親潮おやしお

親潮おやしお（おやしお、Oyashio Current）は、千島ちしま列島れっとうに沿そって南下なんかして日本にっぽんの東ひがしまで達たっする海流かいりゅうである。北きた太平洋たいへいよう亜寒帯あかんたい循環じゅんかんの西岸せいがん沿ぞいに南下なんかする部分ぶぶんを構成こうせいする^[1]。千島ちしま海流かいりゅう（ちしまかいりゅう、Kuril Current）とも呼よばれ^[1]、黒潮くろしおとならび日本にっぽん近海きんかいを流ながれる代表だいひょう的てきな海流かいりゅうである^[2]。この流ながれは日本にっぽん列島れっとうの東岸とうがんで黒潮くろしおとぶつかり北きた太平洋たいへいよう海流かいりゅう（北きた太平洋たいへいようドリフト）となって東方とうほうへ向むかう流ながれとなる。栄養えいよう塩しおに富とんでおり、親潮おやしおという名なは「魚類ぎょるいを育そだてる親おやとなる潮しお」という意味いみでつけられた。また北海道ほっかいどう東方とうほうや釧路くしろ沖おき、三陸さんりく沖おきなどに存在そんざいする低温ていおん・低てい塩分えんぶんで溶在酸素さんそ量りょうが多おおく、栄養えいよう塩しおに富とんだ水みず塊かたまりのことを親潮おやしおという場合ばあいもある。

流ながれ路ろ[編集へんしゅう]

東ひがしカムチャツカ海流かいりゅうの一部いちぶがオホーツク海かいに入はいり、オホーツク海かいの更さらに低温ていおん・低てい塩分えんぶんな海水かいすいと混合こんごうし、循環じゅんかんしてウルップ海峡かいきょうから再ふたたび太平洋たいへいように出でて、千島ちしま列島れっとう沿ぞいをそのまま南西なんせいに流ながれてきた東ひがしカムチャッカ海流かいりゅうと合流ごうりゅう、親潮おやしおが生成せいせいされる。形成けいせい後ご、親潮おやしおは千島ちしま列島れっとうの南方なんぽう海域かいいきを列島れっとうに沿そって南西なんせいに向むかい、北海道ほっかいどうの南東なんとう岸がんの沿海えんかいを洗あらってさらに三陸さんりく沖おきに南下なんかする。親潮おやしおは日本にっぽん東方とうほう海域かいいきに達たっした後のち、黒潮くろしおと合流ごうりゅうして大だい部分ぶぶんは北きた太平洋たいへいよう海流かいりゅうとして東ひがしに向むかう。

性質せいしつ[編集へんしゅう]

親潮おやしおはその名なが示しめす通とおり、非常ひじょうに栄養えいよう塩しおに富とみ、豊ゆたかな水産すいさん資源しげんをもたらす。その栄養えいよう塩しおの濃度のうどは黒潮くろしおの少すくなくとも5倍ばいから10倍ばいと言いわれ（数すう十じゅう倍ばいから数すう百ひゃく倍ばいとも言いわれる）、春はるになると日射にっしゃ量りょうの増加ぞうかや温度おんど躍おど層そうの発達はったつに伴ともなって植物しょくぶつプランクトンの大だい増殖ぞうしょくが起おこり、動物どうぶつプランクトンや魚類ぎょるいの格好かっこうの繁殖はんしょく場じょうになる。そのため親潮おやしおは緑りょくや茶色ちゃいろがかった色いろになる。

親潮おやしおは流ながれとしては弱よわく、流速りゅうそくは速はやい時ときでも 1ノット(約やく0.5m/s)を超こえる程度ていどだが、深ふかいところまで流ながれがあるため流量りゅうりょうは大おおきく、最近さいきんの調査ちょうさでは黒潮くろしおに匹敵ひってきする流量りゅうりょうになりうることも分わかっている。本州ほんしゅう東方とうほう海域かいいきでは、親潮おやしおは舌した状じょうに南方なんぽうに張はり出だして来くることが多おおく、このような舌した状じょうの冷水れいすい部ぶを沿岸えんがん側がわから数かぞえて、親潮おやしおの第だい1分ふん枝えだ（親潮おやしお接岸せつがん分ぶん枝えだ）、第だい2分ふん枝えだ（親潮おやしお沿岸えんがん分ぶん枝えだ）と呼よばれる。この親潮おやしお分ぶん枝えだの消長しょうちょうは漁業ぎょぎょうや沿岸えんがんの気候きこうに大おおきな影響えいきょうを与あたえる。親潮おやしおの南側みなみがわの端はしには親潮おやしお前線ぜんせんが形成けいせいされ、この前線ぜんせんを境さかいにして南北なんぼくで海水温かいすいおん、塩分えんぶんが大おおきく異ことなる。

黒潮くろしおとの潮目しおめ[編集へんしゅう]

東北とうほく日本にっぽん沖おきは親潮おやしお起源きげんの海水かいすいが分布ぶんぷする海域かいいきに黒潮くろしおや黒潮くろしお起源きげんの暖だん水すい塊かたまりが分布ぶんぷし、更さらに沿岸えんがんを津軽海峡つがるかいきょうから流出りゅうしゅつする津軽つがる暖流だんりゅうも流ながれる複雑ふくざつな海域かいいきであり、混合こんごう水域すいいきとなっている。親潮おやしおは低温ていおんのため黒潮くろしおより密度みつどが高たかく重おもいので、混合こんごう水域すいいきでは黒潮くろしおの下したに沈しずみこむ形かたちになる。この時ときにできる潮目しおめでは黒潮くろしおとともに北上ほくじょうしてきた多様たような魚類ぎょるいが親潮おやしおの植物しょくぶつ・動物どうぶつプランクトンにより繁殖はんしょくし、この海域かいいきは量りょう・種類しゅるいともに豊富ほうふな好こう漁場ぎょじょうとなっている。

親潮おやしおの異常いじょう南下なんか[編集へんしゅう]

親潮おやしおは通常つうじょう1月がつ頃ごろから本州ほんしゅう東岸とうがんに沿そって南下なんかするようになり、4月がつ頃ごろ最もっとも南みなみに張はり出だして宮城みやぎ県けん沖おき付近ふきんまで達たっするが、時ときには茨城いばらき県けん沖おき付近ふきんまで達たっすることがある^[2]。この現象げんしょうを親潮おやしおの異常いじょう南下なんかと呼よぶが、このような変化へんかは、主おもに冬ふゆの季節風きせつふうによって親潮おやしおの南下なんかが促進そくしんされるために起おこると考かんがえられている^[3]。その後ごは次第しだいに南下なんかの度合どあいは弱よわくなり、11月頃ごろから12月がつ頃ごろには釧路くしろ沖おき付近ふきんまで後退こうたいする^[2]^[3]。親潮おやしお系けいの冷水れいすいの南下なんかは沿岸えんがんの環境かんきょうに大おおきな影響えいきょうを与あたえることがわかっており、魚さかな群ぐんの分布ぶんぷの変化へんかや不漁ふりょうなど、沿岸えんがん漁業ぎょぎょうへの悪影響あくえいきょうが生しょうじる^[2]。また、この冷水れいすいが夏なつまで存在そんざいすると、東北とうほく地方ちほうの太平洋たいへいよう岸がんに冷夏れいかをもたらす影響えいきょうを与あたえている可能かのう性せいが指摘してきされている^[2]。

影響えいきょう[編集へんしゅう]

気候きこうにも親潮おやしおは大おおきな影響えいきょうを与あたえている。北海道ほっかいどう東部とうぶや東北とうほく太平洋たいへいよう岸がんでは、夏なつにあまり気温きおんが上あがらず霧きりが発生はっせいすることが多おおい。これは夏なつの暖あたたかくて湿しめった空気くうき（太平洋たいへいよう高気圧こうきあつ）が親潮おやしおによって冷却れいきゃくされるためである^[4]。

また、氷こおり期きに海水かいすい準じゅん変動へんどうが低下ていかした時ときにベーリング陸橋りっきょうができて、親潮おやしおへのベべーリング海りんぐかいの影響えいきょうが無なくなったため、東ひがしアジアでは寒冷かんれい化かの影響えいきょうをあまり受うけなかったという説せつがある。これは現在げんざいの東ひがしアジアが同どう緯度いどのヨーロッパ地域ちいきより寒冷かんれいな環境かんきょうであるにもかかわらず、氷こおり期きにほとんど氷河ひょうがが形成けいせいされなかったことの原因げんいんの一ひとつとされ、東ひがしアジアでは鮮新世よ以来いらいの植物しょくぶつの種たねが96%生息せいそくしているのに対たいし、ヨーロッパでは27%しか残のこっていないことを根拠こんきょとしている。しかし、全まったく寒冷かんれい化かの影響えいきょうを受うけなかったわけではなく、季き節ぶし性せいや降水こうすい量りょうの問題もんだいも関かかわってくるため異論いろんもある。