睡眠すいみん不足ふそく

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睡眠すいみん不足ふそく（Sleep deprivation）
睡眠すいみん不足ふそくにより目めの隈くまができている。
概要がいよう
診療しんりょう科か 睡眠すいみん医学いがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう

睡眠すいみん不足ふそく（すいみんぶそく、Sleep deprivation）とは、充分じゅうぶんな睡眠すいみんをとれていない状態じょうたいであり、慢性まんせい、急性きゅうせいの両者りょうしゃが存在そんざいする。慢性まんせい的てきな睡眠すいみん不足ふそくは、疲労ひろう、日にち中ちゅうの眠気ねむけ、作業さぎょう精度せいど低下ていか、体重たいじゅう減少げんしょうもしくは増加ぞうかを引ひき起おこしえる[1]。これは脳のうや認知にんち機能きのうに影響えいきょうを起おこしえる[2]。しかし睡眠すいみん不足ふそくは逆説ぎゃくせつ的てきには、エネルギーを増加ぞうかさせ覚醒かくせいを促うながすため、うつ病びょうの治療ちりょう法ほうとしても用もちいられる（断だん眠ねむり療法りょうほう）[3][4]。

急性きゅうせい睡眠すいみん不足ふそくと、慢性まんせい睡眠すいみん不足ふそくの影響えいきょうを比較ひかくした研究けんきゅうはわずかである[2]。長期間ちょうきかんにわたる睡眠すいみんの完全かんぜんな欠如けつじょは、ヒトでは確認かくにんされていない（致死ちし性せい家族かぞく性せい不眠症ふみんしょうを除のぞく）。マイクロスリープは避さけられないようである[5]。動物どうぶつ実験じっけんでは、長期間ちょうきかんの睡眠すいみん不足ふそくは死しを引ひき起おこしえる[6]。

慢性まんせい的てきな睡眠すいみん不足ふそくは、睡眠すいみん時じに脳のう内ないで老廃ろうはい物ぶつ清掃せいそうを行おこなうグリンパティック系けい（英語えいご版ばん）が効率こうりつ的てきに働はたらかなくなるため、認知にんち症しょうを引ひき起おこすタウタンパク質たんぱくしつなどの蓄積ちくせきにつなり神経しんけい細胞さいぼうが破壊はかいされる[7]。また、脳のう内ないで死しんだ細胞さいぼうなどを取とり除のぞく仕組しくみである食しょく作用さようを行おこなうグリア細胞さいぼうのアストロサイトとミクログリアが睡眠すいみん不足ふそく時じに活性かっせい化かし、使用しよう頻度ひんどの高たかいシナプスを破壊はかいし脳のうを縮小しゅくしょう化かさせ不ふ可逆かぎゃく的てきなダメージを与あたえるという研究けんきゅう結果けっかも出でている。過度かどのミクログリア活性かっせいはアルツハイマー病びょうなどの脳神経のうしんけい疾患しっかん（英語えいご版ばん）とも関連かんれんしている[8][9]。

生理学せいりがく的てき効果こうか[編集へんしゅう]

睡眠すいみん不足ふそくの健康けんこうへの影響えいきょう

一般いっぱん的てきに、睡眠すいみん不足ふそくは以下いかをもたらす[10][11]

運転うんてんへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

睡眠すいみん不足ふそくの運転うんてんへの危険きけん性せいは、全米ぜんべい睡眠すいみん医学いがく学会がっかいのレポートによれば、重大じゅうだいな自動車じどうしゃ傷害しょうがいのうちの、5つに1つは運転うんてん手しゅの疲労ひろうに関連かんれんしているとされ、毎日まいにち80,000人にんの運転うんてん手しゅが居眠いねむりし、毎年まいとし睡眠すいみんに関連かんれんして25万まん件けんの事故じこが起おこり[25]、米国べいこく国道こくどう交通こうつう安全あんぜん局きょくは、関連かんれんする交通こうつう事故じこは10万まん件けん近ちかくと推定すいていしている[26]。同局どうきょくは、道みちを下おりて、眠気ねむけを緩和かんわするための15分ふんまたは20分ぶんの昼寝ひるねを推奨すいしょうしている[25]。

健康けんこうへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

睡眠すいみん不足ふそくは、体内たいないの血糖けっとう値ちのコントロールを難むずかしいものとするため、長期ちょうき的てきにみて体重たいじゅうの増加ぞうかや糖尿とうにょう病びょうを誘発ゆうはつするなど健康けんこうを損そこねる要因よういんとなる。休日きゅうじつにまとめて寝ねる「寝ねだめ」を行おこなっても、再ふたたび睡眠すいみん不足ふそくが続つづけば血糖けっとう値ちのコントロールができなくなるため改善かいぜん効果こうかはない[27][28]。

免疫めんえき力りょくの低下ていか
十分じゅうぶんな睡眠すいみんがとれていないと、免疫めんえき力りょくが低下ていかし、病気びょうきに罹患りかんしやすくなる[29]。
体重たいじゅうの増加ぞうか
「夜よるに食たべると太ふとる」と言いわれるが、その仕組しくみとしては睡眠すいみん不足ふそくは空腹くうふく感かんを与あたえるホルモンであるグレリンを増加ぞうかさせ、満腹まんぷく感かんを与あたえるホルモンであるレプチンを減少げんしょうさせることで、食たべ過すぎが起おきて体重たいじゅう増加ぞうかにつながる[30]
また、睡眠すいみん不足ふそくでは倦怠けんたい感かんから運動うんどう不足ふそくとなり、消費しょうひカロリーより摂取せっしゅカロリーの方ほうが増ふえることになる[31]。

利用りよう[編集へんしゅう]

尋問じんもんの手段しゅだん[編集へんしゅう]

睡眠すいみん不足ふそくは尋問じんもんの手段しゅだんとして使用しようすることができ、この手段しゅだんは拷問ごうもんとみなされるか否ひかについては、裁判さいばんとなったことがある[32]。

帝政ていせいロシアにおいては政治せいじ犯はんの拷問ごうもん手段しゅだんとして用もちいられ、ロシア革命かくめい後ごのソ連それんにも受うけ継つがれた。

うつ病びょう[編集へんしゅう]

「断だん眠ねむり療法りょうほう」も参照さんしょう

研究けんきゅうにおいては、睡眠すいみん不足ふそくはうつ病びょうの治療ちりょうの可能かのう性せいを秘ひめている[4]。 うつ病びょう患者かんじゃは、レム睡眠すいみんが発生はっせいする前まえに急速きゅうそく眼球がんきゅう運動うんどうが起おこっている傾向けいこうがあるため、レム睡眠すいみん発生はっせい中ちゅうに脳波のうはをモニタリングし、その最中さいちゅうに起床きしょうさせることで、抑そもそもうつ効果こうかを緩和かんわする治療ちりょう効果こうかがあるようであった[33]。断だん眠ねむり療法りょうほうをすることで、患者かんじゃの60%においては即座そくざに回復かいふくしたが、ほとんどの場合ばあいは翌日よくじつに再発さいはつしている。この効果こうかは 脳のう由来ゆらい神経しんけい栄養えいよう因子いんし(BNDF)の増加ぞうかと関連かんれんしてる[34]。これはクロノタイプが、人々ひとびとの睡眠すいみん不足ふそくの気分きぶんへの影響えいきょうと関係かんけいしているとされており、すなわち、睡眠すいみん不足ふそくにより朝あさを好このむ人ひとはよりうつ病びょうになり、一方いっぽう、夜よるが好このみの者ものは気分きぶんの改善かいぜんを示しめす[35]。2014年ねんのヒトへの代謝たいしゃ総合そうごう評価ひょうかによれば、断だん眠ねむり療法りょうほうによって、27個この代謝たいしゃ産物さんぶつは起床きしょう後ご24時じ間あいだ後ごに増加ぞうかし、さらにセロトニン、トリプトファン、タウリンらは抗こううつ効果こうかに寄与きよされうることが見みいだされた[36]

再発さいはつ率りつは、断だん眠ねむり療法りょうほうと投薬とうやくを組くみ合あわせることによって減少げんしょうできる[37]。多おおくの三さん環たまき系けい抗こううつ薬やくは、レム睡眠すいみんを抑制よくせいするため、気分きぶんと睡眠すいみんとの関連かんれんしうる証拠しょうこがある[38]。同様どうようにトラニルシプロミンは、充分じゅうぶんな用量ようりょうでレム睡眠すいみんを抑制よくせいすることが強つよく示しめされている。

不眠ふみん[編集へんしゅう]

いくつかの一般いっぱん的てきな睡眠すいみん障害しょうがいは、不眠症ふみんしょうに対たいする認知にんち行動こうどう療法りょうほう（CBT-I）に反応はんのうすることが示しめされている。これは睡眠すいみんホメオタシスを回復かいふくさせ、正常せいじょうな睡眠すいみん効率こうりつ(sleep efficiency)を促進そくしんするために、睡眠すいみん制限せいげん(sleep restriction)のプログラムが組くみ込こまれている[39]。

原因げんいん[編集へんしゅう]

睡眠すいみん不足ふそくの最もっとも一般いっぱん的てきな原因げんいんは、睡眠すいみん環境かんきょうの悪わるさである。解決かいけつ策さくは、就寝しゅうしん時刻じこくの約やく1〜2時じ間あいだ前まえに暗くらい部屋へやにいて、45〜60分ふん前まえに電子でんし機器ききの使用しようをやめ、就寝しゅうしん時じに耳みみ栓せんを装着そうちゃくし、室温しつおんは18〜20度どに設定せっていすることである[40]。

不眠症ふみんしょう[編集へんしゅう]

6種しゅの睡眠すいみん異常いじょうの1つである不眠症ふみんしょうは、成人せいじん人口じんこうの21-37%に影響えいきょうしている[41][42]。その症状しょうじょうは、日にち中ちゅうの過度かどの眠気ねむけ、睡眠すいみんについての不満ふまんや心配しんぱい、注意ちゅうい・集中しゅうちゅう・記憶きおくに関かんする問題もんだい、極端きょくたんな気分きぶんの変化へんかまたは過敏かびん性せい、エネルギーやモチベーション欠如けつじょ、学校がっこうや職場しょくばにおけるパフォーマンスの低下ていか、緊張きんちょう性せい頭痛ずつうや腹痛はらいたなどが認識にんしきされている。

不眠症ふみんしょうは、一いち次じおよび二に次じ、または併存へいそんした不眠症ふみんしょうに分類ぶんるいすることができる[43][44][45]。 原発げんぱつ性せい不眠症ふみんしょう（Primary insomnia）とは、医学いがく的てき、精神せいしん的てき、環境かんきょう的てき原因げんいんに起因きいんしない睡眠すいみん障害しょうがいである[46] 原発げんぱつ性せい不眠症ふみんしょうは主おもに3つに分類ぶんるいされ、精神せいしん生理学せいりがく的てき、特発とくはつ性せい不眠症ふみんしょう、睡眠すいみん状態じょうたい誤認ごにん（逆説ぎゃくせつ的てき不眠症ふみんしょう）が挙あげられる[43]。精神せいしん生理学せいりがく的てき不眠症ふみんしょうとは、不安ふあん誘発ゆうはつ性せいのものである。特発とくはつ性せい不眠症ふみんしょうとは、一般いっぱん的てきに小児しょうに期きに始はじまり、生涯しょうがい続つづくものである。その原因げんいんは、睡眠すいみん覚醒かくせいサイクルを制御せいぎょする脳のうの一部いちぶにおける神経しんけい化学かがく的てき問題もんだいであり、睡眠すいみん不足ふそく信号しんごうまたは過か活動かつどう性せい覚醒かくせい信号しんごうのどちらが生しょうじていることが示唆しさされている[47]。睡眠すいみん状態じょうたい誤認ごにん（Sleep state misperception）とは、診断しんだん上じょうは充分じゅうぶんな睡眠すいみんを取とっているのだが、睡眠すいみんが不充分ふじゅうぶんであると誤あやまって認識にんしきする状態じょうたいである。

二に次じ不眠症ふみんしょう（Secondary insomnia）または併存へいそん不眠症ふみんしょうは、他たの医学いがく的てき、神経しんけい学がく的てき、心理しんり的てきおよび精神せいしん医学いがく的てき状態じょうたいと同時どうじに起おこる。原因げんいんは必かならずしも判明はんめいしているとは限かぎらない[48]。

睡眠すいみん時じ無む呼吸こきゅう[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「睡眠すいみん時じ無む呼吸こきゅう症候群しょうこうぐん」を参照さんしょう

精神せいしん疾患しっかん[編集へんしゅう]

睡眠すいみん喪失そうしつと精神せいしん障害しょうがいの症状しょうじょうとの因果いんが関係かんけいについては、気分きぶん障害しょうがい患者かんじゃにおいて最もっとも広ひろく研究けんきゅうされている。双極そうきょく性せい障害しょうがい患者かんじゃが躁に移行いこうする際さいには、しばしば不眠症ふみんしょう状じょうの期間きかんが先行せんこうするため、睡眠すいみん不足ふそくは彼かれらを躁状態じょうたいに誘発ゆうはつすることが示しめされている。睡眠すいみん不足ふそくは、躁病そうびょうの発生はっせいにおける最終さいしゅう的てきな共通きょうつう経路けいろである可能かのう性せいがある[49]。また睡眠すいみん喪失そうしつは、躁状態じょうたいの沈静ちんせい化かおよび補強ほきょう因子いんしの両方りょうほうであるとされる。

学校がっこうにおいて[編集へんしゅう]

米国べいこく睡眠すいみん財団ざいだんは、カレッジとユニバーシティの学生がくせいらは毎晩まいばんの睡眠すいみんは平均へいきん6時間じかん以下いかであるという1996年ねんの論文ろんぶんを取とり上あげている[50]。この研究けんきゅうでは、70.6%の学生がくせいは8時じ間あいだ未満みまんしか睡眠すいみんを得えておらず、27%の学生がくせいについては少すくなくとも1回かいの睡眠すいみん障害しょうがいのリスクがあると報告ほうこくしている[51]。睡眠すいみん不足ふそくは、大学生だいがくせいのストレスや社会しゃかい活動かつどうに適応てきおうが求もとめられる、初年度しょねんどの大学生だいがくせいに共通きょうつうしている。

台湾たいわん国立こくりつ中正ちゅうせい大学だいがくの心理しんり学科がっかが実施じっしした調査ちょうさでは、新入生しんにゅうせいはその週しゅうに最低限さいていげんの睡眠すいみんしか取とっていなかったことを結論けつろん付つけている[52]。

1997年ねんのミネソタ大学だいがくの研究けんきゅうでは、午前ごぜん7時じ15分ふんに登校とうこうした学生がくせいと午前ごぜん8時じ40分ふんに登校とうこうした学生がくせいを比較ひかくした。それによれば8時じ40分ふんに登校とうこうした学生がくせいは、より早はやく登校とうこうした学生がくせいよりも成績せいせきがよく、また平日へいじつの夜よるにより長ながく眠ねむっていることが分わかった[26]。米国べいこくの高校生こうこうせいの4人にんに1人ひとりは、最低さいていでも週しゅうに1回かいは授業じゅぎょう中ちゅうに眠ねむっていると認みとめている[53]。

人間にんげんの思春期ししゅんきには典型てんけい的てきに、概がい日びリズムと、それに従したがって睡眠すいみんパターンが著いちじるしく変化へんかすることが知しられている。脳波のうは研究けんきゅうによれば思春期ししゅんきでは、ノンレム睡眠すいみんにおける深ふかい睡眠すいみん（ステージ4）の50%減少げんしょうと、デルタ波はのピーク振幅しんぷくの75%減少げんしょうが示しめされた。学校がっこうのスケジュールは、しばしば、睡眠すいみんステージの対応たいおうする遅おくれと相容あいいれないため、大だい多数たすうの青年せいねんにとって最適さいてきな睡眠すいみんよりも少すくない睡眠すいみんを引ひき起おこす[54]。

治療ちりょう[編集へんしゅう]

注意ちゅうい力りょくを高たかめることで睡眠すいみん不足ふそくの影響えいきょうを打うち消けそうとする試こころみには、いくつかの共通きょうつうする戦略せんりゃくがある。急性きゅうせい睡眠すいみん不足ふそくにおいては、覚醒かくせい状態じょうたいを改善かいぜんするために短期間たんきかんカフェインが使用しようされることが多おおい。しかし、カフェインは日常にちじょう的てきに服用ふくようされると有効ゆうこう性せいが低ひくくなる[55]。

米国べいこく睡眠すいみん医い学会がっかいが推奨すいしょうする他ほかの戦略せんりゃくには、予防よぼう的てきな睡眠すいみん、昼寝ひるね、他たの覚醒かくせい物質ぶっしつ、およびそれらの組くみ合あわせなどがある。しかし睡眠すいみん不足ふそくと戦たたかう唯一ゆいいつの確実かくじつかつ安全あんぜんな方法ほうほうは、夜間やかんの睡眠すいみん時間じかんを増ふやすことである[56]。

認知にんち機能きのうの回復かいふくは、慢性まんせいで部分ぶぶん的てきな睡眠すいみん不足ふそく後ごよりも、急性きゅうせいで完全かんぜんな睡眠すいみん不足ふそく後ごのほうがより迅速じんそくである[2]。慢性まんせい睡眠すいみん不足ふそくは日常にちじょう生活せいかつにおいてより一般いっぱん的てきである。一いち晩ばんの回復かいふく睡眠すいみんは、全ぜん睡眠すいみん不足ふそくの悪影響あくえいきょうを逆転ぎゃくてんさせることがある。回復かいふく睡眠すいみんは、通常つうじょうの睡眠すいみんよりも効率こうりつ的てきであり、入にゅう眠ねむり潜せん時ときはより短みじかくなり、深ふかくてREMの睡眠すいみんが増加ぞうかする。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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