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遺伝子いでんし発現はつげん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
発現はつげんから転送てんそう

遺伝子いでんし発現はつげん(いでんしはつげん)とは、たん発現はつげんともいい、遺伝子いでんし情報じょうほう細胞さいぼうにおける構造こうぞうおよび機能きのう変換へんかんされる過程かていをいう。具体ぐたいてきには、普通ふつう遺伝いでん情報じょうほうもとづいてタンパク質たんぱくしつ合成ごうせいされることをすが、RNAとして機能きのうする遺伝子いでんしノンコーディングRNA)にかんしてはRNAの合成ごうせい発現はつげんということになる。また発現はつげんされるりょう発現はつげんりょう)のことを発現はつげんということもある。 

真正しんしょう細菌さいきんでの遺伝子いでんし発現はつげん

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遺伝子いでんし発現はつげんかんするおおくの知見ちけんかく生物せいぶつではなく真正しんしょう細菌さいきんである大腸菌だいちょうきんモデル生物せいぶつとした実験じっけんからられてきた。大腸菌だいちょうきん遺伝子いでんし発現はつげん基本きほんてき以下いかのステップにけられる。

  1. 転写てんしゃ
  2. 翻訳ほんやく
  3. 遺伝子いでんし制御せいぎょ発現はつげん調節ちょうせつ

調節ちょうせつ段階だんかいふたたべつ遺伝子いでんし発現はつげん影響えいきょうおよぼしたり、あるいは周囲しゅうい栄養えいよう条件じょうけんなどによっても調節ちょうせつける。真正しんしょう細菌さいきん遺伝子いでんし発現はつげん様式ようしきかく生物せいぶつとはことなるところがおおいものの、一般いっぱんてき遺伝子いでんし発現はつげんとして理解りかいできる。

真正しんしょう細菌さいきん転写てんしゃ

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転写てんしゃとは、ゲノムDNAにコードされる遺伝子いでんし本体ほんたいおよびその周辺しゅうへん領域りょういきRNAポリメラーゼによって相補そうほてきなRNAくさり (mRNA) に合成ごうせいされる過程かていである。必要ひつよう材料ざいりょうとしては、

基本きほんてき要素ようそである。ポリメラーゼのはんおうなどにはマグネシウムなどを要求ようきゅうする場合ばあいがあるが、ここでは割愛かつあいする。ここで、かく生物せいぶつことなるところは、RNAポリメラーゼの構造こうぞうである。大腸菌だいちょうきんのRNAポリメラーゼは5のサブユニットから構成こうせいされており、サブユニットめいからαあるふぁ2βべーたβべーたσしぐま構造こうぞうαあるふぁサブユニット:2βべーた1個いっこβべーた':1個いっこσしぐま:2)をっている。

これらのサブユニットの役割やくわり以下いかのようになっている。

  • αあるふぁサブユニット:プロモーター配列はいれつ後述こうじゅつ)への結合けつごう
  • βべーたサブユニット:RNA合成ごうせい開始かいしまえにリボヌクレオチドを先駆せんくてき結合けつごうさせる
  • βべーた’サブユニット:DNA配列はいれつへの結合けつごう
  • σしぐまサブユニット:プロモーター配列はいれつ認識にんしき

αあるふぁ作為さくいプロモーター配列はいれつ結合けつごうするが、σしぐまサブユニットはその配列はいれつ認識にんしきして、発現はつげん適当てきとう遺伝子いでんしであるかどうか判断はんだんする。βべーたおよびβべーた'はそれぞれが共役きょうやくしてRNAポリメラーゼ活性かっせい発揮はっきする。σしぐまサブユニットはプロモーター配列はいれつ認識にんしきさい必要ひつようであり、転写てんしゃはじまるとRNAポリメラーゼからはなれていく。RNAポリメラーゼにふくまれるかかで名称めいしょうことなっており、以下いか名前なまえしめされる。

  • ホロ酵素こうそαあるふぁ2βべーたβべーたσしぐま構造こうぞう、ゲノムDNAのプロモーター配列はいれつ認識にんしきさい構成こうせいされる形状けいじょう
  • コア酵素こうそαあるふぁ2βべーたβべーた構造こうぞう転写てんしゃ最中さいちゅう、および細胞さいぼうない遊離ゆうりしている状態じょうたい形状けいじょう

σしぐまサブユニットの脱着だっちゃくは、転写てんしゃ反応はんのうふか関係かんけいする。

転写てんしゃ反応はんのう以下いか段階だんかい分類ぶんるいされる。

  • 開始かいし
  • 伸長しんちょう延長えんちょう
  • 終結しゅうけつ

これらの反応はんのう詳細しょうさいについては、転写てんしゃこうべる。

真正しんしょう細菌さいきん翻訳ほんやく

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翻訳ほんやくとは転写てんしゃされたmRNAのコドン遺伝いでん暗号あんごう)にしたがって、リボソームにてアミノ酸あみのさんがペプチド結合けつごうによってポリマー(タンパク質たんぱくしつ)になっていく過程かていである。翻訳ほんやく必要ひつよう材料ざいりょうは、

である。このなかで、とくかく生物せいぶつことなるてんはリボソームのサイズであり、真正しんしょう細菌さいきんおよ細菌さいきんでは70S(Svedberg単位たんい)、かく生物せいぶつでは80Sとなっている。しょうサブユニット、だいサブユニットにふくまれるrRNAのながさもことなっている(詳細しょうさいリボソーム参照さんしょう)。

翻訳ほんやく過程かてい以下いか段階だんかい分類ぶんるいされる。

  • 開始かいし
  • 伸長しんちょう
  • 終結しゅうけつ

これらの反応はんのう詳細しょうさいについては翻訳ほんやくこうべる。

真正しんしょう細菌さいきん遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつ

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真正しんしょう細菌さいきんにおける遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつジャコブモノー研究けんきゅう論文ろんぶん基礎きそとして理解りかいすることができる。発現はつげん調節ちょうせつにはオペロンう、いくつかの遺伝子いでんしみじか間隔かんかくいて、ゲノムちゅうならんでいる構造こうぞうたいふか関与かんよしているが、その発端ほったんとなった大腸菌だいちょうきんラクトース乳糖にゅうとう)の代謝たいしゃについて説明せつめいする。

ラクトースオペロン

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真正しんしょう細菌さいきんおよ細菌さいきんでは、機能きのう関連かんれんした遺伝子いでんし染色せんしょくたいじょう隣接りんせつして存在そんざい遺伝子いでんしクラスター(gene cluster)を形成けいせいしている。この遺伝子いでんしクラスターのうち、単一たんいつのプロモーターで転写てんしゃされる単位たんいをオペロン(operon)という。その代表だいひょうてきなものが、ラクトース(lac)オペロンである。ラクトース大腸菌だいちょうきん細胞さいぼう表層ひょうそうから細胞さいぼうない輸送ゆそうされ、そのグルコースガラクトース分解ぶんかいされる。細胞さいぼうないへの輸送ゆそうはラクトースパーミアーゼ、グルコースとガラクトースへの分解ぶんかいβべーた-ガラクトシダーゼ関与かんよしている。この2種類しゅるい酵素こうそ同時どうじはたらくことによって、大腸菌だいちょうきんはラクトース代謝たいしゃ可能かのうとなる。ラクトースオペロンじょうには、βべーた-ガラクトシドトランスアセチラーゼをコードする遺伝子いでんし存在そんざいするが、この酵素こうそはラクトースのには直接ちょくせつ関係かんけいなく、その役割やくわり不明ふめいである。

βべーた-ガラクトシダーゼ、 βべーた-ガラクトシドトランスアセチラーゼ、ラクトースパーミアーゼはそれぞれ、lacZ、lacA、lacY'という遺伝子いでんしによってコードされているが、これらの遺伝子いでんしきわめて近接きんせつしている。ジャコブとモノーはこれらの遺伝子いでんし以下いかのように配列はいれつしていることを同定どうていした。

これらの遺伝子いでんしぐん構造こうぞう遺伝子いでんしばれており、実際じっさい反応はんのう機能きのうしているタンパク質たんぱくしつをコードしている。これらの遺伝子いでんし転写てんしゃされると、翻訳ほんやく同時どうじ進行しんこうし、必要ひつようタンパク質たんぱくしつすべてが発現はつげんする。さらに、lacZの上流じょうりゅうlacIと遺伝子いでんし発見はっけんされた。この遺伝子いでんし独自どくじのプロモーターおよびターミネーターをっており、ラクトースの代謝たいしゃ直接ちょくせつ関与かんよするタンパク質たんぱくしつをコードしていなかった。

lacIの機能きのう構造こうぞう遺伝子いでんし転写てんしゃ調節ちょうせつしており、ラクトースリプレッサーばれるタンパク質たんぱくしつをコードしている。ラクトースの存在そんざいこのタンパク質たんぱくしつ発現はつげんしているあいだは、構造こうぞう遺伝子いでんし転写てんしゃおこなわれない。ラクトースリプレッサーは構造こうぞう遺伝子いでんしのプロモーター配列はいれつ近傍きんぼう存在そんざいするオペレーター配列はいれつ結合けつごうすることによって、RNAポリメラーゼ結合けつごう回避かいひさせている。

ぎゃくラクトースが存在そんざいしている場合ばあい、ラクトースリプレッサーにラクトースが結合けつごうし、ラクトースリプレッサーはコンフォメーション変化へんかこしてオペレーター配列はいれつ結合けつごうできなくなる。そのときはじめてRNAポリメラーゼが構造こうぞう遺伝子いでんしのプロモーターに結合けつごうし、転写てんしゃ開始かいしされる。この反応はんのうによってラクトースが消費しょうひしつくされると、ラクトースリプレッサーがはたらき転写てんしゃ抑制よくせいされる。こうした調節ちょうせつ因子いんし今回こんかいlacI)のはたらきをえる因子いんし今回こんかいはラクトース)のことインデューサーという。

くわしくはラクトースオペロン参照さんしょう遺伝子いでんし制御せいぎょかかわる、因子いんしとしては転写てんしゃ翻訳ほんやく速度そくどやmRNAの回転かいてんりつなどがある。遺伝子いでんし発現はつげんかかわるすべての因子いんしがその制御せいぎょかかわるといってよい。

真正しんしょう細菌さいきん遺伝子いでんし発現はつげん実際じっさい

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以上いじょう真正しんしょう細菌さいきんとく大腸菌だいちょうきん遺伝子いでんし発現はつげんまでが筆記ひっきしてあるが、転写てんしゃ翻訳ほんやくはほとんど同時どうじこっているとかんがえてよい。真正しんしょう細菌さいきんかくまくたず、遺伝子いでんし転写てんしゃと、翻訳ほんやくかく生物せいぶつのようにけられるということは

大腸菌だいちょうきんのゲノムDNAから転写てんしゃおこなわれているmRNAは、伸長しんちょうちゅうに5'がわ塩基えんきがリボソームで翻訳ほんやくされていっている。真正しんしょう細菌さいきんのmRNAは一切いっさい修飾しゅうしょくいために、リボソームから合成ごうせいされたポリペプチドはゲノムDNAの遺伝子いでんし配列はいれつそのままのアミノ酸あみのさん配列はいれつっている。

このRNAポリメラーゼとリボソームの共役きょうやくした反応はんのうこそが、真正しんしょう細菌さいきんにおける遺伝子いでんし発現はつげん実際じっさいといってよい。教科書きょうかしょなどに掲載けいさいされている、遺伝いでん暗号あんごうひょう大腸菌だいちょうきん基準きじゅんとしたものであり(正確せいかくには、大腸菌だいちょうきん細胞さいぼう発現はつげんけいもちいている)、生物せいぶつことなる遺伝子いでんしでは、コドンとアミノ酸あみのさん対応たいおうことなっていることもあるたとえば、一般いっぱんにAGAはアルギニンのコドンだが、脊椎動物せきついどうぶつミトコンドリアでは終止しゅうしコドンとなっている。

かく生物せいぶつ遺伝子いでんし発現はつげん

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かく生物せいぶつ遺伝子いでんし発現はつげん基本きほんてきには、真正しんしょう細菌さいきんおなじステップをるが、いくつかことなるてんがある。ただし、基本きほんおなじなので、相違そういてんべる程度ていどにとどめる。

転写てんしゃ

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  • RNAポリメラーゼ種類しゅるいおおい(I, II, IIIが存在そんざいし、遺伝子いでんし認識にんしき機構きこう転写てんしゃ遺伝子いでんしがそれぞれことなる)。
  • 転写てんしゃ開始かいしにはTATAボックスというチミンアデニンリッチな配列はいれつ使用しようされる。
  • 転写てんしゃ終結しゅうけつシステムは不明ふめいで、遺伝子いでんしの2000塩基えんきたい下流かりゅうまで転写てんしゃ進行しんこうすることもある。

mRNAの修飾しゅうしょく

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  • mRNAのりょう末端まったん(5'、3'両方りょうほう)が修飾しゅうしょくける。
  • イントロンをのぞくために、スプライシングける。
  • めずらしいケースとして、転写てんしゃ直後ちょくごのmRNAとはまったべつ配列はいれつになる『mRNAの編集へんしゅう』をける。

翻訳ほんやく

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  • mRNAはかくから運搬うんぱんされて、細胞さいぼうしつリボソーム翻訳ほんやくされる。
  • リボソームは80Sである(60S+40S)。
  • mRNAにシャイン・ダルガノ配列はいれつ(リボソーム結合けつごう部位ぶい)をたず、キャップ構造こうぞうを40Sリボソームが認識にんしきする。
  • フォルミルメチオニンを開始かいしコドンに使用しようしない(普通ふつうのメチオニンを使用しよう)。
  • 翻訳ほんやく開始かいしATP加水かすい分解ぶんかい必要ひつよう
  • 翻訳ほんやく終結しゅうけつGTP必要ひつよう

遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつ

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かく生物せいぶつ遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつ機構きこう原核げんかく生物せいぶつのそれより複雑ふくざつで、遺伝子いでんし上流じょうりゅう存在そんざいする様々さまざま発現はつげん調節ちょうせつ因子いんし関与かんよしている。たとえば、メタロチオネインというタンパク質たんぱくしつ遺伝子いでんしいちれつ上流じょうりゅうには9調節ちょうせつ因子いんしをコードする遺伝子いでんしられている。

TATAボックス、GCボックス、CAATボックス、エンハンサーサイレンサーオペレーターリプレッサーアクチベーター、MREなどに、個々ここ遺伝子いでんし特有とくゆう調節ちょうせつ因子いんしれいおおられる。

細菌さいきんでの遺伝子いでんし発現はつげん

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細菌さいきん遺伝子いでんし発現はつげんは、かく生物せいぶつ真正しんしょう細菌さいきん双方そうほう特徴とくちょうあわっている。転写てんしゃ様式ようしきかく生物せいぶつRNAポリメラーゼIIのものにているが、転写てんしゃのmRNAの修飾しゅうしょくこらない。翻訳ほんやく遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつ中間ちゅうかんてきである。

ヒストンのアセチルだつアセチル

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ヒストンでは、N末端まったんリシンざんもとアセチルだつアセチルされ、これが遺伝子いでんし発現はつげん制御せいぎょかかわっている。ヒストンが多数たすうアセチルされている染色せんしょくたい領域りょういきは、遺伝子いでんし転写てんしゃ活発かっぱつおこなわれており、ヒストンのアセチル遺伝子いでんし発現はつげん活性かっせいさせ、だつアセチル遺伝子いでんし発現はつげん抑制よくせいしているとかんがえられている[1][2]

遺伝子いでんし発現はつげん自己じこ調節ちょうせつ

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遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつタンパク質たんぱくしつ利用りようするが、タンパク質たんぱくしつ利用りようせずに転写てんしゃ翻訳ほんやく自己じこ調節ちょうせつできるのがノンコーディングRNAであり、リボスイッチはこのようなmRNAにふくまれている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 株式会社かぶしきがいしゃサイクレックス. “アセチル”. 用語ようご説明せつめい. 2012ねん8がつ3にち閲覧えつらん
  2. ^ 関西大学かんさいだいがく 工学部こうがくぶ 生物せいぶつ工学科こうがっか 医薬品いやくひん工学こうがく研究けんきゅうしつ. “ヒストンだつアセチル酵素こうそ(HDAC)阻害そがい物質ぶっしつ分子ぶんし設計せっけいとそのこうがんざいへの応用おうよう”. 2012ねん8がつ3にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん

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  • Mark Welch; et al. (2009). “You're one in a googol: optimizing genes for protein expression”. J. R. Soc. Interface 6 (Suppl 4): S467-S476. doi:10.1098/rsif.2008.0520.focus. ISSN 1742-5662. PMID 19324676. 

関連かんれん項目こうもく

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