工兵こうへい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
工兵こうへいたいから転送てんそう
工兵こうへいあらわNATO兵科へいか記号きごう

工兵こうへい(こうへい、えい: military engineer, combat engineer, pioneer)は、陸軍りくぐんにおける戦闘せんとう支援しえん兵科へいか一種いっしゅであり、歩兵ほへい砲兵ほうへい騎兵きへいならよん大兵だいひょうひとつである。陸上りくじょう自衛隊じえいたいにおいては施設しせつばれる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

戦闘せんとうにおいては実際じっさいたたか歩兵ほへい戦車せんしゃ砲兵ほうへい部隊ぶたいだけでなく、土木どぼく建築けんちくなどの技術ぎじゅつとくした部隊ぶたいもとめられる。てき防禦ぼうぎょ陣地じんち自然しぜん障礙しょうがい破壊はかい野戦やせん築城ちくじょう道路どうろ建設けんせつ爆破ばくは工作こうさく塹壕ざんごうり、地雷原じらいげん敷設ふせつなどの能力のうりょくつ。通常つうじょうかく師団しだんは、400にんから1,000にん程度ていど編成へんせいされる工兵こうへい大隊だいたいまたは工兵こうへい連隊れんたいなどの工兵こうへい部隊ぶたい保有ほゆうしている。旅団りょだん連隊れんたい各自かくじ工兵こうへい中隊ちゅうたいっていることもある。師団しだんぞくする工兵こうへい部隊ぶたいのようにてき攻撃こうげきさらされながら爆破ばくは建設けんせつなどの作業さぎょうおこなうものを戦闘せんとう工兵こうへい後方こうほうにおける架橋かきょう兵站へいたん整備せいびなどを任務にんむとするものは建設けんせつ工兵こうへいぶ。

なお、日本にっぽん陸軍りくぐんにおいては陸軍りくぐん特殊とくしゅせん(揚陸ようりくかん)や潜水せんすいていなどの船舶せんぱく運用うんよう工兵こうへいの担務とされ、船舶せんぱく工兵こうへいばれた。また、世界せかいてきても、陸軍りくぐんにおいて船舶せんぱく艦艇かんていあつか兵種へいしゅ工兵こうへいであることおおい。

歴史れきし[編集へんしゅう]

古来こらい工兵こうへい任務にんむ普通ふつう兵士へいし工具こうぐるいってっていたが、やがて大工だいくなどの職人しょくにんやとうようになり、作業さぎょう専門せんもんしていき、16世紀せいきころには独立どくりつ兵科へいかとなる。また機械きかい運用うんようけているため、戦車せんしゃ飛行機ひこうきなどは元々もともと工兵こうへいぞくしていたことがおおく、しん兵器へいき実験じっけん重要じゅうよう任務にんむだった。なお、現在げんざいは、しん兵器へいきかんしてはせんもん研究けんきゅう機関きかん設置せっちされている場合ばあいおおい。

日本にっぽんにおいては、戦国せんごく時代じだいにはくろくわばれる組織そしきまれ、また江戸えど幕府ばくふ洋式ようしき陸軍りくぐんにも築造ちくぞうへいばれる小規模しょうきぼ工兵こうへい存在そんざいしたが、近代きんだい工兵こうへい制度せいど確立かくりつされたといえるのは明治めいじ時代じだい上原うえはら勇作ゆうさくによってである。上原うえはらは、おもにフランス陸軍りくぐん工兵こうへいじゅつ導入どうにゅうつとめ、とく1901ねん明治めいじ34ねん)の工兵こうへいかん就任しゅうにん急速きゅうそく改革かいかくおこない、にち戦争せんそうでの日本にっぽん勝利しょうり貢献こうけんした。

イスラム世界せかいではその草創そうそう627ねんハンダク(塹壕ざんごう)のたたかにおいてムハンマドきょうともサルマーン・アル=ファーリスィーメディナ防衛ぼうえいのために塹壕ざんごうることを発案はつあん金属きんぞくせいシャベル発明はつめいしてこれを築造ちくぞうメッカぐん騎兵きへい撃退げきたいしたことからサルマーンを最初さいしょ工兵こうへいなしている。

任務にんむ[編集へんしゅう]

任務にんむ戦闘せんとうまえ陣地じんち建設けんせつから、戦闘せんとうちゅうにおける歩兵ほへい支援しえんなど多岐たきわたり、「なんでもてき性質せいしつつよ存在そんざいであり、近代きんだい軍隊ぐんたいにとって重要じゅうよう兵科へいかである。攻撃こうげきさいにはてき地雷原じらいげん鉄条てつじょうもう破壊はかいのために最初さいしょ行動こうどう開始かいしするため、ドイツ工兵こうへい意味いみするピオニーア "Pionier" には「先鋒せんぽう (pioneer→パイオニア。英語えいごおな表記ひょうき意味いみで、日本にっぽんでは『先駆せんくしゃ』などという意味いみ使つかわれる) 」と意味いみもある。

工兵こうへいおも任務にんむは、敵前てきぜんでの工作こうさく任務にんむとする戦闘せんとう工兵こうへい陸上りくじょう自衛隊じえいたいでは「戦闘せんとう支援しえん」)と、作戦さくせん全般ぜんぱん寄与きよするよりだい規模きぼ建設けんせつ工兵こうへい陸上りくじょう自衛隊じえいたいでは「兵站へいたん支援しえん」)の2つに大別たいべつされる。作業さぎょうさいは、支援しえん車輛しゃりょうとして戦闘せんとう工兵こうへいしゃなどを利用りようすることがある。

戦闘せんとう工兵こうへい任務にんむ[編集へんしゅう]

陣地じんち構築こうちく
地形ちけい利用りようしたり、人工じんこうてきくわえててきだんから味方みかた部隊ぶたい防護ぼうごするための掩蔽えんぺいぶつ構築こうちくする。
各種かくしゅ障礙しょうがいぶつ作成さくせい任務にんむ
たおしたり、こばめ鉄条てつじょうもう対戦たいせんしゃごう地雷原じらいげんバリケードなどを設置せっちして、てき通行つうこうさまたげる。
地雷じらい地雷原じらいげん処理しょり
地雷じらい携帯けいたいしき地雷じらい探知たんち手作業てさぎょうさがして位置いち特定とくてい最終さいしゅうてきには爆薬ばくやく処理しょりするほか、地雷じらい処理しょり専用せんよう車輛しゃりょう地雷じらい処理しょり戦車せんしゃ使つかうこともある。
爆薬ばくやく爆発ばくはつぶつ使用しよう
破壊はかいとう爆薬ばくやく敵陣てきじん鉄条てつじょうもうやトーチカを破壊はかいする。また鉄道てつどう橋梁きょうりょうなどの施設しせつ破壊はかいおこなう。大戦たいせん末期まっき日本にっぽんぐんられた、梱包こんぽう爆薬ばくやく背負せおっての敵陣てきじんてき戦車せんしゃへの自爆じばく攻撃こうげきも、爆薬ばくやくあつかえる工兵こうへい任務にんむだった。
上陸じょうりくせん支援しえん
上陸じょうりく作戦さくせんまえ水中すいちゅう障礙しょうがいぶつ除去じょきょしたり、上陸じょうりくよう舟艇しゅうてい運用うんようおこなう。

建設けんせつ工兵こうへい任務にんむ[編集へんしゅう]

はし道路どうろ建設けんせつ
平時へいじはし道路どうろ整備せいびしておく一方いっぽう戦場せんじょうでは架橋かきょう戦車せんしゃ臨時りんじはしつくったり、てき退却たいきゃく爆破ばくはしたはし修理しゅうりなどもおこなう。整地せいちでは、爆薬ばくやくみちひらくこともある。
鉄道てつどう建設けんせつ
戦地せんちにおける鉄道てつどう建設けんせつ修理しゅうり運転うんてんてき鉄道てつどう破壊はかい従事じゅうじする。
渡河とか作戦さくせん
てきへい対岸たいがんにいる場合ばあい、(水陸すいりく両用りょうよう戦車せんしゃ簡単かんたん制圧せいあつしたれいもあるが、通常つうじょうは)砲兵ほうへいばくげき支援しえんした煙幕えんまくり、渡河とかようボートをふくらませて歩兵ほへい対岸たいがんおくみ、橋頭堡きょうとうほ確保かくほ架橋かきょう戦車せんしゃではわたれない川幅かわはば場合ばあい、ボートや橋脚きょうきゃくぶねポンツーン)にはしげたをもうけ、上流じょうりゅうからなが固定こていしてつなげていきはしつくる(ポンツーンきょう浮橋うきはし)。
測量そくりょう地図ちず作成さくせい
平時へいじ工兵こうへい重要じゅうよう任務にんむ自国じこくだけでなく、航空こうくう観測かんそくなどで他国たこく測量そくりょう事前じぜんっておく。せんもん部隊ぶたいき、気象きしょう観測かんそくおこなうことがある。
一般いっぱんてき道路どうろはしダムなどインフラストラクチャー宇宙うちゅう基地きち王宮おうきゅうといった特殊とくしゅ施設しせつ建設けんせつ維持いじ
アメリカ(陸軍りくぐん工兵こうへい)では平時へいじにおける工兵こうへい主要しゅよう任務にんむとなっている。また、ゼネコンひとし存在そんざいしない発展はってん途上とじょうこくでは、公共こうきょう施設しせつ道路どうろ建設けんせつ工兵こうへい使用しようされることがある。また機密きみつ保持ほじ国家こっか意識いしき涵養かんようなどの必要ひつようせいつよみとめられる場合ばあいそういった対象たいしょうとなる特殊とくしゅ施設しせつ建設けんせつ維持いじ工兵こうへい同様どうようてられることがある。自衛隊じえいたいでも、草創そうそう初期しょきには部隊ぶたい訓練くんれん一環いっかんとして「土木どぼく工事こうじとう受託じゅたく」として頻繁ひんぱんおこなわれていた。
坑道こうどうせん
てき要塞ようさい陣地じんち真下ましたまで坑道こうどう地中ちちゅう大量たいりょう爆薬ばくやく仕掛しかけて、要塞ようさい陣地じんちごとばす。
にち戦争せんそうでは旅順りょじゅん要塞ようさい攻略こうりゃくおおきな役割やくわりたし、だいいち世界せかい大戦たいせんでも実施じっしされた。
近年きんねんでは要塞ようさいそのものの衰退すいたいともないあまりおこなわれなくなっている。
トーチカ塹壕ざんごう建設けんせつ
戦闘せんとう工兵こうへい任務にんむ多少たしょう重複じゅうふくするが、こちらは最前線さいぜんせんより後方こうほうがいずれ戦場せんじょうになるであろうとおもわれるときに最前線さいぜんせんよりも強固きょうこ陣地じんち建設けんせつする。余裕よゆうって工事こうじおこなうことができ、てき妨害ぼうがいされる心配しんぱいすくない。きゅうソビエトぐんでは塹壕ざんごう掘削くっさくよう工兵こうへいしゃBTM-3開発かいはつされている。
さらには、インフラとして建設けんせつしたはしみちなどの場所ばしょにも強固きょうことくてん建設けんせつすることも後方こうほうにおける任務にんむである。
しかし、恒久こうきゅうてき陣地じんち不利ふりせいから近年きんねんはあまりおこなわれない。
補給ほきゅう物資ぶっし集積しゅうせきじょうとう建設けんせつ
兵站へいたん管理かんり一環いっかんとして、すばやく物資ぶっし分配ぶんぱい管理かんり防衛ぼうえいとうおこなうために集積しゅうせきじょう建設けんせつをする。

船舶せんぱく工兵こうへい任務にんむ[編集へんしゅう]

日本にっぽん陸軍りくぐん多数たすう船舶せんぱく保有ほゆうしており、その運用うんよう工兵こうへいによっておこなわれていた。のちに、船舶せんぱくへいとして独立どくりつ兵種へいしゅとなった。

船舶せんぱく運用うんよう
輸送ゆそうせん特殊とくしゅせん(揚陸ようりくかん)・潜水せんすいていひとし操舵そうだ航法こうほう機関きかん整備せいびとうおこなう。
艦載かんさい兵器へいきによる戦闘せんとう
高射こうしゃほう高射こうしゃ機関きかんほう機関きかんじゅうたいせん迫撃はくげきほうたいせん爆雷ばくらい魚雷ぎょらいひとし艦載かんさい兵器へいきによる対空たいくうたい潜水せんすいかんたい水上すいじょう戦闘せんとうおこなう。

その[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは、駐屯ちゅうとん付近ふきん火災かさい発生はっせいした場合ばあい出動しゅつどうして破壊はかい消防しょうぼうおこなった記録きろくのこる(1926ねん3がつ巣鴨すがも大火たいか赤羽あかはね工兵こうへい大隊だいたい1個いっこ小隊しょうたい出動しゅつどうなど)[1]

各国かっこくれい[編集へんしゅう]

イタリア[編集へんしゅう]

イタリア陸軍りくぐんでは、戦闘せんとう工兵こうへいをグアスタトーリ(Guastatori)、建設けんせつ工兵こうへいをピオニエーリ(Pionieri)、橋梁きょうりょう工兵こうへいをポンティエーリ(Pontieri)、鉄道てつどう工兵こうへいをフェロヴィエーリ(Ferrovieri)とんでいる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 東京とうきょう巣鴨すがも大火たいか東京日日新聞とうきょうにちにちしんぶん大正たいしょう15ねん3がつ20日はつか夕刊ゆうかん(『大正たいしょうニュース事典じてんだい7かん 大正たいしょう14ねん-大正たいしょう15ねん本編ほんぺんp67 大正たいしょうニュース事典じてん編纂へんさん委員いいんかい 毎日まいにちコミュニケーションズかん 1994ねん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]