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直訴じきそ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

直訴じきそ(じきそ)とは、

のこと。

日本にっぽんでは、近世きんせい直訴じきそもとにした比喩ひゆてき用法ようほうからてんじて、周囲しゅういへの相談そうだん根回ねまわなしに、権力けんりょくしゃ責任せきにんしゃ直接ちょくせつ談判だんぱんおこなうこともすようになった。

日本にっぽん

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中世ちゅうせい

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鎌倉かまくら幕府ばくふ御家人ごけにん竹崎たけざきちょうもと論功行賞ろんこうこうしょう不満ふまんいだ幕府ばくふ直訴じきそおこな恩賞おんしょうた、その経緯けいいみずからが作成さくせいさせたこうむ襲来しゅうらい絵詞えことば収録しゅうろくされている。

近世きんせい

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以下いかでは、近世きんせい直訴じきそについてべる。

概要がいよう

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近世きんせいにおいて一般いっぱん民衆みんしゅう農民のうみん町人ちょうにん)や下級かきゅう武士ぶし原告げんこくとした訴訟そしょうは、原則げんそくてき所轄しょかつ奉行ぶぎょうしょなどがあつかうこととなっていた。この原則げんそく回避かいひして直接ちょくせつ将軍しょうぐんまくかくうったえる行為こうい直訴じきそんだ。また、本来ほんらい手続てつづきや担当たんとうしゃを「して」おこなわれることから、越訴えっそ(おっそ、えっそ)ともわれた。その方法ほうほうとして外出がいしゅつちゅうかご方法ほうほうることもおおく、それをかご(かごそ)とった。 うったえの目的もくてきはさまざまあるが、たとえば年貢ねんぐりつ問題もんだいなど、奉行ぶぎょうしょなどでは解決かいけつできない問題もんだいについてのうったえをする場合ばあいや、領主りょうしゅ代官だいかんうったえる場合ばあいなどがあった。

近世きんせいにおける百姓ひゃくしょう一揆いっき形態けいたい変遷へんせんなか初期しょき(17世紀せいき)は佐倉さくら惣五郎そうごろう越訴えっそ事件じけんなどを代表だいひょうとする、直訴じきそによるものが中心ちゅうしんであり、これを「代表だいひょう越訴えっそがた」の一揆いっきんでいる[1]

明治めいじ以降いこうにも、足尾あしお銅山どうざん鉱毒こうどく事件じけんで、田中たなか正造しょうぞう明治天皇めいじてんのう直訴じきそをしようとしたことがられている。かれ当初とうしょ裁判さいばんとう遵法じゅんぽうてき手段しゅだん反対はんたい運動うんどうおこなったが、様々さまざま妨害ぼうがいい、最後さいご手段しゅだんとして天皇てんのうへの直訴じきそえらんだ。

ありかた

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世間せけん流布るふされた直訴じきそのイメージは年貢ねんぐ減免げんめんあく代官だいかんなどの不正ふせい農民のうみんうったえるなどという今日きょう行政ぎょうせい訴訟そしょう該当がいとうする事案じあんがほとんどであったように誤解ごかいされている。しかし実際じっさいには民事みんじ刑事けいじ行政ぎょうせいそれぞれの訴訟そしょう分野ぶんや直訴じきそおこなわれていた。これは近世きんせい訴訟そしょう手続てつづじょう一般いっぱん民衆みんしゅううったえを提起ていきするには所属しょぞくするまちむら役人やくにん同意どうい必要ひつようとされていたことに起因きいんしている。たとえば江戸えど町民ちょうみん原告げんこくとする民事みんじ事件じけんではまず最初さいしょ原告げんこく所属しょぞくする町役人まちやくにん事件じけん相談そうだんおこなう。相談そうだんけた町役人まちやくにん被告ひこくがわ町役人まちやくにん経由けいゆ調停ちょうていおこないその結果けっか町役人まちやくにん調停ちょうていによる解決かいけつ不可能ふかのうであると判断はんだんしてはじめて町奉行まちぶぎょうしょうったえを提起ていきすることができた。いわゆる現在げんざいでいうところの調停ちょうていまえおけ制度せいどである。この町役人まちやくにん調停ちょうてい当事とうじしゃ不満ふまんいた場合ばあい町役人まちやくにん怠慢たいまん真面目まじめ活動かつどうしていない』あるいは『相手方あいてがた結託けったくしてこちらに不利ふり調停ちょうていおこなっている』などの理由りゆうげて町役人まちやくにん同意どういなしに『ただちに訴訟そしょうけてしい』として直訴じきそおこなわれた。 また町民ちょうみんがわ調停ちょうていりょく裁判さいばんけんおよびにくい武家ぶけ寺社じしゃなどの特権とっけん階級かいきゅう相手方あいてがたとする民事みんじ事件じけんでも直訴じきそおこなわれた。この場合ばあいにはまくかくのみならず相手あいて武家ぶけ上役うわやく親類しんるいすじなどにも直訴じきそおこなわれた。 そして刑事けいじ事件じけんにおいてもさい審理しんりけい減免げんめんなどをねがかご訴がおこなわれており、上述じょうじゅつのように民事みんじ刑事けいじ行政ぎょうせいそれぞれの訴訟そしょう分野ぶんや直訴じきそおこなわれていた。 きゅうこと諮問しもんろく収録しゅうろくされているもと評定ひょうじょうしょとめやく小俣おまたけいとく談話だんわによると「越訴えっそ直訴じきそ)は毎日まいにちさんにんあった」とされており直訴じきそ特別とくべつ行為こういでは日常にちじょう茶飯事さはんじであったことがうかがわれる。またそれらの訴状そじょうあつかいは「不法ふほう行為こういではあるが事柄ことがらによってはげられることもありましたが殆んどは廃棄はいきされました」とべており、正規せいき手続てつづきをていない直訴じきそであってもうったえの内容ないよう確認かくにんしたうえ受理じゅり受理じゅり決定けっていしていたことがうかがわれる。また桜田さくらだ門外もんがいへんでも襲撃しゅうげきしゃ直訴じきそかご訴)の訴人そにんよそおせをしており直訴じきそ日常にちじょう茶飯事さはんじであったことがうかがえる。

その作法さほう

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直訴じきそはある程度ていど作法さほうされており、たとえばかご訴では以下いかのようになっていた。

訴人そにん紋付もんつき羽織はおりはかま正装せいそうし、訴状そじょうは「うえ」と上書うわがきしたかみつつみ、さきふたわりにした青竹あおだけぼうさきはさんでつ。はじめに行列ぎょうれつ前方ぜんぽうより訴状そじょうささげて訴人そにん行列ぎょうれつ接近せっきんしようとする、するときょうさむらいがこれを制止せいしする、訴人そにん制止せいしされてもあきらめず再度さいど接近せっきんしようとする、きょうさむらいはまたこれを制止せいしする、それでも訴人そにんあきらめずにみたび接近せっきんしようとする。そこではじめてきょうさむらいは『再々さいさいにわたるので仕方しかたなく』として訴状そじょうり、供頭ともがしら訴人そにん身柄みがら拘束こうそくするように指示しじおこなう。このとき訴人そにん身柄みがら拘束こうそくされるのは訴状そじょう内容ないよう訴人そにん身許みもとなどの事実じじつ関係かんけい確認かくにんする事情じじょう聴取ちょうしゅのためであり、訴人そにん処罰しょばつするためのものではない。事情じじょう聴取ちょうしゅわり身許みもと確認かくにんされ訴状そじょう内容ないよう虚偽きょぎなど問題もんだいがなければ訴人そにん解放かいほうされる。このとき農民のうみんであれば領主りょうしゅ身許みもとじんとしてることになる。勿論もちろんった領主りょうしゅがわさら事情じじょう聴取ちょうしゅおこなわれるがいきなり問答もんどう無用むよう処罰しょばつなどということはなかった。処罰しょばつなどをした場合ばあい農民のうみんわたしたがわ体面たいめんつぶすことになるからである。 訴状そじょうけたがわには積極せっきょくてき介入かいにゅう能動のうどうてき事件じけん解決かいけつにあたるというまでの義務ぎむはなかったが、関係かんけい方面ほうめん照会しょうかいおこな必要ひつようみとめれば善処ぜんしょかた要請ようせいする程度ていどのことはおこなわれた、これにより事件じけんあかるみにでることになり関係かんけいしゃ適切てきせつ対応たいおうをする必要ひつようせまられることになった。また事件じけんがもみされるのをふせぐために複数ふくすう方面ほうめんたい直訴じきそおこなうという訴訟そしょう戦術せんじゅつもしばしば採用さいようされていた。

直訴じきそ死罪しざい

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直訴じきそはすべて原告げんこく死罪しざい確定かくていしているものとひろ認識にんしきされているがこれは誤解ごかいである。直訴じきそ行為こうい自体じたい処罰しょばつ対象たいしょうとなったケースはすくない。領主りょうしゅ代官だいかんうったえた場合ばあいであっても、これといった処罰しょばつはなく「正規せいき手続てつづきにしたがうように」という口頭こうとう注意ちゅういくらいであった。処罰しょばつされたケースでは『直訴じきそ内容ないよう不届ふとどきであった』あるいは『徒党ととうんで騒動そうどうこし狼藉ろうぜきはたらいた』などという直訴じきそ行為こういそのものを対象たいしょうとしない処罰しょばつ理由りゆうがほとんどである。たとえば天保てんぽう11ねん三方みかたりょうでは庄内しょうないはんうたてふう反対はんたいする領民りょうみんにより多数たすう直訴じきそおこなわれた。大名だいみょうてんふうという幕府ばくふ政策せいさく反対はんたいする直訴じきそであるにもかかわらず直訴じきそをした領民りょうみんたいする処罰しょばつかった。徳治とくじ主義しゅぎ標榜ひょうぼうされていたため、みんこえである直訴じきそ拒絶きょぜつすることは不徳ふとくとみなされていたのである。 しかし、明治めいじ以後いご自由じゆう民権みんけん運動うんどうのなかで義民ぎみん伝説でんせつ数多かずおおつたえられたことから、直訴じきそ死罪しざいという誤解ごかい浸透しんとうしていったものとかんがえられる。

代表だいひょうてき直訴じきそ事件じけん

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近代きんだい以後いご

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中国ちゅうごく

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以下いかでは、中国ちゅうごくにおける中央ちゅうおう政府せいふへの陳情ちんじょう制度せいどについてべる。

中国ちゅうごく概要がいよう

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中国ちゅうごく直訴じきそは、しんじおとずれ条例じょうれいによってさだめられている。中国ちゅうごく政治せいじ体制たいせいいちとう独裁どくさいせいで、民意みんい反映はんえいされにくい。そのなかで、直訴じきそ苦情くじょうもうて、被害ひがい救済きゅうさい制度せいどとして民衆みんしゅう利用りようされてきた[2]地方ちほう当局とうきょく司法しほう当局とうきょくやくにたないときに、中央ちゅうおう政府せいふ直訴じきそおこなうという[2]

直訴じきそ規模きぼは、2003ねんやく1000まんけん。このは、増加ぞうか傾向けいこうにある。陳情ちんじょうしゃ増加ぞうか背景はいけいには、企業きぎょう誘致ゆうちによる工場こうじょう建設けんせつにより、農地のうち二束三文にそくさんもんいたたかれたり、うばわれたりする農民のうみん増加ぞうか失地しっち農民のうみん)や、地方ちほう当局とうきょく公務員こうむいん腐敗ふはい指摘してきされている[2]

ただし、うったえが増加ぞうかするなかで、直訴じきそのうちどの程度ていど解決かいけつされたかについては、わずか0.2%にぎないという調査ちょうさがある[2]

問題もんだいてん

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中国ちゅうごくにおける直訴じきそ問題もんだいてんは、以下いかのとおり。

  • 上述じょうじゅつしたとおり、だい多数たすう直訴じきそ解決かいけつされていない[2]
  • 中央ちゅうおう政府せいふ状況じょうきょうおうじて、直訴じきそ規制きせいおこなわれる。たとえばとう大会たいかいまえは、中央ちゅうおう政府せいふにより拘束こうそくや、暴行ぼうこう被害ひがいけたり、精神せいしん病院びょういん監禁かんきんされる事例じれいがある[3]
    • 暴行ぼうこう被害ひがいについては、中央ちゅうおう政府せいふだけでなく、うったえられる立場たちばである地方ちほう当局とうきょくも、陳情ちんじょうしゃたい暴行ぼうこうおこなっている。陳情ちんじょうしゃやく7わりが、陳情ちんじょう地方ちほう当局とうきょくから暴行ぼうこう被害ひがいけたという調査ちょうさがある[4]
    • 陳情ちんじょうしゃ監禁かんきんについては、くろ監獄かんごくBlack jails)とばれる施設しせつ収容しゅうようされている。ほう手続てつづきをずに拘束こうそくされ、虐待ぎゃくたいなどの違法いほう行為こういおこなわれている。監禁かんきんするための施設しせつも、しょう所有しょゆう建物たてもの簡易かんい宿泊しゅくはくしょ病院びょういんアルコール中毒ちゅうどくもの更生こうせい施設しせつなど様々さまざまである。中国ちゅうごく政府せいふ一貫いっかんしてこういった施設しせつ存在そんざい否定ひていしているが、2010ねん9月には北京ぺきん公安こうあん当局とうきょく自身じしんが「違法いほう監禁かんきんおこなった」として、民間みんかん警備けいび会社かいしゃ摘発てきはつしたとの報道ほうどうがなされている。この報道ほうどうによれば、2004ねん警備けいび会社かいしゃはじめ、2008ねんからは陳情ちんじょうしゃに「宿泊しゅくはく施設しせつ提供ていきょうする」とだまして監禁かんきんし、身分みぶんしょう携帯けいたい電話でんわげ、地方ちほう政府せいふ出先でさき機関きかん連絡れんらくし、地元じもとおくかえさせていたという。この会社かいしゃはこの事業じぎょう拡大かくだいし、遠隔えんかく地方ちほう政府せいふなどおおくの顧客こきゃくていた模様もようで、ほかにもおおくのどう業者ぎょうしゃがいるともられている。この事件じけんかぎらず、2010ねん5がつ15にちには、おな北京ぺきん存在そんざいしていた監禁かんきん施設しせつで、違法いほう監禁かんきんされた女性じょせい強姦ごうかんしたとして、警備けいびいん判決はんけつけている。

直訴じきそむら

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中央ちゅうおう政府せいふ直訴じきそおこなうべく、地方ちほうから北京ぺきん上京じょうきょうした民衆みんしゅうあつまることによりできた集落しゅうらくのこと。

じゅうななとう大会たいかいまえにも撤去てっきょうごきがあったが[3]北京ぺきんオリンピックそなえて中央ちゅうおう政府せいふ強制きょうせい撤去てっきょおこなった[5]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 百姓ひゃくしょう一揆いっき義民ぎみん研究けんきゅう』(保阪ほさかさとし吉川弘文館よしかわこうぶんかん・2006ねんISBN 978-4642034142
  2. ^ a b c d e 中国ちゅうごく直訴じきそ制度せいど強化きょうか苦情くじょう解決かいけつ能力のうりょく向上こうじょうねらう』2005ねん1がつ19にちづけ配信はいしん 読売新聞よみうりしんぶん
  3. ^ a b じゅうななとう大会たいかいまえ中国ちゅうごく公安こうあん直訴じきそしゃまり強化きょうか』2007ねん9がつ22にちづけ配信はいしん だい紀元きげん
  4. ^ 陳情ちんじょうしゃの71%が暴行ぼうこう被害ひがい 中国ちゅうごく社会しゃかい科学かがくいん調査ちょうさ』2007ねん03がつ28にちづけ配信はいしん 共同通信きょうどうつうしん
  5. ^ 五輪ごりんちかし、される直訴じきそむら 北京ぺきん本格ほんかく撤去てっきょ開始かいし』2007ねん9がつ27にちづけ配信はいしん 産経さんけいiza

文献ぶんけん情報じょうほう

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  • 中国ちゅうごくしんおとずれ制度せいどについて」とみくぼ高志たかし 国会図書館こっかいとしょかんレファレンス2008.5 [1]

関連かんれん項目こうもく

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