竜りゅう

竜りゅう（りゅう、りょう、たつ、旧きゅう字体じたい：龍りゅう󠄂）は、神話しんわ・伝説でんせつの生いきもの。西洋せいようのドラゴンとの違ちがいについては当該とうがい項目こうもく参照さんしょう。

北京ぺきん・故こ宮みやの九きゅう龍りゅう壁かべ

旧きゅう字体じたいでは「龍りゅう󠄂」で、「竜りゅう」は略字りゃくじであるが、古こ字じでもある。龍りゅう󠄂は今日きょうでも広ひろく用もちいられ、人名じんめい用よう漢字かんじにも含ふくまれている。中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくで制定せいていされた簡体字かんたいじでは「龙」の字体じたいが用もちいられる。「りょう」は正せい音おと、「りゅう」は慣用音かんようおんとなる。

英語えいごの dragon（や他たの西洋せいよう諸語しょごにおけるこれに相当そうとうする単語たんご）の訳語やくごとして「竜りゅう」が用もちいられるように、巨大きょだいな爬虫類はちゅうるいを思おもわせる伝説でんせつ上じょうの生物せいぶつを広ひろく指さす場合ばあいもある。さらに、恐竜きょうりゅうをはじめとする爬虫類はちゅうるいの種たね名めいや分類ぶんるい名めいに用もちいられる saurus（σしぐまαあるふぁῦρος、トカゲ）の訳語やくごとしても「竜りゅう」が用もちいられている。このように、今日きょうでは広範こうはんな意味いみを持もつに至いたっている。

中国ちゅうごくの竜りゅう

「九きゅう龍りゅう図ず巻まき」陳ちん容ひろし画が（南みなみ宋そう）、ボストン美術館びじゅつかん蔵ぞう

詳細しょうさいは「中国ちゅうごくの竜りゅう」を参照さんしょう

中国ちゅうごくの竜りゅうは神かみ獣じゅう・霊獣れいじゅうであり、『史記しき』における劉邦りゅうほう出生しゅっしょう伝説でんせつをはじめとして、中国ちゅうごくでは皇帝こうていのシンボルとして扱あつかわれた。水中すいちゅうか地中ちちゅうに棲すむとされることが多おおい。その啼なき声ごえによって雷雲らいうんや嵐あらしを呼よび、また竜巻たつまきとなって天空てんくうに昇のぼり自在じざいに飛翔ひしょうすると言いわれ、また口辺こうへんに長ちょう髯ひげをたくわえ、喉のど下かには一いち尺しゃく四方しほうの逆鱗げきりんがあり、顎あご下かに宝珠ほうしゅを持もっていると言いわれる。秋あきになると淵ふちの中なかに潜ひそみ、春はるには天てんに昇のぼるとも言いう。

中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく内モンゴル自治うちもんごるじち区く東ひがし南部なんぶ、遼寧りょうねい省しょう西部せいぶに紀元前きげんぜん4700年ねん頃ごろ-紀元前きげんぜん2900年ねん頃ごろに存在そんざいした紅べに山やま文化ぶんかの墳墓ふんぼからは、ヒスイなどの石いしを彫ほって動物どうぶつなどの形かたちにした装飾そうしょく品ひんが多おおく出土しゅつどしている。

恐竜きょうりゅうなど大型おおがた動物どうぶつの化石かせきは竜りゅうの骨ほね（竜骨りゅうこつ）と信しんじられ、長ながく漢方かんぽうの材料ざいりょうとして使用しようされた。

竜りゅうを意味いみする辰たつは、十二支じゅうにしにおける12種類しゅるいの動物どうぶつの一ひとつである。また、竜りゅう生せい九きゅう子しという9つの子こを産うんだという。

竜りゅう（やドラゴン）の伝承でんしょうの発端ほったんとしては、クジラや恐竜きょうりゅうなどの大型おおがた動物どうぶつの骨ほねや化石かせき、ワニやオオトカゲなどの爬虫類はちゅうるい、人間にんげんの本能ほんのう的てきな蛇へびなどへの恐怖きょうふなどの仮説かせつが挙あげられている。青木あおき良輔りょうすけは、竜りゅうの起源きげんは、古代こだいに長江ながえや漢かん水すいに残存ざんそんしていたワニの一種いっしゅ（マチカネワニ）であり、寒冷かんれい化かや人類じんるいによる狩猟しゅりょうにより絶滅ぜつめつした後のち、伝説でんせつ化かしたものだと主張しゅちょうしている。これは現在げんざい残のこっている竜りゅうの図像ずぞうの歴史れきし的てき変化へんかからも窺うかがえるとのことである。

ナーガと仏教ぶっきょうの竜王りゅうおう

「ナーガ」も参照さんしょう

仏教ぶっきょうにおける様々さまざまな龍王りゅうおうの名な。

竜りゅうの起源きげんに関かんする正確せいかくな定説ていせつは存在そんざいしないが、インドの蛇へび神しんであり水神すいじんでもあるナーガの類るいも、仏典ぶってんが中国ちゅうごくに伝つたわった際さい、「竜りゅう」や「竜王りゅうおう」などと訳やくされ、八はち部ぶ衆しゅの一いちとして組くみ込こまれた。そうした関係かんけいから、仏教ぶっきょう伝来でんらい以後いごの中国ちゅうごくの竜りゅうもまた、蛇へび神しんナーガのイメージから影響えいきょうを受うけたことは想像そうぞうに難かたくない。例たとえば、道教どうきょうにおける竜王りゅうおうは、ほとんどインドのナーガラージャと同おなじ性質せいしつを持もつ。しかし、仏教ぶっきょうが中国ちゅうごくに伝つたわる前まえに、中国ちゅうごくの竜りゅうはすでに雨水あまみずをつかさどるイメージがあった（例たとえば応おう竜りゅう）。ちなみに日本にっぽんでヒンドゥー教きょうなど他たの聖典せいてんや文学ぶんがくなどを翻訳ほんやくする場合ばあいでも、それらインドの神格しんかくを「蛇へび」ないし「竜りゅう」とするのが通例つうれいとなっている。

竜りゅうにも善悪ぜんあくがあり、法ほう行ぎょう竜りゅうと非ひ法ほう行ぎょう竜りゅうがあるとされる。また竜りゅうには、一ひとつに熱風ねっぷう熱沙ねっさに焼やかれる苦悩くのう、二ふたつに住居じゅうきょを悪風あくふうが吹ふきさらし宝たからを失うしない衣ころもが脱ぬげる苦悩くのう、三みっつに金きむ翅鳥（こんじちょう、迦楼羅ら）に食しょくされる苦悩くのうがあるとされる（ただし阿おもね耨達池ちに住すむ竜王りゅうおうにはこの苦悩くのうはない）。

仏教ぶっきょうでは、釈迦しゃかが生誕せいたんした際さいに二に匹ひきの竜りゅうが清浄せいじょう水すいを灌ぎ、成道じょうどう時じに七なな日間にちかんの降雨こううを釈迦しゃかの身みを覆おおって守護しゅごした。また仏ふつが毒どく龍りゅうを降伏ごうぶくさせたり盲めくら竜りゅうを治癒ちゆさせるなどの多おおくの説話せつわがある。また法華経ほけきょう提ひさげ婆ばば達たち多た品ひんでは、八はち歳さいの竜りゅう女おんなの成仏じょうぶつが説とかれている。

日本にっぽんの竜りゅう

詳細しょうさいは「日本にっぽんの竜りゅう」を参照さんしょう

「釈迦しゃか八はち相そう記き今様いまよう写絵うつしえ」
二に代目だいめ歌川うたがわ国貞くにさだ（歌川うたがわ国政くにまさ）、19世紀せいき

彦火火ひ出で見み尊みこと（初代しょだい天皇てんのうの神武じんむ天皇てんのう）は、竜りゅうの腹はらから生うまれており、日本にっぽん神話しんわに登場とうじょうする高志たかし（のちの越こし）の八はち岐大蛇へび、海神わたつみの八尋やひろ和かず邇の龍宮りゅうぐうが、現在げんざいに伝つたわる。もともと日本にっぽんにあった自然しぜんを神かみとして崇拝すうはいする信仰しんこうと中国ちゅうごくから伝来でんらいした文様もんようや中国ちゅうごくの竜りゅうとが融合ゆうごうして日本にっぽんの竜りゅうとされる。四よん神かみ・五ご獣じゅうと繋つながり、特とくに青あお竜りゅうは古墳こふんなどに現在げんざいの姿すがたで描えがかれて有名ゆうめいである。神話しんわの八はち岐大蛇へび伝説でんせつと仏教ぶっきょうの八はち大だい竜王りゅうおう伝説でんせつなどが習合しゅうごうした倶利伽羅くりから竜りゅう、九頭竜くずりゅう、善女ぜんにょ竜王りゅうおう（清瀧きよたき権現ごんげん）伝承でんしょうも有名ゆうめい。玄武げんぶとも繋がかり北きたの越えつ国こくなど辺あたりの竜りゅうを黒くろ竜りゅうとした。蜃気楼しんきろうに竜宮りゅうぐう・霊れい亀かめ蓬莱山ほうらいさんが現あらわれて吉祥きっしょうとされる。

治水ちすいや灌漑かんがい技術ぎじゅつが未熟みじゅくだった時代じだいには、河川かせんの氾濫はんらんや旱魃かんばつが続つづくと、竜神りゅうじんに食たべ物ものや生いけ贄にえを捧ささげたりした。その象徴しょうちょうが、神道しんとうでは櫛くし名田なた比ひ売うり（くしなだひめ）などとして語かたられ、仏教ぶっきょうでは、高僧こうそうが祈いのりを捧ささげるといった雨乞あまごいの行事ぎょうじが行おこなわれた。神泉苑しんせんえん（二条城にじょうじょう南みなみ）で空海くうかいが祈いのりを捧ささげて善女ぜんにょ竜王りゅうおう（清瀧きよたき権現ごんげん）を呼よび、雨あめを降ふらせたという逸話いつわが有名ゆうめいである。

また、剣けんは、炎ほのおの竜りゅうの化身けしんとされており、八はち岐大蛇へびから生うまれた剣けんは天皇てんのうであることを表あらわす神器じんぎとして伊勢神宮いせじんぐう(後のちに熱田あつた神宮じんぐう)に天てん叢雲むらくも剣けん（のちに草薙くさなぎ剣けん）が祭まつられ、また、守まもり神がみとされた。中世ちゅうせいころには刀剣とうけん、兜かぶとに竜りゅうをかたどり戦せんが行おこなわれた。

他ほかにも水すいの神かみとして、また戦たたかいの神かみとして各地かくちで民間みんかん信仰しんこうの対象たいしょうとして広ひろまった。日本にっぽん列島れっとうが水みずの国くにであることを象徴しょうちょうする。

道教どうきょうの竜王りゅうおう

詳細しょうさいは「竜王りゅうおう」を参照さんしょう

• 四海しかい竜王りゅうおう - 四海しかい（東西とうざい南北なんぼく四方しほうの海うみ）を司つかさどる竜王りゅうおう。
  • 東海とうかい竜王りゅうおう - 『西遊せいゆう記き』では名なを敖広（ごうこう ; 拼音: Áo Guǎng）
    • 敖丙（ごうへい ; 拼音: Áo Bǐng) - 東海とうかい竜王りゅうおうの三男さんなんで、哪吒に殺ころされる。
  • 南海なんかい竜王りゅうおう
  • 西海にしうみ竜王りゅうおう
  • 北海ほっかい竜王りゅうおう

ドラゴン（西洋せいようの竜りゅう）

詳細しょうさいは「ドラゴン」を参照さんしょう

ドラゴンは、ヨーロッパの文化ぶんかで共有きょうゆうされている伝承でんしょうや神話しんわにおける伝説でんせつ上じょうの生物せいぶつである。もとは天使てんしで、天上てんじょうから堕おちた天使てんしのうちのひとつとされる。その姿すがたはトカゲあるいはヘビに似にている。想像そうぞう上じょうの動物どうぶつであるが、かつては実在じつざいの生いきものとされていた。

英語えいごでは、小ちいさい竜りゅうや竜りゅうの子こはドラゴネット (dragonet) という。

関連かんれん項目こうもく

• 竜王りゅうおう
• りゅう座ざ
• 辰たつ年ねん
• 烏龍茶うーろんちゃ - 竜りゅうが名前なまえの由来ゆらい