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残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつ(ざんりゅうせいゆうきおせんぶっしつ、Persistent Organic Pollutants、POPs[1])とは、自然しぜん分解ぶんかいされにくく生物せいぶつ濃縮のうしゅくによって生態せいたいけいや、食品しょくひんにとりこまれ摂取せっしゅされることで人間にんげん健康けんこうがいをおよぼす有機物ゆうきぶつのこと。物質ぶっしつによっては使用しようされたことのない地域ちいきでも検出けんしゅつされることがあり広範囲こうはんい影響えいきょうをおよぼす可能かのうせいがある。

家電かでん建築けんちく材料ざいりょう使つかわれたダイオキシンるいポリ塩化えんかビフェニル(PCB)、DDTなど有機ゆうき塩素えんそけい農薬のうやく (OCP)、排気はいきガスやタバコなどから発生はっせいするたまき芳香ほうこうぞく炭化たんか水素すいそ (PAH) などがこの物質ぶっしつにあたる。その削減さくげんのために、2001ねん残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつかんするストックホルム条約じょうやく(POPs条約じょうやく)が採択さいたくされた

概要がいよう

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経済けいざい発展はってんのために多種たしゅ有機ゆうき化合かごうぶつ合成ごうせいし、多様たよう側面そくめん利用りよう可能かのう化学かがく物質ぶっしつ日常にちじょう生活せいかつなか使用しようされてきた。これらの物質ぶっしつ安定あんていせい追求ついきゅうしてつくされたため、自然しぜん環境かんきょうなかには存在そんざいしない有機物ゆうきぶつおおく、分解ぶんかいされずに長期間ちょうきかんにわたり残留ざんりゅうする性質せいしつつ。また、はん揮発きはつせい性質せいしつおおく、空中くうちゅう拡散かくさんして国境こっきょう降下こうかする。この運動うんどうかえすことで汚染おせん物質ぶっしつ極地きょくち集約しゅうやくされる。最大さいだい特徴とくちょうは、排出はいしゅつされにくく、脂肪しぼうけやすく生物せいぶつ脂肪しぼう濃縮のうしゅくされやすいため、食物しょくもつ連鎖れんさ高次こうじにある生物せいぶつほど深刻しんこく有害ゆうがいせいがある。

国内こくないにおいて発生はっせいする問題もんだいのみならず、地球ちきゅう環境かんきょう問題もんだいであることから予防よぼうてき取組とりくみとして、2001ねん残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつかんするストックホルム条約じょうやく(POPs条約じょうやく)が採択さいたくされ、国際こくさいてきなPOPsの廃絶はいぜつ削除さくじょとうおこな枠組わくぐみがもうけられた。[2]

条約じょうやくにより規制きせいされ生産せいさん禁止きんしされたのちでも、容易ようい分解ぶんかいされず環境かんきょうちゅう存在そんざいしたまま、なんじゅうねん人間にんげん残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつさらされることになる[3]。1979ねん禁止きんしされたPCBは、2010年代ねんだいでも環境かんきょうちゅう健康けんこう影響えいきょうあたえる濃度のうどたもっているが、徐々じょじょ低下ていかはしている[3]

定義ていぎ

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  1. 環境かんきょうちゅう分解ぶんかいしにくい(なん分解ぶんかいせい
  2. 食物しょくもつ連鎖れんさなどで生物せいぶつ体内たいない蓄積ちくせきしやすい(こう蓄積ちくせきせい
  3. 長距離ちょうきょり移動いどうして、極地きょくちなどに蓄積ちくせきしやすい(長距離ちょうきょり移動いどうせい
  4. ひと健康けんこう生態せいたいけいたい有害ゆうがいせいがある(毒性どくせい

おおまかな種類しゅるい

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有機ゆうき塩素えんそけい農薬のうやく (OCP) は、毒性どくせい残留ざんりゅうし、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)、アルドリンクロルデンディルドリンエンドリンヘプタクロルHCB、ミレックス、トキサフェンなどは使用しよう禁止きんし使用しよう制限せいげんけており、アフリカ、みなみアジア、中央ちゅうおうアメリカ、みなみアメリカなどの地域ちいきでまだ使用しようされている[4]。1962ねんレイチェル・カーソンが、鳥類ちょうるいへのDDT影響えいきょうについての『沈黙ちんもくはる』を出版しゅっぱんし、最終さいしゅうてきには1972ねんのDDTの禁止きんしにつながった[3]

ベトナム戦争せんそう使つかわれた枯葉かれはざいとして有名ゆうめいダイオキシンは、210種類しゅるい化合かごうぶつふく総称そうしょうで、ほかの化学かがく物質ぶっしつのごみ焼却しょうきゃく処理しょりなどでも副産物ふくさんぶつとして生成せいせいされる[3]ポリ塩化えんかビフェニル (PCB) はダイオキシン一部いちぶ同様どうよう作用さようする[3]

ポリ塩化えんかビフェニル (PCB) とポリしゅうジフェニルエーテル (PBDE) は、PCBは変圧へんあつやコンデンサーの冷却れいきゃくざい潤滑じゅんかつざい電気でんき機器ききひろ使つかわれ、PBDEは1960年代ねんだいから電化でんか製品せいひん建築けんちく材料ざいりょう使つかわれてきており、廃棄はいき処理しょりされることで環境かんきょう放出ほうしゅつされ、生物せいぶつ濃縮のうしゅくされとく食品しょくひん脂肪しぼうちゅうけて人間にんげん摂取せっしゅされることになる[4]身体しんたい負荷ふかの9わりさかなにく乳製品にゅうせいひん摂取せっしゅ原因げんいんとなる[4]たいねつ絶縁ぜつえんのためにつくられたポリ塩化えんかビフェニル (PCB) は、工業こうぎょうてき頻繁ひんぱん使用しようされたが、米国べいこくでは1979ねん禁止きんしされた[3]。また1968ねん日本にっぽんでは、ダイオキシンが混入こんにゅうしたべいカネミ油症かねみゆしょう事件じけん発生はっせいし1000にん以上いじょう被害ひがいおよぼし、1979ねんにはPCBが食品しょくひん大量たいりょう混入こんにゅうした台湾たいわんあぶらしょう発生はっせいした[3]

PCBの代替だいたいぶつとして、臭素しゅうそけいなんもえざいPBDEヘキサブロモシクロドデカン英語えいごばん (HBCD) が使つかわれ、PBDEではその同族どうぞくたいのペンタおよびオクタBDEが2004ねんに、decaBDE混合こんごうぶつは2013ねんまでに米国べいこく停止ていしされた[3]

たまき芳香ほうこうぞく炭化たんか水素すいそ (PAH) は、すうひゃく化学かがく物質ぶっしつのグループで、石炭せきたんからの自然しぜん発生はっせい、また自動車じどうしゃ排気はいきガスやタバコのけむり食品しょくひん調理ちょうりから人為じんいてき発生はっせいする[4]喫煙きつえんしゃでない場合ばあい食事しょくじからの摂取せっしゅが7わりめる[4]

またビスフェノールA (BPA) は半減はんげんみじかいためPOPsではないが、環境かんきょう汚染おせん物質ぶっしつ文脈ぶんみゃくでよくPOPsとともにひとまとめにされる[3]。プラスチック、レシート用紙ようし塗料とりょうほか多様たよう用途ようと使つかわれ、半減はんげんなが化学かがく物質ぶっしつかのように環境かんきょうちゅう存在そんざいしている[3]

環境かんきょう汚染おせん

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POPsは、みずうみ蓄積ちくせきし、食物しょくもつ連鎖れんさつうじて生物せいぶつ濃縮のうしゅくされるため、環境かんきょうだけでなく人間にんげん健康けんこうにも潜在せんざいてき脅威きょういがある[5]ふるいものはすで世界中せかいじゅうのさまざまなみずうみから検出けんしゅつされているが、新興しんこうのPOPsはまだみずうみから検出けんしゅつされていない[5]。さらに、地下水ちかすいみゃく井戸水いどみず継続けいぞくてき利用りようするなかで、体内たいない蓄積ちくせきすることもある。

健康けんこうへの影響えいきょう

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以下いかのような健康けんこうへの悪影響あくえいきょうとの関連かんれん研究けんきゅうされている(明確めいかくではないものもある)[4]

  • OCP - 内分泌ないぶんぴつかくらん不妊症ふにんしょう胎児たいじ奇形きけい、がん、糖尿とうにょうびょうこころ血管けっかん病気びょうき[4]
  • PCB - 内分泌ないぶんぴつかくらん神経しんけい肝臓かんぞう、がん、糖尿とうにょうびょう肥満ひまんこころ血管けっかん病気びょうき[4]
  • PBDE - 生殖せいしょく精巣せいそうがん、糖尿とうにょうびょう肥満ひまんこころ血管けっかん病気びょうき[4]
  • ダイオキシン - 認知にんち機能きのう精神せいしん運動うんどう、がん、糖尿とうにょうびょう肥満ひまんこころ血管けっかん病気びょうき[4]
  • PAH - DNA損傷そんしょう男性だんせい精子せいし呼吸こきゅう疾患しっかんにゅうがんや認知にんち機能きのう[4]

ダイオキシンやOCBはよく研究けんきゅうされてきたが、よりあたらしいPOPsほど研究けんきゅうすくなく、動物どうぶつ実験じっけんから健康けんこうへの影響えいきょう推定すいていされており、その影響えいきょう解明かいめいされているとはえない[3]

排泄はいせつ

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あぶらしょう事件じけん治療ちりょう研究けんきゅうなどでしめされているよう、PCBなどダイオキシンるいあぶら溶性ようせいおも排泄はいせつ経路けいろは、くそ皮脂ひしである[6]。ある計測けいそくでは、1にち排泄はいせつりょう糞便ふんべんから18.3pg TEQと皮脂ひしから23.8 pg TEQであった[7]皮脂ひしへのPCBの排泄はいせつりょうは、ふゆではやく10%低下ていかしているのみでこう濃度のうど分泌ぶんぴつされていることにはわりがない[8]

ポリ塩化えんかビフェニル (PCB) では、その同位どういたいによってちがいがあるがあせにも尿にょうにもおな水準すいじゅんふくまれ(上述じょうじゅつとお主要しゅようでない排出はいしゅつ経路けいろ)、あせからおお排泄はいせつされている一部いちぶのPCBではあせ重要じゅうよう排泄はいせつ経路けいろである可能かのうせいがある[9]。プラスチックに使つかわれるビスフェノールA (BPA) の排泄はいせつ調査ちょうさで、20にん参加さんかしゃは、赤外線せきがいせんサウナで10にんしサウナで7にんのこりは運動うんどうあせをかき、それぞれの発汗はっかん方法ほうほうによる有意ゆういはなく、うち16にんでは血液けつえき尿にょうからのBPAの検出けんしゅつはなかったが、あせからはBPAが検出けんしゅつされていたためあせ以外いがい利用りようしたほかの調査ちょうさ信頼しんらいできない可能かのうせいがある。しかしまだ参加さんかしゃかずすくないためひろ一般いっぱんすることはできない。[10]

ほう規制きせい

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POPs条約じょうやく規制きせい

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製造せいぞう使用しよう原則げんそく禁止きんし(付属ふぞくしょA)
製造せいぞう使用しよう原則げんそく制限せいげん(付属ふぞくしょB)
  • DDT (殺虫さっちゅうざい)
  • PFOSとそのしおPFOSF(PFOSについては半導体はんどうたい用途ようととうにおける製造せいぞう使用しようとう禁止きんし除外じょがい規定きてい) 
意図いとてき生成せいせい物質ぶっしつ排出はいしゅつ削減さくげん(付属ふぞくしょC)

※HCB、PeCB、PCBは附属ふぞくしょAと重複じゅうふく

EUの規制きせい

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ POPs 残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつ”. 環境省かんきょうしょう. 2018ねん1がつ28にち閲覧えつらん
  2. ^ 残留ざんりゅうせい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつかんするストックホルム条約じょうやく 外務省がいむしょう
  3. ^ a b c d e f g h i j k Haffner, Darrah; Schecter, Arnold (2014). “Persistent Organic Pollutants (POPs): A Primer for Practicing Clinicians”. Current Environmental Health Reports 1 (2): 123–131. doi:10.1007/s40572-014-0009-9. https://doi.org/10.1007/s40572-014-0009-9. 
  4. ^ a b c d e f g h i j k Guo W, Pan B, Sakkiah S, Yavas G, Ge W, Zou W, Tong W, Hong H (2019-12). “Persistent Organic Pollutants in Food: Contamination Sources, Health Effects and Detection Methods”. Int J Environ Res Public Health 16 (22). doi:10.3390/ijerph16224361. PMC 6888492. PMID 31717330. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6888492/. 
  5. ^ a b Li C, Yang L, Shi M, Liu G (2019-09). “Persistent organic pollutants in typical lake ecosystems”. Ecotoxicol. Environ. Saf. 180: 668–678. doi:10.1016/j.ecoenv.2019.05.060. PMID 31146153. 
  6. ^ 小栗おぐり一太かずたあかみね昭文あきふみ古江ふるえぞうたかしだい9しょう」『あぶらしょう研究けんきゅう 30ねんあゆ九州大学きゅうしゅうだいがく出版しゅっぱんかい、2000ねん6がつISBN 4-87378-642-8。292、295ぺーじ
  7. ^ KitamuraKimiyoshi、NagahashiMasahito、SunagaMasahiro、WATANABEShaw、NAGAOMinako「Balance of Intake and Excretion of 20 Congeners of Polychlorinated Dibenzo-p-dioxin, Polychlorinated Dibenzofuran and Coplanar Polychlorinated Biphenyl in Healthy Japanese Men」『Journal of health science』だい47かんだい2ごう、2001ねん4がつ1にち、145-154ぺーじdoi:10.1248/jhs.47.145 
  8. ^ 渡辺わたなべ雅久まさひさ小川おがわ文秀ふみひで片山かたやま一朗いちろうとくまつ有香ゆか皮脂ひしちゅうPCB濃度のうど身体しんたい部位ぶいによる相違そうい皮脂ひしりシートをもちいた皮脂ひし採取さいしゅこころ」(PDF)『福岡ふくおか医学いがく雑誌ざっしだい90かんだい5ごう、1999-525、154-156ぺーじ 
  9. ^ Genuis SJ, Beesoon S, Birkholz D (2013). “Biomonitoring and Elimination of Perfluorinated Compounds and Polychlorinated Biphenyls through Perspiration: Blood, Urine, and Sweat Study”. ISRN Toxicol 2013: 483832. doi:10.1155/2013/483832. PMC 3776372. PMID 24083032. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/24083032/. 
  10. ^ Genuis SJ, Beesoon S, Birkholz D, Lobo RA (2012). “Human excretion of bisphenol A: blood, urine, and sweat (BUS) study”. J Environ Public Health 2012: 185731. doi:10.1155/2012/185731. PMC 3255175. PMID 22253637. https://doi.org/10.1155/2012/185731. 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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