初期のカーオーディオは、米国の「ガルビン・コーポレーション」が1930年に製作したカーラジオから始まった。これはモトローラ5T71型という名前であり、モトローラとは、モーター(自動車)のオーラ(音)という意味である。この会社はのちに、この名前を社名にした。同じく、米国ゼネラルモーターズ傘下では子会社デルコ・エレクトロニクスが1936年にダッシュボード内に装着したカーラジオを製作した。ラジオによる移動中の情報入手や音楽放送の楽しみはあったが、ドライバーや同乗者ができる事は好きな放送局を選ぶことだけであった。
半導体素子が実用化される前の時代であり、真空管回路により構成されていた。放送も中波放送(AM)しかない時代で(超短波放送(FM)局が本格的に普及するのは1960年代以降)、ラジオも中波のAM放送受信専用であった。カーラジオは今日で言う「オプション」であり、標準装備になっていることは皆無であった。
カーラジオ本体(電源部 と 中間周波増幅、検波、低周波増幅、電力増幅部)は別筺体で、トランク内に収容されていた。選局(入力同調回路、周波数変換部)と音量調整可変抵抗器のみが運転席ダッシュボードに置かれ、本体とケーブルで接続されていた。スピーカーは運転席の足元付近に取付けるのが一般的であった。電源には自動車の6V(乗用車の多くは6V電源であった)または12V直流電源が用いられ、真空管の陽極電源(直流200V程度)を得るためにバイブレーターによるチョッパーを用いて矩形波交流を得てトランスで昇圧し、2極真空管で直流としていた。カーラジオは比較的消費電力が大きかったため、エンジンを停止してラジオを聴くことはバッテリーあがりの危険があった。
実用化に貢献した技術者のビル・リアは、モトローラのメガブランド化を皮切りに8トラックテープの実用化などで手にした巨万の富を元手に、航空機メーカーのスイス・アメリカン・アビエーション社(後のリアジェット)を創設した。
1950年代中期には、振動に弱いとされていたレコードを車載演奏することに成功した[1]。スロットイン形状の物やオートチェンジャーで数枚のレコードを聴く事が出来る物も出てきた[2]。
FM放送が一般化し、カーラジオにもFMを聴取できるものが出てきた。またトランジスタラジオが一般に普及するようになり、カーラジオもトランジスタ化された。カーラジオの普及は当時のラジオ局の番組編成にも影響を与えた(ニッポン放送#オーディエンス・セグメンテーション、ラジオ離れ#1960年代も参照)。
しばらくして、自分の好きな音楽を聴きたいときに聴ける仕組みができた。音声用磁気テープを使用したものとしては、最初に4トラックカートリッジが1964年(開発元のある米国では前年の1963年)に発売される。寸法は後述の8トラックとほぼ同じであるが、ピンチローラーは再生機側に搭載されている。また、プログラム切り替えは当初手動のみであった。その後、自動切り替え機能を搭載した機種も発売されたが、日本市場では本格的な普及には至らなかった。
次に現れたのが、初期のカラオケシステムで使用された8トラックカートリッジである。しかし、当時のオーディオソースの主流はレコードであり、気に入った楽曲でも家庭で聞くためのレコードと車で聴くための8トラックカートリッジとそれぞれ別に購入するのが一般的だった。録音用生テープや録音用機器もあるにはあったが、主流は家庭ではレコードプレーヤーとコンパクトカセットであり、その上に録音用8トラック機器の購入というのはよほどのオーディオ好きであった(日本市場でのカーステレオとしては1964年にクラリオンが日本初カーステレオを発売)。
この他にも、1970年代にはパイオニアからハイパックというカセットテープ大のエンドレスカートリッジを採用したカーオーディオも発売されたが、元となったプレーテープ規格と同じく収録時間の短さや一般ユーザー向けに録音機器が出なかったこともあり、数年の間に姿を消した。
この時代には純正装着がAMラジオ、オプション装備で8トラックという構成が多く、8トラック機器を介してFMラジオを聞くためのカセット式FMチューナーなどが存在した。さらにコンパクトカセットテープを聴くための8トラック形式のカセットアダプターも存在していたがカセットプレーヤーを内蔵していることになるため乾電池(単三2本ほど)が必要となりかなり不経済なアダプターであった。アダプターはメーカーによっては様々な挿入方法のモノがありある意味ではソニーのウォークマンなどに代表されるヘッドホンステレオの先駆けに近い形をしていた。また、1970年代後半からはパイオニアのロンサムカーボーイやクラリオンのシティコネクションに代表される社外カーオーディオ機器も登場したが、当時は車体側にもオーディオ側にもDIN規格(ISO 7736の原典となったDIN 75490)が適用されていなかったため、当時主流であった冷房機器である後付け式カークーラーなどと同様にダッシュボードに吊り下げる形で搭載される事が多かった。
1970年代前半まではAMチューナーのみが主流であり、主要車種に設定される「デラックス」グレードに標準装備されることも多かった。同時期からFMチューナー搭載機種が増え始め、電子チューナーも登場した。
AM・FMのラジオのみのカーオーディオ。1980年頃
1980年代になると、FMチューナー内蔵型のコンパクトカセットが主流になる。8トラックと同様に録音済み市販テープ(音楽ソフト)も購入し聴くことはできたが、それ以上に自分の所有するレコードやFMラジオなどからのエアチェックによる個人の趣味的な録音による自由な選曲のカセットテープを車内に持ち込めるようになったことが画期的であった。
1980年代後半になるとCDプレーヤー搭載機種も高級機を中心に登場した。購入した音楽ソースをそのままかけられることは8トラック時代から同様であるが、8トラックが酒場カラオケソング中心であったのに対し、レコードと主役を交代し、ほとんどすべての音楽ソースがCD形態で販売されたことで、車内で聴ける音楽ソースを多様化した。マイテープを作らないのであれば、家庭のオーディオ機器がなくとも車のオーディオだけで済んでしまう時代の到来となった。
また、1980年代末からそれぞれのメーカーの車名を冠し、CDやイコライザー付きデッキを標準装備したり、スピーカーの数を増やして臨場感あふれる音を実現した「スーパーライブサウンドシステム」「ロイヤルサウンドシステム」(トヨタ自動車)、「スーパーサウンドシステム」「ホログラフィックサウンドシステム」(日産自動車)といった高級オーディオシステムがメーカーオプション(一部車種には標準装備)で設定される車種も増えてきた。
1990年代になるとデジタル化の波が急激に進み、CDが主流となる一方MDが登場しコンパクトカセットの機能はMDに引き継がれる。純正FMラジオと接続する後付け型CD/MDチェンジャーデッキや、ポータブルCD/MDプレイヤーの登場でカセットアダプターやFMトランスミッターも売れ出した。1990年代前半だとまだまだ1DINのCDチューナーだけでは無理がありCDチェンジャーは純正、社外品ともAM/FMカセットデッキとのセット販売や新車成約時のオプションプレゼント、特別仕様車の装備品にされることも多く人気に拍車をかけた。オーディオメーカーは全く推奨することは無かったがCDチェンジャー利用時に必須である8cmシングルCDアダプターも売れた。1990年代後半になると1DINのMDチューナーとCDチェンジャーをセットで販売するオーディオメーカーも現れた。一方、DCC(パナソニック CQ-DC1D)やDAT(ソニー DTX-10等、三菱電機)を搭載した機種も発売され三菱機の場合カーDATレコーダーまでラインナップされていたがカセットチューナーと比して非常に高価でありほとんど売れなかった。またデジタル・シグナル・プロセッサー(DSP)を内蔵したモデルも登場し、高音質を求めるユーザーに対応している。
デザイン面では、社外品はFL管や発光ダイオードを使った凝った物となり、多彩なスペアナ表示を行うなど純正オーディオとの差別化を図った。一部の自動車メーカーでは、社外品オーディオにスペアナなどの表示部はそのままにし自社あるいは純正品ブランドのマークを冠し、多少デザインを変更してメーカーオプションにすることも多い。この場合純正オーディオの特徴であるシンプルな操作性を取り入れることも多い。
1990年代中盤から後半にはAMステレオ放送やFM文字多重放送(愛称・見えるラジオ)対応のチューナーも存在した。
2000年代になるとカーナビゲーションシステムが普及してきたことで、それまでディスプレイ部分に採用されていたFL管や発光ダイオードに加えて液晶ディスプレイを組み込んだ一体型も多くなり、操作ボタンがタッチパネルになったものが出てきた。また純正モデルでも操作性の向上からステアリングのパッド部に音量・ファンクション切り替えなどのスイッチを組み込んだものが登場した。
ハードディスクドライブを内蔵した機種もあった。MP3、AAC、Windows Media Audioの再生に対応したものが出てきた。デジタル音楽プレーヤーの普及により、AUX端子を備えた機種が普及している。
BOSEやマークレビンソン、ロックフォード・フォズゲートといった、海外の高級オーディオメーカーのサウンドシステムを標準またはメーカーオプションで用意する車種が高級車を中心に多い。
日本国外を中心にA2DPプロファイルに対応したBluetoothを搭載したものも出てきており、日本国内では2014年頃からBluetoothを搭載した機種が登場した。
米国ではテレマティックスを基盤としたエンターテイメントサービスとして、ゼネラルモーターズがオンスターで提供しているXM Satellite Radioや地上デジタルラジオ"HD Radio"などのデジタルラジオチューナーが登場している。
2007年夏には米国で、SACD再生対応カーオーディオが米ソニーから登場している。
カーナビゲーションがカーオーディオに取って代わるほどの普及を果たしたためか2010年に入るとパナソニックと富士通テン(Sound Monitorと呼ばれるハイエンドカーオーディオは少数ながら販売継続)、2014年中期に三菱電機がそれぞれ社外品カーオーディオを生産終了している。いずれのメーカーもカーナビはもちろんのことスピーカーやアダプター類は販売。また長年パイオニアのカロッツェリアとJVCケンウッドがカセットチューナーを発売し続けていたが、2011年にケンウッドが1DIN機械式カセットを、2012年にカロッツェリアがMP3対応CD+フルロジックカセットをそれぞれ生産終了し社外品カーオーディオの分野からカセット対応機器が消滅している。そのためカセットチューナーはトヨタ・センチュリー(地上デジタルテレビ搭載DVDナビゲーションとセットで標準装備)、ホンダのオプション品(クラリオン製・2012年には生産終了)と農業/建設機械向けカーオーディオメーカーのエスペリア製のみとなっていた。
しかし、2014年秋にカーオーディオ関連機器メーカーであるビートソニックが新製品としてカセットテープ再生の他、AM/FMチューナー内蔵、SDカードとUSBメモリーに入れたMP3音楽再生が可能で、AUXでスマホなどの音楽再生も出来、ラインアウト端子が付いていてウーハーの追加などシステム拡張が可能という最新メディア要素を十分に付加した画期的な1DIN機械式カセットをカーオーディオ市場に投入した。 このカセットデッキは一度モデルチェンジして市場から大きな支持を受けながらも2018年夏に販売終了となった。[1]。
また1DINのMDチューナーは市場から消滅している。
USBメモリ(場合によってはSDカードなども使われる)による音楽再生と、デジタル音楽プレーヤーやスマートフォンが普及したことにより、2011年以降、これらと接続するUSB端子や外部入力端子を備えCD部を削除した機種、言ってしまえば「外部入力に対応したカーラジオ」が登場した。(カセット、MDの時代も含め)最大の故障原因である物理ドライブが無くなったことによる耐久性の向上、低価格、小型化(ただDIN規格を前提とする場合、事実上奥行きしか削減できない)、(使用部品の減少による)環境負荷の低減等が特徴である。操作の簡単さやCDの入れ替えが不要になる等の手軽さもあり、普及しつつある。
また再生部がコンパクト化できたことを利用して付加価値を高めた例もあり、前述のビートソニックからはスピーカーレス車をターゲットに「電源とラジオ電波さえ取れば音楽が聴ける」ことを売りにしたSD/USB/AUX対応ラジオ「デッキスピーカー HDS2」が登場した。これはこの1DINオーディオASSYの中にスピーカー3基を組み込んだものであり、スピーカーレス車の泣き所であるスピーカー(場合によっては配線も)の増設が不要になるという面で差別化が図られた。
近年はハンドルにカーオーディオやカーナビゲーションの音量調節やラジオ局の選局等を行うボタンが付く自動車が増えているが、カーオーディオやカーナビゲーションの機種によっては対応していない場合があるので、購入前の確認が重要である。このボタンは、自動車メーカーやカーオーディオメーカーにより、「ステアリングスイッチ」、「ステアリングリモコン」等、呼び方が異なる。
2010年代半ば以降、2DINサイズで、モニターを搭載したカーオーディオを各社が「ディスプレイオーディオ」と名付け発売している。これは、カーナビゲーションは不要だが、どちらも急速に搭載が増えている、駐車を始めとした後退支援のための後方カメラ(または全周位カメラ)や、ドライブレコーダーの映像を見たい、という利用者が増えているためである。
中には、地上デジタルテレビのワンセグ放送やフルセグ放送受信機能を搭載したり、ハイレゾリューションオーディオに対応し、車内AVシステムのような高機能製品もある。Android AutoやCarPlayに対応し、カーナビゲーションや情報端末として使用できる製品もある。カーナビ機能としては、専用機に比べ、機能や性能は劣る場合があるものの、機器そのものの購入や買い替えと有料の地図データ更新が不要になり、使い慣れたスマートフォンのナビゲーション機能をそのまま使える長所がある。
スマートフォンの普及に伴い、専用アプリを入れたスマートフォンからも操作できるカーオーディオも増えている。
2018年、パイオニアはスマートフォンを装着して表示部と入力部として使うクレードル付きカーオーディオを発売した。
2020年、アルパインとパイオニアは、1DINの本体の前面に、2DINより大きいディスプレイをせり出して搭載するディスプレイオーディオをそれぞれ発売した。これにより、長らく続いた2DINのディスプレイの大きさの限界を超えた。同様の機構は同2社のカーナビゲーションの一部上位機種でも始まった。
一部の車では、カーナビゲーションを廃止し、ディスプレイオーディオを標準で搭載する車も発売されるようになっている。