自由じゆう権けん

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自由じゆう権けん（じゆうけん）は、基本きほん的てき人権じんけんの一ひとつであり、原則げんそくとして国家こっかから制約せいやくも強制きょうせいもされず、自由じゆうに物事ものごとを考かんがえ、行動こうどうできる権利けんりである。

概説がいせつ

自由じゆうとは、自己じこのあり方かたを、自己じこの責任せきにんにおいて決けっしうることをいう。自己じこ決定けっていに委ゆだねられるものには、何なにをなすかについてだけでなく、ある行為こういをなすか否ひかについての決定けっていまで含ふくまれる。

ただし、その積極せっきょく的てき効果こうかについては、社会しゃかい規範きはんとしての法ほうが保障ほしょうする自由じゆうは、無む制約せいやくな決定けっていの可能かのう性せいを認みとめるものではない。例たとえば初期しょきのフランス憲法けんぽうは「自由じゆう」の定義ていぎとともにその限界げんかいを示しめしていた。

1791年ねん憲法けんぽうの冒頭ぼうとうに置おかれた1789年ねん人権じんけん宣言せんげん第だい4条じょう

自由じゆうとは、他たを害がいしない一切いっさいのことをなしうる能力のうりょくをいう。各人かくじんの自然しぜん権けんの行使こうしは、社会しゃかいの他ほかの成員せいいんのおなじ権利けんりの享有きょうゆうを確保かくほすること以外いがいに限界げんかいをもたない。この限界げんかいは法律ほうりつによってのみ定さだめられる。

憲法けんぽうによる自由じゆうの保障ほしょうは、何なんの自由じゆうであるかにより効果こうかを異ことにするものであり、許容きょようされる制約せいやくの範囲はんいや程度ていども一様いちようでない。ただ、自由じゆう主義しゅぎ諸国しょこくでは概括がいかつ的てきに経済けいざい的てき自由じゆうに比くらべて精神せいしん的てき自由じゆうについての憲法けんぽう的てき保障ほしょうの本質ほんしつ内容ないようは広ひろいという特徴とくちょうがあるとされる。そこで違憲いけん審査しんさ基準きじゅんとしては二に重じゅうの基準きじゅん論ろんが主張しゅちょうされる。二に重じゅうの基準きじゅん論ろんとは、経済けいざい的てき自由じゆうと精神せいしん的てき自由じゆうを区別くべつし、前者ぜんしゃの規制きせい立法りっぽうに関かんしては広ひろく合憲ごうけん性せいの推定すいていを認みとめ「合理ごうり性せいの基準きじゅん」によって合憲ごうけん性せいを判定はんていするが、後者こうしゃの規制きせい立法りっぽうに関かんしては合憲ごうけん性せいの推定すいていは排除はいじょされ「合理ごうり性せいの基準きじゅん」よりも厳格げんかくな基準きじゅんによらなければならないとする法理ほうりをいう。二に重じゅうの基準きじゅん論ろんの根拠こんきょとしては、例たとえば、表現ひょうげんの自由じゆうについては経済けいざい的てき自由じゆうについて認みとめられる政策せいさく的てきな制限せいげんが認みとめられないことや、表現ひょうげんの自由じゆうの濫用らんようによる弊害へいがいは経済けいざい的てき自由じゆうの濫用らんようによる弊害へいがいほど客観きゃっかん的てきに明白めいはくでない場合ばあいが多おおく、表現ひょうげんの自由じゆうの制限せいげんが必要ひつようやむを得えないか否ひかは一層いっそう厳密げんみつに判断はんだんする必要ひつようがあることが挙あげられている。さらに、かりに経済けいざい的てき自由じゆうが不当ふとうに制限せいげんされているとしても自由じゆうな討論とうろんという民主みんしゅ主義しゅぎ的てきな政治せいじプロセスを経へて是正ぜせいできるが、表現ひょうげんの自由じゆうが不当ふとうに制限せいげんされている場合ばあいには自由じゆうな討論とうろんそのものが制限せいげんされているため民主みんしゅ主義しゅぎ政治せいじ過程かていが十分じゅうぶんに機能きのうせずそれを是正ぜせいすることができないという問題もんだいを生しょうじることも挙あげられている。

「二に重じゅうの基準きじゅん論ろん」も参照さんしょう

人権じんけんは個人こじんに保障ほしょうされるもので、個人こじん権けんとも言いわれるが、個人こじんは社会しゃかいとの関係かんけいを無視むしして生存せいぞんすることはできないので、人権じんけんもとくに他人たにんの人権じんけんとの関係かんけいで制約せいやくされることがある。日本国にっぽんこく憲法けんぽうは、各かく人権じんけんに個別こべつ的てきに制限せいげんの根拠こんきょや程度ていどを規定きていしないで、「公共こうきょうの福祉ふくし」による制約せいやくが存そんする旨むねを一般いっぱん的てきに定さだめる方式ほうしきをとっている。

分類ぶんるい

伝統でんとう的てき分類ぶんるい

ゲオルグ・イェリネックの公権こうけん論ろんからは国家こっかに対たいする国民こくみんの地位ちいによって「積極せっきょく的てき地位ちい」（受益じゅえき権けん）や「消極しょうきょく的てき地位ちい」（自由じゆう権けん）といった分類ぶんるいが行おこなわれた。宮沢みやざわ俊しゅん義よしは「消極しょうきょく的てきな受益じゅえき関係かんけい」での国民こくみんの地位ちいを「自由じゆう権けん」、「積極せっきょく的てきな受益じゅえき関係かんけい」での国民こくみんの地位ちいを「社会しゃかい権けん」とし、請願せいがん権けんや裁判さいばんを受うける権利けんりなどは「能動のうどう的てき関係かんけいにおける権利けんり」に分類ぶんるいした。

「自由じゆう権けん」ないし「消極しょうきょく的てき権利けんり」と「社会しゃかい権けん」ないし「積極せっきょく的てき権利けんり」との対比たいひを行おこなう場合ばあい、国家こっかによる介入かいにゅうを拒否きょひすることを本質ほんしつとする権利けんりは「自由じゆう権けん」ないし「消極しょうきょく的てき権利けんり」、国家こっかに依拠いきょしてその実現じつげんが図はかられる権利けんりは「社会しゃかい権けん」ないし「積極せっきょく的てき権利けんり」と区別くべつされる。

自由じゆう権けんは、精神せいしん的てき自由じゆう権けん、経済けいざい的てき自由じゆう権けん、身体しんたい的てき自由じゆう権けん（人身じんしんの自由じゆう）などに分類ぶんるいされる。

• 精神せいしん的てき自由じゆう権けん
  • 思想しそう・良心りょうしんの自由じゆう
  • 信教しんきょうの自由じゆう
  • 学問がくもんの自由じゆう
  • 表現ひょうげんの自由じゆう
  • 集会しゅうかいの自由じゆう
  • 結社けっしゃの自由じゆう
• 経済けいざい的てき自由じゆう権けん
  • 職業しょくぎょう選択せんたくの自由じゆう
  • 居住きょじゅう移転いてんの自由じゆう
  • 海外かいがい渡航とこうの自由じゆう
  • 財産ざいさん権けんの保障ほしょう
• 身体しんたい的てき自由じゆう権けん（人身じんしんの自由じゆう）
  • 法定ほうてい手続てつづきの保障ほしょう（デュー・プロセス・オブ・ロー）
  • 刑罰けいばつの内容ないようの保障ほしょう
  • 刑事けいじ裁判さいばん手続てつづき上じょうの保障ほしょう

ただし、以上いじょうの権利けんりにも多面ためん的てきな性格せいかくが指摘してきされていることがある。例たとえば、居住きょじゅう移転いてんの自由じゆうについては、経済けいざい的てき自由じゆう権けんに分類ぶんるいされることが普通ふつうであるが、身体しんたい的てき自由じゆう権けんあるいは精神せいしん的てき自由じゆう権けんに分類ぶんるいする学説がくせつもある。今日きょうでは居住きょじゅう移転いてんの自由じゆうは多面ためん的てき・複ふく合あい的てきな性格せいかくを有ゆうする権利けんりとして理解りかいする学説がくせつが有力ゆうりょくとなっている。

自由じゆう権けんと社会しゃかい権けんの相対そうたい性せい

我妻あづま栄さかえは『新しん憲法けんぽうと基本きほん的てき人権じんけん』（1948年ねん）などで、基本きほん的てき人権じんけんを「自由じゆう権けん的てき基本きほん権けん」と「生存せいぞん権けん的てき基本きほん権けん」に大別たいべつし、人権じんけんの内容ないようについて前者ぜんしゃは「自由じゆう」という色調しきちょうを持もつのに対たいして後者こうしゃは「生存せいぞん」という色調しきちょうをもつものであること、また保障ほしょうの方法ほうほうも前者ぜんしゃは「国家こっか権力けんりょくの消極しょうきょく的てきな規整きせい・制限せいげん」であるのに対たいして後者こうしゃは「国家こっか権力けんりょくの積極せっきょく的てきな関与かんよ・配慮はいりょ」にあるとして特徴とくちょうづけ通説つうせつ的てき見解けんかいの基礎きそとなった。

しかし、社会しゃかい権けんと自由じゆう権けんは截然せつぜんと二分にぶんされる異質いしつな権利けんりなのかといった問題もんだいや社会しゃかい権けんにおいて国家こっかの積極せっきょく的てきな関与かんよが当然とうぜんの前提ぜんていとなるのかといった問題もんだいも指摘してきされている。教育きょういくを受うける権利けんりと教育きょういくの自由じゆうや労働ろうどう基本きほん権けんと団結だんけつの自由じゆうなど自由じゆう権けん的てき側面そくめんの問題もんだいが認識にんしきされるようになり、時代じだいの要請ようせいから強つよく主張しゅちょうされる新あたらしい人権じんけん（学習がくしゅう権けん、環境かんきょう権けん等とう）も自由じゆう権けんと社会しゃかい権けんの双方そうほうにまたがった特色とくしょくを持もっていることが背景はいけいにある。

「自由じゆう権けん」と「社会しゃかい権けん」あるいは「消極しょうきょく的てき権利けんり」と「積極せっきょく的てき権利けんり」という区別くべつは相対そうたい的てきなものであると解ほぐされている。例たとえば、自由じゆう権けんの象徴しょうちょうとされるプライバシー権けんを自己じこの情報じょうほうをコントロールする権利けんりとして理解りかいすると、他者たしゃが保有ほゆうする個人こじん情報じょうほうシステムへのアクセス権けんのようなものとして捉とらえざるをえない。

現代げんだいでは「積極せっきょく的てき権利けんり」や「福祉ふくし的てき権利けんり」の比重ひじゅうが著いちじるしく増大ぞうだいし、国際こくさい人権じんけん規約きやくでもまず社会しゃかい権けん的てきなA規約きやくがあり、然しかる後のちに自由じゆう権けん的てきなB規約きやくがあるなど、具体ぐたい的てき人間にんげんに即そくして人権じんけんの問題もんだいを考かんがえようとする傾向けいこうがみられ、「自由じゆう権けん」と「社会しゃかい権けん」あるいは「消極しょうきょく的てき権利けんり」と「積極せっきょく的てき権利けんり」という区別くべつはあまり意識いしきされなくなっている。市民しみん的てき及および政治せいじ的てき権利けんりに関かんする国際こくさい規約きやく（自由じゆう権けん規約きやく）では法ほうの下したの平等びょうどうや生存せいぞん権けんなども保障ほしょうされている（学術がくじゅつ上じょうの分類ぶんるいとしては、法ほうの下したの平等びょうどうは他たの個別こべつ的てき諸しょ権利けんりの保障ほしょうの基礎きそ的てき条件じょうけんをなす権利けんりであり「包括ほうかつ的てき権利けんり」などとして位置いちづけられる。また、生存せいぞん権けんは「積極せっきょく的てき権利けんり」あるいは「社会しゃかい権けん」などとして分類ぶんるいされる）。

他方たほう、国民こくみん生活せいかつへの国家こっかの介入かいにゅう度どや浸透しんとう度どが増ましつつある中なかで、「自由じゆう権けん」と「社会しゃかい権けん」あるいは「消極しょうきょく的てき権利けんり」と「積極せっきょく的てき権利けんり」という区別くべつがかえって重要じゅうようになってきているとし、その上うえで両者りょうしゃのバランスや各種かくしゅの人権じんけん保障ほしょうのあり方かたを配慮はいりょすべきという指摘してきもある。

社会しゃかい権けんと自由じゆう権けんの区別くべつそのものを放棄ほうきする学説がくせつもあるが、社会しゃかい権けんと自由じゆう権けんの区別くべつの有用ゆうよう性せいを認みとめた上うえで両者りょうしゃの区別くべつは相対そうたい的てきであり相互そうご関連かんれん性せいを有ゆうするとする学説がくせつが一般いっぱん的てきとなっている。

日本国にっぽんこく憲法けんぽうで明記めいきされている自由じゆう権けん

• 思想しそう及および良心りょうしんの自由じゆう（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい19条じょう）
• 信教しんきょうの自由じゆう（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい20条じょう）
• 集会しゅうかい、結社けっしゃ及および言論げんろん、出版しゅっぱんその他た一切いっさいの表現ひょうげんの自由じゆう（集会しゅうかいの自由じゆう、結社けっしゃの自由じゆう、言論げんろんの自由じゆう、出版しゅっぱんの自由じゆう、表現ひょうげんの自由じゆう、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい21条じょう）
• 居住きょじゅう、移転いてん及および職業しょくぎょう選択せんたくの自由じゆう（居住きょじゅう移転いてんの自由じゆう、職業しょくぎょう選択せんたくの自由じゆう、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい22条じょう）
• 外国がいこくに移住いじゅうし、又または国籍こくせきを離脱りだつする自由じゆう（海外かいがい渡航とこうの自由じゆう、国籍こくせき離脱りだつの自由じゆう、同上どうじょう）
• 学問がくもんの自由じゆう（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい23条じょう）

関連かんれん項目こうもく

• 社会しゃかい権けん
• 日本国にっぽんこく憲法けんぽう
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい18条じょう（奴隷どれい的てき拘束こうそくや苦役くえきからの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい19条じょう（思想しそう・良心りょうしんの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい20条じょう（信教しんきょうの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい21条じょう（表現ひょうげんの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい22条じょう（居住きょじゅう移転いてんの自由じゆう、職業しょくぎょう選択せんたくの自由じゆう、外国がいこく移住いじゅう・国籍こくせき離脱りだつの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい23条じょう（学問がくもんの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい31条じょう（法定ほうてい手続てつづきの保障ほしょう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい33条じょう（逮捕たいほに対たいする保障ほしょう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい34条じょう（不当ふとうな抑留よくりゅう・拘禁こうきんからの自由じゆう）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい35条じょう（住居じゅうきょの不可侵ふかしん）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい36条じょう（拷問ごうもんと残虐ざんぎゃくな刑罰けいばつの禁止きんし）
  • 日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい37条じょう（公平こうへいな裁判所さいばんしょの迅速じんそくな公開こうかい裁判さいばんを受うける権利けんり、証人しょうにん審問しんもん権けん、弁護人べんごにん依頼いらい権けん）
• 市民しみん的てき及および政治せいじ的てき権利けんりに関かんする国際こくさい規約きやく
• 国際こくさい人権じんけん規約きやく
• 国際こくさい人権じんけん法ほう
• 愚行ぐこう権けん

外部がいぶリンク

• 『自由じゆう権けん』 - コトバンク