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有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』

　有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつ（ゆうきえんそかごうぶつ、organochlorine compound）または有機ゆうき塩化えんか物ぶつ（ゆうきえんかぶつ、organochloride）は、分子ぶんし内ないに塩素えんそ原子げんしを含ふくむ有機ゆうき化合かごう物ぶつである。構造こうぞうや化学かがく的てき性質せいしつの多様たよう性せいのため、その用途ようとは多岐たきに渡わたる。有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつは基本きほん的てきには水みずと混まざらず、また、塩素えんそ原子げんしの重おもさのために水みずより密度みつどが高たかくなる。

利用りよう

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最もっとも単純たんじゅんな有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつは、塩素えんそ化か炭化たんか水素すいそである。これらは1つ以上いじょうの水素すいそ原子げんしが塩素えんそ原子げんしに置換ちかんした炭化たんか水素すいそである。低てい分子ぶんし量りょうの塩素えんそ化か炭化たんか水素すいそは主おもに溶媒ようばいとして使つかわれ、クロロホルムやジクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレンなどがある。これらの溶媒ようばいは比較的ひかくてき非ひ極性きょくせいであり、脱脂だっしやドライクリーニングに使つかわれている。

農業のうぎょうにおいて殺虫さっちゅう剤ざいとして使つかわれている有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつには、DDT、ジコホール、ヘプタクロル、エンドスルファン、クロルデン、マイレックス、そしてペンタクロロフェノールなどがある。これらはその分子ぶんし構造こうぞうによって親水しんすい性せいにも疎水そすい性せいにもなりうる。

ポリ塩化えんかビフェニル (PCBs) は、かつて電気でんき絶縁ぜつえん体たいおよび熱ねつ媒体ばいたいとして広ひろく用もちいられたが、毒性どくせいが問題もんだいとなり、2001年ねんに採択さいたくされた「残留ざんりゅう性せい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつに関かんするストックホルム条約じょうやく」によって世界せかい的てきに使用しようが禁止きんしされつつある。

塩素えんそ化かアルケンは様々さまざまな物質ぶっしつの合成ごうせいに使つかわれる。例たとえば、塩化えんかビニルはポリ塩化えんかビニル (PVC) の合成ごうせいに使つかわれる。

甘味あまみ料りょうであるスクラロース（C12H19Cl3O8）はダイエット食品しょくひんとして広ひろく使つかわれている。

2004年ねん現在げんざい、抗ヒスタミン剤こうひすたみんざいのロラタジン（クラリチン）、抗こううつ剤ざいのセルトラリン（ゾロフト）、抗こうてんかん剤ざいのラモトリジン（ラミクタル）、吸入きゅうにゅう麻酔ますい薬やくのイソフルランなど、少すくなくとも 165 種しゅの有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつが医薬品いやくひんとして認可にんかされている[1]。

自然しぜん界かいでの存在そんざい

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有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつが天然てんねんに存在そんざいすることは、極きわめて稀まれであるが、以下いかのような事例じれいが知しられている。

ヤドクガエル
森林しんりん火災かさい
  • 単純たんじゅんな構造こうぞうの有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつは、有機物ゆうきぶつと食塩しょくえんなどの塩素えんそ化合かごう物ぶつがある程度ていどの高温こうおん条件下じょうけんかで反応はんのうすれば発生はっせいする。天然てんねんに存在そんざいするクロロメタンの大だい多数たすうは生なま分解ぶんかいや森林しんりん火災かさい、火山かざん活動かつどうによって自然しぜんに合成ごうせいされる[8]。
  • ジクロロメタン・クロロホルム・四よん塩化えんか炭素たんそなどの様々さまざまな単純たんじゅん塩素えんそ化か炭化たんか水素すいそが海藻かいそうから単たん離はなされている[9]。
  • ダイオキシン類るいは森林しんりん火災かさいなどの高温こうおん条件じょうけんにおいて発生はっせいし、また雷かみなりによる発火はっかで生しょうじた灰はいの中なかからも発見はっけんされている[10]。

毒性どくせい

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かつては防疫ぼうえき対策たいさくに用もちいられていたDDT

有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつのいくつかは、ヒトを含ふくめた動植物どうしょくぶつに対たいして強つよい毒性どくせいを持もつ。塩素えんそを含ふくむ有機物ゆうきぶつを燃焼ねんしょうさせたとき生成せいせいするダイオキシン類るいや、DDTに代表だいひょうされる数すう種しゅの殺虫さっちゅう剤ざいは、残留ざんりゅう性せい有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつであり、環境かんきょう中ちゅうに放出ほうしゅつされると長期ちょうきにわたって生態せいたい系けいに影響えいきょうを与あたえる。

例たとえば DDT は20世紀せいき中頃なかごろに殺虫さっちゅう剤ざいとして広ひろく用もちいられたが、生体せいたい中ちゅうで代謝たいしゃ分解ぶんかいされず、また脂肪しぼう組織そしきに溶とけ込こみ排出はいしゅつされにくいため、食物しょくもつ連鎖れんさを通とおした生物せいぶつ濃縮のうしゅくによって上位じょうい捕食ほしょく者しゃの体内たいないに高こう濃度のうどで蓄積ちくせきされた。この結果けっか、鳥類ちょうるいではカルシウム代謝たいしゃを阻害そがいされ、数すう種しゅの鳥類ちょうるい捕食ほしょく者しゃではその個体こたい数すうの激はげしい低下ていかがあった。

レイチェル・カーソン

レイチェル・カーソンは DDT の農薬のうやく毒性どくせいを公衆こうしゅうに認識にんしきさせるため、1962年ねんに『沈黙ちんもくの春はる』を著あらわした。以降いこう、多おおくの国々くにぐにが数すう種しゅの有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつの使用しようを段階だんかい的てきに廃止はいしし、生産せいさん・使用しようが制限せいげんされて長年ながねん経過けいかしたにもかかわらず、残留ざんりゅうした DDT や PCBなど多おおくの有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつがヒトや哺乳類ほにゅうるいにおいて継続けいぞく的てきに検出けんしゅつされており、特とくに北極圏ほっきょくけんの海うみ生せい哺乳類ほにゅうるいで高こう濃度のうどである。これらの化学かがく種しゅは哺乳類ほにゅうるいでは母乳ぼにゅうに含ふくまれるため授乳じゅにゅうによって子こに移動いどうする。

四よん塩化えんか炭素たんそのような塩素えんそ化か溶媒ようばいは適切てきせつな処分しょぶんを行おこなわないと地下水ちかすいに蓄積ちくせきする。ホスゲンのようないくつかの高こう反応はんのう性せい有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつは化学かがく兵器へいきに使つかわれた。

一般いっぱんに、有機ゆうき塩素えんそ化合かごう物ぶつの毒性どくせいは含ふくまれる塩素えんそ原子げんしに直接ちょくせつ由来ゆらいするものではない。一方いっぽう、フロン類るいに含ふくまれる塩素えんそはオゾン層そうを破壊はかいする直接的ちょくせつてきな原因げんいんとなっている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ MDL Drug Data Report (MDDR), Elsevier MDL, version 2004.2
  2. ^ a b Gordon W. Gribble (1998). “Naturally Occurring Organohalogen Compounds”. Acc. Chem. Res. 31 (3): 141–152. doi:10.1021/ar9701777. 
  3. ^ Gordon W. Gribble (1999). “The diversity of naturally occurring organobromine compounds”. Chemical Society Reviews 28 (5): 335. doi:10.1039/a900201d. 
  4. ^ Kjeld C. Engvild (1986). “Chlorine-Containing Natural Compounds in Higher Plants”. Phytochemistry 25 (4): 7891–791. 
  5. ^ Pless, Tanja; Boettger, Michael; Hedden, Peter; Graebe, Jan (1984). “Occurrence of 4-Cl-indoleacetic acid in broad beans and correlation of its levels with seed development”. Plant Physiology 74 (2): 320–3. PMC 1066676. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1066676/. 
  6. ^ Magnus, Volker; Ozga, Jocelyn A.; Reinecke, Dennis M.; Pierson, Gerald L.; Larue, Thomas A.; Cohen, Jerry D.; Brenner, Mark L. (1997). “4-chloroindole-3-acetic and indole-3-acetic acids in Pisum sativum”. Phytochemistry 46 (4): 675–681. doi:10.1016/S0031-9422(97)00229-X. 
  7. ^ Christian Nilewski, Roger W. Geisser & Erick M. Carreira, "Total synthesis of a chlorosulpholipid cytotoxin associated with seafood poisoning", Nature 457, 573-576 (2009). doi:10.1038/nature07734
  8. ^ Public Health Statement - Chloromethane, Centers for Disease Control, Agency for Toxic Substances and Disease Registry
  9. ^ Gribble, G. W. (1996). “Naturally occurring organohalogen compounds - A comprehensive survey”. Progress in the Chemistry of Organic Natural Products 68: 1–423. doi:10.1021/np50088a001. 
  10. ^ Gribble, G.W. (1994). “The Natural production of chlorinated compounds”. Environmental Science and Technology 28: 310A–319A. doi:10.1021/es00056a001. 

関連かんれん項目こうもく

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炭素たんそとの化学かがく結合けつごう
CH He
CLi CBe CB CC CN CO CF Ne
CNa CMg CAl CSi CP CS CCl CAr
CK CCa CSc CTi CV CCr CMn CFe CCo CNi CCu CZn CGa CGe CAs CSe CBr CKr
CRb CSr CY CZr CNb CMo CTc CRu CRh CPd CAg CCd CIn CSn CSb CTe CI CXe
CCs CBa CHf CTa CW CRe COs CIr CPt CAu CHg CTl CPb CBi CPo CAt Rn
Fr CRa Rf Db CSg Bh Hs Mt Ds Rg Cn Nh Fl Mc Lv Ts Og
↓
CLa CCe CPr CNd CPm CSm CEu CGd CTb CDy CHo CEr CTm CYb CLu
Ac CTh CPa CU CNp CPu CAm CCm CBk CCf CEs Fm Md No Lr
凡例はんれい
有機ゆうき化学かがく 有機ゆうき金属きんぞく化学かがく
研究けんきゅう段階だんかい 未み発見はっけん
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