(Translated by https://www.hiragana.jp/)
無重量状態 - Wikipedia コンテンツにスキップ

重量じゅうりょう状態じょうたい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
微小びしょう重力じゅうりょくから転送てんそう
重力じゅうりょく状態じょうたい

重量じゅうりょう状態じょうたい(むじゅうりょう じょうたい)とは、万有引力ばんゆういんりょくおよび遠心えんしんりょくなどの慣性かんせいりょくたがいにしあい、それらの合力ごうりょくが0ないしは0とみなしうる程度ていどちいさくなっている状態じょうたい

概要がいよう

[編集へんしゅう]

だいばかりはかられるようなるいおもさ(すなわち重量じゅうりょう)が0となっている状態じょうたいであることから、重量じゅうりょう状態じょうたいばれる。

類義語るいぎごないしは同義語どうぎごとしての重力じゅうりょく(むじゅうりょく)という言葉ことばもちいられる。近年きんねんでは、微小びしょう重力じゅうりょくというかたりもちいられる[1]

重量じゅうりょう環境かんきょう特徴とくちょうは、対流たいりゅうせいあつ浮力ふりょく沈降ちんこう接触せっしょく浮遊ふゆうなどであり、薬品やくひん合金ごうきん製造せいぞうなどにおいて、地表ちひょうのような重力じゅうりょくしたでは実現じつげん不能ふのう現象げんしょう観察かんさつ利用りようできる。

人体じんたいへの影響えいきょう

[編集へんしゅう]
重力じゅうりょく状態じょうたい経験けいけんする宇宙うちゅう飛行ひこう想像そうぞう (1920ねん) 。

まず、体液たいえき循環じゅんかん変化へんかする。地上ちじょうでは下半身かはんしんまっていた水分すいぶんのうちやく2リットルは、重力じゅうりょく状態じょうたいになったすうふんには胸部きょうぶ頭部とうぶ移動いどうする。その体液たいえき調節ちょうせつ機能きのうによって全身ぜんしん循環じゅんかんされるため、かおがむくみ、くびかお血管けっかんるようになり、はなまって嗅覚きゅうかく味覚みかくがなくなる。尿にょうりょうえ、体内たいない吸収きゅうしゅうされる液体えきたい減少げんしょうするので、血液けつえき体液たいえきりょうもそれにわせて減少げんしょうする。

すこし(1 - 2センチメートル程度ていどびることにもなるが、これは脊椎せきつい椎骨ついこつ椎骨ついこつあいだにある円盤えんばんじょう椎間板ついかんばん圧迫あっぱくされなくなるためである。

体内たいない生成せいせいされる赤血球せっけっきゅうかずも、おおきく減少げんしょうする。赤血球せっけっきゅう減少げんしょうは4にち以内いないはじまり、40 - 60にちほどで安定あんていする。原因げんいんにはせつある。ひとつは、重力じゅうりょく状態じょうたいでは血液けつえきりょうるため、同時どうじ赤血球せっけっきゅうることになるというもの。もうひとつは、血液けつえき上半身じょうはんしん移動いどうすることで血液けつえきおおぎるとからだ勘違かんちがいし、赤血球せっけっきゅうらしてしまうというもの。

ながあいだ重力じゅうりょく状態じょうたい微少びしょう重力じゅうりょく環境かんきょう)にさらされていると、ほねもろくなる。これは、ほね圧力あつりょくけるほどふとくなり、ぎゃく負荷ふかるとほそくなってゆくという性質せいしつつためである。さらに、ほねほそくなる過程かてい浸出しんしゅつするカルシウム尿にょうふくまれるようになるので、腎臓じんぞう結石けっせきのリスクもたかまる。また、カルシウムが不足ふそくすれば骨粗鬆症こつそしょうしょうにもなりやすくなる。無重力むじゅうりょく状態じょうたいでは1かげつやく1パーセントの割合わりあいほね質量しつりょう減少げんしょうするので、10かげつごせば地上ちじょうで30さいから75さいまでとしったぶん相当そうとうするほね無機むき成分せいぶんうしなわれる。

ほねだけでなく筋肉きんにくにも影響えいきょうあらわれる。筋肉きんにく萎縮いしゅくし、筋肉きんにく結合けつごう組織そしき退化たいかする。心臓しんぞうもその例外れいがいではなく、重力じゅうりょく環境かんきょうでは重力じゅうりょく抵抗ていこうして血液けつえきおく必要ひつようがなくなり、かつ前述ぜんじゅつとお血液けつえきりょう減少げんしょうするため、自然しぜん筋肉きんにくへの負荷ふかよわまり、結果けっかてき心筋しんきんそのものもよわってしまう。なお、このようなほね筋肉きんにく退化たいかけるため、宇宙うちゅう飛行ひこうに3 - 4あいだ運動うんどうをする。宇宙うちゅう飛行ひこう古川ふるかわさとしは「宇宙うちゅう老化ろうか加速かそくモデルだと実感じっかんした」とかたった[2]

睡眠すいみんに、姿勢しせいけなければ窒息ちっそくするおそれもある。これは生理学せいりがくてき要因よういんによるものではない。単純たんじゅん重力じゅうりょく状態じょうたいでは空気くうき対流たいりゅうこらないため、呼気こき二酸化炭素にさんかたんそかおまわりに停滞ていたいしやすくなるからである。ただし、これは宇宙船うちゅうせんうち空調くうちょう容易ようい解決かいけつ可能かのうである。また、複数ふくすう人間にんげん密室みっしつにいるような状況じょうきょうであれば、感染かんせんしょうリスクたかまる。とく飛沫しぶき感染かんせんのリスクはおおきい。これは、くしゃみせきによって唾液だえきとともに空気くうきちゅう飛散ひさんする病原びょうげんたい細菌さいきんウイルスなど)が重力じゅうりょく状態じょうたいにおいては、すくなくないりょう拡散かくさんしたままの状態じょうたいになるためである。地上ちじょうであればくしゃみなどによる飛沫しぶき地面じめんちるが、重力じゅうりょく状態じょうたいだとその飛沫しぶきこまかいきりじょうとなっておおくは船内せんないかべ付着ふちゃくするうえ、空気くうきちゅうただよ割合わりあいりょう重力じゅうりょく比較ひかくしてもたかく、これを他人たにんんでしまう可能かのうせいがある。初期しょき宇宙うちゅう探査たんさミッションでは、半分はんぶん以上いじょう宇宙うちゅう飛行ひこう軽度けいど感染かんせんしょうなやまされていた(アポロ計画けいかくでは船内せんない殺菌さっきん念入ねんいりになったため、感染かんせんしょうおおきく減少げんしょうした)。現在げんざいでは空調くうちょうフィルターの改良かいりょうなどで対応たいおうしている。

理化学研究所りかがくけんきゅうしょ広島大学ひろしまだいがくなどでのおおくの動物どうぶつ実験じっけん結果けっか哺乳類ほにゅうるいについては無重力むじゅうりょく性交せいこうしても受精じゅせいしない可能かのうせいがあることが判明はんめいした。これにより、宇宙うちゅうステーションはもとより地球ちきゅうよりてい重力じゅうりょくつき火星かせいなどでも子供こどもができにくい可能かのうせい指摘してきされており、宇宙うちゅうへの人類じんるい移住いじゅう構想こうそうへの影響えいきょう懸念けねんされている[3][リンク]

重力じゅうりょく状態じょうたい再現さいげん

[編集へんしゅう]

重量じゅうりょう状態じょうたいは、スペースシャトルのような宇宙うちゅう宇宙うちゅうステーションうち飛行機ひこうき放物線ほうぶつせん飛行ひこう(パラボリックフライト)によるもの、ドロップチューブ英語えいごばんとうからの自由じゆう落下らっか、サンプルを回転かいてんさせることにより微小びしょう重力じゅうりょく環境かんきょうつくクリノスタット英語えいごばん[4]ランダム・ポジショニング・マシーン英語えいごばんなどにより、人工じんこうてき作成さくせいできる。

三井みつい砂川すながわ炭鉱たんこう跡地あとちには炭鉱たんこうあな利用りようした重力じゅうりょく実験じっけん施設しせつ存在そんざいした。

宇宙うちゅう開発かいはつ機関きかん企業きぎょうくわえ、現代げんだいでは航空こうくう会社かいしゃ研究けんきゅうしゃけのサービスとして重量じゅうりょう状態じょうたいふく飛行ひこううこともあり、フランスのノヴァスペースフランス語ふらんすごばん日本にっぽんダイヤモンドエアサービスなどが実験じっけん支援しえんする装置そうち搭載とうさいした航空機こうくうき嘔吐おうと彗星すいせい)を飛行ひこうさせている[5]

地上ちじょうにおける実験じっけん高額こうがくなため、予算よさんすくなかったミネルバでは鉛直えんちょく方向ほうこううごきを水平すいへいめんじょうえることをかんがえ、摩擦まさつ極力きょくりょくおさえた水平面すいへいめんもちいた実験じっけん装置そうちによっておおまかな実験じっけんえたのち、1かいに100まんえんほどかかる日本にっぽん重量じゅうりょう総合そうごう研究所けんきゅうじょ使用しようりょうおさえる工夫くふうをしている[6]

重力じゅうりょく状態じょうたい利用りよう

[編集へんしゅう]

国際こくさい宇宙うちゅうステーション (ISS) の日本にっぽん実験じっけんとうきぼう」において、宇宙うちゅう航空こうくう研究けんきゅう開発かいはつ機構きこう (JAXA) は微小びしょう重力じゅうりょく状態じょうたい利用りようした各種かくしゅ研究けんきゅうおこなっている。きぼうに搭載とうさいされたせいでん浮遊ふゆう (ELF) は、静電気せいでんきによって試料しりょうちゅうかせ、地上ちじょうではけられない容器ようきからの不純物ふじゅんぶつ混入こんにゅうふせぐことができる[7]

こうした環境かんきょう器材きざい工業こうぎょう材料ざいりょう開発かいはつだけでなく、そうやくにも寄与きよする。JAXAは企業きぎょうとも協力きょうりょくしており、東京とうきょう大学だいがくはつバイオベンチャー企業きぎょうペプチドリーム依頼いらいにより、重力じゅうりょく対流たいりゅうがある環境かんきょうではむずかしいたんぱくしつ結晶けっしょうなどの実験じっけんおこなっている[8]

重力じゅうりょくこるその特殊とくしゅ現象げんしょう

[編集へんしゅう]
地上ちじょうほのお無重力むじゅうりょくでのほのお
  • ほのお - 上昇じょうしょう気流きりゅうができないため、ほのお球形きゅうけいとなる。また、あたらしい酸素さんそ供給きょうきゅうされにくいためにすぐにえてしまう。
  • 蜂蜜はちみつはいったびん - 開封かいふうしてもぶたびん蜂蜜はちみつつながったままとなる[9]

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ 重量じゅうりょう状態じょうたい” (日本語にほんご). 日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ. Yahoo!百科ひゃっか事典じてん. 2012ねん1がつ17にち閲覧えつらん。 “なお重量じゅうりょうのことを無重力むじゅうりょくとよぶことがあるが、重力じゅうりょくそのものがなくなるのではないから、これは正確せいかくないいかたではない。”
  2. ^ 宇宙うちゅう老化ろうか加速かそくモデル」ISS滞在たいざいえた古川ふるかわさん、会見かいけん体調たいちょう変化へんかかた”. Science Portal. 2024ねん5がつ3にち閲覧えつらん
  3. ^ 重力じゅうりょくでは子供こどもできない!?哺乳類ほにゅうるい場合ばあい 読売新聞よみうりしんぶん 2009ねん8がつ25にち
  4. ^ 浜崎はまざき, 辰夫たつお佐藤さとう, ゆたかじゅう模擬もぎ微小びしょう重力じゅうりょく実験じっけん装置そうち培養ばいよう細胞さいぼう観察かんさつがたクリノスタット”」1992ねん1がつ31にちdoi:10.15011/jasma.9.1.19 
  5. ^ ダイヤモンドエアサービス株式会社かぶしきがいしゃμみゅーG実験じっけん
  6. ^ よしひかり徹雄てつお中谷なかたに一郎いちろう久保田くぼたたかし黒田くろだ洋司ようじ足立あだち忠司ただし斎藤さいとう浩明ひろあき小惑星しょうわくせい探査たんさようローバのしん移動いどうメカニズム」『だい16かい日本にっぽんロボット学会がっかい学術がくじゅつ講演こうえんかい予稿よこうしゅう』1998、日本にっぽんロボット学会がっかい p.1464
  7. ^ 「きぼう」での実験じっけんせいでん浮遊ふゆう(ELF)JAXAホームページ(2018ねん2がつ12にち閲覧えつらん
  8. ^ 宇宙うちゅうそうやく巡航じゅんこう軌道きどう日経にっけい産業さんぎょう新聞しんぶん』2018ねん1がつ18にち(16めん
  9. ^ 重力じゅうりょく蜂蜜はちみつびんけると……宇宙うちゅう飛行ひこう披露ひろう - BBC

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • フランセス・アッシュクロフト英語えいごばん しる羽野はのかおる やく人間にんげんはどこまでえられるのか』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2002ねんISBN 4-309-25160-9 

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク

[編集へんしゅう]