされ、主おもに武家ぶけ、武士ぶし侍さむらいに愛用あいようされ、男帯おとこおびは博多織はかたおりが大だい部分ぶぶんを占しめるようになった。現在げんざいでも角帯かくおびは多おおくの男性だんせいに愛用あいようされている。

1815年ねん、商人しょうにんの山崎やまざき権兵衛ごんべえが、歌舞伎かぶき役者やくしゃの市川いちかわ団だん十郎じゅうろうと岩井いわい半四郎はんしろうに、歌舞伎かぶきの「夏なつ祭さい浪花なにわ鑑あきら」で博多帯はかたおび、筑前ちくぜん絞しぼりを着用ちゃくようして演えんじてもらう。その影響えいきょうで博多帯はかたおびが当時とうじの流行りゅうこうになったという。他たに中村なかむら仲蔵なかぞうが、仮名かめい手本てほん忠臣蔵ちゅうしんぐらの中なかで、斧おの定じょう九きゅう郎ろうを演えんじた時とき、黒くろの羽二重はぶたえに白しろの博多帯はかたおびの衣装いしょうで演えんじ粋いきで話題わだいになりその後ご、定てい九郎くろうの衣装いしょうが定着ていちゃく。また、市川いちかわ團だん十じゅう郎ろうが歌舞伎かぶき十じゅう八はち番ばんの助六すけろくで着用ちゃくようするなど、歌舞伎かぶき舞踊ぶよう、世話物せわものの女おんな帯たい（伊勢いせ音頭おんど恋こい寝刃ねたばの仲居なかい万まん野のなど）、男帯おとこおび、遊女ゆうじょ・芸者げいしゃの帯おびなど、歌舞伎かぶきの演目えんもくで博多帯はかたおびは定番ていばん衣装いしょうとして用もちいられている。また相撲すもう力士りきしは幕下まくしたに上あがると、博多帯はかたおびを締しめることが許ゆるされる。また古典こてん音楽おんがく奏者そうしゃ、落語らくご家か、講談こうだん師しなどにも幅広はばひろく愛用あいようされている。

福岡ふくおか藩はんは献上けんじょう品ひんの品質ひんしつ保持ほじを理由りゆうに織お屋や株かぶ制度せいどを敷しいて12戸こに限定げんていしたため、江戸えど時代じだいを通とおして品質ひんしつを維持いじすることができた。しかし明治めいじ時代じだいに株かぶ制度せいどが廃止はいしされ自由じゆう競争きょうそうとなると業者ぎょうしゃが乱立らんりつ。品質ひんしつ低下ていかを防止ぼうしするため1880年ねんに博多織はかたおり会社かいしゃが設立せつりつ、6年ねん後ごに博多織はかたおり同業どうぎょう組合くみあいとなり、変遷へんせんを経へて、出資しゅっし組合くみあいである現在げんざいの博多織はかたおり工業こうぎょう組合くみあいとなった。1885年ねんにはジャカード機きやドビー機きが導入どうにゅうされ、本格ほんかく的てきな機き械織生産せいさんを開始かいし。

戦後せんご、高度こうど成長せいちょう期きに需要じゅようが増大ぞうだいし、生産せいさん高だか・組合くみあい員数いんずうが過去かこ最高さいこうとなるも、オイルショックやバブル崩壊ほうかいで減少げんしょうに転てんじる。1971年ねんに織お職人しょくにんの小川おがわ善よし三郎さぶろうが人間にんげん国宝こくほうに認定にんていされ、1976年ねん 6月2日にちに博多織はかたおりが国くにから伝統でんとう工芸こうげい品ひんに指定していされる。善ぜん三さん郎ろうの子この小川おがわ規ただし三郎さぶろうは2003年ねんに人間にんげん国宝こくほうに認定にんていされた^[2]。

伝統でんとう工芸こうげい士しの熟練じゅくれん技術ぎじゅつをコンピュータで再現さいげんさせるエキスパートシステム化かプロジェクトが博多織はかたおりについても1994年ねんから始はじまり、その過程かていでカラー写真しゃしん織お技術ぎじゅつが開発かいはつされる。試作しさく1号ごう品ひんは来日らいにちしたクリントン大統領だいとうりょう夫妻ふさいに贈呈ぞうていされた。

2002年ねんには、博多はかた祇園山ぎおんやま笠かさの人形にんぎょうの衣装いしょうの生地きじとして、西陣織にしじんおりから博多織はかたおりに改あらためられる。

博多織はかたおりの発展はってんと次世代じせだい職人しょくにんの育成いくせいを目的もくてきとしたNPO法人ほうじん「博多織はかたおり技能ぎのう開発かいはつ養成ようせい学校がっこう（博多織はかたおりデベロップメントカレッジ）」が2006年ねん4月がつに設立せつりつされ、後進こうしんの育成いくせいが図はかられている。（一方いっぽう、博多織はかたおりとともに筑前ちくぜんの和服わふくの特産とくさんであった筑前ちくぜん絞しぼりは平成へいせい七なな年ねん、最後さいごの会社かいしゃが廃業はいぎょうし、伝統でんとうが終おわってしまった。）

博多織はかたおり七なな品目ひんもく

献上けんじょう／変かわり献上けんじょう

「献上けんじょう」は経けい畝うね織おりし、独鈷とっこ・華はな皿さら・縞しまの紋もんを浮うけたてであしらう。「変かわり献上けんじょう」は平織ひらおりし、紋もんをアレンジする。

平ひら博多はかた

経けい畝うね織おりの無地むじ織物おりもの。

間道かんどう（かんどう）

縞織しまおり物ぶつ。平織ひらおりの変化へんか織おり、ないし綾あや織おり・朱子しゅし織おり、あるいは綾あや織おり・朱子しゅし織おりの変化へんか織おによる。

総そう浮（そううけ）

重かさね織おりし、浮うけたてで紋もんをあしらう。

重かさね織お

紋もんを経糸たていとで、または経糸たていとと緯糸よこいとで表あらわす。

綟り織お（もじりおり）

搦み織おりし、浮うけたてで紋もんをあしらうか、経糸たていとと緯糸よこいとで表あらわすか、絵え緯糸よこいとで表あらわすこととする。

絵え緯ぬき博多はかた（えぬきはかた）

平織ひらおりの変化へんか織おり、ないし綾あや織おり・朱子しゅし織おり、あるいは綾あや織おり・朱子しゅし織おりの変化へんか織おとする。紋もんは緯糸よこいとで表あらわす。ただし平織ひらおりの変化へんか織おり以外いがいでは、絵え緯糸よこいとを経糸たていとを用もちいて裏うらとじする。

証紙しょうしの種類しゅるい

金きむ証紙しょうし - 経糸たていと・緯糸よこいと共どもに本絹ほんけんを使用しよう。かつての銀ぎん証紙しょうし。
緑みどり証紙しょうし - 経糸たていとが本絹ほんけん、緯糸よこいとが本絹ほんけん以外いがいの絹糸けんしを使用しよう。
紫むらさき証紙しょうし - 経糸たていと・緯糸よこいと共どもに本絹ほんけん以外いがいの絹糸けんしを使用しよう。
青あお証紙しょうし - 天然てんねん繊維せんい・化学かがく繊維せんい・合成ごうせい繊維せんいなど、絹きぬ以外いがいの繊維せんいを使用しよう。

出典しゅってん

^ 神山かみやま典のり士し『図説ずせつ日本にっぽんの職人しょくにん』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2007年ねん10月がつ1日にち、130頁ぺーじ。ISBN 978-4309761046。
^ 博多織はかたおり史し編纂へんさん実行じっこう委員いいん会かい　『博多織はかたおり史し』博多織はかたおり工業こうぎょう組合くみあい理事りじ長ちょう　寺島てらしま貞夫さだお、2008年ねん10月がつ10日とおか、7-8頁ぺーじ。

参考さんこう資料しりょう

杉原すぎはら実みのる『博多織はかたおり史し』葦あし書房しょぼう、1998年ねん、ISBN 4-7512-0722-9。

外部がいぶリンク

[1] 神山かみやま典のり士し『図説ずせつ日本にっぽんの職人しょくにん』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2007年ねん10月がつ1日にち、130頁ぺーじ。ISBN 978-4309761046。

[2] 博多織はかたおり史し編纂へんさん実行じっこう委員いいん会かい　『博多織はかたおり史し』博多織はかたおり工業こうぎょう組合くみあい理事りじ長ちょう　寺島てらしま貞夫さだお、2008年ねん10月がつ10日とおか、7-8頁ぺーじ。

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