和智わち誠まこと春はる

凡例はんれい 和智わち誠まこと春はる
時代じだい	戦国せんごく時代じだい
生誕せいたん	不ふ詳しょう
死没しぼつ	永えい禄ろく12年ねん1月がつ24日にち（1569年ねん2月がつ9日にち）
別名べつめい	和かず智実ともみ春はる 通称つうしょう：又また九郎くろう、左衛門尉さえもんのじょう
戒名かいみょう	笑わらい翁おう宗はじめ睡ねむ
墓所はかしょ	永えい樹いつき寺てら跡あと（広島ひろしま県けん三次みつぎ市し吉舎きさ町まち）
主君しゅくん	尼子あまこ経久つねひさ→毛利もうり元就もとなり
氏族しぞく	藤原ふじわら北きた家か秀しゅう郷きょう流りゅう波多野はたの氏し庶流 和智わち氏し
父母ちちはは	父ちち：和智わち豊郷とよさと
兄弟きょうだい	誠まこと春はる、柚ゆず谷たに元もと家か（湯谷ゆたに久ひさ豊ゆたか）
妻つま	福原ふくはら広ひろ俊しゅんの娘むすめ
子こ	元郷もとごう、虎とら寿ことぶき丸まる、亀寿かめじゅ丸まる、 女おんな（長井ながい氏し室しつ）、女おんな（国富くにとみ氏し室しつ）

和智わち 誠まこと春はる（わち まさはる）は、戦国せんごく時代じだいの武将ぶしょう。備後びんご国こく三さん谿郡吉舎きさの南天なんてん山城やましろを本拠ほんきょとした国人くにびと・和智わち氏しの第だい9代だい当主とうしゅ。毛利もうり氏し家臣かしん。

出自しゅつじ

備後びんご国こくの国人くにびとである和智わち氏しは藤原ふじわら秀しげる郷きょうの流ながれを組くむ家系かけいで波多野はたの氏しなどと同族どうぞく。源みなもと頼朝よりともに従したがって建たて久ひさ3年ねん（1192年ねん）に備後びんご国こく三谷みたに郡ぐんに所領しょりょうを与あたえられた広沢ひろさわ実方じつかたの子孫しそんで、その子こである実み高だかは建けん暦れき元年がんねん（1211年ねん）に備後びんご国こくで海賊かいぞくらの鎮圧ちんあつにあたっている。『とはずがたり』において作者さくしゃの後深草院二条ごふかくさいんのにじょうが厳島いつくしま神社じんじゃ参詣さんけいの帰かえりに広沢ひろさわ氏しの館かんに招まねかれたことが記しるされている。南北なんぼく朝あさ時代じだいには伊予いよ国こくの南朝なんちょう方ほうである大舘おおたち右みぎ馬ば介かいや生口島いくちしまの海賊かいぞくと呼応こおうして室町むろまち幕府ばくふに抵抗ていこうし、観かん応おうの擾乱じょうらん以降いこうは足利あしかが直冬ただふゆの傘下さんかに入はいるが、貞治さだはる6年ねん（1367年ねん）には和智わち師し実みが足利あしかが義詮よしあきらに従したがっている。和智わち氏し・江田えだ氏しをはじめとする広沢ひろさわ氏しの子孫しそんである備後びんごの国くに衆しゅは「広沢ひろさわ衆しゅう」と称しょうされた。広沢ひろさわ衆しゅうは共同きょうどうして守護しゅごの山名やまな氏しや同おなじ備後びんごの国くに衆しゅである山内やまうち氏しに対応たいおうした。

室町むろまち時代ときよの当主とうしゅである時どき実み・豊実とよみ・豊広とよひろ・豊郷とよさとは代々だいだい、備後びんご守護しゅごの山名やまな氏しに臣従しんじゅうし、また守護しゅごからは偏へん諱いみなを受うけている。戦国せんごく期きは他たの備後びんごの国人くにびとと共ともに、出雲いずも国こくの尼子あまこ経久つねひさ、次ついで安芸あき国こくの毛利もうり元就もとなりが力ちからをつけると、それに従属じゅうぞくした。

生涯しょうがい

山名やまな氏し麾下きかの和智わち氏しと隣国りんごく毛利もうり氏しとの関係かんけい

備後びんご国こく三さん谿郡吉舎きさの南天なんてん山城やましろを本拠ほんきょとした国人くにびと・和智わち氏しの第だい8代だい当主とうしゅである和智わち豊郷とよさとの子ことして生うまれ、備後びんご守護しゅごの山名やまな誠まこと豊ゆたかから偏へん諱いみなを受うけて「誠まこと春はる」と名乗なのったと推測すいそくされる。国境こっきょうを挟はさんで近接きんせつする毛利もうり氏しとは早はやくから対等たいとうな同盟どうめい関係かんけいにあったとみられ、享とおる禄ろく2年ねん（1529年ねん）、父ちち・豊郷とよさとは毛利もうり元就もとなりが石見いわみ国こく・国人くにびと高橋たかはし氏しを討伐とうばつした際さい、松尾城まつおじょうの高橋たかはし重光しげみつ（高橋たかはし弘ひろし厚あつしか）を共ともに討うつなどこれに協力きょうりょくした。誠まこと春はるは山名やまな祐ゆう豊ゆたかの傘下さんかにあり、山名やまな氏し配下はいかの国人くにびと領主りょうしゅとしてもっとも有力ゆうりょくな国くに衆しゅであったが、尼子あまこ氏しの南下なんかに対抗たいこうするために隣接りんせつする毛利もうり元就もとなりを介かいして大内おおうち氏しとも通つうじた。

天文てんもん22年ねん（1553年ねん）には同族どうぞくの江田えだ隆たかし連れんが尼子あまこ晴久はるひさに従したがったことを祐ゆう豊ゆたか・元就もとなりに伝つたえ、隆りゅう連れんの守まもる旗はた返かえし城じょう攻撃こうげきや、天文てんもん24年ねん（1555年ねん）の厳島いつくしまの戦たたかいなどにおいて毛利もうり方かたとして参戦さんせんした。以降いこう、毛利もうり氏しの影響えいきょうを強つよく受うけていく事じことになる。

毛利もうり隆たかし元もと急死きゅうし

永えい禄ろく5年ねん（1562年ねん）、元就もとなりと隆りゅう元はじめが尼子あまこ氏し攻ぜめのために出雲いずも国こくへ出陣しゅつじんした隙すきを突ついた大友おおとも氏しの戸次とつぎ鑑かん連れん（立花たちばな道みち雪ゆき）による豊前ぶぜん松山まつやま城じょう攻撃こうげきに対応たいおうするため、隆りゅう元はじめが粟屋あわや元もと真しん、兼重かねしげ元もと宣せん、赤川あかがわ元保もとやすら3000の将兵しょうへいを率ひきいて出雲いずも国こく赤あか穴あなから防府ほうふへ引ひき返かえした。しかし、永えい禄ろく6年ねん（1563年ねん）に将軍しょうぐん足利あしかが義輝よしてるの調停ちょうていにより毛利もうり氏しと大友おおとも氏しの講和こうわが成立せいりつしたため、隆りゅう元はじめは再ふたたび出雲いずもへ出陣しゅつじんすべく将兵しょうへいを招集しょうしゅうし、同年どうねん8月がつ5日にちを出陣しゅつじんの日ひと決きめた。出陣しゅつじんの直前ちょくぜんに誠まこと春はるが隆りゅう元はじめを饗応きょうおうに招まねくと、誠まこと春はると隆りゅう元はじめが福原ふくはら氏しを介かいして縁戚えんせき関係かんけいにあったこともあり、隆りゅう元はじめはこの招待しょうたいを快諾かいだく。8月がつ3日にち晩ばんに安芸あき国こく高田たかだ郡ぐん佐々部ささべの誠まこと春はるの宿所しゅくしょにおいて、立派りっぱな酒食しゅしょくで隆りゅう元はじめを歓待かんたいした。しかし、隆りゅう元はじめは誠まこと春はるの宿所しゅくしょからの帰途きとで激はげしい腹痛はらいたを起おこし、翌朝よくあさに急死きゅうししてしまった。元就もとなりは状況じょうきょうから隆りゅう元はじめの死しを自然しぜん死しではないと判断はんだんし、隆りゅう元はじめに随行ずいこうしていた赤川あかがわ元保もとやすが誠まこと春はると組くんで尼子あまこ氏しと通つうじ、隆りゅう元はじめを毒殺どくさつしたものと疑うたがった。

厳島いつくしまへの監禁かんきん

永えい禄ろく10年ねん（1567年ねん）、隆たかし元もと暗殺あんさつの嫌疑けんぎで、赤川あかがわ元保もとやすと弟おとうとの赤川あかがわ元久もとひさ、養子ようしの赤川あかがわ又五郎またごろうが元就もとなりの命いのちによって誅殺ちゅうさつされた。しかし、元保もとやすは隆りゅう元はじめに対たいして誠まこと春はるの饗応きょうおうは断ことわるべきと進言しんげんしていたことが判明はんめいし、元就もとなりは元もと保ほらを誅殺ちゅうさつしたことを悔くやんで、元もと保ほの兄あに・就秀の子こである元之もとゆきに元もと保ほの家いえを再興さいこうさせた。

赤川あかがわ元保もとやすの疑惑ぎわくが晴はれたことで、隆たかし元もと暗殺あんさつの嫌疑けんぎは誠まこと春はるのみに向むけられることとなった。この事ことを憂うれえた誠まこと春はるの子こ・元郷もとごうは、永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）2月がつ16日にちに元就もとなりに血判けっぱんの起請文きしょうもんを提出ていしゅつし、もし誠まこと春はるが自分じぶんと同様どうようの忠臣ちゅうしんでなければ親子おやこの義絶ぎぜつも辞じさないと誓ちかったため、元就もとなりは元郷もとごうは隆りゅう元はじめの死しに無関係むかんけいであると認みとめたが、誠まこと春はるは積極せっきょく的てきに嫌疑けんぎを晴はらすような行動こうどうはとらなかったため、元就もとなりは誠まこと春はる誅殺ちゅうさつの意思いしを固かためた。

しかし、伊予いよ国こくの形勢けいせいが切迫せっぱくしたため誠まこと春はるの処分しょぶんは保留ほりゅうし、誠まこと春はると弟おとうとの柚ゆず谷たに元もと家か（湯谷ゆたに久ひさ豊ゆたか）も吉川よしかわ元春もとはると小早川こばやかわ隆景たかかげの伊予いよ国こく遠征えんせいへ従軍じゅうぐんさせた。同年どうねん5月がつには伊予いよ遠征えんせいが終おわったため、元就もとなりは平佐ひらさ就之と長井ながい元もと為ためを使者ししゃとして元春もとはると隆景たかかげに遣つかわし、直ただちに誠まこと春はると元もと家いえを誅殺ちゅうさつするよう命めいじたものの、元春もとはると隆景たかかげは凱旋がいせんの途中とちゅうで従軍じゅうぐん中ちゅうの誠まこと春はると元もと家いえを誅殺ちゅうさつすれば他たの諸しょ将しょうの動揺どうようを招まねき、直後ちょくごに行おこなわれる北九州きたきゅうしゅう攻ぜめ（立花りっか城じょうの戦たたかい）に悪影響あくえいきょうが及およぶことを憂慮ゆうりょして元就もとなりに猶予ゆうよを求もとめたため、誠まこと春はると元もと家いえは厳島いつくしまの摂と受坊へ監禁かんきんされることとなる。誠まこと春はると元もと家いえの監かん視しは、伊予いよ遠征えんせい時じも厳島いつくしまの守将しゅしょうを務つとめていた児玉こだま元村もとむらと佐武さたけ美久みくが担当たんとうし、摂と受坊の周囲しゅういに柵しがらみをめぐらせて厳重げんじゅうに警戒けいかいした。

厳島いつくしま神社じんじゃ本殿ほんでん立だて籠こもり事件じけん

摂と受坊に監禁かんきんされた誠まこと春はると元もと家いえは密ひそかに脱出だっしゅつする機会きかいを窺うかがっており、監禁かんきんから半年はんとしほど経たった同年どうねん12月16日にち、和智わち氏しの家臣かしん1人にんの手引てびきで番ばん衆しゅの油断ゆだんに乗じょうじて摂と受坊を脱走だっそうし、厳島いつくしま神社じんじゃ本殿ほんでんに立たて籠こもった。誠まこと春はるらの立だて籠こもりにより厳島いつくしま神社じんじゃの儀式ぎしき祭礼さいれいが行おこなえなくなってしまったことを憂慮ゆうりょした元就もとなりは、近臣きんしんの熊谷くまがい就政を厳島いつくしまへ派遣はけん。この時とき、御ご使つかいとして豊前ぶぜん国こくへ赴おもむいていた児玉こだま元もと村むらも応援おうえんのために帰国きこくした。そして永えい禄ろく12年ねん（1569年ねん）1月がつ24日にち、熊谷くまがい就政が厳島いつくしま神社じんじゃの回廊かいろうに潜入せんにゅうし、隙すきを突ついて誠まこと春はるを組くみ伏ふせ、児玉こだま元村もとむらと協力きょうりょくして討うち果はたした。誠まこと春はるが討うたれたと知しった元もと家いえと家臣かしんも観念かんねんして出頭しゅっとうし、社頭しゃとうにおいて誅殺ちゅうさつされた。

誠まこと春はるの子こ・元郷もとごうは既すでに起請文きしょうもんを提出ていしゅつして隆りゅう元はじめの死しとは無関係むかんけいと元就もとなりに認みとめられていたため和智わち氏しの存続そんぞくを許ゆるされたが、弟おとうと・元もと家いえの子こ（誠まこと春はるの甥おい）の柚ゆず谷たに実みのる義よしは元就もとなりに抵抗ていこうしたため滅ほろぼされることとなる。

『陰徳いんとく記き』によれば、誠まこと春はると元もと家いえは誅殺ちゅうさつ後ごに怨霊おんりょうとなって諸人もろびとを悩なやましたため、厳島いつくしまの島民とうみんは怨霊おんりょうを宥なだめるために、一宇いちうの社しゃ檀まゆみを建立こんりゅうして神かみとして祀まつったという。

備考びこう

備後びんご国こくにおける山名やまな氏し傘下さんかの有力ゆうりょくな国くに衆しゅであった和智わち氏しは早はやい時期じきから毛利もうり氏しと同盟どうめい関係かんけいにあったとみられている。しかし、毛利もうり氏しが急速きゅうそくに戦国せんごく大名だいみょうとして台頭たいとうしていく中なかで、和智わち氏しのように国くに衆しゅ時代じだいの対等たいとうな同盟どうめい者しゃの存在そんざいは一種いっしゅの矛盾むじゅんとして浮上ふじょうすることになった。誠まこと春はるの処刑しょけいも和智わち氏しの対等たいとう意識いしきを取とり除のぞき毛利もうり氏しへの従属じゅうぞく性せいを強つよめるための意図いとで行おこなわれたと考かんがえられている。

関連かんれん作品さくひん

• 『毛利もうり元就もとなり』（1997年ねん、NHK大河たいがドラマ、演えんじ：せんだ光雄みつお）

参考さんこう文献ぶんけん

• 三さん卿きょう伝でん編纂へんさん所しょ編へん、渡辺わたなべ世よ祐ゆう監修かんしゅう『毛利もうり元就もとなり卿きょう伝でん』マツノ書店しょてん、1984年ねん。
• 岡部おかべ忠夫ただお『萩はぎ藩はん諸家しょか系譜けいふ』マツノ書店しょてん、1999年ねん（原著げんちょ1983年ねん）。 原著げんちょは琵琶びわ書房しょぼうより刊行かんこう。
• 柴原しばはら直樹なおき「守護しゅご山名やまな氏しの備後びんご国こく支配しはいと国人くにびと領主りょうしゅ連合れんごう-国くに衆しゅ和智わち氏しの歴史れきし的てき役割やくわり-」『史学しがく研究けんきゅう』213号ごう、1996年ねん。 /所収しょしゅう:市川いちかわ裕士ひろし 編へん『山陰さんいん山名やまな氏し』戎えびす光ひかり祥さち出版しゅっぱん〈シリーズ・中世ちゅうせい西国さいこく武士ぶしの研究けんきゅう 第だい五ご巻かん〉、2018年ねん、218-248頁ぺーじ。ISBN 978-4-86403-293-3。