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猫又ねこまた

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
わきたかしこれひゃくかいまき』より「ねこまた」

猫又ねこまたねこまた(ねこまた)は、日本にっぽん民間みんかん伝承でんしょう古典こてん怪談かいだん随筆ずいひつなどにあるネコ妖怪ようかい大別たいべつしてやまなかにいるししといわれるものと、人家じんかわれているネコが年老としおいてけるといわれるものの2種類しゅるいがある[1]

山中さんちゅう猫又ねこまた

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荻田おぎた安静あんせい宿直しゅくちょくそう』より「ねこまたといふこと」。狩人かりゅうど自分じぶんははけた猫又ねこまた左下ひだりした)を場面ばめん

中国ちゅうごくでは日本にっぽんよりふるずい時代じだいには「ねこおに(びょうき)」「きむはなねこ」といったかいねこはなしつたえられていたが、日本にっぽんにおいては鎌倉かまくら時代ときよ前期ぜんき藤原ふじわら定家さだいえによる『明月めいげつ』の天福てんぷく元年がんねん1233ねん8がつ2にち記事きじに、南都なんと現在げんざい奈良ならけん)で「『ねこ胯』がいちばんすうにん人間にんげんころした」という記述きじゅつがある。この記述きじゅつ文献ぶんけんじょう登場とうじょうした初出しょしゅつとされており、猫又ねこまた山中さんちゅうししとしてかたられていた。ただし、『明月めいげつ』の猫又ねこまた容姿ようしについて「はネコのごとく、からだおおきいいぬのよう」としるされていることから、真偽しんぎ疑問ぎもんするこえもあり[2]人間にんげんが「ねこまたがやまい」という病気びょうきくるしんだという記述きじゅつがあるため、狂犬病きょうけんびょうにかかったししがその実体じったいとの解釈かいしゃくもある[3]。また、鎌倉かまくら時代じだい後期こうきの『徒然草つれづれぐさ』に「奥山おくやまに、ねこまたといふものありて、ひとしょくふなるとひとげんひけるに」としるされている(だい89だん[2][4]

江戸えど時代じだい怪談かいだんしゅうである『宿直しゅくちょくそう』や『りょ物語ものがたり』でも、猫又ねこまた山奥やまおくひそんでいるものとされ、深山みやま人間にんげんけてあらわれた猫又ねこまたはなしがあり[5][6]民間みんかん伝承でんしょうにおいても山間さんかん猫又ねこまたかんする伝承でんしょうおお[1]山中さんちゅう猫又ねこまた後世こうせい文献ぶんけんになるほど大型おおがたする傾向けいこうにあり、1685ねん貞享ていきょう2ねん)の『しん著聞ちょぶんしゅう』では、紀伊きいこく山中さんちゅうとらえられた猫又ねこまたは「イノシシほどのおおきさ」とあり、1775ねん安永やすなが4ねん)の『やまとくんしおり』では、猫又ねこまたごえ山中さんちゅうひびわたったとしるされていることから、ライオンヒョウほどのおおきさだったとかんがえられている。1809ねん文化ぶんか6ねん)の『寓意ぐういそう』でいぬをくわえていたという猫又ねこまたは「9しゃく5すんやく2.8メートル)」とある[2]

えつ中国ちゅうごく現在げんざい富山とやまけん)で猫又ねこまた人々ひとびところしたといわれる猫又山ねこまたやま会津あいづ現在げんざい福島ふくしまけん)で猫又ねこまた人間にんげんけてひとをたぶらかしたという猫魔ヶ岳ねこまがたけのように、猫又ねこまた伝説でんせつやま名前なまえになっている地域ちいきもある[3]猫又山ねこまたやまについては民間みんかん伝承でんしょうのみならず、実際じっさい山中さんちゅうおおきなネコがみついて人間にんげんおそったともかんがえられている[7]

人家じんかのネコがける猫又ねこまた

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境港さかいみなと水木みずきしげるロード設置せっちされた猫又ねこまたのブロンズぞう尻尾しっぽが2ほんかれている。

一方いっぽうで、おなじく鎌倉かまくら時代じだい成立せいりつの『古今ここん著聞ちょぶんしゅう』(1254ねん稿こう)のかんきょう法印ほういんはなしでは、嵯峨さが山荘さんそうわれていたからねこ秘蔵ひぞうまもがたなをくわえてし、ひとったがそのまま姿すがたをくらましたとつたえ、このねこ魔物まものけていたものとのこしたが、前述ぜんじゅつの『徒然草つれづれぐさ』ではこれもまた猫又ねこまたとし、やまにすむ猫又ねこまたほかに、ねことしるとけてひとったりさらったりするようになるとかたっている[4]

江戸えど時代じだい以降いこうには、人家じんかわれているネコが年老としおいて猫又ねこまたけるというかんがえが一般いっぱんし、前述ぜんじゅつのようにやまにいる猫又ねこまたは、そうしたいたネコがいえからやまうつんだものとも解釈かいしゃくされるようになった。そのために、ネコをなが年月としつきにわたってうものではないという俗信ぞくしんも、日本にっぽん各地かくちまれるようになった[1]

江戸えど中期ちゅうき有職ゆうしょく伊勢いせ貞丈さだたけによる『安斎あんざい随筆ずいひつ』には「すうさいのネコは二股ふたまたになり、ねこまたという妖怪ようかいとなる」という記述きじゅつられる。また江戸えど中期ちゅうき学者がくしゃである新井あらい白石はくせきも「いたネコは『ねこまた』となってひとまどわす」とべており、いたネコが猫又ねこまたとなることは常識じょうしきてきかんがえられ、江戸えど当時とうじ瓦版かわらばんなどでもこうしたネコの怪異かいいほうじられていた[2]

一般いっぱんに、猫又ねこまたの「また」は二又ふたまたかれていることが語源ごげんといわれるが、民俗みんぞくがくてき観点かんてんからこれを疑問ぎもんし、ネコがとしかさねてけることから、重複じゅうふく意味いみである「また」とせつや、前述ぜんじゅつのようにかつて山中さんちゅうししかんがえられていたことから、サルのように山中さんちゅう木々きぎあいだ自在じざいするとの意味いみで、サルを意味いみする「爰(また)」を語源ごげんとするせつもある[8]いたネコのかわけてうしろにがり、えたりかれているようにえることが由来ゆらいとのせつもある[9]

ネコはその眼光がんこう不思議ふしぎ習性しゅうせいにより、古来こらいから魔性ましょうのものとかんがえられ、葬儀そうぎ死者ししゃをよみがえらせたり、ネコをころすと7だいまでたたられるなどとおそれられており、そうした俗信ぞくしん背景はいけいとなって猫又ねこまた伝説でんせつまれたものとかんがえられている[3][10]。また、ネコと死者ししゃにまつわる俗信ぞくしんは、肉食にくしょくせいのネコが腐臭ふしゅうぎわける能力のうりょくけ、死体したいちかづく習性しゅうせいがあったためとかんがえられており、こうした俗信ぞくしんがもとで、死者ししゃ亡骸なきがらうば妖怪ようかいしゃ猫又ねこまた同一どういつされることもある[1]

また、日本にっぽんのネコの妖怪ようかいとしてられているものにねこがあるが、猫又ねこまたもネコがけた妖怪ようかいちがいないため、ねこまたねこはしばしば混同こんどうされる[11]

なお、カナダで2ほんつネコの写真しゃしんられている[12]

妖怪ようかい

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鳥山とりやま石燕せきえん画図えず百鬼夜行ひゃっきやこう』より「ねこまた」

江戸えど時代じだいには図鑑ずかん様式ようしき妖怪ようかい絵巻えまきおお制作せいさくされており、猫又ねこまたはそれらの絵巻えまきでしばしば妖怪ようかい題材だいざいになっている。1737ねんもとぶん2ねん刊行かんこうの『ひゃくかいまき』などでは、人間にんげん女性じょせいなりをした猫又ねこまた三味線しゃみせんかなでている姿すがたえがかれているが、江戸えど時代じだい当時とうじ三味線しゃみせん素材そざいめすのネコのかわおおもちいられていたため、猫又ねこまた三味線しゃみせんかなでて同族どうぞくあわれむうたうたっている[1]、もしくは一種いっしゅ皮肉ひにくなどと解釈かいしゃくされている[13]芸者げいしゃ服装ふくそうをしているのは、かつて芸者げいしゃがネコとばれたことと関連かんれんしているとの見方みかたもある[13]冒頭ぼうとう画像がぞう参照さんしょう)。

また1776ねん安永やすなが5ねん刊行かんこうの『画図えず百鬼夜行ひゃっきやこう』では(右側みぎがわ画像がぞう参照さんしょう)、かってひだり障子しょうじからかおしたネコ、かってみぎにはあたまぬぐいをせて縁側えんがわをついたネコ、中央ちゅうおうにはおなじくぬぐいをかぶって2ほんあしったネコがえがかれており、それぞれ、普通ふつうのネコ、年季ねんきがたりないために2ほんあしつことが困難こんなんなネコ、さらにとし完全かんぜんに2ほんあしつことのできたネコとして、普通ふつうのネコがとしとともに猫又ねこまた変化へんかしていく過程かていえがいたとものともられている[13]。また、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくボストン美術館びじゅつかんにビゲロー・コレクション(浮世絵うきよえコレクション)として所蔵しょぞうされている『百鬼夜行ひゃっきやこう絵巻えまき』にもほぼ同様どうよう構図こうず猫又ねこまたえがかれていることから、両者りょうしゃ関連かんれんせい指摘してきされている[14]

せんたぬき

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中国ちゅうごくで「せんたぬき(せんり、たぬき山猫やまねこ)」というねこ妖怪ようかいつたえられている。これはとし山猫やまねこ神通力じんずうりきにつけた存在そんざいであり、美男びなん美女びじょけて人間にんげん精気せいきうとされる[15]

日本にっぽん猫又ねこまた伝承でんしょうは、このせんたぬき起源きげんとするせつもある[16]

その

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脚注きゃくちゅう出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e 多田ただ 2000, pp. 170–171
  2. ^ a b c d ささあいだ 1994, pp. 127–12
  3. ^ a b c 石川いしかわ 1986, p. 696
  4. ^ a b 平岩ひらいわ 1992, pp. 36–66
  5. ^ 荻田おぎた安静あんせい編著へんちょ ちょ宿直しゅくちょくそう」、高田たかだまもるへんこうちゅう へん江戸えど怪談かいだんしゅうじょう岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1989ねん原著げんちょ1677ねん)、121-124ぺーじISBN 978-4-00-302571-0 
  6. ^ 編著へんちょしゃしょう ちょ「曾呂物語ものがたり」、高田たかだまもるへんこうちゅう へん江戸えど怪談かいだんしゅうちゅう岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1989ねん原著げんちょ1663ねん)、57-58ぺーじISBN 978-4-00-302572-7 
  7. ^ 谷川たにがわ健一けんいちぞく 日本にっぽん地名ちめい岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ新書しんしょ〉、1998ねん、146ぺーじISBN 978-4-00-430559-0 
  8. ^ 日野ひのいわお動物どうぶつ妖怪ようかいたんした中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ中公ちゅうこう文庫ぶんこ〉、2006ねん原著げんちょ1926ねん)、158-159ぺーじISBN 978-4-12-204792-1 
  9. ^ ネコのうんちく”. カフェ にゃんまる. 2013ねん12月30にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2014ねん12月23にち閲覧えつらん
  10. ^ 佐野さの賢治けんじ ちょ桜井さくらい徳太郎とくたろう へん民間みんかん信仰しんこう辞典じてん東京とうきょうどう出版しゅっぱん、1980ねん、223ぺーじISBN 978-4-490-10137-9 
  11. ^ 京極きょうごく夏彦なつひこ ちょ妖怪ようかいうたげ 妖怪ようかいくしげ だい6かい」、郡司ぐんじさとし へんかい』 vol.0029、角川書店かどかわしょてん〈カドカワムック〉、2010ねん、122ぺーじISBN 978-4-04-885055-1 
  12. ^ Hartwell, Sarah (2001-2009). “Winged Cats, What are they?” (英語えいご). Cat Resource Archive. Messybeast.com. 2010ねん4がつ26にち閲覧えつらん
  13. ^ a b c 古山ふるやま 2005, p. 155
  14. ^ 湯本ゆもとつよしいち編著へんちょぞく妖怪ようかいまき国書刊行会こくしょかんこうかい、2006ねん、161-165ぺーじISBN 978-4-336-04778-6 
  15. ^ しん紀元きげんしゃ編集へんしゅう へんしん女神めがみ転生てんせい悪魔あくま事典じてんけん伸明のぶあき監修かんしゅうしん紀元きげんしゃTruth In Fantasy〉、2003ねん、94ぺーじISBN 978-4-7753-0149-4 
  16. ^ 世界せかいまぼろしじゅうエンサイクロペディア』一条いちじょうしん監修かんしゅう講談社こうだんしゃ、2010ねん、194ぺーじISBN 978-4-06-215952-4 

参考さんこう文献ぶんけん

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