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「少し先の未来では、生成AIを導入したサービスでなければ使ってもらえないだろう」――。医療関連サービスを手掛けるメドレーの岸田将孝ジョブメドレーアカデミープロダクト責任者はこう語る。同社は2023年5月18日、介護事業所などを対象にしたオンライン動画研修サービス「ジョブメドレーアカデミー」に、米Microsoft(マイクロソフト)の「Azure OpenAI Service」を利用する機能を追加した。
メドレーが生成AI(人工知能)の検討に乗り出したのは2023年3月下旬ごろ。「何に使えそうか」を議論し始めた。「様々なアイデアがあったが、特に業務効率化など社内に閉じたものが多かった」と岸田プロダクト責任者は明かす。
しかし、結果的には社内利用よりもハードルが高い顧客向けサービスへの実装に踏み切った。理由はシンプル。提供中の現行サービスに課題があり、生成AIならば解決できる可能性があったからだ。「生成AIは単に面白いだけでなく、実際に効率に差が出る。AIにしっかりと取り組まなければ、将来はユーザーの比較対象にすらならなくなる」と岸田プロダクト責任者は危機感をあらわにする。
オンライン英会話のレアジョブも、早いタイミングで顧客向けサービスに生成AIを組み込んだ。2023年4月、無料登録ユーザー数が累計100万人に上る「レアジョブ英会話」に、受講者が自身のレベルに応じたサポートをチャット形式で受けられる機能のベータ版をリリースした。ChatGPTを利用している。
同社の福田侑也執行役員CMO(最高マーケティング責任者)M&B 戦略本部長は、「スピード勝負だ。まずリリースして改善していく」と話す。「数年後に当たり前になってからではなく、今から取り組んだほうが確実に最適な機能にできる。実装せざるを得ない」(同氏)
顧客サービスに生成AIを組み込んだ企業の例
(出所:日経クロステック)
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サポート的な立ち位置に徹する
ChatGPTが巻き起こした生成AIブームは、瞬く間に世界中の企業に広がった。技術革新のインパクトに加えて、手軽に試せる点も追い風となり、従来の技術では見られなかったスピードで企業に受け入れられつつある。
日本の大手企業でも積極的に導入する動きが続いている。とはいえ、「まずは社員にChatGPTを触ってもらう」といった段階の企業がほとんど。生成AIには大きな可能性があるものの、リスクが払拭されているわけではないからだ。将来的なステップとして顧客サービスへの実装を見据えるものの、まずは社内利用で経験を蓄積しようとしているのだろう。
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一方で、既にユーザーを抱えている現行サービスで生成AIを利用する意欲的な企業も増え始めた。こうした先行企業は、生成AIに潜むリスクや不確定要素に目を配りながら、実用化に踏み切っている。一歩踏み込んだ活用を探るうえで参考にできるはずだ。