改元かいげん

改元かいげん（かいげん）とは、元号げんごうを改あらためる（変更へんこうする）こと。

概要がいよう

中国ちゅうごくや日本にっぽんなど東ひがしアジアでは、紀年きねんは、60年ねん周期しゅうきの干支えとの外そとに、君主くんしゅ（皇帝こうていや王おう、天皇てんのう）の在位ざいい期間きかんを基準きじゅんに定さだめられ、治世ちせい途中とちゅうで再ふたたび元年がんねんから始はじめることを改元かいげんと呼よんだ。元号げんごうを使つかうようになってからは、元号げんごうも同時どうじに改あらためられて新しん元号げんごうの元年がんねんとされた。このため、改元かいげんが元号げんごうを変かえること（改号かいごう）と同一どういつ視しされることもある。

元号げんごう使用しよう以前いぜんについて、正史せいしでは便宜上べんぎじょう、「中元ちゅうげん年ねん」「後こう元年がんねん」など、「中なか」や「後ご」をつけて記録きろくしている。なお、帝王ていおうの退位たいいにより新しん帝王ていおうが即位そくいすると、再ふたたび元年がんねんから始はじめられ、一般いっぱん的てきにこれも改元かいげんと呼よぶことがあるが、専門せんもん的てきには、治世ちせい途中とちゅうの改元かいげんだけを改元かいげんとし、新しん帝王ていおうの即位そくいによる元年がんねんは称しょう元もと（しょうげん）と呼よんで区別くべつすることがある。

経緯けいい

日本にっぽんの場合ばあい、「大化たいか」から「慶応けいおう」までは災害さいがいや天変地異てんぺんちいなどの理由りゆうで頻繁ひんぱんに改元かいげんが行おこなわれてきた。 「明治めいじ」以降いこうは一世一元いっせいいちげんの制せいに基もとづき、「明治めいじ」は明治めいじ元年がんねん9月8日にち（1868年ねん10月23日にち）に明治天皇めいじてんのうが発布はっぷした一世一元いっせいいちげんの詔みことのりにより、「大正たいしょう」・「昭和しょうわ」は登極とうきょく令れいにより、「平成へいせい」以後いごは元号げんごう法ほう（昭和しょうわ54年ねん法律ほうりつ第だい43号ごう）に基もとづいて改元かいげんが行おこなわれている。

種類しゅるい

改元かいげんの理由りゆう

改元かいげんはその理由りゆうを基準きじゅんとして主おもに

1. 君主くんしゅの交代こうたいによる代だい始はじめ改元かいげん（だいはじめかいげん）
2. 吉事きちじを理由りゆうとする祥瑞しょうずい改元かいげん
3. 凶事きょうじに際さいしてその影響えいきょうを断たち切きるための災わざわい異い改元かいげん
4. 三さん革かわを区切くぎりと見みなして行おこなわれる革かわ年ねん改元かいげん（三さん革かわとは、革かわ令れい〈甲子きのえねの年とし〉・革かわ運うん〈戊つちのえ辰たつの年とし〉・革命かくめい〈辛からし酉とりの年とし〉）

に分類ぶんるいされる。

改元かいげんの基準きじゅん点てん

改元かいげんする際さい、新しん元号げんごうの始点してんをどこに置おくかが問題もんだいとなるが

1. 改元かいげんが布告ふこくされた時点じてんで、布告ふこくされた年としの元もと日ひに遡さかのぼって新しん元号げんごうの元年がんねんと見みなす場合ばあい（立たて年とし改元かいげん）
2. 改元かいげんが布告ふこくされた日ひから後のちを（布告ふこくされた日ひの始はじまりに遡さかのぼって）新しん元号げんごうの元年がんねんとする場合ばあい（即日そくじつ改元かいげん）
3. 布告ふこくの翌日よくじつから後のちを新しん元号げんごうの元年がんねんとする場合ばあい（翌日よくじつ改元かいげん、踰日改元かいげん）
4. 布告ふこくの年としの末日まつじつまでを旧きゅう元号げんごうとし、翌年よくねんの元もと日にちから新しん元号げんごうを用もちいる場合ばあい（踰年改元かいげん、越年えつねん改元かいげん）
5. 布告ふこくの月つきの末日まつじつまでを旧きゅう元号げんごうとし、翌月よくげつの一いち日にちから新しん元号げんごうを用もちいる場合ばあい（踰月改元かいげん）

に分わけられる。時代じだいによって暦日れきじつ、時刻じこくの観念かんねんが異ことなるので確定かくていは難むずかしい。また、特とくに時刻じこくレベルで改元かいげん時点じてんを確定かくていする必要ひつようが生しょうじたのは日本にっぽんでは「大正たいしょう」改元かいげん以降いこうのみである。

日本にっぽんの改元かいげんは「白しろ雉」改元かいげんから「明治めいじ」改元かいげんまで1.が慣行かんこうであった。「大正たいしょう」「昭和しょうわ」改元かいげんは2.、「平成へいせい」改元かいげんは3.、「令れい和わ」改元かいげんは5. に当あてはまる。「大化たいか」建けん元もとについては、5. に当あてはまると考かんがえられるが、史書ししょによって記述きじゅつが一定いっていしないため、正確せいかくな日付ひづけは不明ふめいとなる。

歴史れきし

一方いっぽう、一世一元いっせいいちげんの制せいを布しいた明あきら朝あさ以降いこうの中国ちゅうごくでは原則げんそく4. を採とっていた。国土こくどの大おおきい中国ちゅうごくの場合ばあい、布告ふこくの周知しゅうち徹底てっていには時間じかんが長引ながびくため、新しん元号げんごうの発表はっぴょうと同時どうじに全土ぜんどで改元かいげんを実施じっしすることは困難こんなんであり、4が現実げんじつに即そくしていた。唯一ゆいいつの例外れいがいは明あかりの光ひかり宗むねの場合ばあいである。光ひかり宗むねは父ちちの神かみ宗はじめの死去しきょに伴ともなって万まん暦れき48年ねん（西暦せいれき1620年ねんに相当そうとう）の7月がつに即位そくいしたものの、8月がつには急死きゅうししてしまったため、越年えつねん改元かいげんだと神かみ宗はじめの元号げんごうである「万まん暦れき」の次つぎは、光ひかり宗むねの後のちを継ついだ熹宗の元号げんごうである「天啓てんけい」になってしまい、光ひかり宗むねの元号げんごうである「泰やすし昌あきら」が消滅しょうめつしてしまうため、その年としの8月がつ以降いこうを「泰やすし昌あきら元年がんねん」とし、翌年よくねんに「天啓てんけい」へ改元かいげんした。

改元かいげんを即位そくいの年としに行おこなう即日そくじつ改元かいげんならびに翌日よくじつ改元かいげん（布告ふこく日びが12月31日にち以外いがい）、踰月改元かいげんでは、1年間ねんかんに複数ふくすうの元号げんごうが並立へいりつする。また、立たて年とし改元かいげんの場合ばあいにも、改元かいげんの年としに発行はっこうされた文書ぶんしょ、書籍しょせきなどの元号げんごうの書かき換かえも必要ひつようとなる。逆ぎゃくに、越年えつねん改元かいげんは、1年間ねんかんに一ひとつの元号げんごうのみであり、新帝しんてい即位そくいの年としは先帝せんていに遠慮えんりょして旧きゅう元号げんごうを用もちい、即位そくいの翌年よくねん元日がんじつに改元かいげんする。越年えつねん改元かいげんは、儒教じゅきょう的てきな服喪ふくもの理念りねんに基もとづいており、中国ちゅうごくでも日本にっぽんでも平時へいじにはこの方式ほうしきが採とられていた。一方いっぽう、王朝おうちょうの交代こうたいや先帝せんていの廃位はいいなどによる改元かいげんの場合ばあいには、むしろ先代せんだいの権威けんいを否定ひていするために立たて年とし改元かいげんが行おこなわれた。明治めいじ以降いこうの日本にっぽんで立だて年ねん改元かいげんや即日そくじつ改元かいげんが実施じっしされた要因よういんは、「孝こう」の理念りねんよりは、国家こっか元首げんしゅである天皇てんのうの交代こうたいを速すみやかに国民こくみんに印象いんしょうづけることが優先ゆうせんされたためである。

なお、中世ちゅうせい後期こうき（室町むろまち時代ときよ後期こうき）から近世きんせい初期しょきにかけての東国とうごくでは、改元かいげんの報ほうが知しらされてもその年としの内うちは旧年きゅうねん号ごうを用もちい、年としが明あけてから2年ねんの別名べつめいとして「元年がんねん」と称しょうしたとする「元もと二に年ねん」と呼よばれる慣習かんしゅうがあったとする説せつがある。

江戸えど時代じだいには、改元かいげん後ごの新しん元号げんごうを実際じっさいに施行しこうする権限けんげんは江戸えど幕府ばくふが有ゆうしており、朝廷ちょうていから連絡れんらくを受うけた幕府ばくふが大名だいみょう・旗本はたもとを集あつめて改元かいげんの事実じじつを告つげた日ひ（公達きんだち日び）より施行しこうされることになっていた。これは朝廷ちょうていのある京都きょうとにおいても同様どうようであり、朝廷ちょうていが江戸えどの幕府ばくふに対たいして改元かいげんの正式せいしきな通知つうちをして、幕府ばくふが江戸城えどじょうで公達きんだちを行おこない、江戸えどから派遣はけんされた幕府ばくふの使者ししゃが京都きょうと町まち奉行ぶぎょうに改元かいげんの公達きんだちを行おこない、町奉行まちぶぎょうが改元かいげんの町まち触さわを行おこなった後のちで初はじめて施行しこうされるものとされた（宝永ほうえい改暦かいれきでは、京都きょうと市し中ちゅうでの施行しこうは改元かいげんから24日にち後ごのことであった）。京都きょうとの住民じゅうみんはたとえ改元かいげんの事実じじつを知しっていても、町まち触さわが出だされる前まえに新しん元号げんごうを使つかうことは禁きんじられていた（勿論もちろん、禁裏きんりでは新しん元号げんごうで業務ぎょうむが行おこなわれている）。また、江戸えど幕府ばくふが天皇てんのうの代だい始はじめ改元かいげんを認みとめず（明正めいせい天皇てんのう・霊れい元もと天皇てんのう）、反対はんたいに将軍しょうぐんの代だい始はじめ改元かいげんを先例せんれいに加くわえようとした形跡けいせきがある（徳川とくがわ家光いえみつの寛永かんえい・徳川とくがわ家綱いえつなの承うけたまわ応おう・徳川とくがわ吉宗よしむねの享とおる保ほ）。

改元かいげんの時ときの世間せけん

1989年ねん1月がつ7日にち、総理そうり大臣だいじん官邸かんていにて新しん元号げんごう「平成へいせい」を発表はっぴょうする内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかん小渕おぶち恵三けいぞう。史上しじょう初はじめて元号げんごう法ほう（法律ほうりつ）に基もとづいて内閣ないかくが元号げんごうを選定せんてい・閣議かくぎ決定けっていした。また、元号げんごうの公表こうひょうも史上しじょう初はじめてテレビ中継ちゅうけいされた。

昭和しょうわから平成へいせい（1989年ねん1月がつ7日にち - 8日にち）への改元かいげんは昭和しょうわ天皇てんのうが崩御ほうぎょしたため、歌舞かぶ音曲おんぎょくや娯楽ごらくを自粛じしゅくし、新しん天皇てんのう（明仁あきひと）・皇族こうぞくや三権さんけんの関係かんけい者しゃは喪服もふくを着きて一連いちれんの儀式ぎしきや行事ぎょうじを執とり行おこなった。元号げんごう法ほうに基もとづき、新しん元号げんごうは崩御ほうぎょからおよそ7時じ間あいだ後ごの崩御ほうぎょ当日とうじつに選定せんてい・閣議かくぎ決定けっていし、新しん天皇てんのうによって公布こうふされ、小渕おぶち恵三けいぞう内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんが公表こうひょうした。改元かいげんの瞬間しゅんかんも大おおきく盛もり上あがらず、街まちの照明しょうめいも消けされて「喪も」を前面ぜんめんに出だした。こうした自粛じしゅくや喪もは徐々じょじょに終息しゅうそくしていったものの、崩御ほうぎょ・改元かいげんから1年ねん後ごの翌よく1990年ねん（平成へいせい2年ねん）1月がつ頃ごろまで続つづき、新しん天皇てんのうの即位そくいを内外ないがいに宣明のぶあきする儀式ぎしき（即位そくいの礼れい）も1年ねん10か月げつ後ごの翌よく1990年ねん（平成へいせい2年ねん）11月12日にちに執とり行おこなわれた。

2019年ねん4月がつ1日にち、総理そうり大臣だいじん官邸かんていにて新しん元号げんごう「令れい和わ」を発表はっぴょうする内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかん菅かん義よし偉えら。新しん元号げんごうが史上しじょう初はじめて1か月げつ前まえに事前じぜん公表こうひょうされ、さらに、テレビのみならずインターネット上うえの動画どうがサイトでも中継ちゅうけいされた。

平成へいせいから令れい和わ（2019年ねん4月がつ30日にち - 5月1日にち）への改元かいげんは天皇てんのうの譲位じょういに伴ともなうものである。2016年ねん（平成へいせい28年ねん）8月がつ8日にちに天皇てんのう明仁あきひとがお気持きもちを表明ひょうめいした。その後ご2017年ねん（平成へいせい29年ねん）6月16日にちに天皇てんのう退位たいい特例とくれい法ほうが成立せいりつし、同年どうねん12月1日にちの皇室こうしつ会議かいぎを経へて天皇てんのう明仁あきひとの退位たいいが2019年ねん4月がつ30日にちに正式せいしきに決きまったあとから、「平成へいせい最後さいごの…」といった文言もんごんがついた様々さまざまなイベントが増ふえたり、新しん元号げんごうの予想よそうもなされもり上あげがった。退位たいい・改元かいげんが事前じぜんに決きまった事ことから新しん元号げんごうも改元かいげんの1か月げつほど前まえに公表こうひょうすることになり、元号げんごう法ほうに基もとづき、2019年ねん（平成へいせい31年ねん）4月がつ1日にちに選定せんてい・閣議かくぎ決定けっていし、退位たいいする天皇てんのう明仁あきひとによって公布こうふされ、菅かん義よし偉えら内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんが公表こうひょうした。改元かいげんの瞬間しゅんかんにカウントダウンが行おこなわれ盛もり上あがったほか、新しん天皇てんのう（徳とく仁ひとし）・皇族こうぞくも燕尾服えんびふくなど華はなやかな服装ふくそうで儀式ぎしきに臨のぞんだ。新しん天皇てんのうの即位そくいの礼れいも改元かいげんと同年どうねんの10月がつ22日にちに執とり行おこなわれた。

テレビコマーシャルも平成へいせい改元かいげんは自粛じしゅくで公共こうきょう広告こうこく機構きこう（現げん：ACジャパン）のCMに変かわったが、令れい和わ改元かいげんは明治めいじやKDDIや日産自動車にっさんじどうしゃなど改元かいげんを祝いわうCMを作成さくせいした。

その他た

江戸えど時代じだい後期こうきの日本にっぽんでは中井なかい竹山ちくざん・藤田ふじた幽谷ゆうこく・石原いしはら正明まさあき・広瀬ひろせ淡窓たんそうらが、改元かいげんと天災てんさい地変ちへんとの関連かんれん性せいがなく、却かえって社会しゃかいに混乱こんらんを招まねいているとしてこれを批判ひはんした。

慶応けいおう以前いぜんの改元かいげんは『続ぞく日本にっぽん紀き』や改元かいげん詔書しょうしょに見みられるとおり年とし単位たんいであったと言いわれるが、『類聚るいじゅう国史こくし』では日にち単位たんい（つまり即日そくじつ改元かいげんまたは翌日よくじつ改元かいげん）による改元かいげんの記載きさいがあるとの指摘してきもある。また『続ぞく日本にっぽん紀き』にも「天平てんぴょう宝たから字じ改元かいげんの勅みことのり」のように日にち単位たんいで改元かいげんした例れいも記載きさいされている。このように明治めいじ以前いぜんの文書ぶんしょでは年とし単位たんいか日にち単位たんいか実務じつむ上じょうの取扱とりあつかいは曖昧あいまいであったと言いういっぽうで、大正たいしょう以降いこうの改元かいげんは一世一元いっせいいちげんの制せいまたはこれに準じゅんずる法制ほうせいによっているので、自おのずから日にち単位たんいの扱あつかいに統一とういつされたと指摘してきしている。

なお、九州大学きゅうしゅうだいがく大学院だいがくいん法学ほうがく研究けんきゅう院いんの七戸しちのへ克彦かつひこは、大正たいしょう時代じだいの歴史れきし教科書きょうかしょの記載きさいに関かんし「即時そくじ改元かいげん」と解ほぐされるような解釈かいしゃくが見みられた事ことを指摘してきしている。すなわち、大正たいしょう元年がんねん9月がつ9日にち発はつ図ず第だい145号ごう文部省もんぶしょう図書としょ局きょく照会しょうかいにおいて明治天皇めいじてんのうが崩御ほうぎょした1912年ねん7月がつ30日にち0時じ43分ふんを境界きょうかいとして明治めいじと大正たいしょうを使つかい分わける事ことが示唆しさされているとする。

参考さんこう文献ぶんけん

• 七戸しちのへ克彦かつひこ「皇位こうい継承けいしょうと改元かいげんに関かんする若干じゃっかんの覚書おぼえがき」『ふくおか : 会報かいほう』第だい122号ごう、福岡ふくおか県けん土地とち家屋かおく調査ちょうさ士し会かい、2017年ねん1月がつ、3-6頁ぺーじ、NAID 120005971224。 
• 土橋どばし誠まこと「即位そくい改元かいげんについて」（PDF）『京都きょうと府ふ埋蔵まいぞう文化財ぶんかざい論集ろんしゅう 第だい6集しゅう －創立そうりつ三さん十じゅう周年しゅうねん記念きねん誌し－』、京都きょうと府ふ埋蔵まいぞう文化財ぶんかざい調査ちょうさ研究けんきゅうセンター、2010年ねん12月、199-218頁ぺーじ。 

関連かんれん項目こうもく

• 革命かくめい勘かん文ぶん
• 元号げんごう

外部がいぶリンク

• 岡田おかだ芳朗よしろう『改元かいげん』 - コトバンク