居住きょじゅう移転いてん自由じゆう

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居住きょじゅう移転いてん自由じゆう(きょじゅういてんのじゆう)とは、自己じこほっするところ住所じゅうしょまたは居所きょしょさだめ、移転いてんし、自己じこ意思いしはんして居住きょじゅううつされることのない自由じゆう[1]移動いどう自由じゆうとも。

概説がいせつ[編集へんしゅう]

封建ほうけん時代じだいの「領民りょうみん思想しそうは、生産せいさんしゃたる人民じんみん領内りょうない確保かくほすることを目的もくてきに、人民じんみん職業しょくぎょう住居じゅうきょ身分みぶんせいてき固定こていするものであった[2]居住きょじゅう移転いてん自由じゆう職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆうはこのような身分みぶんせいてき拘束こうそくから解放かいほうするものであり[2]歴史れきしてきにはひと自由じゆう移動いどう確保かくほによって自由じゆう労働ろうどうしゃ形成けいせいはかられることが近代きんだい資本しほん主義しゅぎ社会しゃかい前提ぜんてい条件じょうけんとなった[3]。しかし、市民しみん革命かくめい憲法けんぽうにおいて居住きょじゅう移転いてん自由じゆう明文めいぶん規定きていしたれいはごくわずかであった[4]

1919ねんヴァイマル憲法けんぽう111じょうは「すべてのドイツじんは、ちょんライヒうちにおいて移住いじゅう自由じゆうゆうする。各人かくじんは、ライヒの任意にんい場所ばしょ滞在たいざいし、かつ、定住ていじゅうし、土地とち取得しゅとくし、および各種かくしゅ生産せいさん部門ぶもん従事じゅうじする権利けんりゆうする。制限せいげんはライヒの法律ほうりつによることをようする。」と職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆう同一どういつ条文じょうぶん規定きていしていた[4]

1949ねんドイツ連邦れんぽう共和きょうわこく基本きほんほうだい11じょう移転いてん自由じゆう規定きていした[4]

現代げんだいでは居住きょじゅう移転いてん自由じゆう外国がいこく移住いじゅう自由じゆう経済けいざい活動かつどう自由じゆうとしてよりもむしろ精神せいしんてき自由じゆうとしての意味合いみあいがつよくなっている[5]

世界せかい人権じんけん宣言せんげんだい13じょう移住いじゅう自由じゆう保障ほしょうし、さらに市民しみんてきおよ政治せいじてき権利けんりかんする国際こくさい規約きやく(国際こくさい人権じんけん規約きやくB規約きやく)のだい12じょう居住きょじゅう自由じゆうおよ移動いどう自由じゆう規定きていしている[6]。なお、日本にっぽんは1979ねん国際こくさい人権じんけん規約きやくB規約きやく批准ひじゅんしている[よう出典しゅってん]

法的ほうてき性格せいかく[編集へんしゅう]

居住きょじゅう移転いてん自由じゆうについては、経済けいざいてき自由じゆうけん分類ぶんるいされることが普通ふつうであるが、身体しんたいてき自由じゆうけんあるいは精神せいしんてき自由じゆうけん分類ぶんるいする学説がくせつもある[3]今日きょうでは居住きょじゅう移転いてん自由じゆう多面ためんてきふくあいてき性格せいかくゆうする権利けんりとして理解りかいする学説がくせつ有力ゆうりょくとなっている[7]

  • 経済けいざいてき自由じゆうけんとしての性格せいかく
    ひと自由じゆう居住きょじゅう移転いてんつうじ、自己じこ経済けいざい生活せいかつ維持いじ発展はってんさせる。たとえば、ひと就労しゅうろう場所ばしょ自由じゆうえらぶためには、居住きょじゅう移転いてん自由じゆう確保かくほされている必要ひつようがある。
  • 身体しんたいてき自由じゆうけんとしての性格せいかく
    自己じこ移動いどうしたいどころ移動いどうできるというてん身体しんたい自由じゆうとしての側面そくめんゆうする。身体しんたい自由じゆうは、たん拘束こうそくされないという消極しょうきょくてき自由じゆうまらず、自分じぶんきなところ居住きょじゅう移転いてんする積極せっきょくてき自由じゆうをもふくむ。
  • 精神せいしんてき自由じゆうけんとしての性格せいかく
    ひと自分じぶんこのむところに移動いどうすることは、表現ひょうげん自由じゆう集会しゅうかい自由じゆう密接みっせつ関係かんけいにある。また移動いどう自由じゆうは、人間にんげん活動かつどう範囲はんいひろげ、あたらしい人的じんてき接触せっしょく機会きかいあたえることにより、人格じんかく形成けいせい成長せいちょう不可欠ふかけつ条件じょうけんとなる。

居住きょじゅう移転いてん自由じゆう多面ためんてきふくあいてき権利けんりであることから、その限界げんかいも、それぞれの場合ばあいおうじて具体ぐたいてき検討けんとうする必要ひつようがある。精神せいしんてき自由じゆう側面そくめんかかわる場合ばあいには、経済けいざいてき自由じゆう側面そくめんかかわる場合ばあいくらべ、より厳格げんかく審査しんさ基準きじゅん採用さいようするべきである。

共通きょうつう制約せいやく[編集へんしゅう]

移民いみんもしくは移住いじゅうの)市民しみんにおける国際こくさいてき旅行りょこうかんする制約せいやくはありふれている[8]各国かっこくないでは、未成年みせいねんたいする旅行りょこう自由じゆうはしばしばよりおおきく制限せいげんされる。そして刑法けいほうは(たとえば仮釈放かりしゃくほう保護ほご観察かんさつ登録とうろくのようにそれが)人々ひとびと犯罪はんざい有罪ゆうざい宣告せんこくしたりまたはわせるのに適用てきようできるよう、この権利けんり修正しゅうせいしうる[9]

制約せいやくつぎのことをふく場合ばあいがある。

  • 労働ろうどうしゃ自由じゆう移動いどうもしくは移住いじゅうの)労働ろうどう市場いちばくちでの、くに地域ちいき公式こうしき最低限さいていげん賃金ちんぎん関税かんぜい障壁しょうへき
  • 必要ひつようおうじて導入どうにゅうされそして所持しょじされなくてはならない、公式こうしき身分みぶん証明しょうめいしょ国内こくない移動いどう許可きょかしょう市民しみんしょう)。
  • くに正当せいとうせいにもとづき、住所じゅうしょもしくはその配偶はいぐうしゃ変更へんこう登録とうろくするような、市民しみんにおける義務ぎむ
  • 住宅じゅうたく建設けんせつ、そしてしたがって特定とくてい区域くいき定住ていじゅうするような、保護ほご貿易ぼうえきろんしゃ局所きょくしょてきあるいは地域ちいきてき障壁しょうへき
  • 個人こじん所有しょゆう侵入しんにゅうすること。

私有地しゆうちあいだでの移動いどう自由じゆう[編集へんしゅう]

いくらかの裁判さいばんけんにおいて、ある土地とち私的してき所有しょゆうしゃ特定とくてい人物じんぶつらを、ショッピング・モール公園こうえんのような、おおやけ目的もくてき使つかわれる土地とちから排除はいじょできるものについての、そのひろがりにたいする疑問ぎもんしょうじた。

国内こくないでの制限せいげん[編集へんしゅう]

投獄とうごく状況じょうきょうにおいてもっと顕著けんちょに、政府せいふ犯罪はんざい有罪ゆうざい宣告せんこくされた人物じんぶつの、居住きょじゅう移転いてん自由じゆう一般いっぱんてきするど規制きせいするかもしれない。

特定とくていくににおける入国にゅうこく制限せいげん[編集へんしゅう]

査証さしょう規制きせい指数しすうえい: Visa Restrictions Index)は、そのくにいくつかのくににたいして査証さしょうなしに入国にゅうこくみとめる人数にんずうによって国々くにぐに順位じゅんいづけする。世界せかいおおくの国々くにぐには、それらの領土りょうどにはいるその市民しみんではないものにたいして、査証さしょうもしくは入国にゅうこく許可きょかのいくらかのそのほかの書類しょるい要求ようきゅうする。

特定とくていくににおける出国しゅっこく制限せいげん[編集へんしゅう]

おおくの国々くにぐには、有効ゆうこう旅券りょけん国際こくさいてき組織そしき発行はっこうした旅行りょこう書類しょるいまたは、いくらかの場合ばあい身分みぶん証明しょうめいしょをもって、それらの市民しみん出国しゅっこくすることを要求ようきゅうする。発行はっこう条件じょうけんと、旅券りょけん発行はっこうあたえることを政府せいふ当局とうきょく拒絶きょぜつすることは、国々くにぐにによってことなる。

日本にっぽん[編集へんしゅう]

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう明治めいじ憲法けんぽう[編集へんしゅう]

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう明治めいじ憲法けんぽう)は居住きょじゅう移転いてん自由じゆうについて「法律ほうりつ範囲はんいないニ於テ」みとめていた。

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽうだい22じょう
日本にっぽん臣民しんみん法律ほうりつ範囲はんいないニ於テ居住きょじゅう移転いてん自由じゆうゆう

明治めいじ憲法けんぽう権利けんり保障ほしょう原則げんそくとして「法律ほうりつ範囲はんいないニ於テ」または「法律ほうりつていメタル場合ばあいじょがいみとめるというものであった(法律ほうりつ留保りゅうほ[10]

美濃部みのべ達吉たつきちはこの条文じょうぶんには国境こっきょうがい移住いじゅうする自由じゆうふくむとかいしていた[11]

また、伊藤いとう博文ひろぶみの「憲法けんぽうかい」は「定住ていじゅうじゅう寄留きりゅうシ及営業えいぎょうスルノ自由じゆう」ととらえて営業えいぎょう自由じゆう居住きょじゅう移転いてん自由じゆうふくむものととらえていた[1][12]。しかし、当時とうじ学説がくせつにおける通説つうせつ営業えいぎょう自由じゆう憲法けんぽうじょう保障ほしょうされていないと解釈かいしゃくされていた[12]

日本国にっぽんこく憲法けんぽう[編集へんしゅう]

日本国にっぽんこく憲法けんぽう居住きょじゅう移転いてん自由じゆうについて22じょう1こう規定きていいている。

日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こう
何人なんにんも、公共こうきょう福祉ふくしはんしないかぎり、居住きょじゅう移転いてんおよ職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆうゆうする。

移動いどう自由じゆう[編集へんしゅう]

日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こう保障ほしょうする居住きょじゅう移転いてん自由じゆうについては、国内こくないにおいて住所じゅうしょまた居所きょしょさだめそれを移転いてんする自由じゆう限定げんていされるのか、旅行りょこう自由じゆうのように人間にんげん移動いどう自由じゆうふくむかで学説がくせつかれる[13]

公共こうきょう福祉ふくし」の解釈かいしゃく[編集へんしゅう]

日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こうの「公共こうきょう福祉ふくし」と、居住きょじゅう移転いてん自由じゆう関係かんけいについて学説がくせつかれており、

  1. 居住きょじゅう移転いてん自由じゆう経済けいざいてき自由じゆうけんであるとして職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆう同様どうように、日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こうの「公共こうきょう福祉ふくし」による政策せいさくてき制約せいやくけるとするせつ
  2. 居住きょじゅう移転いてん自由じゆうは、経済けいざいてき自由じゆうけん一種いっしゅとみるべきではないとして、日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こうの「公共こうきょう福祉ふくし」による制約せいやくは、職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆうのみにかかるもので、居住きょじゅう移転いてん自由じゆう日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい13じょうの「公共こうきょう福祉ふくし」による内在ないざいてき制約せいやくのみをけ、政策せいさくてき制約せいやくゆるされないとするせつ
  3. 日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょう文言もんごんから、居住きょじゅう移転いてん自由じゆう職業しょくぎょう選択せんたく自由じゆう同様どうように、だい22じょうの「公共こうきょう福祉ふくし」による制約せいやくけるが、居住きょじゅう移転いてん自由じゆうについて、それが民主みんしゅせい本質ほんしつてき自由じゆうなど経済けいざいてき自由じゆう側面そくめんかかわらないものであるときは、精神せいしんてき自由じゆう近似きんじした基準きじゅん適用てきようすべきであるとするせつ

がある[14]

居住きょじゅう移転いてん自由じゆう制約せいやく[編集へんしゅう]

居住きょじゅう移転いてん自由じゆう一定いってい制約せいやくける。

海外かいがい渡航とこう自由じゆう問題もんだい[編集へんしゅう]

外国がいこく移住いじゅう自由じゆうについては居住きょじゅう移転いてん自由じゆう(1こう)とはべつ日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょう2こう規定きていされている。一時いちじてき海外かいがい渡航とこう自由じゆうについて、日本国にっぽんこく憲法けんぽうだい22じょうだい1こうだい2こうのどちらで保障ほしょうされているか見解けんかい対立たいりつしている。

周辺しゅうへん資料しりょう[編集へんしゅう]

  • 伊藤いとうただしおのれ憲法けんぽう』[だい3はん弘文こうぶんどう法律ほうりつがく講座こうざ双書そうしょ〉、1995ねんNCID BN13665850著者ちょしゃもと最高裁さいこうさい判事はんじ基本きほんてき人権じんけん統治とうち機構きこう問題もんだい解説かいせつした体系たいけいしょ。1995ねん当時とうじ時宜じぎ反映はんえいする問題もんだい最高裁さいこうさい重要じゅうよう憲法けんぽう判断はんだんなどの論点ろんてん判例はんれいむ。
  • 佐藤さとう幸治こうじ憲法けんぽう』[だい3はんあおりん書院しょいん現代げんだい法律ほうりつがく講座こうざ5〉、1995ねんNCID BN12509576憲法けんぽう学習がくしゅう基本きほんしょだい2はん改訂かいてい箇所かしょだい4へん 基本きほんてき人権じんけん保障ほしょう』ほかをまえ、その学説がくせつ判例はんれい動向どうこうった。別注べっちゅう本文ほんぶんから割注わりちゅう重要じゅうよう判例はんれい論点ろんてん)を抽出ちゅうしゅつ
  • Bauböck, Rainer ; Perchinig, Bernhard ; Sievers, Wiebke. (2009) Citizenship policies in the New Europe. 改訂かいてい補完ほかんばんアムステルダム大学だいがく出版しゅっぱんきょくIMISCOE調査ちょうさ報告ほうこくしょ〉、NCID BB00163877

引用いんよう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

おも編著へんちょしゃじゅん

  • 芦部あしべ信喜しき憲法けんぽうがくIII人権じんけん各論かくろん(1)増補ぞうほばん有斐閣ゆうひかく、2000ねん、560ぺーじ 
  • 阿部あべあきらへん憲法けんぽう 2 基本きほんてき人権じんけん(2)』有斐閣ゆうひかく有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、1975ねん、122、139ぺーじ 
  • 小嶋こじま和司かずし立石たていししん憲法けんぽう概観がいかん』 9かんだい7はん)、有斐閣ゆうひかく有斐閣ゆうひかく双書そうしょ〉、2011ねん、113ぺーじ ISBN 978-4-641-11278-0
  • 樋口ひぐち陽一よういち佐藤さとう幸治こうじ中村なかむら睦男むつお浦部うらべほう憲法けんぽうII』 2かんあおりん書院しょいん注解ちゅうかい法律ほうりつがく全集ぜんしゅう〉、1997ねん、89ぺーじ ISBN 4-417-01040-4
洋書ようしょ

出典しゅってん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]