化ばけ猫ねこ

化ばけ猫ねこ（ばけねこ）は、日本にっぽんの妖怪ようかいの一種いっしゅ。その名なのとおりネコが妖怪ようかいに変化へんか（へんげ）したものであるが、猫又ねこまたと混同こんどうされることが多おおく^[2]、その区別くべつはあいまいである。

日本にっぽん各地かくちに化ばけ猫ねこの伝説でんせつが残のこされているが、佐賀さが県けんの鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどうが特とくに有名ゆうめいである（詳細しょうさいは、#鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどうを参照さんしょう）。

由来ゆらい

ネコが妖怪ようかい視しされたのは、ネコが夜行やこう性せいで眼めが光ひかり、時刻じこくによって瞳ひとみ（虹彩こうさい）の形かたちが変かわる、暗闇くらやみで背中せなかを撫なでれば静電気せいでんきで光ひかる、血ちを舐なめることもある、足音あしおとを立たてずに歩あるく、温厚おんこうと思おもえば野性やせい的てきな面めんを見みせることもあり、犬いぬと違ちがって行動こうどうを制御せいぎょしがたい、爪つめの鋭するどさ、身軽みがるさや敏捷びんしょう性せいといった性質せいしつに由来ゆらいすると考かんがえられている^[3]^[4]。

動物どうぶつの妖怪ようかい譚たんはネコ以外いがいにも、ヘビの執念深しゅうねんぶかさ、キツネが持もつ女性じょせいへの変身へんしん能力のうりょく、民話みんわ『かちかち山やま』などで人ひとを殺ころすタヌキの凶暴きょうぼう性せいなどがあるが、江戸えど時代じだいに入はいって都市としや町場ちょうばが形成けいせいされ、人間にんげんたちが自然しぜんから離はなれて生活せいかつすることが多おおくなると、そうした野生やせい動物どうぶつの妖怪ようかいとしての特徴とくちょうが、人間にんげんの身近みぢかにいながらも神秘しんぴ性せいを秘ひめた動物どうぶつであるネコのものとして語かたられることが多おおくなり、次第しだいに化ばけ猫ねこのイメージが作つくり上あげられていったとの解釈かいしゃくもある^[4]。

また、化ばけ猫ねこの俗信ぞくしんとして「行灯あんどんの油あぶらを舐なめる」というものがあり^[5]、江戸えど時代じだいの百科ひゃっか事典じてん『和漢わかん三さん才さい図会ずえ』にも、ネコが油あぶらを舐なめることは怪異かいいの兆候ちょうこうとある^[6]。これは近世きんせい、行灯あんどんなどの灯火ともしび用ように安価あんかな鰯いわし油ゆなどの魚油ぎょゆが用もちいられ、ネコがそうした魚油ぎょゆを好このんで舐なめたためと見みられている^[7]^[8]。また、当時とうじの日本人にっぽんじんの食生活しょくせいかつは穀物こくもつや野菜やさい類るいが中心ちゅうしんであり、その残のこりを餌えさとして与あたえられるネコは肉食にくしょく動物どうぶつながらタンパク質たんぱくしつや脂肪しぼう分ぶんが欠乏けつぼうした食生活しょくせいかつにあった。それを補おぎなうために行灯あんどんの油あぶらを舐なめることがあり、行灯あんどんに向むかって二に本ほん足あしで立たち上あがる姿すがたが妖怪ようかい視しされたものとの指摘してきもある^[9]。

こうしたネコの神秘しんぴ性せいは、江戸えど時代じだいの遊廓ゆうかくに勤つとめていた遊女ゆうじょのイメージとも結むすびつき、当時とうじの草双紙くさぞうしなどで人気にんきを博はくしていたキャラクター「化か猫ねこ遊女ゆうじょ」が生うまれる元もとにもなった^[10]。

民間みんかん伝承でんしょう

化ばけ猫ねこ同様どうようにネコの怪異かいいとして知しられる猫又ねこまたが、尻尾しっぽが二ふたつに分わかれるほど年としを経へたネコといわれることと同様どうように、老おいたネコが化ばけ猫ねこになるという俗信ぞくしんが日本にっぽん全国ぜんこくに見みられる。茨城いばらき県けんや長野ながの県けんでは12年ねん、沖縄おきなわ県けん国頭くにがみ郡ぐんでは13年ねん飼かわれたネコが化ばけ猫ねこになるといい、広島ひろしま県けん山県やまがた郡ぐんでは7年ねん以上いじょう飼かわれたネコは飼かい主ぬしを殺ころすといわれる。ネコの飼かい始はじめに、あらかじめ飼かう年数ねんすうを定さだめておいたという地方ちほうも多おおい^[11]。また地方ちほうによっては、人間にんげんに残忍ざんにんな殺ころされ方かたをしたネコが怨うらみを晴はらすため、化ばけ猫ねこになってその人間にんげんを呪のろうなど、老おいたネコに限かぎらない化ばけ猫ねこの話はなしもある^[12]。

化ばけ猫ねこのなす怪異かいいは様々さまざまだが、主おもなものとしては人間にんげんに変化へんかする^[13]^[14]、手拭てぬぐいを頭あたまにかぶって猫ねこおどりする^[13]^[15]、人間にんげんの言葉ことばを喋しゃべる^[13]^[15]、人間にんげんを祟たたる^[11]、死人しにんを操あやつる^[11]、人間にんげんに憑く^[11]、山やまに潜ひそみ、オオカミを引ひき連つれて旅人たびびとを襲おそう^[4]、などといったことがあげられる。珍めずらしい例れいでは、宮城みやぎ県けん牡鹿おしか郡ぐん網地島あじしまや島根しまね県けん隠岐諸島おきしょとうで、人間にんげんに化ばけたネコが相撲すもうを取とりたがったという話はなしもある^[14]。

ただしネコが喋しゃべるということについては、人間にんげんがネコを見みながら自分じぶんの心しんの中なかで思おもった言葉ことばを、あたかもネコが喋しゃべったかのように誤解ごかいしたものであり、妖怪ようかいの類るいではないとの指摘してきもある。1992年ねん（平成へいせい4年ねん）の読売新聞よみうりしんぶんには、ネコが人間にんげんの言葉ことばを喋しゃべったように聞きこえたが、よく聞きき直なおすと、単たんにネコが口くちごもった鳴なき声ごえが、人間にんげんの言葉ことばによく似にて聞きこえたに過すぎなかったとの記事きじが掲載けいさいされている^[3]。

江戸えど時代じだいには尾おがヘビのように長ながいネコが化ばけるという俗信ぞくしんがあり、尾おの長ながいネコが嫌きらわれ、尾おを切きる風習ふうしゅうもあった。現在げんざいの日本にっぽんのネコに尾おの短みじかいものが多おおいのは、尾おの短みじかい猫ねこが好このまれたことによる自然しぜん淘汰とうたとする説せつもある^[16]。

茨城いばらき県けん那珂なか郡ぐん額田ぬかた地区ちくでは、ネコが黒くろい雲くもに乗のって遺体いたいにいたずらしにくるという伝承でんしょうがある。鱗うろこ勝かち院いんの住職じゅうしょくが葬儀そうぎにいった際さい、西にしから黒くろい雲くもが発生はっせいした。読経どきょうをすると棺かんの上うえを黒くろい物ものが飛とび跳はねたため、払子ほっすで打うつと悲鳴ひめいを上あげ雲くもをとともに去さり、その後ご帰かえると養やしなっていたクロという名なの黒くろ猫ねこが片目かためになっていた。住職じゅうしょくは、ネコが魔物まものでいたずらするものと知しっていたため、檀家だんかに対たいし枕許まくらもとに刃物はものを置おくように伝つたえたとされる^[17]。

なお、老おいたネコが怪異かいいを為なすという俗信ぞくしんは日本にっぽんに限かぎったことではない。たとえば中国ちゅうごく浙江せっこう省しょう金華きんか地方ちほうでは、人間にんげんに3年ねん飼かわれたネコは人間にんげんを化ばかすといわれていた。特とくに白しろいネコが化ばけやすいといって白しろいネコを飼かうことを忌いむ風習ふうしゅうもあり、人間にんげんを化ばかす能力のうりょくを得える際さいには月つきから精力せいりょくを取とり込こむといわれたことから、月つきを見上みあげるネコを見みかけた者ものは、どんなに可愛かわいいネコでもその場ばで殺ころしたこともあったという^[18]。

文献ぶんけん・説話せつわ

鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどう

佐賀さが藩はん藩主はんしゅ龍造寺りゅうぞうじ氏しが公儀こうぎ権力けんりょくの介入かいにゅうによって重臣じゅうしん鍋島なべしま氏しに政権せいけん交代こうたいさせられた鍋島なべしま騒動そうどうをもとに創作そうさくされた物語ものがたり^[19]。龍造寺りゅうぞうじ氏しの恨うらみが化ばけ猫ねこ化かし、鍋島なべしま氏しを苦くるしめる筋書すじがき。女おんなを装よそおった化ばけ猫ねこが行燈あんどんの油あぶらを舐なめ、猫ねこの頭あたまが影絵かげえとなって映うつし出だされたことで本性ほんしょうが露ろになる場面ばめんが定番ていばんとなった^[20]。

肥前ひぜん国こく佐賀さが藩はんの2代だい藩主はんしゅ・鍋島なべしま光茂みつしげの時代じだい。光茂みつしげの碁ごの相手あいてを務つとめていた臣下しんかの龍造寺りゅうぞうじ又また七なな郎ろうが、光茂みつしげの機嫌きげんを損そこねたために斬殺ざんさつされ、又また七なな郎ろうの母ははも飼かっていたネコに悲かなしみの胸中きょうちゅうを語かたって自害じがい。母ははの血ちを嘗なめたネコが化ばけ猫ねことなり、城内きうちに入はいり込こんで毎晩まいばんのように光茂みつしげを苦くるしめるが、光茂みつしげの忠臣ちゅうしん・小森こもり半なかば左衛門さえもんがネコを退治たいじし、鍋島なべしま家かを救すくうという伝説でんせつ^[21]。

史実しじつでは鍋島なべしま氏し以前いぜんに龍造寺りゅうぞうじ氏しが肥前ひぜんを治おさめていたが、龍造寺りゅうぞうじ隆信たかのぶの死後しごは彼かれの補佐ほさだった鍋島なべしま直ただし茂しげるが実権じっけんを握にぎった後のち、隆信たかのぶの孫まごの高房たかふさが自殺じさつ、その父ちちの政せい家かも急死きゅうし。以来いらい、龍造寺りゅうぞうじ氏しの残党ざんとうが佐賀さが城下じょうかの治安ちあんを乱みだしたため、直ちょく茂しげるは龍造寺りゅうぞうじの霊れいを鎮しずめるため、天祐てんゆう寺てら（現げん・佐賀さが市し多布施たふせ）を建造けんぞうした。これが騒動そうどうの発端ほったんとされ、龍造寺りゅうぞうじの遺恨いこんを想像そうぞう上じょうのネコの怪異かいいで表現ひょうげんしたものが化ばけ猫ねこ騒動そうどうだと考かんがえられている^[21]^[22]。また、龍造寺りゅうぞうじ氏しから鍋島なべしま氏しへの実権じっけんの継承けいしょうは問題もんだいのないものだったが、高房たかぼうらの死しや、佐賀さが初代しょだい藩主はんしゅ・鍋島なべしま勝茂かつしげの子こが早はやくに亡なくなったことなどから、一連いちれんの話はなしが脚色きゃくしょくされ、こうした怪談かいだんに発展はってんしたとの指摘してきもある^[23]。

この伝説でんせつは後のちに芝居しばい化かされ、嘉よしみ永ひさし時代じだいには中村なかむら座ざで『花はな嵯峨野さがの猫魔ねこま碑ひ史し』として初はつ上演じょうえんされた。題名だいめいの「嵯峨野さがの（さがの）」は京都きょうと市しの地名ちめいだが、実際じっさいには「佐賀さが」をもじったものである。この作品さくひんは全国ぜんこく的てきな大人気おとなげを博はくしたものの、鍋島なべしま藩はんから苦情くじょうが出でたために間あいだもなく上演じょうえん中止ちゅうしに至いたった。しかし上演じょうえん中止ちゅうし申請しんせいに携たずさわった町奉行まちぶぎょうが鍋島なべしま氏しの鍋島なべしま直孝なおたかだったため、却かえって化ばけ猫ねこ騒動そうどうの巷説こうせつが有名ゆうめいになる結果けっかとなった^[23]^[24]。

後年こうねんには講談こうだん『佐賀さがの夜桜よざくら』、実録じつろく本ほん『佐賀さが怪かい猫ねこ伝でん』として世間せけんに広ひろく流布るふされた。講談こうだんでは龍造寺りゅうぞうじの後室こうしつから怨うらみを伝つたえられたネコが小森こもり半なかば左衛門さえもんの母おもや妻つまを食くい殺ころし、彼女かのじょらに化ばけて家いえを祟たたる。実録じつろくでは龍造寺りゅうぞうじの一いち件けんは関係かんけいしておらず、鍋島なべしま藩士はんしの小森こもり半はん太夫たゆうに虐待ぎゃくたいされた異国いこく種しゅのネコが怨うらみを抱いだき、殿しんがりの愛妾あいしょうを食くい殺ころしてその姿すがたに成なり変かわり、御家おいえに仇かたきをなすが、伊藤いとう惣そう太たいらに退治たいじされるという筋すじである^[25]。

昭和しょうわ初期しょきにはこの伝説でんせつを原案げんあんとした『佐賀さが怪かい猫ねこ伝でん』『怪談かいだん佐賀さが屋敷やしき』『秘録ひろく怪かい猫ねこ伝でん』などの化ばけ猫ねこ映画えいがが大人気おとなげとなり^[26]、化ばけ猫ねこ役やくを多おおく演えんじる入江いりえたか子こ、鈴木すずき澄子すみこといった女優じょゆうが「化ばけ猫ねこ女優じょゆう」として知しられることとなった^[18]。

その他た

ネコを妖怪ようかい視しする記述きじゅつが文献ぶんけん類るいに登場とうじょうするのは、鎌倉かまくら時代ときよの頃ころからである。同どう時代じだいの説話せつわ集しゅう『古今ここん著聞ちょぶん集しゅう』には、奇妙きみょうな行動こうどうをとるネコを指さして「魔まの変化へんかしたものではないか」と疑うたがう記述きじゅつが見みられる^[27]。この頃ころの古ふるい化ばけ猫ねこの話はなしには、寺院じいんで飼かっていたネコが化ばけたなど、寺てらにまつわる話はなしが多おおいことが特徴とくちょうだが、これは当時とうじの仏教ぶっきょうの伝来でんらいにともない、経典きょうてんをネズミに齧かじられることを防ふせぐためにネコが一緒いっしょに輸入ゆにゅうされたことが理由りゆうの一ひとつと考かんがえられている^[16]。

江戸えど時代じだいに入はいると、化ばけ猫ねこの話はなしは各種かくしゅの随筆ずいひつや怪談かいだん集しゅうに登場とうじょうするようになる。民間みんかん伝承でんしょうのようにネコが人間にんげんに化ばける話はなしや人間にんげんの言葉ことばを喋しゃべる話はなしは『兎うさぎ園えん小説しょうせつ^[18]』『耳みみ嚢^[28]^[29]』『新しん著聞ちょぶん集しゅう^[30]』『西にし播怪談だん実記じっき^[31]』などに、ネコが踊おどる話はなしは『甲子きのえね夜話やわ^[32]』『尾張おわり霊異れいい記き^[33]』などに見みられる。『耳みみ嚢』4巻かんによれば、どのネコも10年ねんも生いきれば言葉ことばを話はなせるようになり^{[* 2]}、キツネとネコの間あいだに生うまれたネコは10年ねんと経たたずとも口くちがきける、と述のべられている^[34]。化ばける話はなしにおいては、老おいたネコが人間にんげんの老女ろうじょに化ばけることが非常ひじょうに多おおい^[3]。化ばけ猫ねこの怪談かいだんはこの江戸えど時代じだいが全盛期ぜんせいきであり、前述ぜんじゅつの「鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどう」などが芝居しばいで上演じょうえんされたことでさらに有名ゆうめいなものとなった^[27]。

播磨はりま国こく宍粟しさわ郡ぐん山崎やまざき町まち牧谷まきや（現げん・兵庫ひょうご県けん宍粟しさわ市し内うち）には、辛川からかわ某ぼうなる人ひとが化ばけ猫ねこを退治たいじした話はなしが伝つたわっている。同様どうようの話はなしは同国どうこくの神西じんざい郡ぐん福崎ふくさき村むら谷口たにぐち（現げん・神崎かんざき郡ぐん福崎ふくさき町まち谷口たにぐち）にも伝つたわっており、金剛こんごう城じょう寺てらで村人むらびとを困こまらせていた化ばけ猫ねこを寺侍てらざむらいが退治たいじし、化ばけ猫ねこは茶釜ちゃがまの蓋ぶたや鉄てつ鍋なべで矢やや鉄砲玉てっぽうだまを防ふせいだという。これらはあたかもスサノオのヤマタノオロチ退治たいじのように、土地とちの旧家きゅうかが活躍かつやくしている点てんが共通きょうつうしている^[4]。

明治めいじ時代じだいには、1909年ねん（明治めいじ42年ねん）に東京とうきょうの本所ほんじょの長屋ながやでネコが踊おどり出だしたという記事きじが、『報知ほうち新聞しんぶん』『萬まん朝あさ報ほう』『やまと新聞しんぶん』に掲載けいさいされている^[35]。

史跡しせき

妙みょう多た羅ら天女てんにょ（みょうたらてんにょ） - 新潟にいがた県けん弥彦やひこ神社じんじゃ: 詳細しょうさいは内部ないぶリンク先さきを参照さんしょう。由来ゆらいとして、文化ぶんか時代じだいの随筆ずいひつ『北国きたぐに奇談きだん巡じゅん杖つえ記き』にネコにまつわる怪異かいい譚たんが記述きじゅつされており、同書どうしょでは「みょう」に「猫ねこ」の字じをあてて「猫ねこ多た羅ら天女てんにょ」と表記ひょうきされている^[36]。北陸ほくりく地方ちほうの説話せつわによる別べつ説せつでは、老おいたネコが老婆ろうばを食くい殺ころしてその老婆ろうばになりかわり、後のちに改心かいしんして妙みょう多た羅ら天たかしとして祀まつられたという「弥三郎やさぶろう婆ばば話ばなし」があり、北海道ほっかいどう・北きた奥羽おうう地方ちほうの「三さん左衛門さえもん猫ねこ」など、類るい話ばなしが全国ぜんこくに伝つたわっている^[4]^[37]。

横浜よこはま市営しえい地下鉄ちかてつ・踊場おどりば駅えきの駅名えきめいの由来ゆらいを刻きざむ石碑せきひ

猫ねこの踊おどり場ば（ねこのおどりば） - 神奈川かながわ県けん横浜よこはま市し泉いずみ区く: かつて東海道とうかいどう五ご十じゅう三さん次じの戸塚とつか宿やど（現げん・神奈川かながわ県けん横浜よこはま市し戸塚とつか区く）の醤油じょうゆ屋やで、夜よるになると手拭てぬぐいが1本ほんずつなくなることがあった。ある夜よるに醤油じょうゆ屋やの主人しゅじんが仕事しごとに出でかけると、人ひとのいないはずの寂さびしい場所ばしょから賑にぎやかな音楽おんがくが聞きこえた。見みると、そこには何なん匹ひきものネコたちが集あつまり、その中心ちゅうしんでは主人しゅじんの飼かいネコが手拭てぬぐいをかぶって踊おどっていた。主人しゅじんは、手拭てぬぐいがなくなったのはあのネコの仕業しわざかと納得なっとくしたという。; このネコの踊おどっていた場所ばしょは踊場おどりばと呼よばれ、後のちには泉いずみ区くの踊場おどりば交差点こうさてんや横浜よこはま市営しえい地下鉄ちかてつの踊場おどりば駅えきの駅名えきめいなどに地名ちめいとして残のこされることとなった。踊場おどりば交差点こうさてんには1737年ねん（元もと文ぶん2年ねん）にネコの霊れいを鎮しずめるための供養くよう塔とうが建たてられており^[38]、踊場おどりば駅えき構内こうないには随所ずいしょにネコをモチーフとしたデザインが施ほどこされている（画像がぞう参照さんしょう）。

お松まつ大だい権現ごんげん（おまつだいごんげん） - 徳島とくしま県けん阿南あなん市し加茂かも町まち: 江戸前えどまえ期き、加茂かも村むら（現げん・加茂かも町まち）の庄屋しょうやが不作ふさくにあえぐ村むらを救すくうために富豪ふごうに金かねを借かりたが、すでに返済へんさいしたにもかかわらず、富豪ふごうの策略さくりゃくで未み返済へんさいの濡ぬれ衣ぎぬを着きせられ、失意しついの内うちに病死びょうし。借金しゃっきんの担保たんぽになっていた土地とちは富豪ふごうに取とり上あげられてしまう。庄屋しょうやの妻つまのお松まつは奉行ぶぎょう所しょに訴うったえ出でるも、富豪ふごうに買収ばいしゅうされた奉行ぶぎょうは不当ふとうな裁さばきを下くだす。お松まつがそれを不服ふふくとして藩主はんしゅに直訴じきそした結果けっか、直訴じきその罪つみにより処刑しょけいされ、お松まつの飼かっていた三さん毛もう猫ねこが化ばけ猫ねことなり、富豪ふごうや奉行ぶぎょうらの家いえを滅ほろぼしたという伝説でんせつに由来ゆらいする。; お松まつ大だい権現ごんげんは、命いのちをかけて正義せいぎを貫つらぬいたお松まつの墓所はかしょを祀まつったもので、お松まつの仇かたきを討うった三さん毛もう猫ねこは猫ねこ塚づかとして祀まつられており、境内けいだいには全国ぜんこく的てきにも珍めずらしいネコの狛犬こまいぬもある^[39]。直訴じきそによって悪人あくにんを倒たおしたという伝説でんせつから、勝負事しょうぶごとにもご利益りやくがあるといわれ、受験じゅけんシーズンには受験生じゅけんせいの合格ごうかく祈願きがんも多おおい^[40]。

猫ねこ大明神だいみょうじん祠ほこら（ねこだいみょうじんし） - 佐賀さが県けん杵島きしま郡ぐん白石しらいし町まち

「鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどう」と同様どうよう、鍋島なべしま氏しにまつわる怪異かいい譚たんに由来ゆらいする史跡しせき。化ばけ猫ねこが鍋島なべしま勝茂かつしげの妾わらわに化ばけて勝茂かつしげの命いのちを狙ねらうが、勝茂かつしげの臣下しんかの千せん布ぬの本ほん右みぎ衛門えもんがそれを退治たいじする。しかしそれ以来いらい、ネコの祟たたりのためか千せん布ぬの家かに跡継あとつぎの男子だんしが生うまれなくなってしまったため、化ばけ猫ねこを大だい明神みょうじんとして秀しげる林寺はやしじ（現げん・白石しらいし町まち）の祠ほこらに祀まつったという。この祠ほこらには、7本ほんの尾おを持もつネコが牙きばを向むいた姿すがたで刻きざまれている^[39]。

史実しじつでは、かつて白石しろいしを治おさめていた秀しげる氏しの秀しゅう伊勢いせ守まもるが、鍋島なべしま氏しに尽つくしたにもかかわらず、キリシタンの疑うたがいをかけられて滅ほろぼされ、後のちに秀しげる氏しの残党ざんとうが鍋島なべしま氏しを怨うらんで抗あらがったことから、秀しゅう林寺はやしじでは秀しげる氏し一派いっぱの暗躍あんやくが化ばけ猫ねこにたとえられたものと見みており、これが「鍋島なべしまの化ばけ猫ねこ騒動そうどう」の原型げんけいになったとの説せつもある^[24]。

猫ねこ塚づか - 東京とうきょう都と港みなと区く三田みた: 「有馬ありまの化ばけ猫ねこ騒動そうどう」に由来ゆらいする史跡しせき。港みなと区立くりつ赤羽あかはね小学校しょうがっこうに現存げんそんしている^[41]。その一帯いったいは、江戸えど時代じだいには久留くる米べい藩はん有馬ありま家かの上屋敷かみやしきであった。

栽松院いんの猫ねこ塚づか - 宮城みやぎ県けん仙台せんだい市し若林わかばやし区く連坊れんぼう: 仙台せんだい藩はん御ご馬乗うまのり（おうまのり）草刈くさかり昌之まさゆき丞すすむの飼かい猫ねこ・清きよし女おんな（せいにょ）を祀まつった石碑せきひ。この猫ねこは隣となり屋敷やしきの飼かい鶏にわとりを食くい殺ころし、それを見み咎とがめられ数すう名めいの若わかい衆しゅによって散々さんざん棒ぼうで打うち据すえられたがそれでも再ふたたび取とり食くらったため、ついには日向ひなたぼっこの隙すきを狙ねらって鉄砲てっぽうで撃うち殺ころされた。石碑せきひには猫ねこ塚づかの二に文字もじと絵姿えすがたが刻きざまれており、建立こんりゅう当時とうじは猫ねこの目めに金箔きんぱく、首輪くびわに朱しゅが挿さされていたという。のち文久ぶんきゅう三さん年ねん（1863年ねん）にある好事家こうずかが仔細しさいを栽松院いん和尚おしょうに尋たずねて書かき本ほんに残のこしたのが上記じょうき一いち件けんであり、地ちの文ぶんには猫ねこを射殺しゃさつしたばかりに大だい芝居しばいが始はじまったとある。; これを大正たいしょう15年ねんに引用いんようした郷土きょうど史家しか富田とみた広重ひろしげは和尚おしょうの口くち憚はばかる様子ようすや殿様とのさまの名なが墨ぼく塗ぬりで隠かくされていることからこの猫ねこが身分みぶんある屋敷やしきの主おもに祟たたりをなしたと推察すいさつしている。^[42]一説いっせつによるとその主おもは片倉かたくらの殿様とのさまであったという。