宇良うら田た唯ただ

宇良うら田た 唯ただ （うらた ただ）
晩年ばんねんの宇良うら田た唯ただ
生誕せいたん	(1873-05-03) 1873年ねん5月3日にち 熊本くまもと県けん天草あまくさ郡ぐん牛深うしぶか村むら
死没しぼつ	(1936-06-18) 1936年ねん6月18日にち（63歳さい没ぼつ） 東京とうきょう府ふ池上いけがみ洗足せんぞく町まち
死因しいん	肝かん癌がん
国籍こくせき	日本にっぽん
教育きょういく	熊本くまもと薬やく学校がっこう、済すみ生せい学舎がくしゃ
著名ちょめいな実績じっせき	女性じょせい初はつのドイツ医い学士がくし号ごう取得しゅとく
公式こうしきサイト	宇良うら田た唯ただ（天草あまくさ宝島たからじま観光かんこう協会きょうかい）
医学いがく関連かんれん経歴けいれき
職業しょくぎょう	薬剤師やくざいし → 医師いし
分野ぶんや	眼科がんか、産婦人科さんふじんか
研究けんきゅう	眼め科学かがく
受賞じゅしょう	熊本くまもと県けん近代きんだい文化ぶんか功労こうろう者しゃ（1992年ねん）

宇良うら田た 唯ただ（うらた ただ、1873年ねん〈明治めいじ6年ねん〉5月3日にち - 1936年ねん〈昭和しょうわ11年ねん〉6月18日にち）は、日本にっぽんの医師いし。ドイツの医学いがく士し号ごう「ドクトル・メディツィーネ（Doctor medicinae）」を日本人にっぽんじん女性じょせいとして初はじめて取得しゅとくした人物じんぶつ。日本にっぽん国内外こくないがいで活躍かつやく、特とくに中国ちゅうごくの天津てんしんでは25年ねんにわたって総合そうごう病院びょういんを営いとなみ、長年ながねんにわたって貧富ひんぷを問とわず、病気びょうきに苦くるしむ人々ひとびとを助たすけた。その一方いっぽうでは、女性じょせいの地位ちいが低ひくいとされた時代じだいに、その立場たちばに悩なやみ、また自分じぶんを支ささえてくれた父ちちや夫おっとを喪うしなうなど、波乱はらんに満みちた人生じんせいを送おくった。「宇良うら田た」は出生しゅっしょう時じの姓せいであり、結婚けっこん後ごの本名ほんみょうは「中村なかむら 唯ゆい」。下したの名なは、戸籍こせきでは「タゞ（タダ）」だが、本人ほんにんは好このんで「唯ただ」表記ひょうきを用もちいたといわれている。通称つうしょうは「唯ただ子こ（ただこ）」。他たに「タダ子こ」と表記ひょうきする資料しりょうもある。

経歴けいれき

唯ただの家族かぞく。右みぎ端はしが唯ただ、中央ちゅうおうが兄あに、左端ひだりはしが母はは。

1873年ねん（明治めいじ6年ねん）5月がつ3日にち、熊本くまもと県けんの天草諸島あまくさしょとうの一いち村むら、天草あまくさ郡ぐん牛深うしぶか村むらで、江戸えど末期まっきから干拓かんたく事業じぎょうや海産物かいさんぶつ販売はんばいなどで栄さかえた豪商ごうしょう「萬屋よろずや（よろずや）」の次女じじょ（兄あに、姉あねに次つぐ末子まっし）として誕生たんじょうした。子供こども時代じだいより、高たかい向学心こうがくしんの持もち主ぬしであった。

湖東ことう小学校しょうがっこう（後ごの天草あまくさ市立しりつ牛深うしぶか小学校しょうがっこう）を経へて、1890年ねん（明治めいじ23年ねん）、村むらの富豪ふごうの若わか主人しゅじんとの縁談えんだんが持もち上あがった。三三九度さんさんくどが交かわされ、盛大せいだいな宴うたげが催もよおされた。縁談えんだんとしては良よい話はなしであったが、唯ただは勉学べんがくを望のぞみ、その結婚けっこん生活せいかつから去さった。この経緯けいいには、以下いかのように諸説しょせつがある。

• 結婚けっこんから数すうか月げつ後ごに、「外そとの世界せかいで勉強べんきょうがしたい」との置手紙おきてがみを残のこして婚家こんかを去さった。見みつかって嫁とつぎ先さきに連つれ戻もどされても、再ふたたび家かを飛とび出だし、ついには遠縁とおえんの家いえに住すみ込こんだ。
• 結婚式けっこんしきの最中さいちゅうに、いつの間まにか姿すがたを消けしていた。置手紙おきてがみには「私わたしはお婿むこさんが嫌きらいで出奔しゅっぽんするのではありません。もっと勉強べんきょうしたいだけなのです」とあった。

幸さいわいにも相手方あいてがたの家いえが、唯ただの将来しょうらいを望のぞむ意志いしと真摯しんしな向学心こうがくしんに理解りかいを示しめしたことで、2人ふたりの離別りべつは許ゆるされた。

医師いしの道みちへ

結婚けっこんを捨すてた唯ただは、親戚しんせき筋すじの営いとなむ薬屋くすりや「吉田よしだ松花堂しょうかどう」に身みを寄よせた。東京とうきょうの明治めいじ女学校じょがっこうを経へて、1890年ねん（明治めいじ23年ねん）11月6日にちに、熊本くまもと薬やく学校がっこう（後ごの熊本大学くまもとだいがく薬学部やくがくぶ）に入学にゅうがくした。

北里きたさと研究所けんきゅうじょの人々ひとびと。前列ぜんれつ中央ちゅうおうが北里きたさと柴しば三郎さぶろう、その後うしろの3列れつ目めが唯ただ。

1892年ねん（明治めいじ25年ねん）10月がつに薬くすり学校がっこうを卒業そつぎょう、翌月よくげつに大阪おおさかで薬剤師やくざいし試験しけんにも合格ごうかく、1894年ねん（明治めいじ27年ねん）8月がつ27日にちに薬剤師やくざいし名簿めいぼに正式せいしき登録とうろくされ、薬剤師やくざいしとして父ちちと共ともに薬局やっきょくを開業かいぎょうした。しかし、唯ただの向学心こうがくしんは留とまることがなく、牛深うしぶかには眼め病びょうを患わずらう住人じゅうにんが多おおかったことから、医師いしとして人々ひとびとを救すくうことを志こころざして、2年ねんも経たたずに薬局やっきょくを廃業はいぎょうした。

1895年ねん（明治めいじ28年ねん）に再ふたたび上京じょうきょうして、翌よく1896年ねん（明治めいじ29年ねん）に、私立しりつ医い学校がっこうである済すみ生せい学舎がくしゃに入学にゅうがくした。済すみ生せい学舎がくしゃは、開校かいこう当時とうじには女子じょしの入学にゅうがくを許可きょかしていなかったが、日本にっぽんの公許こうきょ女医じょい第だい3号ごうである高橋たかはし瑞子みずこが門戸もんこを開ひらいた功績こうせき、そして済すみ生せい学舎がくしゃが再ふたたび女子じょしの入学にゅうがくを禁止きんしする4年ねん前まえのことであり、唯ただは運うん良よく入学にゅうがくすることができた。

1897年ねん（明治めいじ30年ねん）に医術いじゅつ開業かいぎょう試験しけんの前期ぜんき、翌よく1898年ねん（明治めいじ31年ねん）5月に後期こうきの試験しけんに合格ごうかくした。医師いしになるためには、通常つうじょうなら3年間ねんかんの課程かていが必要ひつようなところを、猛もう勉強べんきょうの末すえに、1年ねん半はんで学問がくもんを修おさめたことになる。これは、すでに薬学やくがくを修おさめていたために一部いちぶの単位たんいが認定にんていされたためだが、夜よるは布団ふとんを縦たて半分はんぶんに折おって寝ねて、寝返ねがえりを打うつと床ゆかに転ころがって目めが覚さめるので、そのまま起おきて机つくえに向むかうといった具合ぐあいに、寝食しんしょくを忘わすれて猛もう勉学べんがくに励はげんだとの逸話いつわも伝つたえられている。

同どう1898年ねん、私立しりつ伝染でんせん病びょう研究所けんきゅうじょ（後ごの北里きたさと研究所けんきゅうじょ）に入所にゅうしょして、北里きたさと柴しば三郎さぶろうの助手じょしゅを務つとめて修業しゅうぎょうを積つんだ。北里きたさとは当時とうじ、すでに血清けっせい療法りょうほうの開拓かいたく者しゃ、日本にっぽん近代きんだい医学いがくの父ちちとして著名ちょめいな人物じんぶつであった。また北きた里さとは唯ただと同おなじく熊本くまもと出身しゅっしんであり、後述こうじゅつのように結婚けっこんの媒酌ばいしゃく、中国ちゅうごくの開業かいぎょうの助言じょげんなど、公私こうしにわたって唯ただの恩師おんしとなった。北里きたさとの他ほか、同おなじく熊本くまもと出身しゅっしんであり、日本にっぽんで初はじめて帝王切開ていおうせっかいを行おこなった日本にっぽんの産婦人科さんふじんか学界がっかいの始祖しそである浜田はまだ玄げん達たちにも師事しじして、浜田はまだから産婦人科さんふじんか学がくを学まなんだ。研究所けんきゅうじょの同窓どうそうには野口のぐち英世ひでよもいた。翌よく1899年ねん（明治めいじ32年ねん）に医籍いせき登録とうろくし、牛深うしぶかで開業かいぎょうした。

ドイツ留学りゅうがく

麹こうじ町まちでの送別そうべつ会かい。前列ぜんれつの左ひだりから3人にん目めが唯ただ、その右みぎは吉岡よしおか彌生やよい。

ドイツ留学りゅうがく時代じだい。左端ひだりはしが唯ただ。

ドイツ留学りゅうがく時代じだい。後列こうれつ右みぎが唯ただ。

唯ただは実地じっち研究けんきゅうとして、東京とうきょう市内しないや地方ちほうの病院びょういんで医局いきょく員いんとして勤つとめたが、自身じしんが専攻せんこうを望のぞむ眼め科学かがくの研修けんしゅう場所ばしょは、当時とうじとしては医学いがくの本場ほんばであるドイツが唯一ゆいいつであった。ドイツは唯ただが開業かいぎょう前まえに、伝染でんせん病びょう研究所けんきゅうじょにいた頃ころよりの夢ゆめであったが、娘むすめにそばにいてほしいと母ははに乞こわれ、すぐ実行じっこうに移うつすことができなかったとの経緯けいいがあった。1902年ねん（明治めいじ35年ねん）に上京じょうきょうして、ドイツ留学りゅうがくを目指めざし、ドイツ語ごを学まなんだ。猛もう勉強べんきょうが叶かなって、1902年ねん（明治めいじ35年ねん）には帝国ていこく獨逸どいつ学会がっかい（帝国ていこくドイツ学会がっかい）の会員かいいんとなった。

1903年ねん（明治めいじ36年ねん）1月がつ10日とおか、唯ただは郵便ゆうびん船せん「備後びんご丸まる」でドイツへ渡わたった。巡査じゅんさの初任しょにん基本給きほんきゅう・月俸げっぽうが12円えん、銀行ぎんこうの大卒だいそつ初任しょにん給きゅうが35円えんの時代じだいにあって、渡航とこう費ひには7000円えんもの莫大ばくだいな費用ひようを要ようしたが、父ちちと兄あにの援助えんじょがあり、豪商ごうしょうであった実家じっかの財力ざいりょくがあればこそであった。出発しゅっぱつ前まえには、東京とうきょう府ふ麹こうじ町まちで、日本にっぽん女医じょい会かいの新年しんねん会かいを兼かねた送別そうべつ会かいが開催かいさいされ、唯ただの済すみ生せい学舎がくしゃでの学友がくゆうにして、同どう会かいの会長かいちょうである吉岡よしおか彌生やよいが幹事かんじの1人ひとりを務つとめた。

当初とうしょはベルリン大学だいがくを望のぞんでいたが、目標もくひょうは医学いがく士し号ごう取得しゅとくであり、同どう大学だいがくでそれが不可能ふかのうと知しり、フィリップ大学だいがくマールブルクに留学りゅうがくした。マールブルク大だいは当時とうじ、公式こうしきにはまだ女子じょしの入学にゅうがくを許可きょかしていなかったが、国外こくがいの正規せいきの医学いがく課程かてい修了しゅうりょう者しゃに限定げんていして受うけ入いれを始はじめていた。唯ただは、北里きたさと柴しば三郎さぶろうからの紹介しょうかい状じょうに加くわえて、すでに医師いし免許めんきょを持もっていたことが功こうを奏そうして、同どう1903年ねん春はるにマールブルクの聴講生ちょうこうせいの資格しかくを得えた。

唯ただの指導しどう教官きょうかんは眼科がんか教授きょうじゅのルートヴィヒ・バッハであった。1903年ねんの夏なつ学期がっきはバッハの授業じゅぎょうのみを受うけていたが、「せっかく来きたのだから全ぜん教科きょうかを」と勧すすめられ、マールブルク大だいで眼科がんかと衛生えいせい学がく研究所けんきゅうじょに所属しょぞくし、病理びょうり学がく、生理学せいりがく、産婦人科さんふじんか学がく、内科ないか学がく、外科げか学がくと、医学部いがくぶのあらゆる授業じゅぎょうを受うけた。朝あさ7時じから午後ごごの19時じまで複数ふくすうの授業じゅぎょうを受うけ、その後ごもラボで実験じっけんに明あけ暮くれる過酷かこくな日々ひびで、ドイツ滞在たいざい中ちゅうはほとんど下宿げしゅくと大学だいがくの往復おうふくだけの日々ひびを送おくり、ドイツ人じんとの交流こうりゅうの機会きかいもなかった。眼科がんかの研究けんきゅうのみを目的もくてきとしていた唯ただにとっては、眼科がんか以外いがいを学まなぶことは不満ふまんであったが、ここで全ぜん教科きょうかを学まなんだことが、後ごの医療いりょう活動かつどうに生いきる結果けっかとなった。

同どう1903年ねん、良よき理解りかい者しゃだった父ちちが死去しきょした。唯ただは深ふかく悲嘆ひたんしたが、当時とうじは空路くうろがなく帰国きこくが容易よういでなかったこともあり、涙なみだを堪こたえて、留学りゅうがく期間きかんを1年ねん短縮たんしゅくして勉学べんがくに励はげんだ。兄あにも責任せきにんをもって、学費がくひの送金そうきんを続つづけた。日にち露ろ戦争せんそうの開戦かいせん後ごは、小国しょうこくである日本にっぽんの者ものとして小馬鹿こばかにされることもあったが、戦争せんそうで日本にっぽんが勝利しょうりすると、周囲しゅういの目めも変かわり始はじめた。

1905年ねん（明治めいじ38年ねん）2月がつ上旬じょうじゅん、唯ただは新生児しんせいじ淋菌りんきん性せい結膜炎けつまくえんの予防よぼう法ほうに関かんする学位がくい論文ろんぶん「Experimentelle Untersuchungen über den Wert des so genannten Credéschen Tropfens（所謂いわゆるクレーデ点眼てんがん液えきの効果こうかに関かんする実験じっけん的てき研究けんきゅう）」をドイツ語ごで書かき上あげ、同どう1905年ねんの眼め科学かがく専門せんもん雑誌ざっし『Zeítschrift für Aúgenheilkunde』に掲載けいさいされた。この論文ろんぶんに続つづき、同どう1905年ねん2月がつから口頭こうとう試問しもんを受うけた末すえ、唯ただは念願ねんがんの医学いがく士し号ごう「ドクトル・メディツィーネ」を得えた。マールブルク大だい創設そうせつ以来いらい、女性じょせい初はつの医学いがく士し号ごう取得しゅとく者しゃであり、日本人にっぽんじん女性じょせいとしても初はじめてのことであった。マールブルク大だいの附属ふぞく文書ぶんしょ館かんに保管ほかんされているドクトル・メディツィーネ受験じゅけん者しゃたちの書類しょるいによれば、男性だんせい受験生じゅけんせいたちは慣例かんれいに基もとづき、専門せんもん領域りょういきの受験じゅけん料りょうとして350マルクを支払しはらったが、唯ただは専攻せんこうする眼科がんか以外いがいにも全ぜん教科きょうかの口頭こうとう試験しけんを受うけ、通常つうじょうより多おおい525マルクの受験じゅけん料りょうを費ついやしており、加くわえて2週間しゅうかんもの口頭こうとう試験しけんに耐たえ抜ぬいての快挙かいきょであった。

帰国きこく

1905年ねん（明治めいじ38年ねん）、唯ただは日本にっぽんへ帰国きこくした。唯ただが牛深うしぶかへ帰郷ききょうすると、住民じゅうみんたちは、名誉めいよある学位がくいを手てにした彼女かのじょの凱旋がいせんに「故郷こきょうに錦にしきを飾かざった」と熱狂ねっきょうして、港みなとに船団せんだんを組くみ、漁船ぎょせんが大漁たいりょう旗はたを振ふって出迎でむかえた。帰郷ききょうしてきた唯ただは質素しっそな服装ふくそうであり、むしろ出迎でむかえの人々ひとびとの方ほうがその姿すがたに驚おどろいた。新聞しんぶん記者きしゃの取材しゅざい攻勢こうせいが激はげしく、出迎でむかえた兄あにと姉あねが旅館りょかんの押入おしいれに唯ただを隠かくさなければならないほどだった。

その後ごは牛深うしぶかの生家せいかを一部いちぶ改造かいぞうして、眼科がんか医院いいんを開業かいぎょうした。患者かんじゃは天草てんぐさ全土ぜんどから訪おとずれた。後のちに学習がくしゅう院いん女子じょし部ぶから、「日本にっぽん初はつの西洋せいよう女医じょい」としての強つよい依頼いらいを受うけて、教員きょういんとして勤つとめ、生理せいり衛生えいせい学がくを教おしえた。しかし「自みずからの天分てんぶんは教育きょういく者しゃではなく医師いし」と思おもい直なおして、教員きょういんを辞職じしょくした。「明治天皇めいじてんのうの侍医じいに」との話はなしもあったが、それも断ことわって、東京とうきょう府ふ連雀れんじゃく町まちに「宇良うら田た眼科がんか医院いいん」を開業かいぎょうした。ここでも、当時とうじの日本にっぽんにおいてドクトルの学位がくいを持もつ者ものは女性じょせいでは唯ただのみであり、男性だんせいすら少数しょうすうであったことから、医院いいんは大おおいに繁盛はんじょうした。

1907年ねん（明治めいじ40年ねん）、北里きたさと柴しば三郎さぶろうの紹介しょうかいにより、北里きたさとの門下生もんかせいで、伝染でんせん病びょう研究所けんきゅうじょの薬剤師やくざいしである中村なかむら常三郎つねさぶろうと結婚けっこんし、中村なかむら姓せいとなった。媒酌人ばいしゃくにんは北里きたさと夫妻ふさいが務つとめた。

なお唯ただは帰国きこく後ごに、文部省もんぶしょうに論文ろんぶんを提出ていしゅつして学位がくいを申請しんせいしたことが、『東京とうきょう医事いじ新しん誌し』1417号ごうで報ほうじられた。このことは1906年ねんのベルリンの月刊げっかん雑誌ざっし『Ost-Asien』（「東亜とうあ」の意い）でも取とり上あげられ、日本にっぽん政府せいふが女性じょせいに学位がくいを授与じゅよするかどうかはドイツでも注目ちゅうもくされたが、結局けっきょくは「女性じょせいに学位がくいを授与じゅよした前例ぜんれいがない」とのことで、実現じつげんすることはなかった。

中国ちゅうごくでの開業かいぎょう

同どう仁じん病院びょういん前まえでの記念きねん写真しゃしん。左ひだりから3番目ばんめが唯ただ、4番目ばんめが夫おっとの常三郎つねさぶろう。

同どう仁じん病院びょういんでの唯ただ、夫おっとの常三郎つねさぶろう、看護かんご婦ふたち。

その後ごも唯ただは、病気びょうきに苦くるしむ人々ひとびとを、より多おおく救すくうことを望のぞみ、その道みちを求もとめて北里きたさと柴しば三郎さぶろうの元もとを訪おとずれた。北里きたさとは唯ただに、満州まんしゅうの目めに余あまる医療いりょう事情じじょうを教おしえて、「ドクトルの称号しょうごうを得えた君きみは、この日本にっぽんに留とまらず、本当ほんとうに君きみを必要ひつようとしている地ちで力ちからを振ふるうべき」と強つよく説といた。同どう1907年ねん、唯ただは新天地しんてんちを中国ちゅうごくに求もとめて、夫おっとと中国ちゅうごく大陸たいりくに渡わたり、天津てんしん租界そかい（外国がいこく人じん居留きょりゅう地ち）に総合そうごう病院びょういん「同どう仁じん病院びょういん」を開業かいぎょうした。「同どう仁じん」は「広ひろく平等びょうどうに愛あいする」の意味いみでの命名めいめいである。

同どう仁じん病院びょういんは、当時とうじとしては珍めずらしい鉄筋てっきんコンクリートの3階かい建だてで、入院にゅういん部屋へやは15室しつあった。唯ただはこの病院びょういんの院長いんちょうとして、同郷どうきょうの看護かんご婦ふたち、数すう人にんの代診だいしんや助産婦じょさんぷたちとと共ともに診察しんさつにあたっており、加くわえて中国人ちゅうごくじんの給仕きゅうじたちや車夫しゃふも雇やとう大所たいしょ帯たいであった。夫おっとの常三郎つねさぶろうは1階かいで、薬局やっきょくと印刷所いんさつしょを経営けいえいする、多角たかく経営けいえいの病院びょういんであった。唯ただはドイツのマールブルク大だいで医学部いがくぶのあらゆる授業じゅぎょうを受うけたことが功こうを奏そうして、専せん門もんである眼科がんかのみならず、産婦人科さんふじんか、内科ないか、小児科しょうにかの診療しんりょうも請うけ負おった。汽車きしゃに乗のって、1日にちがかりで往診おうしんする日ひもあった。

当時とうじの天津てんしんは、中国ちゅうごくやヨーロッパなど、各国かっこくから訪おとずれているものが多おおく、病院びょういんの患者かんじゃも様々さまざまであった。診療しんりょうでは、通訳つうやくを雇やとわず、かつて学まなんだ英語えいごとドイツ語ご、そして新あらたに習得しゅうとくした中国ちゅうごく語ごを駆使くししていた。通訳つうやくを経へずに直接ちょくせつ話はなすことで、唯ただは患者かんじゃと心しんを通かよい合あわせることができた。あるときには、相手あいてがハンカチで口くちを塞ふさいでうつむいているので、事情じじょうを尋たずねると「ニンニクを食たべたのでにおいがする」と言いうので、唯ただは「私わたしは中国人ちゅうごくじんと仲良なかよくするためにここに来きました。中国ちゅうごく流りゅうを学まなぶために、私わたしもニンニクを食たべなければなりません」と笑顔えがおで返かえした。

同どう仁じん病院びょういんは約やく30年ねんにわたって順調じゅんちょうであったが、1930年代ねんだいには満州まんしゅう事変じへん、第だい一いち次じ上海しゃんはい事変じへんと、相次あいつぐ日ひ中ちゅうの衝突しょうとつの勃発ぼっぱつに伴ともなって、日本人にっぽんじんである唯ただの立場たちばは次第しだいに悪化あっかした。同どう仁じん病院びょういんも一部いちぶが、天津てんしんに駐留ちゅうりゅうしていた日本にっぽん軍ぐんに接収せっしゅうされた。唯ただはそれでも夜間やかんの往診おうしんで、中国人ちゅうごくじんの車夫しゃふに人力車じんりきしゃを引ひかせて、平気へいきで外出がいしゅつしていた。中国ちゅうごくの兵士へいしに取とり囲かこまれて、銃じゅうを突つきつけられることもあったが、同行どうこうの看護かんご婦ふが言葉ことばを失うしなう中なか、唯ただは怯ひるまずに中国ちゅうごく語ごで「誰誰だれだれの往診おうしんへ行いくところです」と即答そくとうして切きり抜ぬけた。

満州まんしゅう事変じへん勃発ぼっぱつの翌年よくねんの1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）、糖尿とうにょう病びょうを患わずらっていた夫おっとの中村なかむら常三郎つねさぶろうが急逝きゅうせいした。唯ただは、医師いしとして多忙たぼうのために満足まんぞくに夫おっとを看護かんごできず、体調たいちょうの急変きゅうへんにも気付きつけなかったことを深ふかく後悔こうかいした。苦くるしむ患者かんじゃを救すくうことを己おのれの使命しめいとしていた医師いしとしての生涯しょうがいで唯一ゆいいつ、このときだけは、医師いしとなったことを後悔こうかいした。友人ゆうじんに「辞やめようかと思おもった」とも話はなしたものの、自みずからの使命しめいを医師いしと信しんじ、その道みちを貫つらぬき通とおして、満州まんしゅう事変じへんが激はげしさを増ますまで、天津てんしんで医師いしとして働はたらき続つづけた。しかし日にち中ちゅう関係かんけいの悪化あっかに拍車はくしゃがかかったことで、同どう仁じん病院びょういんは閉鎖へいさを強しいられた。

帰国きこく - 晩年ばんねん

池上いけがみ洗足せんぞく町まちの中村なかむら眼科がんか医院いいん。右みぎ端はしが唯ただ。中央ちゅうおうは中国ちゅうごく時代じだいから唯ただのもとに務つとめていた看護かんご婦ふ。熊本くまもと開発かいはつ研究けんきゅうセンターによる雑誌ざっし『熊本くまもと開発かいはつ』での1993年ねんの唯ただの特集とくしゅう時じ、唯ただのもとにいた唯一ゆいいつの存命ぞんめい人物じんぶつとして、貴重きちょうな証言しょうげんを語かたった。左端ひだりはしは中国ちゅうごく留学生りゅうがくせい。

唯ただの死亡しぼう広告こうこく。友人ゆうじん総代そうだいとして志賀しが潔きよしと漆山うるしやま又四郎またしろうの名ながある。

同どう1933年ねんに、唯ただは同どう仁じん病院びょういんの閉鎖へいさにより、中国ちゅうごくに見切みきりをつけて、静養せいようも兼かねて日本にっぽんへ帰国きこくし、郷里きょうりの牛深うしぶかで開業かいぎょうした。この牛深うしぶかでの診療しんりょう科かは眼科がんかと産婦人科さんふじんかであり、産婦人科さんふじんかは眼科がんかに加くわえて、当時とうじの天草てんぐさで特とくに必要ひつようとされていた医学いがくであった。唯ただはここでも中国ちゅうごくと同様どうよう、貧まずしい者ものには無償むしょうで接せっした。この牛深うしぶかでの開業かいぎょう時じは、女医じょいの珍めずらしさと名声めいせいにより、島しまの内外ないがいから患者かんじゃが押おし寄よせたとの説せつと、逆ぎゃくに「初老しょろうの女医じょい」との評判ひょうばんが良よくなかったため、患者かんじゃは滅多めったに来こなかったとする説せつがある。豪商ごうしょうであった生家せいかも、唯ただの誕生たんじょう時じには徐々じょじょに陰かげりが差さし始はじめており、この当時とうじにはすでに往時おうじの賑にぎわいはなかった。

翌よく1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）に上京じょうきょうして、池上いけがみ洗足せんぞく町まち（後ごの東京とうきょう都と大田おおた区く南千束みなみせんぞく）に「中村なかむら眼科がんか医院いいん」を開業かいぎょうした。この医院いいんは唯ただ自身じしんが「隠居いんきょ仕事しごと」とも呼よぶほど小規模しょうきぼのもので、1日にちの患者かんじゃの人数にんずうはせいぜい1桁けたであった。カルテの枚数まいすうも9枚まい止どまりのため、唯ただは怪談かいだんの皿さら屋敷やしきを真似まねて、10枚まいに満みたないカルテを「1枚まい、2枚まい……」と数かぞえ、「番ばん町まち皿さら屋敷やしき病院びょういんと改名かいめいしようかしら」と、冗談じょうだんを飛とばして笑わらっていた。しかし医院いいんの借家しゃくや代だい50円えんに対たいして、天津てんしんの同どう仁じん病院びょういんの貸かし賃ちんとして200円えんの収入しゅうにゅうがあったため、生活せいかつに不自由ふじゆうすることはなかった。北里きたさと柴しば三郎さぶろう門下もんかで赤痢せきり菌きん発見はっけんで知しられる志賀しが潔きよし、癌がん研究所けんきゅうじょの稲田いなだ龍吉りゅうきちや、近隣きんりんの中国人ちゅうごくじん留学生りゅうがくせいたちとの交友こうゆうもあった。

還暦かんれきを迎むかえた後のち、長年ながねんにわたって医療いりょう活動かつどうにその身みを費ついやしたことで体からだを病やみ、入院にゅういん加療かりょうの身みとなった。東京とうきょうでの開業かいぎょうの翌々年よくよくねん、1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）6月がつ18日にちに池上いけがみ洗足せんぞく町まちの自宅じたくで、稲田いなだ龍吉りゅうきちに看取みとられつつ、肝かん癌がんにより63歳さいで死去しきょした。東京とうきょうで行おこなわれた葬儀そうぎには、吉岡よしおか彌生やよいを始はじめ、当代とうだい一流いちりゅうの医学いがく者しゃたちが参列さんれつし、志賀しが潔きよしと漢学かんがく者しゃの漆山うるしやま又四郎またしろうが友人ゆうじん総代そうだいを務つとめた。遺骨いこつは長崎ながさき県けん島原しまばら町まちで夫おっとの常三郎つねさぶろうと共ともに葬ほうむられた後のち、分骨ぶんこつが牛深うしぶか小学校しょうがっこうの近隣きんりんの山頂さんちょうに、父ちちと共ともに葬ほうむられた。

中国ちゅうごくと深ふかく関かかわりをもった唯ただは、「日本にっぽんと支ささえ那な（中国ちゅうごく）が戦争せんそうにならなければいいのに」と、日にち中ちゅうの関係かんけいを最期さいごまで憂うれいていたが、その願ねがいも叶かなわずに日にち中ちゅう戦争せんそうが開戦かいせんしたのは、奇くしくも死去しきょの翌年よくねんのことであった。

年譜ねんぷ

• 1873年ねん（明治めいじ6年ねん）5月がつ3日にち - 熊本くまもと県けん天草あまくさ郡ぐん牛深うしぶか村むらで、豪商ごうしょう「萬屋よろずや」の次女じじょとして誕生たんじょう
• 1890年ねん（明治めいじ23年ねん） - 縁えん談話だんわが持もち上あがったが、勉学べんがくを望のぞみ、結婚けっこん生活せいかつから去さる
• 1890年ねん（明治めいじ23年ねん）11月6日にち - 熊本くまもと薬やく学校がっこうに入学にゅうがく
• 1892年ねん（明治めいじ25年ねん） - 熊本くまもと薬やく学校がっこうを卒業そつぎょうして薬剤師やくざいしとなり、父ちちと共ともに薬局やっきょくを開業かいぎょう
• 1894年ねん（明治めいじ27年ねん）8月がつ27日にち - 薬剤師やくざいし名簿めいぼに正式せいしき登録とうろくされる
• 1895年ねん（明治めいじ28年ねん） - 再ふたたび上京じょうきょう
• 1896年ねん（明治めいじ29年ねん） - 済すみ生せい学舎がくしゃに入学にゅうがく
• 1898年ねん（明治めいじ31年ねん） - 医術いじゅつ開業かいぎょう試験しけんに合格ごうかく、私立しりつ伝染でんせん病びょう研究所けんきゅうじょで北里きたさと柴しば三郎さぶろうに師事しじ
• 1899年ねん（明治めいじ32年ねん） - 医師いしとして牛深うしぶかで開業かいぎょう
• 1902年ねん（明治めいじ35年ねん） - ドイツ留学りゅうがくを目指めざし、上京じょうきょうしてドイツ語ごを学まなぶ
• 1903年ねん（明治めいじ36年ねん） - ドイツのフィリップ大学だいがくマールブルクに留学りゅうがく
• 1905年ねん（明治めいじ38年ねん） - 新生児しんせいじ淋菌りんきん性せい結膜炎けつまくえんの予防よぼう法ほうに関かんする学位がくい論文ろんぶんで医学いがく士し号ごうドクトル・メディツィーネを得える、日本にっぽんへ帰国きこく
• 1906年ねん（明治めいじ39年ねん） - 牛深うしぶかでの開業かいぎょうを経へて、東京とうきょうの連雀れんじゃく町まちに「宇良うら田た眼科がんか医院いいん」を開業かいぎょう
• 1907年ねん（明治めいじ40年ねん） - 薬剤師やくざいしの中村なかむら常三郎つねさぶろうと結婚けっこん、夫おっとと共ともに中国ちゅうごくに渡わたり、天津てんしんに総合そうごう病院びょういん「同どう仁じん病院びょういん」を開業かいぎょう
• 1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん） - 日本にっぽんへ帰国きこくし、牛深うしぶかで眼科がんか・産婦人科さんふじんか医院いいんを開業かいぎょう
• 1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん） - 東京とうきょうの池上いけがみ洗足せんぞく町まちに「中村なかむら眼科がんか医院いいん」を開業かいぎょう
• 1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）6月がつ18日にち - 肝かん癌がんにより63歳さいで死去しきょ

没後ぼつご

唯ただの存命ぞんめい当時とうじは、女医じょい界かいにおける先駆せんく者しゃとして、女医じょい界かいでは注目ちゅうもくされたものの、同どう時期じきの先駆せんく者しゃの1人ひとりである吉岡よしおか彌生やよいらと比較ひかくすると、日本にっぽんから離はなれた期間きかんが長ながいため、一般いっぱん的てきには関心かんしんは持もたれなかった。昭和しょうわ40年ねん頃ごろからは郷土きょうど史家しかや関係かんけい者しゃの間あいだで唯ただのことが語かたられるようになったが、それも断片だんぺん的てきなもので、資料しりょうが不ふ確実かくじつなために誤あやまりも散見さんけんされた。

1992年ねん（平成へいせい4年ねん）10月がつ、日本人にっぽんじん女性じょせい初はつのドイツ医い学士がくし号ごう取得しゅとくの功績こうせきにより、社会しゃかいに貢献こうけんした熊本くまもとの人物じんぶつを称たたえる「熊本くまもと県けん近代きんだい文化ぶんか功労こうろう者しゃ」の1人ひとりとして選えらばれた。このことが契機けいきとなり、唯ただの研究けんきゅうは徐々じょじょに進すすみ始はじめ、文献ぶんけんでも取とり上あげられるようになった。

2011年ねん（平成へいせい23年ねん）11月、和水わすい町まちの元もと医薬品いやくひん会社かいしゃ員いんの自費じひ出版しゅっぱんにより、九州きゅうしゅう各地かくちの医療いりょうの先人せんじんや活躍かつやく中ちゅうの人物じんぶつ計けい24人にんを紹介しょうかいした『明日あしたを拓ひらいた九州きゅうしゅうの医療いりょう改革かいかく者しゃたち』が発行はっこうされ、九州きゅうしゅう出身しゅっしんの北里きたさと柴しば三郎さぶろう、熊本くまもとでハンセン病はんせんびょう患者かんじゃの救済きゅうさいに尽力じんりょくしたハンナ・リデルとエダ・ハンナ・ライトらと共ともに、唯ただが無名むめいの医療いりょう改革かいかく者しゃとして紹介しょうかいされた。2020年ねん（令れい和わ2年ねん）8月がつには、天草あまくさ宝島たからじま観光かんこう協会きょうかいによって、唯ただの生涯しょうがいを伝つたえるリーフレットが製作せいさくされ、配布はいふが開始かいしされた。

翌よく2021年ねん（令れい和わ3年ねん）には、テレビ熊本てれびくまもとにより唯ただの生涯しょうがいがテレビドラマ『宇良うら田でん唯ただ 医者いしゃとしての使命しめいに燃もえて』として、1月がつ17日にちに放映ほうえいされた。テレビ熊本てれびくまもとのドキュメンタリードラマ「郷土きょうどの偉人いじんシリーズ」の第だい28作さくであり、かつて熊本くまもとから世界せかいへと飛躍ひやくした唯ただの存在そんざいを広ひろめると共ともに、新型しんがたコロナウイルス感染かんせん症しょうの拡大かくだいという苦境くきょうの中なかで戦たたかう医療いりょう従事じゅうじ者しゃへの感謝かんしゃと敬意けいいを趣旨しゅしとして製作せいさくされた作品さくひんである。唯ただ役やくは松下まつした由樹ゆき（若年じゃくねん期きは中村なかむら里さと帆ほ）が演えんじた。

生誕せいたんから150年ねん後ごにあたる2023年ねん（令れい和わ5年ねん）5月がつには、郷里きょうりの天草あまくさ市し牛深うしぶか町まちで生誕せいたん百ひゃく五ご十じゅう周年しゅうねん記念きねん祭さい、唯ただの生涯しょうがいを紹介しょうかいする「宇良うら田た唯ただ展てん」が開催かいさいされた。

関連かんれん施設しせつ・建築けんちく物ぶつ

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唯ただの顕彰けんしょう碑ひ「ドクトル・メディツィーネ 宇良うら田たタダ女史じょし」 - 天草あまくさ宝島たからじま観光かんこう協会きょうかい 牛深うしぶか支部しぶ
唯ただの生家せいか跡あとに残のこる「萬屋よろずや」の蔵ぞう（玄げん彰あきら蔵くら） - 天草あまくさ宝島たからじま観光かんこう協会きょうかい 牛深うしぶか支部しぶ
熊本大くまもとだい薬学部やくがくぶの「宇良うら田でん唯ただ博士はかせ胸像きょうぞう」 - 熊本くまもと日にち日にち新聞しんぶん
Tada-Urata-Platz - フィリップ大学だいがくマールブルク

2006年ねん（平成へいせい18年ねん）3月がつ、牛深うしぶかで唯ただの功績こうせきなどを研究けんきゅうする「牛深うしぶか歴史れきし文化ぶんか遺産いさんの会かい」が、唯ただについて「日本にっぽん女性じょせいの地位ちい向上こうじょうに貢献こうけんした唯ただの偉業いぎょうを称たたえる」と発案はつあんしたことで、唯ただの生家せいか近ちかくの「むつみ公園こうえん」に、唯ただの顕彰けんしょう碑ひ「ドクトル・メディツィーネ 宇良うら田たタダ女史じょし」が建立こんりゅうされた。施行しこう費用ひようを「宇良うら田たタダ史し顕彰けんしょう碑ひ建立こんりゅう期成きせい会かい」により募つのったところ、多おおくの協賛きょうさんが得えられた。

唯ただの生家せいか「萬屋よろずや」はすでに取とり壊こわされており、現存げんそんしない。往時おうじを偲しのばせる建造けんぞう物ぶつとしては、蔵くらのみが現存げんそんし、地元じもとでは歴史れきしある建造けんぞう物ぶつとして「玄げん彰あきら蔵ぞう（げんしょうぐら）」の愛称あいしょうで親したしまれている。2016年ねんの熊本くまもと地震じしんのような大だい地震じしんに伴ともなう倒壊とうかいが危惧きぐされ、2017年ねん（平成へいせい29年ねん）に危険きけん家屋かおくの解体かいたいを対象たいしょうとする補助ほじょ金きんが熊本くまもと市しに申請しんせいされたことから、熊本くまもと県けん建築けんちく士し会かい天草てんぐさ支部しぶでは、蔵くらの保存ほぞん活用かつようへの機運きうんを盛もり上あげようと、翌よく2018年ねん（平成へいせい30年ねん）8月がつから2度ど、現地げんちでワークショップを開催かいさいし、蔵くらの保存ほぞん活用かつよう策さくなどについて意見いけん交換こうかんが行おこなわれている。また唯ただが薬局やっきょくの開業かいぎょう前まえに身みを寄よせていた「吉田よしだ松花堂しょうかどう」も、江戸えど時代じだいから続つづく薬くすり屋やとして令れい和わ期き以降いこうまで営業えいぎょうしており、店みせには唯ただの写真しゃしんや手紙てがみが残のこされている。

2021年ねん、母校ぼこうである熊本大学くまもとだいがく薬学部やくがくぶの同窓会どうそうかいと唯ただの親族しんぞくの者ものの寄付きふにより、熊本大くまもとだい薬学部やくがくぶの蕃しげる滋しげる館かん前ぜん広場ひろば（熊本くまもと市し中央ちゅうおう区く）に、「宇良うら田でん唯ただ博士はかせ胸像きょうぞう」が設置せっちされた。唯ただの向学心こうがくしんと功績こうせきを称たたえると共ともに、今後こんごの医学いがくや薬学やくがくを志こころざす学生がくせいの希望きぼうとなることを期待きたいしたものである。彫刻ちょうこくは熊本くまもとの彫刻ちょうこく家かの緒方おがた信行のぶゆきが手てがけ、唯ただがドイツでドクトル・メディツィーネを取得しゅとくした頃ころの30歳さい頃ごろの姿すがたを表あらわしている。同どう2021年ねん8月がつ6日にちに、除幕じょまく式しきが行おこなわれた。

唯ただがドイツで学まなんだフィリップ大学だいがくマールブルクがあるマールブルクでは、マールブルクにゆかりのある非ひヨーロッパ人じん、医学いがくの先駆せんく者しゃとしての唯ただの功績こうせきを称たたえる意味いみで、2022年ねん12月に、中央ちゅうおう医学いがく図書館としょかんそばの通とおりが「Tada-Urata-Platz」と名なづけられた。マールブルク大だいで博士はかせ号ごうを取得しゅとくしたドイツ在住ざいじゅうの精神せいしん科か医いの村田むらた春海しゅんかいが、大学だいがく内ないにある唯ただの説明せつめいパネルを見みて関心かんしんを持もち、また同どう時代じだいに日本にっぽんで3人にん目めの女性じょせい医師いしである高橋たかはし瑞子みずこもまたドイツに留学りゅうがくしていたことを知しり、「2人ふたりとも現地げんちでも知名度ちめいどが低ひくく、もっと多おおくの人ひとが知しるべき」と考かんがえて提案ていあんし、命名めいめいに至いたったものである。

人物じんぶつ

朝日新聞あさひしんぶん1906年ねん9月がつ13日にち東京とうきょう朝刊ちょうかん、唯ただが「ドクトル」の肩書かたがきで掲載けいさいした開業かいぎょう広告こうこく

勝かち気きで頭脳ずのう明晰めいせき、豪放ごうほうな性格せいかくで、こうと信しんじたことは断だんじて実行じっこうに移うつす性格せいかくであった。父ちちにも「この子こが男おとこだったら」と言いわれたほどだった。ドイツから帰国きこく後ごの開業かいぎょう時じには、朝日新聞あさひしんぶんの1906年ねん9月がつ13日にちの東京とうきょう朝刊ちょうかんで「ドクトル宇良うら田た唯ただ子こ」の名なで開業かいぎょう広告こうこくが掲載けいさいされており、唯ただの積極せっきょく性せいが窺うかがい知しれる。こうした気質きしつは、熊本くまもと出身しゅっしんの女子じょし教育きょういく者しゃである矢嶋やじま楫子かじこにも代表だいひょうされる、頑固がんこで一本気いっぽんぎな熊本くまもとの女性じょせい「肥後ひごの猛たけし婦ふ」(男性だんせいでいうところの「肥後ひごもっこす」）とも指摘してきされている。

ドイツ学者がくしゃの上村うえむら直己なおきや、「牛深うしぶか歴史れきし文化ぶんか遺産いさんの会かい」の郷土きょうど史家しかである吉川よしかわ茂文しげふみは、唯ただの人物じんぶつ像ぞうについて、父ちちの影響えいきょうが大おおきいと推測すいそくしている。父ちちの宇良うら田た玄げん彰あきら（1841年ねん - 1903年ねん）は「萬屋よろずや」7代目だいめで、家業かぎょうの傍かたわらで啓蒙けいもう思想家しそうかとして政治せいじ運動うんどうも行おこなった人物じんぶつであり、薩摩さつまの志士ししである西郷さいごう隆盛たかもりや大久保おおくぼ利通としみちらが京都きょうとへ向むかう途中とちゅう、牛深うしぶかで交流こうりゅうした仲なかであった。玄げん彰あきらは自分じぶんの子こらの中なかでも、唯ただを特とくに可愛かわいがり、唯ただは玄げん彰あきらの性格せいかくを最もっとも強つよく受うけた。熊本くまもとの眼科がんか・内科ないか医いで著述ちょじゅつ家かでもある由よし富とみ章子あきこは、牛深うしぶかは古来こらいより天然てんねんの良港りょうこうとして知しられており、対岸たいがんの薩摩さつま藩はんとも交流こうりゅうがあり、豊ゆたかな土地とちによって、伸のびやかな気風きふう、過去かこにとらわれることのない人柄ひとがらが育はぐくまれた可能かのう性せいを指摘してきしている。女性じょせいの地位ちいが低ひくかった明治めいじ期きに、しかも島しまの小村こむらで生うまれ育そだった唯ただが、日本にっぽん国外こくがいへ渡わたったこともまた、父ちちの存在そんざいと牛深うしぶかの人々ひとびとの気風きふうに影響えいきょうされたものと、吉川よしかわ茂文しげふみは見みている。また、男性だんせい主導しゅどう型がたの社会しゃかいにおいて女性じょせい研究けんきゅう者しゃが育そだつためには、当人とうにんの才能さいのうや努力どりょくは無論むろんのこと、影響えいきょう力りょくを持もつ男性だんせいの指導しどうが欠かかせないことから、ドイツ文学ぶんがく者しゃの石原いしはらあえかは、北里きたさと柴しば三郎さぶろうが唯ただを支援しえんし続つづけた点てんにも着目ちゃくもくしている。

日本にっぽん初はつの女医じょいである荻野おぎの吟子ぎんこが、女人にょにん禁制きんせいの医学いがく校こうで男装だんそうで学まなんでいたことと同様どうよう、唯ただも学生がくせい時代じだいは男装だんそうして学校がっこうに通かよっていた。また、日本人にっぽんじんの平均へいきん身長しんちょうが男女だんじょ共どもに160センチメートルに満みたなかった当時とうじ、身長しんちょう164、または165センチメートル以上いじょうで、男性だんせいと間違まちがわれるほどの体格たいかくで。「動うごきやすいように」と常つねに袴はかまを着用ちゃくようし、歩あるくときには袴はかまの裾すそを蹴飛けとばすように歩あるいた。男性だんせい的てきな性格せいかくは、幼少ようしょう時じから成人せいじん後ごまで変かわらなかったようで、人力車じんりきしゃに乗のると、車夫しゃふから「旦那だんな、どこへめえりませう（旦那だんな、どこへ参まいりましょう）」と言いわれ、男性だんせいに間違まちがわれたことを喜よろこんだといわれる。女性じょせい差別さべつの時代じだいにあって、差別さべつや苦難くなんも経験けいけんしたはずだが、そうした差別さべつに悩なやんだよりもむしろ、いかに男おとこのように振ふる舞まうかを楽たのしむ余裕よゆうを持もった女性じょせいだったともみられ、済すみ生せい学舎がくしゃ入学にゅうがくからわずか3年ねんで医師いしに、留学りゅうがくからわずか2年ねんで医学いがく士し号ごうを取得しゅとくできたのは、そうした強つよくて広ひろい心しんによるものとする意見いけんもある。その体格たいかくや、医学いがくを望のぞんで結婚けっこんを捨すてたとの逸話いつわから、「並外なみはずれた」を意味いみする現地げんちの方言ほうげんで「とつけもにゃあ女子じょし（おなご）」とも呼よばれた。

そうした女傑じょけつぶりの一方いっぽうで、ドイツ留学りゅうがく時じには生命せいめい保険ほけんを契約けいやくしており、留学りゅうがく中ちゅうに死去しきょしたときには母ははが受取うけとり人じんとして保険ほけん金きん千せん円えん（当時とうじの米価べいかは1升しょうが15銭ぜにから16銭ぜに程度ていど）を受うけ取とることになっており、唯ただは莫大ばくだいな渡航とこう費用ひようを負担ふたんした両親りょうしんへ恩返おんがえしするつもりだったとも考かんがえられている。学位がくい取得しゅとく時じの論文ろんぶんの冒頭ぼうとうにも「Meiner lieben Mutter und dem Andenken meines lieben Vaters Dankbarkeit und Verehrung gewidmet（愛あいする母ははと愛あいする亡なき父ちちに、感謝かんしゃと尊敬そんけいの気持きもちを込こめて捧ささげる）」との献辞けんじが添そえられている。

また、中国ちゅうごくの同どう仁じん病院びょういんで働はたらいていた時代じだいの肖像しょうぞうでは、歳としをとるにつれて表情ひょうじょうが柔和にゅうわになっており、多忙たぼうながらも充実じゅうじつした生活せいかつを送おくっていたことが窺うかがえる。当時とうじの中国ちゅうごくでは日本人にっぽんじんが圧倒的あっとうてきな優位ゆういにあったが、唯ただは病院びょういんでの患者かんじゃに対たいしては、国籍こくせきや貧富ひんぷの差さを嫌きらって、平等びょうどうに接せっした。富裕ふゆう層そう階級かいきゅうの婦人ふじんが診療しんりょうに訪おとずれることもあったが、そのようなときでも富裕ふゆう層そうを差さし置おいて、最もっとも具合ぐあいの悪わるそうな患者かんじゃから先さきに診察しんさつした。往診おうしん料りょうを払はらえない患者かんじゃが、夜具やぐを売うって金かねに換かえようとしても、「そんなことをして、病気びょうきが悪化あっかしたらどうするのですか」と、それを思おもい留とまらせ、逆ぎゃくに布団ふとんの下したにそっと金かねを置おいたり、そばにいる子供こどもに金かねを握にぎらせたり、といった逸話いつわが残のこされている。「医いは仁術じんじゅつ」の理想りそうを実践じっせんし、食事しょくじなどは周囲しゅういの看護かんご婦ふたちと同様どうように済すませて、夫おっとと共ともに極きわめて質素しっそな生活せいかつを送おくった。「患者かんじゃ第だい一いち、名誉めいよやお金かねより、尊とうとい仕事しごとをしたい」が口癖くちぐせであった。誰だれにでも平等びょうどうに接せっすることで、患者かんじゃたちからの信頼しんらいも厚あつかった。人々ひとびとからは深ふかく敬慕けいぼされて、「女神めがみ様さま」とも呼よばれた。

唯ただの遺書いしょ

没後ぼつごの1990年代ねんだいには、唯ただが死去しきょの前年ぜんねんに書かいた遺書いしょが発見はっけんされ、その中なかには「夫おっとに対たいしああもしかうもすればよかったと思おもふ（中略ちゅうりゃく）申もうし訳わけなき次第しだいなれど、何事なにごとも父上ちちうえと夫おっとは私わたしの心しんを置おくまでご洞察どうさつ下くださると思おもう」とあり、父ちちと同様どうようの波乱万丈はらんばんじょうな生涯しょうがいを振ふり返かえりつつも、優やさしい女性じょせいの心情しんじょうが窺うかがい知しれる。後年こうねんに唯ただの義ぎ孫まごは、叔母おばである唯ただを回想かいそうして「優やさしい人ひとでした」と語かたっている。中国ちゅうごくでの開業かいぎょう時じの逸話いつわにもあるように、差別さべつをせずに人々ひとびとに平等びょうどうに接せっした唯ただの行おこないは、平成へいせい及および令れい和わ期き以降いこうにおいても、熊本くまもと県けん教育きょういく委員いいん会かいによる小・中学校しょうちゅうがっこうの道徳どうとく教育きょういく用よう資料しりょう『熊本くまもとの心しん』にも採用さいようされている。

評価ひょうか

東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく医学部いがくぶ眼科がんか初代しょだい教授きょうじゅである河本かわもと重次郎しげじろうは、 日本眼科学会にほんがんかがっかい機関きかん月刊げっかん誌し『日本眼科学会にほんがんかがっかい雑誌ざっし』のコラム「眼科がんか小言こごと」において、「ドクトルの学位がくいは日本にっぽんの医学いがく博士はかせに相当そうとう、あるいはそれ以上いじょうに評価ひょうかが高たかい」と述のべ、唯ただを日本人にっぽんじん女性じょせい最初さいしょのドクトルとして高たかく評価ひょうかし、「女流じょりゅう眼科がんか医いの開祖かいそたるかあるいは開祖かいそに近ちかいひとりであろう」と語かたっている。

石原いしはらあえかやドイツ文学ぶんがく者しゃの眞ま岩いわ啓子けいこは、宇良うら田た唯ただが20年ねん以上いじょうにわたって中国ちゅうごくで医師いしとして活動かつどうしたことについて、「日本にっぽん国外こくがいで活躍かつやくした女医じょいとして先駆せんく的てきな存在そんざい」と述のべている。また石原いしはらは、唯ただがドイツで女性じょせい初はつのドクトル・メディツィーネを得えたことについて、ドイツ人じん女性じょせいでマールブルク大だいでの初はつの取得しゅとくが唯ただの2年ねん後ごであり、そのときも依然いぜんとしてプロイセン領りょうの大学だいがくでは女子じょし大学生だいがくせいを公式こうしきに受うけ入いれていなかったことから、唯ただの学位がくい取得しゅとくは極きわめて異例いれいの措置そちであったと指摘してきしている。歴史れきし研究けんきゅう家かの鈴木すずき喬たかしは唯ただを「不屈ふくつの精神せいしんにより女医じょい及および経営けいえい家かとして成功せいこうし、日本にっぽんの女性じょせいの地位ちい向上こうじょうに大おおきな足跡あしあとを残のこした」と評価ひょうかしている。

天草あまくさ市しの天草てんぐさ宝島たからじま観光かんこう協会きょうかい牛深うしぶか支部しぶによるウェブサイト「宇良うら田た唯ただ」では、「日本にっぽん眼科がんか女医じょい界かいの先駆さきがけ」とされている。明治めいじ女医じょい史しの研究けんきゅう者しゃである三崎みさき裕子ゆうこ（元もと北里大学きたさとだいがく特別とくべつ研究けんきゅう員いん、日本にっぽん医い史し学会がっかい会員かいいん）は、唯ただを「明治めいじ女性じょせい史し、日本にっぽん医学いがく史上しじょうでも非常ひじょうに高たかく評価ひょうかされるべき人物じんぶつの一人ひとり」「時代じだいの扉とびらを開ひらいた一人ひとり」と話はなし、日本にっぽんでもドイツでも女性じょせいに学位がくいを認みとめない大学だいがくが多おおかった時代じだいにおいて「常識じょうしきにとらわれず、自分じぶんの可能かのう性せいを信しんじて挑戦ちょうせんした野心やしん的てきな女性じょせい」と語かたっている。

一方いっぽうで、地元じもとの天草あまくさ市しには唯ただの顕彰けんしょう碑ひが建立こんりゅうされているにもかかわらず、唯ただの業績ぎょうせきは、先述せんじゅつの『明日あしたを拓ひらいた九州きゅうしゅうの医療いりょう改革かいかく者しゃたち』で「無名むめいの医療いりょう改革かいかく者しゃ」として取とり上あげられたように、郷里きょうりですら知名度ちめいどは決けっして高たかくない。これについて鈴木すずき喬たかしは、その知名度ちめいどの低ひくさを「若年じゃくねん時じに郷里きょうりを離はなれ、生涯しょうがいの大半たいはんを東京とうきょうや中国ちゅうごくで過すごしたため」と分析ぶんせきしている。三崎みさき裕子ゆうこは、唯ただが当時とうじの社会しゃかい、医学いがく界かい、女医じょい会かいではさほど重要じゅうよう視しされなかったことについて、「時代じだいの限界げんかいであったのだろうか」と述のべている。

しかし先述せんじゅつのように、2020年代ねんだい以降いこうは熊本大くまもとだいでの胸像きょうぞう建立こんりゅう、マールブルク市しの広場ひろば「Tada-Urata-Platz」のように再さい評価ひょうかの動うごきが続つづいていることから、三浦みうらは、吉川よしかわ茂文しげふみをはじめとする地元じもとの有志ゆうしにより地道じみちに続つづけられた調査ちょうさと、その生涯しょうがいや功績こうせきを裏うらづける資料しりょうの収集しゅうしゅうの成果せいかと分析ぶんせきしており、「現代げんだいの女性じょせいのロールモデルとも成なり得える存在そんざいであることを示しめしてこられた意義いぎは大おおきい」とも話はなしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 石井いしい清きよし喜き「生涯しょうがい、医いは仁術じんじゅつを貫つらぬく 宇良うら田たタダ」『熊本くまもと開発かいはつ』第だい65号ごう、熊本くまもと開発かいはつ研究けんきゅうセンター、1993年ねん5月がつ、NCID AN00259688。 
• 石原いしはらあえか・眞ま岩いわ啓子けいこ「ヴュルツブルクのシーボルト家か 日にち独どくで女医じょいを輩出はいしゅつした医学いがく家系かけい」『慶応義塾大学けいおうぎじゅくだいがく日吉ひよし紀要きよう ドイツ語どいつご学がく・文学ぶんがく』第だい47号ごう、慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく日吉ひよし紀要きよう刊行かんこう委員いいん会かい、2011年ねん、CRID 1050845763874632192、2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 石原いしはらあえか「Japanische Medizinerinnen in Deutschland 1890-1905 : Mizuko TAKAHASHI und Tada URATA」『慶応義塾大学けいおうぎじゅくだいがく日吉ひよし紀要きよう ドイツ語どいつご学がく・文学ぶんがく』第だい49号ごう、慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく日吉ひよし紀要きよう刊行かんこう委員いいん会かい、2012年ねん3月がつ、CRID 1050564288901167744、2022年ねん3月がつ8日にち閲覧えつらん。 
• 石原いしはらあえか『ドクトルたちの奮闘ふんとう記き ゲーテが導みちびく日にち独どく医学いがく交流こうりゅう』慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱん会かい、2012年ねん6月がつ18日にち。ISBN 978-4-7664-1950-4。 
• 伊藤いとう春奈はるな『「姐あね御お」の文化ぶんか史し 幕末ばくまつから近代きんだいまで教科書きょうかしょが教おしえない女性じょせい史し』DU BOOKS、2019年ねん10月がつ10日とおか。ISBN 978-4-86647-103-7。 
• 猪飼いかい隆明たかあき「宇良うら田た唯ただ子この留学りゅうがくと生命せいめい保険ほけん」『熊本大学くまもとだいがく学がく報ほう』第だい534号ごう、熊本大学くまもとだいがく事務じむ局きょく、1997年ねん1月がつ、NCID AA12884305。 
• 上村うえむら直己なおき「マールブルク留学りゅうがく時代じだいの宇良うら田た唯ただ子こ」『文学部ぶんがくぶ論叢ろんそう』第だい75号ごう、熊本大学くまもとだいがく、2002年ねん3月がつ、CRID 1520853832238825600。 
• 北野きたの典夫のりお『天草あまくさ海外かいがい発展はってん史し』 下巻げかん、葦あし書房しょぼう、1985年ねん12月15日にち。ISBN 978-4-7512-0055-1。 
• 西条さいじょう敏美としみ『理系りけいの扉とびらを開ひらいた日本にっぽんの女性じょせいたち ゆかりの地ちを訪たずねて』新泉しんいずみ社しゃ、2009年ねん6月がつ30日にち。ISBN 978-4-7877-0906-6。 
• 佐々木ささき啓子けいこ「戦前せんぜん期き女子じょし留学りゅうがく者しゃの渡航とこう目的もくてきおよび派遣はけん機関きかんの動向どうこうについて -高等こうとう教育きょういく機会きかいと専門せんもん職位しょくいの獲得かくとくを求もとめて-」『電気通信大学でんきつうしんだいがく紀要きよう』第だい32巻かん第だい1号ごう、電気通信大学でんきつうしんだいがく、2020年ねん2月がつ1日にち、CRID 1390290699792757120、2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 鈴木すずき喬たかし「宇良うら田たタダ子こ」（PDF）『くまもとの風ふう』第だい102号ごう、熊本くまもと県けん広報こうほう外事がいじ課か、1990年ねん2月がつ1日にち、NCID AA12219769、2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 三崎みさき裕子ゆうこ「宇良うら田た唯ただ子ことその時代じだい」（PDF）『日本にっぽん医い史学しがく雑誌ざっし』第だい41巻かん第だい2号ごう、日本にっぽん医い史し学会がっかい、1995年ねん5月がつ、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:00018312、2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 吉川よしかわ茂文しげふみ「宇良うら田でん唯ただ 日本にっぽん初はつの女性じょせい「ドクトル・メディツィーネ」」『苓州』第だい2号ごう、天草てんぐさの自然しぜんと歴史れきしを語かたる会かい、2019年ねん8月がつ31日にち、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:01049179。 
• 由よし富とみ章子あきこ「激動げきどうの時代じだいを向学心こうがくしんと同どう仁じんの心しんで生いき抜ぬいた女医じょい」『プリーズ 旅たびのライブ情報じょうほう誌し』第だい205号ごう、九州旅客鉄道きゅうしゅうりょかくてつどう、2004年ねん6月がつ、NCID AN10555585。 
• 『くまもとのこころ』（PDF）熊本くまもと県けん教育きょういく委員いいん会かい、1988年ねん1月がつ。 NCID BA84495646。オリジナルの2022年ねん6月がつ11日にち時点じてんにおけるアーカイブ。https://archive.is/jkC9T。2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 「テレビ熊本てれびくまもとドキュメンタリードラマ 郷土きょうどの偉人いじんシリーズ 第だい28作さく「宇良うら田た唯ただ 〜医者いしゃとしての使命しめいに燃もえて〜」放送ほうそう!!」（PDF）『市政しせいだより天草てんぐさ』第だい309号ごう、熊本くまもと県けん天草あまくさ市し総務そうむ部ぶ、2021年ねん1月がつ1日にち、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:01041974、2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 『事典じてん日本にっぽんの科学かがく者しゃ 科学かがく技術ぎじゅつを築きずいた5000人にん』板倉いたくら聖きよし宣せん監修かんしゅう、日外にちがいアソシエーツ、2014年ねん6月がつ25日にち。ISBN 978-4-8169-2485-9。 
• 『20世紀せいき日本人にっぽんじん名めい事典じてん』 上じょう、日外にちがいアソシエーツ、2004年ねん7月がつ26日にち。ISBN 978-4-8169-1853-7。https://kotobank.jp/word/宇良うら田た%20唯ただ子こ-1639934。2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
• 『日本人にっぽんじん名めい大だい辞典じてん』上田うえだ正ただし昭あきら他た監修かんしゅう、講談社こうだんしゃ、2001年ねん12月6日にち。ISBN 978-4-06-210800-3。https://kotobank.jp/word/宇良うら田た唯ただ子こ-1058412。2021年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 

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