高分子こうぶんし化学かがく

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高分子こうぶんし化学かがく(こうぶんしかがく、英語えいご:polymer chemistry)は、分子ぶんしりょうがおよそ 10,000 をえる無機むき化合かごうぶつおよび有機ゆうき化合かごうぶつである高分子こうぶんし研究けんきゅう対象たいしょうとする学問がくもん分野ぶんやである。おもに、タンパク質たんぱくしつポリエチレンなどのポリマーあつかう。

高分子こうぶんし化学かがく大別たいべつすると高分子こうぶんし化学かがく物理ぶつり化学かがくてき研究けんきゅう領域りょういき有機ゆうき化学かがくてき研究けんきゅう領域りょういきとにけることができる。前者ぜんしゃ高分子こうぶんし分子ぶんし構造こうぞうあつか高分子こうぶんし構造こうぞうろん高分子こうぶんし固体こたいねつてき性質せいしつ力学りきがくてき性質せいしつあるいは電気でんきてき性質せいしつあつか高分子こうぶんし固体こたいろん高分子こうぶんし希薄きはくあるいは濃厚のうこう溶液ようえき物性ぶっせいあつか高分子こうぶんし溶液ようえきろんなどから構成こうせいされる。後者こうしゃはモノマーから高分子こうぶんしへと成長せいちょう増大ぞうだいさせる手法しゅほうかんする高分子こうぶんし合成ごうせいろん合成ごうせいろん適用てきようする化学かがく反応はんのう探求たんきゅうする高分子こうぶんし反応はんのうろんひとしから構成こうせいされる。

高分子こうぶんしてい分子ぶんしとはことなる特異とくい物性ぶっせい反応はんのうせいつため、1つの研究けんきゅう分野ぶんやとして確立かくりつしている。高分子こうぶんし特異とくい機能きのう物性ぶっせいおも力学りきがくてきねつ力学りきがくてき部分ぶぶんつよあらわれるために、固体こたい溶液ようえきねば弾性だんせいなどといった物理ぶつり化学かがくてき視点してんからの研究けんきゅうおおきく発展はってんしている。また、近年きんねんでは生体せいたい高分子こうぶんしかんする研究けんきゅうおおきなはしらになっている。

歴史れきし[編集へんしゅう]

前史ぜんし[編集へんしゅう]

自然しぜんかいにおける高分子こうぶんし化合かごうぶつは、おもに有機ゆうき高分子こうぶんし生体せいたい物質ぶっしつであるとうくさりタンパク質たんぱくしつ核酸かくさんなどとして多種たしゅ多様たようなものが見出みいだされる。したがって研究けんきゅう対象たいしょうである高分子こうぶんし自体じたい有史ゆうし以前いぜんより人類じんるいいとなみのなかに存在そんざいしていた。人類じんるい天然てんねん高分子こうぶんし利用りようしていた歴史れきしふるく、紀元前きげんぜん3000ねん古代こだいインド文明ぶんめい遺跡いせきより綿布めんぷつかっており、絹織物きぬおりもの歴史れきししん石器せっき時代じだい中国ちゅうごくはじまっている。しかしながら、綿めんきぬセルロースフィブロインといった高分子こうぶんしであるとられていたわけではない[1]。また今日きょうでは高分子こうぶんし分類ぶんるいされる、ニトロセルロースポリスチレン19世紀せいきに、レーヨン20世紀せいき初頭しょとう発明はつめい発見はっけんされているが、学問がくもん対象たいしょうとしての高分子こうぶんし化学かがく確立かくりつするのは比較的ひかくてき最近さいきんである。

高分子こうぶんし化学かがく確立かくりつ[編集へんしゅう]

高分子こうぶんし概念がいねん確立かくりつには、1920ねんから1935ねんの15年間ねんかんわた論争ろんそうがあった[1][2]

1920年代ねんだいなかごろまで、高分子こうぶんし化合かごうぶつである天然てんねんゴムセルロースデンプンタンパク質たんぱくしつなどはてい分子ぶんし化合かごうぶつが「ふく電子でんし」で会合かいごうしたり、ミセル形成けいせいしてかけじょうおおきな粒子りゅうしとなっているだけだとかんがえられていた(会合かいごうたいせつ)。たとえば、「天然てんねんゴムの構造こうぞうイソプレン環状かんじょうりょうからだ会合かいごうしたものである」とするC. Harriesのせつ[1][2]1870ねん植物しょくぶつ学者がくしゃカール・ネーゲリ提唱ていしょうしたセルロースのミセルせつれられていた[1]

1917ねんチューリッヒ工科こうか大学だいがく教授きょうじゅだったヘルマン・シュタウディンガーは、スイス化学かがく工業こうぎょう協会きょうかい講演こうえんで「高分子こうぶんしせつ」をはじめてべ、それを1920ねんにドイツ学会がっかい発表はっぴょうした。その主張しゅちょう上述じょうじゅつ天然てんねんゴムなどの物質ぶっしつ通常つうじょう有機ゆうき化合かごうぶつ(てい分子ぶんし化合かごうぶつ)とおなじく共有きょうゆう結合けつごうによって構成こうせいされ、非常ひじょうながつながったものであるとした。しかしシュタウディンガーが「高分子こうぶんしせつ」をとなえた当初とうしょ確固かっことした実験じっけん事実じじつはなく、高分子こうぶんしせつ会合かいごうたいせつっていたおおくの化学かがくしゃたちから猛烈もうれつ反対はんたいけた[2]1926ねん9月23にちデュッセルドルフおこなわれたシンポジウムで高分子こうぶんしせつ会合かいごうたいせつについて討論とうろんおこなわれたが、5にん講演こうえんしゃなか高分子こうぶんしせつ支持しじしていたのはシュタウディンガーだけだった[2]

共有きょうゆう結合けつごうせつ決定的けっていてき実験じっけん事実じじつは、デンプンもちいたとう重合じゅうごう反応はんのうによってられた。デンプンをさん酢酸さくさんデンプンにしたのちふたたびデンプンに誘導ゆうどうまたはメチルデンプンとし、いくつかの溶媒ようばいもちいて溶液ようえき浸透しんとうあつ測定そくていした。浸透しんとうあつから重合じゅうごう決定けっていしたところ、化学かがく修飾しゅうしょくによって重合じゅうごうはほとんど変化へんかしていなかった。会合かいごうたいせつただしいならば、溶媒ようばい化学かがく修飾しゅうしょく変化へんか会合かいごう状態じょうたい変化へんかし、かけの重合じゅうごう変化へんかすると予想よそうされる。しかし、実験じっけん事実じじつはこの予想よそうはんしていた。シュタウディンガーは同様どうよう実験じっけんをセルロースやポリ酢酸さくさんビニルなどでもおこない、共有きょうゆう結合けつごうせつ証明しょうめいした[3]。こうして1935ねんまでつづいた論争ろんそうは、よく1936ねんにシュタウディンガーがドイツ学会がっかい自身じしん研究けんきゅう成果せいか総括そうかつした論文ろんぶん発表はっぴょうした段階だんかい終結しゅうけつしたとどう編集へんしゅう判断はんだんされた[2]

発展はってん[編集へんしゅう]

高分子こうぶんし化学かがく成果せいかは、1940年代ねんだい以降いこう石油せきゆ化学かがく工業こうぎょう発展はってんとともに、初期しょきウォーレス・カロザースナイロン661930ねん)など合成ごうせい繊維せんい応用おうようされ、今日きょうでは服飾ふくしょくひんから魚網ぎょもうまで天然てんねん繊維せんいってわるほど利用りようされるようになった。また、カール・ツィーグラージュリオ・ナッタ開発かいはつしたチーグラー・ナッタ触媒しょくばい1953ねん)で合成ごうせいされるポリプロピレンひとし代表だいひょうされる合成ごうせい樹脂じゅし(プラスチック)は、建材けんざい機械きかい部品ぶひんからにち用品ようひん素材そざいとして幅広はばひろ利用りようされている。

現在げんざいでは従来じゅうらいよりこう強度きょうどこうおさむりつあるいは特殊とくしゅ機能きのう高分子こうぶんしつくるなどの研究けんきゅうおこなわれている。また、ナノテクノロジーの分野ぶんやとして生体せいたい高分子こうぶんしちょう分子ぶんし性質せいしつ解明かいめいかんする研究けんきゅうさかんである。

分野ぶんや[編集へんしゅう]

高分子こうぶんし構造こうぞうろん[編集へんしゅう]

てい分子ぶんし場合ばあい同様どうように、Xせん回折かいせつ電子でんしせん回折かいせつ中性子ちゅうせいしせん回折かいせつ赤外線せきがいせん分光ぶんこうラマン散乱さんらんNMRなどの手法しゅほうもちいて研究けんきゅうされている。

高分子こうぶんし反応はんのうろん[編集へんしゅう]

新規しんき重合じゅうごう反応はんのうのための触媒しょくばい研究けんきゅうなどもふくまれる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 伊勢いせ典夫のりお東村あずまむらさとしのべ今西いまにし幸男ゆきおほか『しん高分子こうぶんし化学かがく序論じょろん化学かがく同人どうじん、1995ねん3がつISBN 978-4759802580 

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d 伊勢いせ典夫のりお東村あずまむらさとしのべ今西いまにし幸男ゆきおほか (1995ねん), pp.1-3
  2. ^ a b c d e 三枝さえぐさ武夫たけおだい2かい高分子こうぶんしまくあけ―Staudinger教授きょうじゅ偉大いだい業績ぎょうせき―」『高分子こうぶんしだい50かん5がつ、2001ねん、329-331ぺーじ 
  3. ^ 伊勢いせ典夫のりお東村あずまむらさとしのべ今西いまにし幸男ゆきおほか (1995ねん), pp.10-11

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]