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ウィルタ語 - Wikipedia

ウィルタ(ウィルタご、ウイルタとも、ウィルタキリル文字もじ表記ひょうき: уилта кэсэни)は、ツングース諸語しょごみなみツングースナナイぐんぞくするウィルタ民族みんぞく言語げんごである[3]オロッコロシア: Орокский язык)ともばれている。おなじナナイぐんには姉妹しまい言語げんごであるナナイウリチふくまれている。

ウィルタ
уилта кэсэни
はなされるくに ロシアの旗 ロシア日本の旗 日本にっぽん?
地域ちいき サハリン州の旗 サハリンしゅう 北海道ほっかいどう?
民族みんぞく ウィルタ民族みんぞく
話者わしゃすう 47にん (2010ねん、ロシア)[1]
言語げんご系統けいとう
ツングース語族ごぞく
  • みなみツングース
    • ナナイぐん
      • ウィルタ
表記ひょうき体系たいけい キリル文字もじ
ラテン文字もじ[よう出典しゅってん]
カタカナ[よう出典しゅってん]
言語げんごコード
ISO 639-2 なし
ISO 639-3 oaa
Glottolog orok1265[2]
消滅しょうめつ危険きけん評価ひょうか
Critically endangered (Moseley 2010)
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おもロシアサハリンしゅう分布ぶんぷし、対岸たいがんアムールがわ下流かりゅう分布ぶんぷするウリチ類似るいじする[3]現在げんざい、ウィルタの人口じんこうすうひゃくにんまで減少げんしょう[4]言語げんご消滅しょうめつ危機ききにある(消滅しょうめつ危機きき言語げんご)。2010ねんぜんロシア国勢調査こくせいちょうさによると、ロシアにおけるウィルタの人口じんこうは295にんで、ウィルタ話者わしゃすうはわずか47にん(母語ぼごであるかはわず)、すなわちウィルタ話者わしゃすう民族みんぞくそう人口じんこうの20%未満みまんである。かつては日本にっぽん北海道ほっかいどう網走あばしりなどにもウィルタ話者わしゃはいたが、現在げんざい話者わしゃすう不明ふめいてんおおい。ユネスコ危機ききてき状況じょうきょうにある言語げんご地図ちず (Atlas of the World's Languages in Danger)だい3はんによると、ウィルタ保存ほぞん状態じょうたい危機ききひんする言語げんごのうち、消滅しょうめつ危険きけんもっとたかきわめて深刻しんこく評価ひょうかされている。近隣きんりん言語げんごであるサハリンしゅうにおけるエヴェンキ (東部とうぶエヴェンキ方言ほうげん)、ロシア日本語にほんごニブフアイヌとの言語げんご接触せっしょくがある。

ロシアにおけるウィルタ書籍しょせきキリル文字もじ表記ひょうきされる。研究けんきゅうならびに記録きろくにおいては便宜上べんぎじょうラテン文字もじ使つかわれる。
2003ねん出版しゅっぱんされた『ウイルタ-ロシア/ロシア-ウイルタ辞書じしょ』では、キリル文字もじ表記ひょうき方法ほうほう使つかわれた。(写真しゃしん原書げんしょから抜粋ばっすい)

А а Б б В в Ӷ ӷ Г г(Ү) Д д
Ӡ̆ ӡ̆ Е е Ј ј И и Қ қ К к Ҳ ҳ
Х х(һ) Л л М м Н н Н̕ н̕ Ң ң
О о П п Р р С с С̕ с̕ Т т
У у Ч ч Э э Ю ю Я я

『Уилтадаирису』における表記ひょうき方法ほうほう

А а А̄ а̄ Б б В в Г г Д д Е е Е̄ е̄
Ӡ ӡ И и Ӣ ӣ Ј ј К к Л л М м Н н
Ԩ ԩ Ӈ ӈ О о О̄ о̄ Ө ө Ө̄ ө̄ П п Р р
С с Т т У у Ӯ ӯ Х х Ч ч Э э Э̄ э̄

ロシアおなじくキリル文字もじ使用しようしている。ウィルタ発音はつおん再現さいげんするために、ロシアには使つかわれていない文字もじ追加ついかされている。たとえば、「Ԩ」(左側ひだりがわにフックがいたНUnicode: U+0528)、「Ӈ」(右側みぎがわにフックがいたН, Unicode: U+04C7)、ならびに長音ちょうおん記号きごういた母音ぼいん「ӣ」、「ӯ」などがげられる。
上述じょうじゅつ母音ぼいんのぞくマクロンきの母音ぼいんは、「А̄/а̄」、「Е̄/е̄」、「О̄/о̄」、「Ө̄/ө̄」けい4文字もじふくまれており、日本語にほんご長音ちょうおん類似るいじする。2021ねん1がつ現在げんざい、これらの文字もじUnicodeには単独たんどく文字もじとして掲載けいさいされていない。1バックスペースキーつと対応たいおうしたマクロンしの母音ぼいん(「А/а」、「Е/е」、「О/о」、「Ө/ө」)になり、フォントによってはマクロンみぎじょう表記ひょうきされる場合ばあいもある。
2003ねんはん書記しょきほうにおける「Ю」と「Я」は2007ねん表記ひょうき方法ほうほうにおける「ју」と「ја」にそれぞれ対応たいおうしている。
れい:
хую(н-)[5] (xuju(n-)) → хују (xuju) =「9
яя[5] (jaja, ウリチにも対応たいおうしたどういちスペルの単語たんごあり) → ја̄ја (jāja) =「うた

音韻おんいん

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ウィルタには15しゅ母音ぼいんがあり、7しゅたん母音ぼいん (ɐəiɛəuʌ) と8しゅちょう母音ぼいん(ɐː、əː、eː、iː、ɛː、ɔː、uː、ʌː)にけられる。

開閉かいへい 前後ぜんご
ぜんした ちゅうした こうした
せま i, iː u, uː
はんせま eː
中央ちゅうおう ə, əː
はんひろ ɛ, ɛː, ʌ, ʌː, ɔ, ɔː
せばめのひろ ɐ, ɐː

ウィルタには18しゅ子音しいんがある。

発音はつおん
りょう唇音しんおん したいただきおん かた口蓋こうがいおん 軟口蓋なんこうがいおん 口蓋垂こうがいすいおん
破裂はれつおん pb td cɟ kg (q)、(ɢ)
摩擦音まさつおん βべーた s、(z) ʝ xɣ
鼻音びおん m n ɲ ŋ
接近せっきんおん l (ʎ)
ふるえおん r

母音ぼいん調和ちょうわ

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ウィルタにはのツングース諸語しょご同様どうよう母音ぼいん調和ちょうわられる[6]。これは、どういち単語たんごない共存きょうぞんできる母音ぼいん種類しゅるいについての制限せいげんである[6][注釈ちゅうしゃく 1]母音ぼいんことなる語幹ごかんにそれぞれ対応たいおうする語尾ごび(-сал、-сэлなど)がけられる。
れい:
нари (nari, ひと) → нарисал (nari-sal, 人達ひとたち)
гуру(н-) (guru, 民族みんぞくじん) → гурусэл (guru-səl, 人々ひとびとじんたち)

文法ぶんぽう

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文法ぶんぽう日本語にほんごおなじく、膠着こうちゃくてき構造こうぞうをとり、語順ごじゅんSOVがた (主語しゅご-目的もくてき-動詞どうし)である[6]

  • 人称にんしょう代名詞だいめいしとしてはげられるのは、一人称いちにんしょう бӣ (bī)、 二人称ににんしょう сӣ (sī)、三人称さんにんしょう複数ふくすう но̄ни (nōni)、一人称いちにんしょう複数ふくすう бӯ (bū)、2人ふたりしょう複数ふくすう сӯ (sū)、3人称にんしょう複数ふくすう но̄чи (nōči)などである。一人称いちにんしょう複数ふくすうは、エヴェンキではбу (bu)/мит (mit)、まんしゅうではᠪᡝ (be) /ᠮᡠᠰᡝ (muse)のように、ききてふくまないかたちとききてふくかたちかれているが、ウィルタではこれらをまとめてбӯ (bū)とう。
  • 人称にんしょう代名詞だいめいしぞくかくには、一人称いちにんしょう мини (mini)、 二人称ににんしょう сини (sini)、三人称さんにんしょう複数ふくすう тари нари (tari nari)、一人称いちにんしょう複数ふくすう муну (munu)、2人ふたりしょう複数ふくすう суну (sunu)、3人称にんしょう複数ふくすう тари нарисал (tari narisal)などである。なお、所有しょゆう代名詞だいめいしポロナイスク地方ちほうはなされているみなみ方言ほうげん独自どくじのもので、ワールむら周辺しゅうへんきた方言ほうげん前述ぜんじゅつ人称にんしょう代名詞だいめいし主格しゅかくもちいている。一人称いちにんしょう複数ふくすうは、まんしゅうではᠮᡝᠨᡳ (meni) /ᠮᡠᠰᡝᡳ (musei)のように、ききてふくまないかたちとききてふくかたちかれているが、ウィルタではまとめてмуну (munu)とう。
  • ぞくかくのち名詞めいしときは、人称にんしょう語尾ごびけることに注意ちゅうい必要ひつようである。たとえば、Мини ӈиндаби (Mini ŋinda-bi、わたしイヌみなみ方言ほうげん)、Сини ӈинда-си (sini ŋindasi、あなたのイヌ、みなみ方言ほうげん)、Уилта кэсэни (Uilta kəsə-ni、ウィルタ言葉ことば=ウィルタ)などである。
  • ウィルタ形容詞けいようし変化へんかであり、名詞めいし修飾しゅうしょくするさいには変化へんかしない。形容詞けいようし名詞めいし修飾しゅうしょくするれいとしてда̄ји гэву (dāji gəvu、「да̄ји=おおきい(形容詞けいようし)」+「гэву=自由じゆう(名詞めいし)」=おおきな自由じゆう)、нучӣкэ омо̄ (nučīkə omō、「нучӣкэ=ちいさい(形容詞けいようし)」+「омо̄=みずうみ(名詞めいし)」=ちいさなみずうみ) などがげられる。
  • 指示しじには近称きんしょう遠称えんしょう存在そんざいする。たとえば: эри (əri、これ) / тари (tari、それ)、тари нари (tari nari、そのひと)などがある。

譲渡じょうと可能かのうせい

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日本語にほんご同様どうよう膠着こうちゃくであるが「の」にあたる助詞じょしが2種類しゅるいあり、譲渡じょうと可能かのう場合ばあい不可能ふかのう場合ばあいかれる。
たとえば mini sura-ɲu-bi「わたしノミ」という場合ばあい譲渡じょうと可能かのうで、mini čiktə-bi「わたしシラミ」といった場合ばあい譲渡じょうと不可能ふかのうといった具合ぐあいである。

接尾せつび

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それぞれの人称にんしょう対応たいおうした接尾せつび存在そんざいする。

ウィルタ所属しょぞく人称にんしょう接尾せつび
人称にんしょう 接尾せつび 備考びこう
一人称いちにんしょう -би (-bi) нわる単語たんごについては、нをмえてから、一人称いちにんしょう接尾せつび-биをのちける。
一人称いちにんしょう (複数ふくすう) -пу (-pu)
二人称ににんしょう -си (-si)
二人称ににんしょう (複数ふくすう) -су (-su)
三人称さんにんしょう -ни (-ni)
三人称さんにんしょう (複数ふくすう) -чи (-či)

ツングース諸語しょごぞくし、のツングース語族ごぞく言語げんご対応たいおうする語彙ごいられる。たとえば、「ӈинда (ŋinda、いぬ)」「амма (amma、ちち)」では、かく言語げんごあいだ以下いかのような対応たいおうがみられる[注釈ちゅうしゃく 2]

かく言語げんご いぬ ちち
ウィルタ ӈинда(ninda) амма(amma)
エヴェン ӈин (ŋin)
エヴェンキ ама (ama)
まんしゅう ᡳᠨ᠋ᡩ᠋ᠠᡥᡡᠨ (indahūn) ᠠᠮᠠ (ama)
オロチ инаки (inaki) ама (ama)

固有こゆう単語たんごのほか、中国ちゅうごくまんしゅうからふるはいったかたりや、ロシア日本語にほんごアイヌなど周辺しゅうへん言語げんごから借用しゃくようしたとみられる単語たんご存在そんざいする[6]。ことにロシアからの借用しゃくようおお[6]。masaari(まさかり)、musuri(むしろ)、satu(砂糖さとう)などは日本語にほんごからの借用しゃくようである[3]

方言ほうげん

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南北なんぼく方言ほうげん存在そんざいする。今日きょうのウィルタ使用しよう範囲はんい非常ひじょうせまく、北部ほくぶ方言ほうげんノグリキ地区ちくヴァルむらはなされ、南部なんぶ方言ほうげんポロナイスク分布ぶんぷする。方言ほうげんちいさいが、発音はつおんことなる単語たんご若干じゃっかんある。
れい:[7]
дө̄ (dȫ、北部ほくぶ方言ほうげん);дӯ (dū、南部なんぶ方言ほうげん) =「2
ӡапку (ӡapku、北部ほくぶ方言ほうげん);ӡакпу (ӡakpu、南部なんぶ方言ほうげん) =「8
паикта (paikta、北部ほくぶ方言ほうげん);орокто (orokto、北部ほくぶ方言ほうげん) =「くさ

ウィルタふる記録きろくとしては、19世紀せいき中葉ちゅうよう樺太からふと踏査とうさした松浦まつうら武四郎たけしろうがその単語たんごをカナで記録きろくしたものがある[6]。ウィルタはこれを固有こゆう文字もじたず、口承こうしょうでの文芸ぶんげいとしては、昔話むかしばなし伝説でんせつ)、架空かくう物語ものがたりかたりもの(これはエヴェンキをまじえて使つかう)、なぞなぞ歌謡かようなどがあった[6]

関連かんれん書籍しょせき

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  • 『オロッコ文典ぶんてん中目なかめさとし/へん 北海道大学ほっかいどうだいがく図書としょ刊行かんこうかい (1917.8)
  • 『オロッコ(ウィルタ)の言語げんご』(ロシア: язык ороков (ульта)) T.I.ペトロヴァ(Т.И.Петрова.)/へん ソビエト連邦れんぽう科学かがく出版しゅっぱんしゃ (1967)  
  • 『ツングース-まんしゅうもろ比較ひかく辞典じてん』(ロシア: Сравнительный словарь тунгусо-маньчжурских языков) ツィンツィウス(Цинциус)/へん ソビエト連邦れんぽう科学かがく出版しゅっぱんしゃ (1975)  
  • 『ウイルタ辞典じてん』(ウィルタ: Uilta Kəsəni Bičixəni) 池上いけがみりょう/へん 北海道大学ほっかいどうだいがく図書としょ刊行かんこうかい (1997) ISBN 4-8329-5821-6、または ISBN 978-4-83295-821-0
  • 『ウイルタ-ロシア/ロシア-ウイルタ辞書じしょ』(ウィルタ: уилта-луча кэсэни、ロシア: Орокско-русский и русско-орокский словарь) L.V. オゾリナ (Озолина Л.В.)、I.Y.フェダエバ (Федяева И.Я.)とう/へん (2003) ユジノサハリンスク サハリン図書としょ出版しゅっぱんしゃ ISBN 5-88453-002-1
  • 『ウィルタの言葉ことば』(ウィルタ: Уилтадаирису、ロシア: говорим по-уильтински) 池上いけがみりょう、エレーナ・ビビコワとう/へん (2008) ISBN 978-5-88453-211-3

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 男性だんせい母音ぼいん女性じょせい母音ぼいんのあいだに母音ぼいん調和ちょうわがみられる[3]
  2. ^ 『ゴールデンカムイ』(161)では、ウィルタの"амма"(ちち)は、カタカナで「アンマー」と表記ひょうきしている。

出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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