森林しんりん限界げんかい

奥おく秩父ちちぶ・金峰山きんぷさんの森林しんりん限界げんかい。写真しゃしん中央ちゅうおう付近ふきんで亜あ高山こうざん帯たい林りんからハイマツ林りんに入いれ替かわっている。

森林しんりん限界げんかい（しんりんげんかい）とは、高木たかぎが生育せいいくできず森林しんりんを形成けいせいできない限界げんかい線せんを指さす。

定義ていぎ

カナダ・アルバータ州しゅうで見みられる森林しんりん限界げんかい

北海道ほっかいどう・大雪山たいせつざん系けい旭あさひ岳たけしの森林しんりん限界げんかい付近ふきん

森林しんりん限界げんかいは気温きおんや降雪こうせつ量りょう、湿度しつど、照度しょうどなど植物しょくぶつ育成いくせいの環境かんきょう条件じょうけんが変化へんかすることで生しょうじ、主おもに高木たかぎとなる木本もくほんに対たいしての分布ぶんぷを見みると、多おおくは線せん状じょうに現あらわれる。主おもな要因よういんは低温ていおんや乾燥かんそうであり地球ちきゅう規模きぼで現あらわれるが、水分すいぶんの過剰かじょうや塩分えんぶんの過剰かじょう、硫黄いおうや超ちょう塩基えんき性せい土壌どじょうによる影響えいきょうや強風きょうふう、降雪こうせつや洪水こうずいによっても局所きょくしょ的てきに現あらわれることがある。また、乾燥かんそうは局所きょくしょ的てきな土壌どじょう条件じょうけんの影響えいきょうを強つよく受うけるため、気温きおんほどには明瞭めいりょうな森林しんりん限界げんかいを示しめさない。また分類ぶんるい対象たいしょうとしているのは高木たかぎであるので、ある特殊とくしゅな生育せいいく条件じょうけんを備そなえた植物しょくぶつは森林しんりん限界げんかいを越こえて育そだつことができ、このような植物しょくぶつを総称そうしょうして高山たかやま植物しょくぶつと呼よんでいる。

高木たかぎとなる生育せいいくを妨さまたげる主おもな要因よういんは低温ていおんと水不足みずぶそくである。水みずの不足ふそくは林はやし床ゆかや根ね圏けんが十分じゅうぶんに育そだたず、低温ていおんは光合成こうごうせいを失しつ活かつさせて水みずの蒸散じょうさんを弱よわめ、ガス交換こうかんや根ねからの窒化物ぶつ吸収きゅうしゅうの効率こうりつを悪わるくし、凍結とうけつした雪氷せっぴょうからは水みずを得えることができない。しかし、いわゆる針葉樹しんようじゅ（広義こうぎには球たま果はて植物しょくぶつ）は、葉はや幹みきの木質もくしつが厚あついため乾燥かんそうに強つよく、遅おそい成長せいちょうを油脂ゆしや揮発きはつ性せいのオレオレジン を分泌ぶんぴつして食害しょくがいや菌きんなどから守まもり、また動物どうぶつ媒なかだちを必要ひつようとしないなどの特徴とくちょうを備そなえており、森林しんりん限界げんかい近ちかくでは高木たかぎの主要しゅよう樹林じゅりんに、林はやし床ゆかでは単たん子葉しよう植物しょくぶつが多おおくなる。それでも土壌どじょうの乾燥かんそう、貧ひん栄養えいよう化か、流出りゅうしゅつでついに十分じゅうぶんに育そだつことができなくなり、森林しんりん限界げんかいが現あらわれる。

水平すいへい的てきには太陽たいよう放射ほうしゃが異ことなる緯度いどによって現あらわれる。概おおむね南北なんぼく60 - 70度ど付近ふきんで、これより高緯度こういどでは生育せいいく条件じょうけんはより厳きびしくなり高木たかぎ限界げんかい、低木ていぼく限界げんかい、樹木じゅもく限界げんかいを越こえツンドラへと移うつる。これにはクルムホルツを分類ぶんるいに加くわえることもある。加くわえて高度こうどにより垂直すいちょく的てきにも現あらわれる。これらは季節風きせつふうや海流かいりゅうによって影響えいきょうをうけるため地域ちいきでばらつきがある。

低地ていちに接せっする急峻きゅうしゅんな高山たかやま地形ちけいがあると、低地ていちから山頂さんちょうに至いたる植生しょくせいの変化へんかとして明瞭めいりょうに観察かんさつできるため、高度こうどによる垂直すいちょく的てきな森林しんりん限界げんかい、すなわち亜あ高山こうざん帯たいから高山たかやま帯たいに変かわる線せんこのことを指さす場合ばあいが多おおい。なお、高山たかやま帯たいは、森林しんりん限界げんかいから雪線せっせんの下したまで と定義ていぎされる。大だい規模きぼに現あらわれると気候きこうとして区分くぶんされることがある（→高山たかやま気候きこう）。

高度こうどによる森林しんりん限界げんかい

回帰線かいきせんに挟はさまれた低てい緯度いどの高山こうざんの気温きおんは、季き節ぶしによる年とし較差かくさよりも日にち較差かくさのほうが大おおきく、季き節ぶし変化へんかを示しめさず主おもに乾燥かんそうによって森林しんりん限界げんかいが形成けいせいされる。低てい緯度いどの森林しんりん限界げんかいはおよそ3000 m付近ふきんとされる。この付近ふきんからは貿易ぼうえき風ふうの影響えいきょうを受うけやすくなる。水分すいぶんが確保かくほされやすい条件じょうけんでの高山たかやま地域ちいきでは、かなりの高度こうどまで森林しんりん限界げんかいが伸のび、標高ひょうこう3600 - 3800 m付近ふきんに達たっするところがある。

中ちゅう緯度いど地域ちいきからの高山こうざんの気温きおんは、季き節ぶしの年とし較差かくさの影響えいきょうを強つよく受うける。北半球きたはんきゅうの中なか緯度いど以北いほくでは暖あたたかさの指数しすう15と森林しんりん限界げんかいがほぼ一致いっちするとされる。ケッペンは「森林しんりん限界げんかいは月つき平均へいきん気温きおんの最高さいこうが10 ℃の等温とうおん線せんと一致いっちする」と主張しゅちょうしたが、これは特とくに南半球みなみはんきゅうではズレが大おおきくなり、適用てきようできないとの指摘してきがある。

メキシコ湾流わんりゅうの影響えいきょうを受うけるヨーロッパでは、1800 mが森林しんりん限界げんかいになりうる。

キリマンジャロ山さんなど低てい緯度いど地域ちいきに位置いちする高山こうざんでは低地ていちの熱帯ねったい雨林うりんやサバナから標高ひょうこうが上あがるにつれて温帯おんたいの落葉らくよう広葉樹こうようじゅ林はやし、亜寒帯あかんたいの針葉樹しんようじゅ林はやし、寒帯かんたいのツンドラ、頂上ちょうじょう近ちかくの永久えいきゅう氷雪ひょうせつ地帯ちたいへと高度こうど別べつに段階だんかい的てきな植生しょくせいの変化へんかが見みられる。一方いっぽう中なか・高緯度こういど地域ちいきでも広葉樹こうようじゅ林りん・針葉樹しんようじゅ林りんから始はじまる高度こうど別べつの植生しょくせいの変化へんかは見みられるが、森林しんりん限界げんかい、植物しょくぶつ限界げんかいともにその標高ひょうこうは低てい緯度いど地域ちいきに比くらべて低ひくくなる。なお、高山こうざんに見みられるツンドラを寒帯かんたいのツンドラと区別くべつして高山たかやまツンドラという。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくアリゾナ州しゅう北部ほくぶ、フラッグスタッフ市し付近ふきんにそびえる独立どくりつ峰ほう、ハンフリーズ・ピーク（Humphreys Peak、標高ひょうこう3850 m）ではその植生しょくせいは山麓さんろくの高地こうち砂漠さばく（実際じっさいはステップ）から山岳さんがく森林しんりん、高山たかやまツンドラへと変化へんかする。

日本にっぽんにおける森林しんりん限界げんかい

日本にっぽんでは特とくに主おもに夏なつの温度おんど・積算せきさん温度おんどに従したがうようである。日本にっぽんアルプス中央ちゅうおう部ぶや富士山ふじさんでは約やく2500 - 2800 mほどである。東北とうほく地方ちほうで約やく1600 m、北海道ほっかいどうの大雪山たいせつざんや日高ひだか山脈さんみゃくで約やく1000 - 1500 m、北海道ほっかいどうの利尻島りしりとうで標高ひょうこう約やく500 m、千島ちしま列島れっとうでは標高ひょうこう300 m程度ていどにまで下さがっている。一方いっぽう、九州きゅうしゅうや四国しこく、 屋久島やくしまの宮之浦岳みやのうらだけなど標高ひょうこうが2000 m程度ていどで森林しんりん限界げんかいが見みられるが、これは岩石がんせき地質ちしつや地形ちけい的てきな影響えいきょうが大おおきい。

日本にっぽんの森林しんりん限界げんかいより手前てまえ（亜あ高山こうざん帯たい）における植生しょくせいは、主おもにモミ属ぞく・トウヒ属ぞく・コメツガなどの常緑じょうりょく針葉樹しんようじゅ林りんだが、森林しんりん限界げんかいの境界きょうかい線せん付近ふきんでは落葉らくよう広葉樹こうようじゅのダケカンバの比率ひりつが高たかくなる場合ばあいが多おおい。森林しんりん限界げんかいより奥おく（高山たかやま帯たい）では、ハイマツなどの小しょう低木ていぼくが多おおい。高木たかぎの先端せんたん部ぶがそれ以上いじょう伸のびることができなくなる高度こうどを高木たかぎ限界げんかいと呼よぶ。

日本にっぽんでは亜あ高山こうざん帯たい林りんからハイマツ帯たいへ、短みじかい距離きょりで樹き種しゅと景観けいかんが一変いっぺんするため、森林しんりん限界げんかいより上うえからは森林しんりん限界げんかいを容易よういに目視もくしすることが可能かのうであることが多おおい。しかし、ハイマツは北東ほくとうアジア特有とくゆうの植物しょくぶつであり、世界せかい的てきに見みると亜あ高山こうざん帯たいと同おなじ樹じゅ種しゅが次第しだいに疎林そりん・低木ていぼく化かして、最後さいごには姿すがたを消けす場合ばあいも多おおく、その場合ばあいは森林しんりん限界げんかいは明確めいかくな1本ほんの線せんではなく、幅はばの広ひろい移行いこう帯たいとなる。高緯度こういど地帯ちたいにおいてはこのような移行いこう帯たいを森林しんりんツンドラと呼よび、ときには南北なんぼく数すう百ひゃくキロメートルに達たっする場合ばあいもある。

なお、ハイマツ帯たいを高山こうざん帯たいに含ふくめるかどうかは議論ぎろんがある（ハイマツの項こうおよび亜あ高山こうざん帯たい針葉樹しんようじゅ林りんの項こうを参照さんしょう）。

その他た

最近さいきんでは地球ちきゅう温暖おんだん化かに関連かんれんして、森林しんりん限界げんかいの垂直すいちょく移動いどう（同おなじ場所ばしょで、境界きょうかいが高度こうど方向ほうこうに変化へんかすること）や水平すいへい移動いどう（同おなじ高度こうどで、境界きょうかいが主おもに緯度いど方向ほうこうに変化へんかすること）により、生態せいたい系けいが変化へんかすることが論議ろんぎされている。実際じっさいに、過去かこの氷河ひょうが時代じだいにおいて、大だい規模きぼな森林しんりん限界げんかいの垂直すいちょく移動いどう・水平すいへい移動いどうが生しょうじたことが知しられている。

森林しんりん限界げんかい以上いじょうにつらなる荒廃こうはい地ちは、植生しょくせいによる復旧ふっきゅうが見込みこめないことから特殊とくしゅ荒廃こうはい地ちとして区分くぶんされる。

関連かんれん項目こうもく

• 亜あ高山こうざん帯たい
• 高山たかやま植物しょくぶつ
• 日本にっぽんの高山たかやま植物しょくぶつ相しょう
• 高山たかやま気候きこう
• 地球ちきゅう温暖おんだん化か
• 万年雪まんねんゆき