権力けんりょく

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権力けんりょく(けんりょく、英語えいご: power[1], authority[1]ドイツ: Macht)とは、ある主体しゅたい自己じこ意思いし沿って他人たにんまたは集団しゅうだんたいし、行動こうどう強制きょうせいする能力のうりょくである[2]。「権威けんい」と重複じゅうふくする場合ばあいおおいとされる[3]

概要がいよう[編集へんしゅう]

権力けんりょくという概念がいねんは、17世紀せいき力学りきがく発展はってん背景はいけいとしてされた。すなわち、物体ぶったいはその位置いちエネルギー運動うんどうエネルギーから力学りきがくてきエネルギーしょうじさせる。これと同様どうように、なんらかの「権力けんりょく手段しゅだん」、「基礎きそ価値かち」を保持ほじすることによって、あるもの他者たしゃをそのはんしてでも行動こうどうさせうる、特別とくべつな「ちから」を保有ほゆうしている、という理解りかいまれた。こうした権力けんりょくかんを「実体じったいてき権力けんりょくかん」という[4]

権力けんりょく社会しゃかいのあらゆる場面ばめん成立せいりつする余地よちがある。一般いっぱん政治せいじてき場面ばめんもちいられる権力けんりょく政治せいじ権力けんりょく)とは、一定いってい範囲はんい住民じゅうみんすべてにおよ強制きょうせいりょくゆうし、それを服従ふくじゅうさせるようにまでいたった権力けんりょくのことをす。

通常つうじょうは「政治せいじ権力けんりょく」といえば、国家こっか権力けんりょくすのが通例つうれいである。国家こっかほう制定せいていけん警察けいさつ軍隊ぐんたい政府せいふ官僚かんりょう集団しゅうだん独占どくせんてき保有ほゆうすることにより、実効じっこうてき統治とうちけん確保かくほする。

なお、物理ぶつりてき強制きょうせいりょくともな政治せいじ権力けんりょく保持ほじするだけでは、政治せいじてき正当せいとうせい確保かくほするまでにはいたらず、安定あんていてき支配しはい維持いじすることはむずかしい(権威けんい欠如けつじょ)。政治せいじてき正当せいとうせい確保かくほするためには、政治せいじ権力けんりょく国家こっか権力けんりょく被治者ひちしゃから支配しはいたいする自発じはつてき同意どうい服従ふくじゅう調達ちょうたつする必要ひつようがある。

研究けんきゅう[編集へんしゅう]

近代きんだいてき概念がいねんとしての権力けんりょく研究けんきゅう端緒たんしょとしてニッコロ・マキアヴェッリデイヴィッド・ヒューム古典こてんてき研究けんきゅうげることができる。15世紀せいきにマキアヴェッリは統治とうち不可欠ふかけつ要素ようそ軍備ぐんび法律ほうりつであるとろんじた。とく独立どくりつした国家こっか統治とうちするための常備じょうびぐん設置せっち重要じゅうようせい主張しゅちょうしている。この組織そしきてき暴力ぼうりょくによって統治とうちしゃ権力けんりょく基礎きそけるマキアヴェッリの現実げんじつ主義しゅぎばれる政治せいじ思想しそう権力けんりょく研究けんきゅうにおける理論りろんてき基礎きそとして確立かくりつされた。このような現実げんじつ主義しゅぎてき見方みかたをヒュームは発展はってんさせた。ヒュームは軍事ぐんじてき征服せいふく植民しょくみんなどあらゆる政治せいじ変動へんどうにおいて暴力ぼうりょく見出みいだされることを指摘してきし、権力けんりょく研究けんきゅうすることによって、従来じゅうらい道徳どうとくてき政治せいじ理論りろんたいして実証じっしょう主義しゅぎてき政治せいじ理論りろん構築こうちくすることを主張しゅちょうした。そしてヒュームは論文ろんぶん政治せいじ科学かがくたかめるために」(1742ねん)のなか権力けんりょく表現ひょうげんされる統治とうち形態けいたい着目ちゃくもくし、要因よういんとして人間にんげん性格せいかく気質きしつ排除はいじょしながら、より厳密げんみつ科学かがくてき方法ほうほう政治せいじ研究けんきゅうすることをろんじている。

19世紀せいきから20世紀せいきにかけて成立せいりつした近代きんだい社会しゃかい国民こくみん国家こっか研究けんきゅう背景はいけいとしながら、マックス・ヴェーバー権力けんりょく社会しゃかい関係かんけいなか抵抗ていこうさからって自己じこ意志いし強要きょうようする可能かのうせいとして定義ていぎした。このヴェーバーの権力けんりょく概念がいねん直接的ちょくせつてきまたは間接かんせつてき研究けんきゅうしゃ研究けんきゅうれられ、とくシカゴ学派がくはぞくするチャールズ・メリアムハロルド・ラスウェル国際こくさい政治せいじがくハンス・モーゲンソウ研究けんきゅうなどに影響えいきょうあたえた。とくにラスウェルは権力けんりょくかんする重要じゅうよう研究けんきゅう業績ぎょうせきのこしており、シカゴ学派がくは権力けんりょく理論りろん成果せいかしめされている。ラスウェルの見解けんかいによれば、権力けんりょく社会しゃかいのさまざまな価値かちむすびつけてとらえることが可能かのうであり、ある行為こういかたはんした結果けっか重大じゅうだい価値かち剥奪はくだつ期待きたいされる関係かんけいとして権力けんりょく定義ていぎできるとかんがえる。この権力けんりょく概念がいねん罰金ばっきんのように財産ざいさん剥奪はくだつともな権力けんりょくだけでなく、社会しゃかいてき地位ちい名声めいせい剥奪はくだつともな場合ばあい権力けんりょくとして包括ほうかつしている。古典こてんてき権力けんりょく理論りろん政府せいふ組織そしき内部ないぶにおける権力けんりょく関係かんけいだけではなく、ラスウェルは権力けんりょく影響えいきょう制度せいど外部がいぶ非公式ひこうしき場面ばめんにおいてもみとめられることを解明かいめいした。

他者たしゃ集団しゅうだん組織そしきたい絶大ぜつだい影響えいきょうりょく行使こうしできるひとのことを隠語いんごとして「実力じつりょくしゃ」ということがある。他者たしゃ服従ふくじゅうさせるなんらかの特別とくべつな「ちから」をゆうしているてんではこれも「権力けんりょくしゃ」の範疇はんちゅうふくまれるが、おもて舞台ぶたいつことなく非公式ひこうしき影響えいきょうりょく行使こうしすることから、通常つうじょう権力けんりょく主体しゅたいして可視かしされにくい。そこから「かげ支配しはいしゃ実力じつりょくしゃ」とばれることもある(いわゆる「キングメーカー」などもそのいちれいである)。

特別とくべつ権力けんりょく関係かんけい[編集へんしゅう]

特別とくべつ公法こうほうじょう原因げんいんにより成立せいりつする、公権力こうけんりょく国民こくみんとの法律ほうりつ関係かんけいをいう。

これは、公務員こうむいん勤務きんむ関係かんけい国公立こっこうりつ大学だいがく在学ざいがく関係かんけいざいかん関係かんけいなど、性質せいしつことなる法律ほうりつ関係かんけいを、ある国民こくみん公権力こうけんりょく服従ふくじゅうするという関係かんけいとしてとらえ、命令めいれい強制きょうせいについて個別こべつ根拠こんきょ必要ひつようとされず、さらに裁判所さいばんしょ司法しほう審査しんさけんおよばないとされていた。法治ほうち主義しゅぎした現在げんざいにおいては、採用さいようされていない。

日本国にっぽんこく憲法けんぽう規定きてい[編集へんしゅう]

行政ぎょうせい立法りっぽう司法しほう三権分立さんけんぶんりつさせることで均衡きんこう抑制よくせいはかられる。また公務員こうむいん権力けんりょく濫用らんよういましめられている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 研究けんきゅうしゃ 新和しんわえいちゅう辞典じてん権力けんりょく
  2. ^ Dahl, 1957.その権力けんりょく定義ていぎについては後述こうじゅつ
  3. ^ 百科ひゃっか事典じてんマイペディア「権威けんい
  4. ^ 高畠たかはた、1984ねん、47ぺーじ以下いか

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

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関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]