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高次こうじのう機能きのう障害しょうがい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

高次こうじのう機能きのう障害しょうがい(こうじのうきのうしょうがい)とは、おものう損傷そんしょうによってこされる様々さまざま神経しんけい心理しんりがくてき障害しょうがいである。しゅとして病理びょうりがくてき観点かんてんよりも厚生こうせい労働省ろうどうしょうによる行政ぎょうせいじょう疾患しっかん区分くぶん[1][2]として導入どうにゅうされた概念がいねんであり、ことなった原因げんいんによる複数ふくすう疾患しっかんふくまれる。それぞれの症状しょうじょう治療ちりょうについて、くわしくはのう血管けっかん障害しょうがいといった病理びょうりがくてき観点かんてんからろんじられる。

概要がいよう

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高次こうじのう機能きのう障害しょうがいという用語ようごは、メディアや行政ぎょうせいもちいられるが、精神せいしん医学いがく神経しんけいがく生理学せいりがくなどの医学いがく分野ぶんやにおいてはあまり使つかわれていない[3][4]

その障害しょうがいそとからではかりにくく自覚じかく症状しょうじょううすいためかくれた障害しょうがいわれている[よう出典しゅってん]

よく、一言ひとことで「高次こうじのう」とりゃくされるため、のうないにそのような部位ぶいがあるのか、と勘違かんちがいされることがあるが、そうではなく、かりやすくすれば「高次こうじのう機能きのう障害しょうがい」ということである[5]

定義ていぎ

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学術がくじゅつ用語ようごとしての「高次こうじのう機能きのう障害しょうがい」は、のう損傷そんしょう起因きいんする認知にんち障害しょうがい全般ぜんぱんし、このなかには症状しょうじょうとしての失語しつごしつぎょうしつみとめのほか記憶きおく障害しょうがい注意ちゅうい障害しょうがい遂行すいこう機能きのう障害しょうがい社会しゃかいてき行動こうどう障害しょうがいなどがふくまれる[6]

これにたいし、日本にっぽん厚生こうせい労働省ろうどうしょうが2001年度ねんどから本格ほんかくてき研究けんきゅうんでいる「高次こうじのう機能きのう障害しょうがい」は、行政ぎょうせいてき定義ていぎされたものといえる。これについてはすこ説明せつめい必要ひつようである。のう血管けっかん障害しょうがい(いわゆる脳卒中のうそっちゅう)や、交通こうつう事故じこによるのう外傷がいしょう身体しんたい障害しょうがいとなる場合ばあいがある。身体しんたい障害しょうがい後遺こうい障害しょうがいとしてのこ場合ばあいと、時間じかん経過けいかとともに軽快けいかいしていく場合ばあいがある。しかし、身体しんたい障害しょうがい軽度けいどもしくはほとんどられない場合ばあいでも、のう機能きのう障害しょうがいしょうじている場合ばあいがある。それが前述ぜんじゅつ認知にんち障害しょうがい、つまり行動こうどうあらわれる障害しょうがいであるため、職場しょくばもどってから、問題もんだいあきらかになるというケースがある。つまり、日常にちじょう生活せいかつ社会しゃかい生活せいかつへの適応てきおう困難こんなんゆうする人々ひとびとがいるにもかかわらず、これらについては診断しんだんリハビリテーション生活せいかつ支援しえんとう手法しゅほう確立かくりつしていないため早急そうきゅう検討けんとう必要ひつようなことがあきらかとなった。そこで、2004ねん4がつから、高次こうじのう機能きのう障害しょうがい診断しんだん基準きじゅんもとづいて医師いしにより高次こうじのう機能きのう障害しょうがい診断しんだんされた場合ばあい作業さぎょう療法りょうほう言語げんご聴覚ちょうかくによる訓練くんれん診療しんりょう報酬ほうしゅう対象たいしょうとされることになった。また、2006ねん4がつからは、のう血管けっかん疾患しっかんリハビリテーションの限度げんど180にちえて訓練くんれんけることができるようになり、機能きのう回復かいふく中心ちゅうしんとする医学いがくてきリハビリテーションを最大さいだい6かげつ実施じっししたのちは、必要ひつようおうじて生活せいかつ訓練くんれんプログラムや就労しゅうろう移行いこう支援しえんプログラムをくわえた連続れんぞくてき訓練くんれん実施じっしされるようになった。交通こうつう事故じこによる高次こうじのう機能きのう障害しょうがいについては、公的こうてき制度せいど先駆さきがけて、自動車じどうしゃ損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん保険ほけん自賠責しばいせき保険ほけん)が2001ねんから交通こうつう事故じこ被害ひがいとして認定にんていするシステムを構築こうちくしている。自賠責しばいせき保険ほけんにより、交通こうつう事故じこによってしょうじた高次こうじのう機能きのう障害しょうがいとして認定にんていされれば、損害そんがい賠償ばいしょう対象たいしょうとして保険ほけんきん支払しはらわれることとなる[よう出典しゅってん]

医療いりょう現場げんばにおいては、神経しんけい心理しんりがくてき障害しょうがい認知にんち障害しょうがいなどの用語ようごほう一般いっぱんてき場合ばあいもある[7]たとえば精神せいしん保健ほけん領域りょういきでは,器質きしつせい精神せいしん障害しょうがいという病名びょうめいほうもちいられる機会きかいおお[7]

症状しょうじょう

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その症状しょうじょう多岐たきにわたり、記憶きおく障害しょうがい注意ちゅうい障害しょうがい遂行すいこう機能きのう障害しょうがいしつ見当けんとう社会しゃかいてき行動こうどう障害しょうがいなどの認知にんち障害しょうがいとうのう損傷そんしょう部位ぶいによって特徴とくちょう[よう出典しゅってん]

診断しんだん

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診断しんだん基準きじゅん

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厚生こうせい労働省ろうどうしょう社会しゃかい援護えんごきょく障害しょうがい保健ほけん福祉ふくし国立こくりつ障害しょうがいしゃリハビリテーションセンター診断しんだん基準きじゅん以下いかのようにさだめている。

 Ⅰ.主要しゅよう症状しょうじょうとう

  1. のう器質きしつてき病変びょうへん原因げんいんとなる事故じこによる受傷じゅしょう疾病しっぺい発症はっしょう事実じじつ確認かくにんされている。

  2. 現在げんざい日常にちじょう生活せいかつまたは社会しゃかい生活せいかつ制約せいやくがあり、そのしゅたる原因げんいん記憶きおく障害しょうがい注意ちゅうい障害しょうがい遂行すいこう機能きのう障害しょうがい社会しゃかいてき行動こうどう障害しょうがいなどの認知にんち障害しょうがいである。


 Ⅱ.検査けんさ所見しょけん

  MRI、CT、脳波のうはなどにより認知にんち障害しょうがい原因げんいんかんがえられるのう器質きしつてき病変びょうへん存在そんざい確認かくにんされているか、あるいは診断しんだんしょによりのう器質きしつてき病変びょうへん存在そんざいしたと確認かくにんできる。


 Ⅲ.除外じょがい項目こうもく

  1. のう器質きしつてき病変びょうへんもとづく認知にんち障害しょうがいのうち、身体しんたい障害しょうがいとして認定にんてい可能かのうである症状しょうじょうゆうするが上記じょうき主要しゅよう症状しょうじょう(I-2)をもの除外じょがいする。

  2. 診断しんだんにあたり、受傷じゅしょうまたは発症はっしょう以前いぜんからゆうする症状しょうじょう検査けんさ所見しょけん除外じょがいする。

  3. 先天せんてんせい疾患しっかんしゅうさんにおけるのう損傷そんしょう発達はったつ障害しょうがい進行しんこうせい疾患しっかん原因げんいんとするもの除外じょがいする。


 Ⅳ.診断しんだん

  1. I〜IIIをすべてたした場合ばあい高次こうじのう機能きのう障害しょうがい診断しんだんする。

  2. 高次こうじのう機能きのう障害しょうがい診断しんだんのう器質きしつてき病変びょうへん原因げんいんとなった外傷がいしょう疾病しっぺい急性きゅうせい症状しょうじょうだっしたのちにおいておこなう。

  3. 神経しんけい心理しんりがくてき検査けんさ所見しょけん参考さんこうにすることができる。


  なお、診断しんだん基準きじゅんのIとIIIをたす一方いっぽうで、IIの検査けんさ所見しょけんのう器質きしつてき病変びょうへん存在そんざいあきらかにできない症例しょうれいについては、慎重しんちょう評価ひょうかにより高次こうじのう機能きのう障害しょうがいしゃとして診断しんだんされることがありる。

  また、この診断しんだん基準きじゅんについては、今後こんご医学いがく医療いりょう発展はってんまえ、適時てきじ見直みなおしをおこなうことが適当てきとうである。

  (平成へいせい16ねん2がつ20日はつか作成さくせい)

— 厚生こうせい労働省ろうどうしょう社会しゃかい援護えんごきょく障害しょうがい保健ほけん福祉ふくし国立こくりつ障害しょうがいしゃリハビリテーションセンター、[6]

診断しんだん困難こんなん

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医師いし山口やまぐち研一郎けんいちろう以下いか理由りゆうによって診断しんだん困難こんなんであるとべる[8]

  1. 症状しょうじょう多彩たさいであるため、それぞれの病態びょうたいがいかなる理由りゆうからしょうじているのか、整理せいりがつかない。
  2. 症状しょうじょうなかもとからの性格せいかく事故じこ病気びょうき)によってしょうじた(精神せいしん症状しょうじょう区別くべつがつけにくい。
  3. 症状しょうじょう各科かっかわたり(脳神経のうしんけい外科げか神経しんけい内科ないか精神せいしん神経しんけい、リハビリテーション小児科しょうにかなど)、一貫いっかんした診療しんりょう困難こんなん
  4. 経過けいかながく、一人ひとり医師いし療法りょうほう)が一貫いっかんしてたずさわることが困難こんなん
  5. 画像がぞう(CTやMRI)じょう異常いじょう所見しょけんがでにくい。

SPECT放射ほうしゃ断層だんそう撮影さつえい)、PET陽電子ようでんし放射ほうしゃ断層だんそう撮影さつえい)など、先端せんたん画像がぞう診断しんだん判別はんべつされることがあるが、現在げんざいでは、診断しんだんいち材料ざいりょうである[よう出典しゅってん]

むしろ、画像がぞう診断しんだん神経しんけい心理しんりテストなどをわせた多角たかくてき診断しんだんにより「高次こうじのう機能きのう障害しょうがい」と診断しんだんされるケースがおおいのも事実じじつである[よう出典しゅってん]

治療ちりょう

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治療ちりょう支援しえんじょう留意りゅういてん

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高次こうじのう機能きのう障害しょうがい治療ちりょう患者かんじゃ支援しえんおこなさいには、患者かんじゃ認知にんち機能きのうへの個別こべつ配慮はいりょ必須ひっすである[9]。また、以下いか留意りゅういてんげられる[9]

  • 認知にんち機能きのう障害しょうがいのアセスメントから得意とくい不得意ふとくいあきらかにすること
  • 注意ちゅうい集中しゅうちゅう継続けいぞくむずかしい場合ばあい、セッションちゅう休憩きゅうけい確保かくほすること、1セッションの時間じかんみじか設定せっていしてセッションの頻度ひんどやすこと
  • コミュニケーションにかんしては、明確めいかく質問しつもんおこなうこと、セッション内容ないよう視覚しかくてきにもしめ理解りかいうながすこと
  • 記憶きおくかんしては、ノートやファイルなどを用意ようい重要じゅうようなポイントをそこにとしんでいくこと、ポイントをかえつたえること、治療ちりょう過程かてい家族かぞく介護かいごしゃむこと
  • 遂行すいこう機能きのうかんしては、情報じょうほうをゆっくりと提示ていじ応答おうとう時間じかんおおくとること、より具体ぐたいてき事象じしょう焦点しょうてんてていくこと

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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出典しゅってん

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  1. ^ 厚生こうせい労働省ろうどうしょう (2002ねん4がつ10日とおか). “高次こうじのう機能きのう障害しょうがい支援しえんモデル事業じぎょう 中間なかま報告ほうこくしょについて”. 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん
  2. ^ 弁護士べんごし法人ほうじん はやし哲朗てつろう法律ほうりつ事務所じむしょ. “高次こうじのう機能きのう障害しょうがい 認定にんていシステム確立かくりつ歴史れきし”. 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん
  3. ^ 正洋まさひろ, 大橋おおはし (2002). 一般いっぱん用語ようごになりつつある高次こうじのう機能きのう障害しょうがい. 失語症しつごしょう研究けんきゅう (日本にっぽん失語症しつごしょう学会がっかいげん 日本にっぽん高次こうじのう機能きのう障害しょうがい学会がっかい) 22 (3): 194–199. doi:10.2496/apr.22.194. https://doi.org/10.2496/apr.22.194. 
  4. ^ 平岡ひらおか たかし (2021). 高次こうじのう機能きのう障害しょうがいという用語ようご解釈かいしゃくとその適用てきよう (英語えいご). Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science (回復かいふくリハビリテーション病棟びょうとう協会きょうかい) 12 (0): 1–3. doi:10.11336/jjcrs.12.1. ISSN 2185-5323. https://doi.org/10.11336/jjcrs.12.1. 
  5. ^ 山田やまだただしうね『それでものう学習がくしゅうする』講談社こうだんしゃ、p.1
  6. ^ a b 高次こうじのう機能きのう障害しょうがい診断しんだん基準きじゅん”. 国立こくりつ障害しょうがいしゃリハビリテーションセンター. 2021ねん8がつ10日とおか閲覧えつらん
  7. ^ a b 橋本はしもとけい教育きょういく講演こうえん 高次こうじのう機能きのう障害しょうがいリハビリテーション —診断しんだん治療ちりょう支援しえんのコツ—」『The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine』だい47かんだい12ごう公益社こうえきしゃだん法人ほうじん 日本にっぽんリハビリテーション学会がっかい、2010ねん12月18にち、856-861ぺーじdoi:10.2490/jjrmc.47.8562021ねん8がつ10日とおか閲覧えつらん 
  8. ^ 山口やまぐち研一郎けんいちろう 2017, p. 4-5 より抜粋ばっすい.
  9. ^ a b 日本にっぽん認知にんち行動こうどう療法りょうほう学会がっかい へん認知にんち行動こうどう療法りょうほう事典じてん丸善まるぜん出版しゅっぱん、2019ねん、376-377ぺーじ 

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 山口やまぐち研一郎けんいちろう高次こうじのう機能きのう障害しょうがい-医療いりょう現場げんばから社会しゃかいをみる』岩波書店いわなみしょてん、2017ねんISBN 978-4-00-022958-6 

関連かんれん人物じんぶつ

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  • やなぎ浩太郎こうたろう - 俳優はいゆう。2003ねん12月に帰宅きたく途中とちゅうでの交通こうつう事故じこ頭部とうぶ強打きょうだして発症はっしょう
  • 常石つねいし勝義まさよし - もとJRA騎手きしゅ。2004ねん8がつのレースちゅう落馬らくば事故じこにより発症はっしょう
  • 石山いしやましげる - もとJRA騎手きしゅ。2007ねん2がつのレースちゅう落馬らくば事故じこにより発症はっしょう
  • GOMA - 2009ねん11月に首都高しゅとこうでの事故じこったとき発症はっしょう
  • 石井いしい雅史まさし - もと競輪けいりん選手せんしゅ練習れんしゅうちゅう事故じこにより発症はっしょう。その北京ぺきんパラリンピック1kTTで優勝ゆうしょう
  • ケンタロウ - 料理りょうり研究けんきゅう。2012ねん2がつ首都高しゅとこうでオートバイ事故じここし6メートル転落てんらくして発症はっしょう

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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