重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう

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重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう(じゅうしょうきんむりょくしょう、英語えいご: Myasthenia Gravis略称りゃくしょう:MG)とは、アセチルコリンなどの抗体こうたいにより神経しんけいすじ伝達でんたつ阻害そがいされるために筋肉きんにくえき疲労ひろうせい脱力だつりょくこる自己じこ免疫めんえき疾患しっかんである。

日本にっぽんでは厚生こうせい労働省ろうどうしょうにより特定とくてい疾患しっかん指定していされている難病なんびょうである。

神経しんけいすじ接合せつごう血液けつえきのう関門かんもん保護ほごがなく、自己じこ抗体こうたい依存いぞんせい疾患しっかんしょうじやすい特徴とくちょうをもっている。重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう(MG)は、神経しんけいすじ接合せつごう疾患しっかんのなかでもっと頻度ひんどたかいものである。

疫学えきがく[編集へんしゅう]

日本にっぽんにおいては、ゆうびょうりつ人口じんこう10まんにんあたり11.8にんである。男女だんじょは1:1.7であり女性じょせいおおい。幼児ようじ発症はっしょうが7.0%であり後期こうき発症はっしょう(65さい以上いじょう)は16.8%であった。日本にっぽんでも後期こうき発症はっしょうMGが増加ぞうかしている。MGFA分類ぶんるいではIが35.7%、IIaが27.8%、IIbが16.5%、IIIaが9.0%、IIIbが6.6%、IVaが1.1%、IVbが1.4%、Vが2.0%であった。すじがた軽症けいしょう全身ぜんしんがた全体ぜんたいの80%をめている。ただしさい重症じゅうしょう状態じょうたいをもってMGFA分類ぶんるいとする原則げんそくしたがっていない報告ほうこくもあるため解釈かいしゃく注意ちゅうい必要ひつようである。また発症はっしょう2年間ねんかんすじがたから全身ぜんしんがた進展しんてんする可能かのうせいがある。ぎゃくに2ねん以上いじょう経過けいかしていれば移行いこうしないことがおおい。

自己じこ抗体こうたい[編集へんしゅう]

日本にっぽんではやく80〜85%が「AChR抗体こうたい陽性ようせいMG」で、かず%が「MuSK抗体こうたい陽性ようせいMG」で、すう%は「double serenegative MG(DS-MG)」と位置付いちづけられている。AChR抗体こうたい・MuSK抗体こうたい以外いがいでは「LDL受容じゅようたい関連かんれん蛋白たんぱく4(Lrp4)抗体こうたい」やよこもんすじ標的ひょうてき抗原こうげん(titin、ryanodine receptor、Kv1.4)とう報告ほうこくされている。

AchR抗体こうたい

ニコチンせいアセチルコリン受容じゅようたい神経しんけい伝達でんたつ物質ぶっしつであるアセチルコリンと、こうアセチルコリン受容じゅようたい抗体こうたい競合きょうごう結合けつごうしてしょうじる。むね腺腫せんしゅ合併がっぺい症例しょうれいおおい。

Musk抗体こうたい

AchoR抗体こうたい陰性いんせい症例しょうれいで、すじ特異とくいてきチロシンキナーゼにたいする自己じこ抗体こうたいである「こうMusk抗体こうたい陽性ようせい症例しょうれいこうMusk抗体こうたい陽性ようせいのMGの特徴とくちょうは20〜60さい女性じょせいこうはっし、症状しょうじょうたま症状しょうじょう顔面がんめんすじ脱力だつりょくしるあかりでクリーゼになりやすい。コリンエステラーゼ阻害そがいやく無効むこうなことがあり、胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ効果こうかすくないとわれている。血漿けっしょう交換こうかん、ステロイド、リツキシマブなどが有効ゆうこうとされている。

Lrp4抗体こうたい

2011ねんに、長崎大学ながさきだいがく医学部いがくぶ本村もとむら政勝まさかつ樋口ひぐちさとしによって、double serenegative MG(DS-MG)患者かんじゃにおいて、LDL受容じゅようたい関連かんれん蛋白たんぱく4(Lrp4)抗体こうたい陽性ようせいがあることが報告ほうこくされた。

病態びょうたい[編集へんしゅう]

重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょうにおける胸腺きょうせんおも影響えいきょうは、抗体こうたい産出さんしゅつ抗原こうげん蛋白質たんぱくしつ(AChR)の発現はつげん部位ぶい、AChR特異とくいてきT細胞さいぼうおくてき活性かっせい抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼう存在そんざい部位ぶい、MHCクラスII蛋白質たんぱくしつ発現はつげん、サイトカイン発現はつげん亢進こうしん免疫めんえき細胞さいぼうのpositive・negative selectionの異常いじょう胸腺きょうせん形成けいせい(またはむね腺腫せんしゅない抑制よくせいせいT細胞さいぼう機能きのう不全ふぜんなどがかんがえられている。

年齢ねんれい[編集へんしゅう]

  • 成人せいじん発症はっしょう

MGの患者かんじゃやく半数はんすうすじがたMGとして発症はっしょうし、うち50〜60%の患者かんじゃ発症はっしょう2ねん以内いないすじがたMGから全身ぜんしんがたMGに進展しんてんする。高齢こうれいしゃ場合ばあいには全身ぜんしんがたへの進展しんてんは31%とややてい頻度ひんどであり、ぜん経過けいかとおしてすじがたにとどまる頻度ひんどたかい。すじがた軽症けいしょう全身ぜんしんがた(MGFAIIa)との区別くべつはしばしば困難こんなんである。反復はんぷく刺激しげき検査けんさ四肢ししでのwaningをみとめることが全身ぜんしんがたへの移行いこう示唆しさするものではなく、QMGスコアではすじ以外いがい項目こうもく点数てんすうがつくこともある。すじがたMGにたいしてステロイドパルス療法りょうほうおこなうと初期しょき増悪ぞうあくとして症状しょうじょう増悪ぞうあく、ときに一過いっかせい四肢しし脱力だつりょくていすることがあるが、クリーゼにいたることはなく全身ぜんしんがたMGにくらべて安全あんぜんせいたかい。

  • 小児しょうに発症はっしょう

MGのこうはつ年齢ねんれい通常つうじょう20〜30さいであるが日本にっぽんでは5さい以下いかにピークがある。こうコリンエステラーゼ阻害そがいやく完全かんぜん寛解かんかいにいたる症例しょうれい少数しょうすうながらみとめられる。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

分類ぶんるい筋力きんりょく低下ていかあらわれる範囲はんいによって分類ぶんるいする。以前いぜんはOsserman(オッサーマン)分類ぶんるいおおかったがMGFA(Myasthenia Gravis Foundation of. America)分類ぶんるいされることがおおくなった。また合併がっぺいするむね腺腫せんしゅかんしては病理びょうりをWHO分類ぶんるい(type Bがおおい)でおこない、やまい正岡まさおか分類ぶんるいおこなう。

  • 成人せいじんだいIがたすじがた
    いちがわまたは両側りょうがわそとすじのみおかされる。
  • 成人せいじんだいIIがた全身ぜんしんがた
    そとすじ頚筋くびすじ四肢ししすじなどがおかされる。もっとこう頻度ひんどたま麻痺まひあらわれることもある。
  • 成人せいじんだいIIIがた急性きゅうせいげき症状しょうじょう
    急激きゅうげき発症はっしょうし、広範囲こうはんいすじおかされる。呼吸こきゅうすじ早期そうきおかされるため死亡しぼうりつたかい。
  • 成人せいじんだいIVがた晩期ばんき重症じゅうしょうがた
    Iがた・IIがたよりやく2ねん経過けいかられることがおおく、IIIがたとほぼ同様どうよう症状しょうじょうていする。
  • 成人せいじんだいVがたすじ萎縮いしゅくがた
    IIがた・IIIがた・IVがたうちはいようせい萎縮いしゅくではないすじ萎縮いしゅくしめすもの。
  • 新生児しんせいじ一過いっかせいがた
    胎児たいじ時期じきに、重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう母親ははおやから胎盤たいばんつうじてこうアセチルコリン受容じゅようたい抗体こうたい移行いこうするため、新生児しんせいじ一過いっかせいすじ無力むりょく症状しょうじょうしょうじたもの。

臨床りんしょうぞう[編集へんしゅう]

運動うんどう反復はんぷく持続じぞくともな筋力きんりょく低下ていかし(えき疲労ひろうせい)、これが休息きゅうそくにすることで改善かいぜんする。よって、夕方ゆうがた症状しょうじょう悪化あっかすること(日内ひない変動へんどう)、にちによって症状しょうじょう変動へんどうすること(にち変動へんどう)がある。

すじ限局げんきょくがた[編集へんしゅう]

はつ発症はっしょうじょうとしてすじ障害しょうがいもっとおおく、「眼瞼がんけん下垂かすい」や眼球がんきゅう運動うんどう障害しょうがいによる「ふくとうていする。

全身ぜんしんがた軽症けいしょう[編集へんしゅう]

症状しょうじょういで、頻度ひんどたか罹患りかんすじ四肢しし骨格こっかくすじであり、頸部すじ筋力きんりょく低下ていか四肢しし筋力きんりょく低下ていかみとめられてくる。診断しんだんすじがたMGであった症例しょうれいやく20%で経過けいかちゅう全身ぜんしんがた移行いこうするとされている。構音障害しょうがい嚥下えんか障害しょうがい咀嚼そしゃく障害しょうがいなどのたま症状しょうじょう顔面がんめん筋力きんりょく低下ていか呼吸こきゅう困難こんなんなどの症状しょうじょうしめすことがある。自己じこ抗体こうたいによって臨床りんしょう症状しょうじょうちがいがあるとされている。MuSK抗体こうたい陽性ようせいのMGは、顔面がんめんや頸部の筋力きんりょく低下ていかたま症状しょうじょうがMG症状しょうじょう中核ちゅうかくをなし、クリーゼになりやすいとされている。またMuSK抗体こうたい陽性ようせいMGには特異とくいてき顔面がんめんすじしたすじ、咬筋、がわあたますじあるいは頚部けいぶすじすじ萎縮いしゅくていする一群いちぐんがあり、罹患りかんすじには個々ここすじ線維せんい萎縮いしゅく消失しょうしつといったすじばらせい変化へんかられると報告ほうこくされている。ryanodine receptor抗体こうたい陽性ようせいMGには、症状しょうじょうほかたま症状しょうじょう頚部けいぶ筋力きんりょく低下ていか発生はっせいりつたかいと報告ほうこくされている。MGには運動うんどう症状しょうじょう存在そんざいする。MGの運動うんどう症状しょうじょうにはMGに合併がっぺいするほか自己じこ免疫めんえき疾患しっかん、MGと共通きょうつう自己じこ免疫めんえき関連かんれんする症状しょうじょう免疫めんえきがくてきじょによるものに分類ぶんるいされる。むね腺腫せんしゅ関連かんれんMGではむね腺腫せんしゅ由来ゆらいのT細胞さいぼう機能きのう異常いじょう原因げんいんとなる疾患しっかん症状しょうじょう合併がっぺいする場合ばあいがある。あかだま癆、円形えんけい脱毛だつもうていγがんまグロブリンしょう心筋しんきんえん味覚みかく障害しょうがいなど臓器ぞうきにわたる。

クリーゼ(重症じゅうしょう[編集へんしゅう]

症状しょうじょう呼吸こきゅうすじおよ呼吸こきゅう不全ふぜんをおこし生命せいめいおびやかすものである。重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょうの15〜20%では経過けいかのどこかでクリーゼを経験けいけんしていく。

  • 経過けいか

以下いか臨床りんしょう経過けいかていく

  1. くち周囲しゅうい咽頭いんとうすじ、頸部の筋肉きんにく麻痺まひによる気道きどう虚脱きょだつ
  2. 声帯せいたいがいてんすじ麻痺まひによる喘鳴ぜんめい発生はっせい
  3. しきかい咳嗽がいそうともなった横隔膜おうかくまく疲労ひろうによる気道きどう分泌ぶんぴつ除去じょきょ不全ふぜん
  4. 横隔膜おうかくまく肋間ろっかんすじ腹筋ふっきん脱力だつりょくにより有効ゆうこう維持いじ不能ふのう

歴史れきしてきにクリーゼはすじ無力むりょくしょうせいクリーゼとコリン作動さどうせいクリーゼに分類ぶんるいされている。すじ無力むりょくしょうせいクリーゼはMG本来ほんらいじょによって神経しんけいすじ接合せつごうのブロックが呼吸こきゅうすじこることである。あくまで呼吸こきゅうすじ症状しょうじょうによってつくられた概念がいねんであり、四肢しし筋力きんりょくたもたれていることもある。相対そうたいてきなコリン作動さどうせいじょ自律じりつ神経症しんけいしょうじょうともなう。病態びょうたいとしてはこうコリンエステラーゼ阻害そがいやく効果こうかてきである。すじ無力むりょくしょうせいクリーゼでは瞳孔どうこう散大さんだいし、ちぢみひとみみとめられない。コリン作動さどうせいクリーゼはコリンエステラーゼ阻害そがいやく過剰かじょう投与とうよによってこる。かつてはコリンエステラーゼ阻害そがいやく大量たいりょう使用しようされていた。ムスカリンさま症状しょうじょうちぢみひとみ発汗はっかん気道きどう内分泌ないぶんぴつ増加ぞうか悪心あくしん嘔吐おうと疝痛せんつう下痢げりじょみゃく)とニコチンさま作用さよう呼吸こきゅう不全ふぜん、クランプ)などがられている。テンシロンテストによりすじ無力むりょくしょうせいクリーゼとコリン作動さどうせいクリーゼの鑑別かんべつがある程度ていど可能かのうになったが鑑別かんべつ容易よういではない。一般いっぱんてきられるクリーゼはすじ無力むりょくしょうせいクリーゼとコリン作動さどうせいクリーゼの混合こんごうしたタイプであることがおおい。

  • 誘因ゆういん

発症はっしょうから最初さいしょの2〜3ねん症状しょうじょうおも不安定ふあんていである。この期間きかんにクリーゼがこりやすい。またむね腺腫せんしゅ合併がっぺいしている場合ばあいはMGの症状しょうじょう不安定ふあんてい推移すいいしクリーゼにいたりやすい。またこうMusk抗体こうたい陽性ようせいのMGではっきゅう症状しょうじょう(構音障害しょうがい嚥下えんか障害しょうがい)や呼吸こきゅうすじ麻痺まひといったクリーゼが急速きゅうそく進行しんこうすることがあり注意ちゅうい必要ひつようである。

  • 感染かんせんしょう細菌さいきんせい肺炎はいえんやウイルスせいじょう気道きどうえんなどはクリーゼの誘因ゆういんとなる。
  • 外科げか手術しゅじゅつ胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつなど外科げか手術しゅじゅつおかせかさね)はクリーゼの誘因ゆういんとなる。
  • あやまえん
  • 薬剤やくざい関連かんれんせい抗菌こうきんやく(アミノグリコシドけい)、こう不整脈ふせいみゃくやく(キニジン、プロカインアミド)、降圧こうあつやくβべーたブロッカー、Ca拮抗きっこうやく)、マグネシウムなどが誘因ゆういんとなる。
  • 発熱はつねつ
  • 妊娠にんしん月経げっけい
  • 治療ちりょう対処たいしょ

呼吸こきゅう障害しょうがい評価ひょうか管理かんり誘因ゆういん除去じょきょ免疫めんえき調節ちょうせつ療法りょうほう開始かいし合併症がっぺいしょう予防よぼう治療ちりょう基本きほんとなる。呼吸こきゅう状態じょうたい生命せいめい危険きけんおよぼすほど劣悪れつあくである場合ばあいただちに気管きかん挿管する。重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう診療しんりょうガイドライン2014ではこうコリンエステラーゼ阻害そがいやく中止ちゅうしすることが推奨すいしょうされる。もし使用しようする場合ばあいはテンシロンテストですじ無力むりょくせいクリーゼとコリン作動さどうせいクリーゼの判別はんべつおこなう。症状しょうじょう改善かいぜんした場合ばあいすじ無力むりょくせいクリーゼと判断はんだんし、においピリドスチグミン製剤せいざいとうのコリンエステラーゼ阻害そがいざい投与とうよする(副作用ふくさようのムスカリン作用さようたいしては硫酸りゅうさんアトロピン製剤せいざいもちいる)。症状しょうじょう悪化あっかした場合ばあい、コリン作動さどうせいクリーゼと判断はんだんし、コリンエステラーゼ阻害そがいざい投与とうよ中止ちゅうしして硫酸りゅうさんアトロピン製剤せいざい投与とうよする。なお、コリンエステラーゼ阻害そがいざいにより症状しょうじょうをコントロールしている場合ばあい、テンシロンテストをおこなうよりもコリンエステラーゼ阻害そがいざい投与とうよ中断ちゅうだんしての反応はんのう判断はんだんするのがのぞましい。挿管している場合ばあいは抜管の数日すうじつまえにテンシロンテストをおこないながらこうコリンエステラーゼ阻害そがいやくさい投与とうよする。免疫めんえき調節ちょうせつ療法りょうほうとしては血漿けっしょう交換こうかん免疫めんえきグロブリン療法りょうほう検討けんとうされるが、治療ちりょう効果こうか発現はつげんすみやかであることから血漿けっしょう交換こうかん選択せんたくされることがおおい。

合併症がっぺいしょう[編集へんしゅう]

  • 呼吸こきゅう不全ふぜん
致死ちしてき合併症がっぺいしょう頻度ひんどたかい。とく感染かんせんは、すじ無力むりょく症状しょうじょう悪化あっかとしてこりやすい。
  • 胸腺きょうせん異常いじょう
胸腺きょうせん異常いじょうの20%ほどむね腺腫せんしゅ(thymoma)、75%程度ていど胸腺きょうせん形成けいせい(濾胞形成けいせい、follicular hyperplasia)である。CTMRI検査けんさによって発見はっけんされる。男性だんせい患者かんじゃの32%、女性じょせい患者かんじゃの20%はむね腺腫せんしゅつ。ぎゃくむね腺腫せんしゅ患者かんじゃの30%は重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう合併がっぺいする。40さい以上いじょう胸腺きょうせん拡大かくだいしていれば、まずむね腺腫せんしゅうたがう。
  • 自己じこ免疫めんえき疾患しっかん
とき関節かんせつリウマチ橋本はしもとびょうなど、自己じこ免疫めんえき疾患しっかん合併がっぺいすることがあり、オーバーラップ症候群しょうこうぐんばれる。3〜8%に甲状腺こうじょうせん機能きのう亢進こうしんしょうがみられる。甲状腺こうじょうせん機能きのう亢進こうしんは、すじ無力むりょく症状しょうじょう悪化あっかさせうる。むね腺腫せんしゅ合併がっぺいMGに合併がっぺいしやすい自己じこ免疫めんえきせい疾患しっかんとしては尋常じんじょうせい白斑はくはん脱毛だつもうなどの皮膚ひふ疾患しっかんあかだま癆などの血液けつえき疾患しっかんである。

検査けんさ[編集へんしゅう]

  • 自己じこ抗体こうたい

上述じょうじゅつ自己じこ抗体こうたい血液けつえき検査けんさにて測定そくていする。

  • 眼瞼がんけんえき疲労ひろうせい試験しけん

患者かんじゃ上方かみがた最大さいだいやく1ふん程度ていどまでつづけさせる。これにより眼瞼がんけん下垂かすい出現しゅつげんまたは増悪ぞうあくすれば陽性ようせいである。感度かんど80%であり特異とくい63%である。

  • アイスパック試験しけん

冷凍れいとうしたアイスパックをガーゼなどにつつみ3〜5ふんじょう眼瞼がんけんてることにより眼瞼がんけん下垂かすい改善かいぜんすれば陽性ようせいである。感度かんどは80〜92%、特異とくいは25〜100%とされている。

コリンエステラーゼ阻害そがいざいであるエドロホニウム商品しょうひんめいテンシロンまたはアンチレクス)をしずかちゅうし、改善かいぜんをみる。副作用ふくさようとなるムスカリン作用さようとして悪心あくしん下痢げり流涎りゅうぜん失神しっしんじょみゃく、AVブロック)などがこりうるので、硫酸りゅうさんアトロピン用意よういしておく。まずコントロールとして生理せいりしょく塩水えんすいしずかちゅうし、症状しょうじょう変化へんかしないのを確認かくにんする。つぎにエドロホニウムを2mg投与とうよしムスカリン効果こうか腹痛はらいた嘔吐おうとなど)が出現しゅつげんしないのを確認かくにんしてから、のこりの8mgを投与とうよ改善かいぜん評価ひょうかする。けんしゃ判断はんだんまようような改善かいぜんであった場合ばあい陰性いんせい判定はんていする。

  • 誘発ゆうはつすじでん検査けんさ

すじでんけいもちいたてい頻度ひんど反復はんぷく神経しんけい刺激しげき試験しけん(Harvey-Masland試験しけん)において、漸減ぜんげん現象げんしょう(waning)がみられる。

  • たん線維せんいすじでん

たん線維せんいすじでん(SFEMG)でのジッターおおきくなる。

診断しんだん[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは日本にっぽん神経しんけい学会がっかいによる「重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう診断しんだん基準きじゅん2013」がひろもちいられている。以下いか鑑別かんべつする。

治療ちりょう[編集へんしゅう]

1970〜1980年代ねんだい漸増ぜんぞう漸減ぜんげん投与とうよほうによる経口けいこう副腎ふくじん皮質ひしつステロイド治療ちりょう普及ふきゅうし、全身ぜんしんがたMGによるじゅう症例しょうれい死亡しぼうれい減少げんしょうし、生命せいめい軽快けいかいした。しかし成人せいじん発症はっしょうMGの完全かんぜん寛解かんかい得難えがたいため、治療ちりょう長期ちょうきわたることを意識いしきする。MG治療ちりょうにおける最初さいしょ到達とうたつ目標もくひょう経口けいこうプレドニン5mg/day以下いかでMMレベルであり、これを早期そうき達成たっせいするように治療ちりょう戦略せんりゃくかんがえる。経口けいこうステロイドは少量しょうりょうとしカルシニューリン阻害そがいやく早期そうきから積極せっきょくてきもちい、のこるMG症状しょうじょう強力きょうりょく速効そっこうせい治療ちりょうもち短期間たんきかん改善かいぜんさせる治療ちりょう方法ほうほう早期そうき強力きょうりょく治療ちりょう戦略せんりゃく)が提案ていあんされている。まぶしさを軽減けいげんするため遮光しゃこう眼鏡めがね装着そうちゃくをすすめられる。

コリンエステラーゼ阻害そがいやく

メスチノンとマイテラーゼがもちいられる。マイテラーゼのほう効果こうかつよいが副作用ふくさようつよい。

一般いっぱんめい 商品しょうひんめい 常用じょうようりょう(mg/day) 適用てきよう
アンベノニウム マイテラーゼ 10〜40 全身ぜんしんがた
ピリドスチグミン メスチノン 60〜300 全身ぜんしんがたすじがた
ジスチグミン ウブレチド 5〜20 すじがた
ネオスチグミン ワゴスチグミン 散剤さんざい10〜30、注射ちゅうしゃ0.25〜1.5 ざい併用へいようすじ無力むりょくしょうせいクリーゼ
エドロホニウム アンチレクス 診断しんだん投与とうよりょう調節ちょうせつ
ステロイド

初期しょき増悪ぞうあく注意ちゅういして漸増ぜんぞうする。40%前後ぜんご投与とうよ1〜2週間しゅうかん以内いない症状しょうじょう増悪ぞうあく初期しょき増悪ぞうあく)をきたし、やく10%でクリーゼにいたる。初期しょき増悪ぞうあくじょかんしてはいま不明ふめいである。軽症けいしょうMGにおいてはステロイド導入どうにゅうせずに胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ施行しこうすることが一般いっぱんてきである。急性きゅうせい進行しんこう呼吸こきゅうすじ球筋たますじ障害しょうがい目立めだ術後じゅつご増悪ぞうあく懸念けねんされる症例しょうれいかぎって、胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ先行せんこうしてステロイド導入どうにゅうすることにより手術しゅじゅつ安全あんぜん施行しこうすることができ、術後じゅつごクリーゼを回避かいひできる可能かのうせい示唆しさしている。

胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ

胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ一般いっぱんてき方法ほうほう胸骨きょうこつたて切開せっかいして、周囲しゅうい脂肪しぼう組織そしきふくめて摘出てきしゅつする拡大かくだい胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつであり、その効果こうかすうヶ月かげつ以上いじょうさきあらわれる。胸腔きょうこうきょうたてへだたかがみによるじゅつしきもある。むね腺腫せんしゅ関連かんれんMGではぜんれい胸腺きょうせん摘除てきじょじゅつ適応てきおうる。摘除てきじょすみやかなMG症状しょうじょう改善かいぜんやAChR抗体こうたい減少げんしょうられないことがおおい。胸腺きょうせん摘除てきじょ有効ゆうこうむね腺腫せんしゅMGは一部いちぶかぎられ、わか発症はっしょうやまい初期しょきのACh抗体こうたい陽性ようせい形成けいせい胸腺きょうせんれいとされている。おおむね60さい以下いか全身ぜんしんがたこうAChR抗体こうたい陽性ようせい、ステロイドやく使用しようしても十分じゅうぶんなコントロールがられない場合ばあい適応てきおうとされている。すじがたこうAChR抗体こうたい陰性いんせい場合ばあい適応てきおうがないとかんがえられる。

免疫めんえき抑制よくせいざい

カルシニューリン阻害そがいやくであるタクロリムスみず和物あえもの製剤せいざいシクロスポリンほかに、アザチオプリン製剤せいざいシクロホスファミドもちいられる。副作用ふくさようとしてはシクロスポリンでは感染かんせんしょう血圧けつあつ上昇じょうしょうたいとうのう異常いじょうじん障害しょうがい歯肉はにく肥厚ひこう多毛たもうなどがある。タクロリムスでは感染かんせんしょうたいとうのう異常いじょう白血球はっけっきゅうぞうすじ痙攣けいれんなどがみられる。カルシニューリン阻害そがいやくやシクロホスファミドは症状しょうじょう改善かいぜん効果こうか期待きたいできるがアザチオプリンは効果こうか発現はつげんに2〜3ねん必要ひつようとされている。タクロリムスはこうアセチルコリン受容じゅようたい抗体こうたい陽性ようせいすじがた重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょうたいしてたんざい有効ゆうこうという報告ほうこくもある[1]

免疫めんえきグロブリン療法りょうほう

免疫めんえきグロブリン療法りょうほうはクリーゼのさいになどにもちいられる。

血漿けっしょう交換こうかん

単純たんじゅん血漿けっしょう交換こうかんのほか、トリプトファンカラムによる免疫めんえき吸着きゅうちゃく療法りょうほうなどもおこなわれる。

リツキシマブ

治療ちりょうほう効果こうか十分じゅうぶんでない場合ばあい検討けんとうされる。長期ちょうきてき効果こうか早期そうき効果こうか両者りょうしゃみとめられる[2](日本にっぽんでは認可にんかされていない)。

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MGの長期ちょうき免疫めんえき療法りょうほう普及ふきゅうによって改善かいぜんした。寛解かんかいりつ依然いぜんとして20%未満みまんであるが、生活せいかつ仕事しごと支障ししょうがない症状しょうじょう軽微けいび(minimal manifestations MM)より状態じょうたいまで改善かいぜんする頻度ひんどは50%以上いじょうである。MGクリーゼによる死亡しぼうてい頻度ひんどになったが、むね腺腫せんしゅ関連かんれんMGの場合ばあいには腫瘍しゅよう再発さいはつ心臓しんぞう合併症がっぺいしょう注意ちゅういようする。

その[編集へんしゅう]

  • 小児しょうに発症はっしょうおお病気びょうきであるが、日本にっぽん国内こくないほん疾病しっぺいについてひろられるようになったきっかけは、1982ねん6がつ俳優はいゆう萬屋よろずや錦之介きんのすけ歌舞伎座かぶきざでの舞台ぶたい公演こうえんちゅうたおれて入院にゅういん、そのさいほん疾病しっぺい診断しんだんされたことであるとされる。
    • それまでは『なまびょう』や休息きゅうそく症状しょうじょう出現しゅつげんしないため『いつわりびょう』などの誤解ごかい偏見へんけんめずらしくなかった病気びょうきであるが、萬屋よろずや入院にゅういん関連かんれんするテレビ報道ほうどうワイドショー)などによりその症状しょうじょうなどもあわせてかたられたことにより、ようやく難病なんびょうとして認知にんちされるようになった。
      • そのため、中年ちゅうねんそう以上いじょうものほん疾病しっぺいについて説明せつめいする場合ばあい事細ことこまかに症状しょうじょううよりも『むかし萬屋よろずや錦之介きんのすけわずらった大病たいびょうである』とったほう説明せつめいはやんでしまうことめずらしくない。
      • なお、萬屋よろずやは1ねんはんにもおよ闘病とうびょう生活せいかつすえ驚異きょういてき回復かいふくりょくせてこの疾病しっぺい克服こくふく、その映画えいがやドラマ、舞台ぶたいへの出演しゅつえんつづけた。
  • 手塚てづか治虫おさむ原作げんさく漫画まんがブラック・ジャック」のだい96座頭ざがしら医師いし」で、原因げんいん不明ふめい病気びょうきはり治療ちりょうをして各地かくち放浪ほうろうしているなぞはり治療ちりょう名人めいじん「鍼師琵琶びわまる」が、ブラックジャックから拡大かくだい胸腺きょうせん摘出てきしゅつじゅつける予定よてい重症じゅうしょうすじ無力むりょくしょう患者かんじゃ少女しょうじょ勝手かってはりつシーンでもこの病気びょうき登場とうじょうする。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Eur Neurol. 2013;69(6):344-5. PMID 23549260
  2. ^ Sieb JP. Myasthenia gravis: an update for the clinician. Clin Exp Immunol 2014;175:408-18.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]